EP295 トーナメント発表
闘技大会本選当日。
この日は【レム・クリフィト】全ての国民が熱狂する日であり、開催地である首都【クリフィト】ではお祭り騒ぎになっている。今日から四日に渡って開催される闘技大会の間は休日になると法律で定められており、殆どの者が大会を楽しみにしていた。
各種インフラなどの公共事業を仕事にしている者だけは残念ながら出勤なのだが……
彼らは仕事先のテレビ中継で試合を見ることになるだろう。今日から四日間だけは、テレビを着けながら仕事しても許されるのである。
街中が浮足立っている中、街道の並木道で四人組が話をしながら歩いていた。
「頑張ってくださいね兄様、ミレイナさん」
「ああ」
「任せるのだ」
「と言っても、今日は二人の出番ないけどね」
「それを言うなよレーヴォルフ」
四人組ことクウ、リア、ミレイナ、レーヴォルフはしっかりと観戦チケットを取得し、闘技大会場へと向かっていたのだった。ただし、今日はクウとミレイナの試合がない。何故なら、二人は本選トーナメントにおいてシード権を獲得したからである。
「今日の第一回戦は観戦に集中だな。まさかシード権があるとは思わなかったし」
「私は不満だがな!」
昨日の昼頃、闘技大会の運営委員会からトーナメント表が発表されることになり、クウたちもホテルに備え付けられているテレビから確認していた。
やはり【アドラー】からの侵略もあって隊長格は軒並み出場中止となっており、今回のトーナメントは殆どが予選通過で勝ち上がってきた者たちで占められていた。しかし、一名だけ隊長格からの参加があり、それがユナだったことでクウは驚いていたのである。
毎年、第一部隊隊長ユナ・アカツキは大会最後のエキシビションマッチで戦うことになっている。その通例があったことから、クウだけでなく国中が驚いていたと言っても過言ではない。ニュースの解説者は【アドラー】との小競り合いが原因であるのだろうと語りつつ、今大会の波乱を予測していた。
だが、驚きはこれだけで済まない。
ユナがトーナメントに入れられたことで空いていたエキシビションマッチの相手だが、なんと魔王アリア本人が出てくるというのだ。この衝撃的事実は冷めることが無く、大会当日の朝刊でも大きく取り上げられていた。
これによって出場者は予選通過者十一人にユナを加えた合計十二人。そして優勝者は魔王アリアと戦えるということになったのである。
ただし、十二人となると、上手くトーナメント表を組むことが出来なくなる。苦肉の策として出場者四人にトーナメント第一回戦を免除するシード権が与えられたのだった。クウとミレイナはシード権に当たっていたのである。
このシード権だが、選ばれる基準は強さだ。
あまりに強い選手の場合、第一試合は間違いなく勝ってくる。ならば他の選手に少しでも上に行く可能性を残すためにも、強い選手はある程度の場所から参加させた方が良いのだ。それに、トーナメントが進まない内から強者同士が潰し合い、決勝近くで強者が弱者を一方的に戦い潰す戦いになっては面白くも何ともないだろう。
クウとミレイナは、運営委員会から間違いなく強者だとして選ばれたというわけである。
そのため、第一回戦を行う初日の今日、二人には試合が無かった。
「今日は観戦、明日が試合で、勝てば明後日にミレイナと俺の試合だな」
「ふん! 私も負けぬぞ!」
「まぁ、俺のお目当ては決勝戦で戦うことになるユナだからな。俺も負けないさ」
トーナメント表は意外と適当に作られている。
予選で選ばれた十一人とユナが順番に並べられているだけだからだ。
本選第一回戦第一試合では予選第一ブロック勝者と第二ブロック勝者が戦い、第三ブロック勝者であるミレイナは二日目にある本選第二回戦第一試合でどちらかと戦う。
クウは予選第四ブロック勝者だがシード出場で、予選第五ブロック勝者と第六ブロック勝者が本選第一回戦第二試合として戦うのだ。この二人の内で勝った方が本選第二回戦第二試合で戦うことになる。
予選第七、第八、第九ブロックを勝ち抜けてきた選手も同様で、シード権を獲得した予選第七ブロック勝者は第一回戦第三試合で勝ち抜いたどちらかと第二試合第三回戦で戦う。
予選第十ブロックと予選第十一ブロックの勝者は第一回戦第四試合で戦うことになり、第二回戦第四試合では勝った方がユナ・アカツキと戦う。
要するに、予選第一から第三ブロック勝者、第四から第六ブロック勝者、第七から第九ブロック勝者、第十と第十一ブロック勝者に加えてユナ、という四つのグループに分け、闘技大会本選初日にある第一回戦は各グループでシード権を有さない選手同士が戦う。この試合で四人が敗退し、残りは八人だ。
二日目の第二回戦は初日の勝者が同グループのシード権保有者と戦い、勝者四人が残る。三日目にある第三回戦は準決勝戦であり、順当に勝てばクウとミレイナはここで戦うことになる。ちなみに、ユナは予選第七から第九ブロック勝者のグループから勝ち上がってきた選手と試合だ。クウの中では完全にユナが勝利すること前提だが、仮にも魔王軍最強第一部隊で隊長となっているユナが負けるはずないだろう。
そして最終日となる四日目。三日目で勝ち残った二人の決勝戦が一つ目の試合だ。この勝者が闘技大会の優勝者となる。決着後に三日目敗者が三位決定戦を行い、それが終わった後に闘技大会優勝者が魔王アリアとエキシビションマッチを行うというスケジュールだった。
(しかし魔王本人が出てくるとは……)
クウは例年と違う大会内容を少し警戒していた。
最近はパタリと止んでいたが、ホテルの部屋を監視されていたことがある。クウは自分が警戒されている可能性があることを理解していたのだ。部屋が分かっている以上、闘技大会に出場していることも知られているハズである。今回のトーナメント変更はクウが出場したことが原因ではないかと思っていたのだ。
ただ、この予想は一部正解で、一部外れである。
魔王アリアと錬金術師リグレットはクウが超越者だと予想しているためにこのようなトーナメント変更を行ったのは事実だが、隣国【アドラー】の国境侵略も理由の一つだ。事実として軍の隊長格は出動状態なので、首都防衛が主要任務の魔王軍第一部隊の隊長ユナぐらいしか出場を許すことが出来ない。大会は首都【クリフィト】で行われているので、ユナだけならばどうにか出場を許せるというわけである。
そんな事情を知らないクウは警戒を強めるだけだったが……
(ま、順当に勝てばユナとも会えるし、予想に反して魔王にも試合の中で会えそうだ。観察のためにも良かったかもしれないな)
色々あって有耶無耶になっていたが、本来の目的は魔王に会って神界を開くこと。そこで虚空神ゼノネイアから世界の真実を聞き出し、これからのことを決める無ければならない。ユナを見つけることが最重要事項であるクウにとってはついでの仕事でしかないとはいえ、重要な事である。
そして、今回の大会出場は、優勝することで魔王と正式に謁見するということがメインの目的の一つである。魔王アリアがどういった人物なのか分からないため、無理やり会うのではなく、正式な手順を踏んで会うことにしたのだ。優勝者は魔王に謁見させて貰えるという特権を利用しようとしたのである。
つまり、謁見前にエキシビションマッチとして魔王アリアに会えるのは好都合。実際に戦ってみれば相手の本心も理解できることだろう。
「おや、やっぱり会場近くは人が多いみたいだね」
レーヴォルフがふと声を漏らすとクウも意識を戻した。
考え事をしている内に闘技大会会場である魔法迷宮へと近づいていたらしい。迷宮の頑丈さを利用した闘技場周辺には屋台が並び、数えきれない魔人がいた。ちらほらと獣人、ヴァンパイア、人なども見えるため、非常に国際色豊かである。
試合が実際に始まるのは午後からであるため、今は腹ごしらえをしているところなのだろう。チラホラと第一回戦四試合分の勝者予想が聞こえてくる。
今回は軍の隊長たちが出場しないという異様な大会となっているが、ユナ・アカツキの一般出場と魔王アリアのエキシビションマッチ参戦に興奮しているらしい。人数が減ったことで試合数が少なくなっているという不満も少しは聞こえるが、大まかには楽しみという声ばかりだった。
「これは逸れそうだな……」
「ミレイナも余計な所に行っちゃだめだよ?」
「分かっているさレーヴ。おい、腕をつかむな……」
「ダメだよ。君は言っても聞かないからね」
「リアも俺たちから離れるな。一応、人族の俺たちは目立つし」
「そうですね兄様。わかりました。離れないようにします」
レーヴォルフはミレイナの手を掴んで逸れないようにし、捕獲されたミレイナは不満そうに口を尖らせていた。だが、ここ最近ですらレーヴォルフに苦労を掛けて来たという色々な前科もあるミレイナに拒否権などない。レーヴォルフもミレイナの扱いは分かってきているのである。
そしてリアはクウの着ている服の端を掴み、逸れないようにしていた。未婚の女がベタベタとするのは良くないという思いから中途半端になっているのだが、その様子が逆に初々しいカップルのように見えてることには気付いていなかった。
周囲から向けられる生暖かい視線にクウは気まずさを覚えつつ、リアの歩くペースに合わせてクウも速度を落とした。闘技大会の試合はまだ一時間以上も先なので、ゆっくり歩いたところで問題ないのである。
「昼はどうする? チケットは高級観戦ルームに入れる奴だし、サービスを頼めばそこでも食べられるけどさ」
「私はどちらでも良いです」
「アレが食べたいぞクウ! あの屋台で売っている丸いのが美味しそうだ!」
「ちょっとミレイナ暴れないでくれよ」
「……アレはたこ焼き? マジで?」
ミレイナが指差していた先に会ったのは特殊な鉄板に並んでいる球状の食べ物。地球で言うところのたこ焼きと全く同じ形状だった。人気らしく、長蛇の列をなしている。看板には『迷宮焼き』と書かれていた。
「迷宮焼きねぇ……蛸じゃなくて魔法迷宮で取れた素材が入っているのか。闘技大会も魔法迷宮の屋上を改造したってことみたいだから、このお祭りにはピッタリだな。ミレイナも食べたそうだし、買ってみるか?」
「それは良いけど……あの列に並ぶのかいクウ?」
「レーヴォルフ……ミレイナがあの匂いを我慢できると思うか?」
「無理だね」
即答するレーヴォルフにクウも頷く。
確かにミレイナを見ると目を輝かせて食べたそうにしており、我慢させるのは難しそうだった。それに、今日はクウとミレイナは試合もないのだから、ゆっくりと祭りを楽しむというのもありかもしれない。
レーヴォルフは仕方ないとばかりにミレイナを連れ、迷宮焼きの屋台の前で並び始めた。
「じゃあ、リア。俺たちも適当に買って食べるか?」
「そうですね。何を食べますか?」
「折角だから俺たちも迷宮焼きってのを食べてみよう。レーヴォルフとミレイナは既に並んでいるし、俺たちも別行動してわざわざ逸れる必要はないだろ」
「それもそうですね」
いざとなればクウの感知で探せないこともない。しかし、そんなことで能力を使うのは馬鹿らしいし、探すために無駄な労力を使うことにもなる。
二人も魔物焼きの屋台へと並ぶのだった。
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