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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編

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EP290 灼熱地獄 前編


 世界は一瞬にして紅蓮と灼熱へと変わった。凄まじい熱によって空気が揺らめき、蜃気楼となって景色を歪ませる。気温は既に五十度を超えており、それでもまだ上がり続けていた。

 この空間で生きていけるのは熱に対する耐性が高い者か、超越者くらいである。

 クウも意思力を強めて熱に抵抗していた。服も意思によって顕現したものでなければ、発火していたかもしれない。



「あっつ……」



 もはやそんなレベルではないのだが、クウは熱風を受けて暑そうにしていた。気温自体は五十度を超えたばかりだが、炎を纏う巨鳥が放つ熱風は数百度にも及んでいる。普通なら即死の威力だ。



”キイィィィィィィィイイッ!”



 甲高い鳴き声と共に温度を上昇し続け、大地は水分を失って砂へと変化し始めていた。このままでは砂漠のような土地へと変わってしまうことだろう。

 そして消耗しきっているオリヴィアを肩で支えたオメガ分体はクウへと向いて口を開いた。



「いずれこの借りは返させてもらう。尤も、アスキオンを倒せればの話だがな」


「ちっ! 待て!」


”悪いが貴様の相手はこの私だ”


「熱っ!」



 オメガ分体を追いかけようとしたクウの前に巨鳥が立ち塞がり、紅蓮の壁を出現させる。数千度の炎が壁となっている程度ならクウも強行突破を仕掛けたが、炎帝鳥アスキオンが使用するのは意思の込められた超越者の炎だ。

 炎とは熱く、危険なモノであるとクウは知っているため、どれだけ意思を強化しても無傷で突破するのは難しい。やはり、どこかで怪我をしてしまうという思考へ行きつくためだ。

 古来から火とは力であり、恐怖だった。

 小細工など必要なく、圧倒的な破壊の力を撒き散らすのがアスキオンの能力であり、クウのような変則系の能力に対しては相性が良い。

 逆に言えば、クウは自ずと苦戦を強いられるということである。

 そしてその間にオメガ分体は逃走を図った。



「凍れ! 《神象眼》!」



 炎とは熱。

 つまり、冷却すれば炎は消え失せるはずだ。

 クウはそう考えて《神象眼》を発動させるが、この激しい熱量の中で冷却をイメージするのは難しい。辛うじてクウの周囲は温度が下がったのだが、アスキオンの炎が圧倒的に押していた。

 意思の戦いで押し負けたことに舌打ちしたクウだが、先ずは冷静に相手の能力を解析することにする。いつもの通り、《真理の瞳》で炎の巨鳥へ焦点を合わせた。




―――――――――――――――――――

アスキオン 399歳

種族 超越神種炎帝鳥

「意思生命体」「焔」「熱支配」


権能 【極焔不死鳥フェニックス

「異常活性」「炎熱体」「火の恩恵」

―――――――――――――――――――




 見えた能力は詳しい解析無しでも理解できる一点突破の火炎能力。とにかく火力を底上げすると思われる特性が並んでいる。また、元の種族も炎に対する特性を有しているため、権能との相性も最高だった。さらに【極焔不死鳥フェニックス】という権能銘から考えて、回復や再生の能力を有している可能性が高いだろう。

 火力と回復力を兼ね備えた厄介な力だとクウは予想した。



「とにかく試してみるか」



 超越者の戦いは意思の戦いであると同時に、如何に相手の能力を理解するかということも求められる。すでにオメガ分体はクウの感知範囲から消えているため、アスキオンを無視して追いかけるのは下策。それならばオメガの戦力を削るためにもアスキオンをここで消した方が堅実だと判断し、討伐目標を変更した。



「はっ!」



 クウは神刀・虚月で居合の『閃』を放ち、同時に《神象眼》を発動させる。強い切り裂く意思が世界を改変し、能力による干渉で世界は切り裂かれたと認めさせられた。クウの「魔眼」で捉えられたアスキオンも同様であり、斬撃の射線上にいた巨鳥は真っ二つに引き裂かれる。

 まさかそんな遠距離攻撃があるとは思わないアスキオンは、まともに斬撃を刻まれることになった。



”キィィィアァァァァッ!”



 しかし、切り裂かれたアスキオンは炎のように揺らめいて流動し、切断面が再び接合して元の姿へと回復する。運命の塗り替えによって切り裂かれた状態こそが正常だと定義づけられていたはずだが、アスキオンはそれに抵抗して回復してしまった。

 特性「焔」と「炎熱体」と「火の恩恵」の効果であり、自らの肉体を炎へと変換し、恩恵の力によって自己支配するという効果だ。因果系の能力で肉体を破壊されても再生が可能であり、この力ゆえに【極焔不死鳥フェニックス】という権能銘なのである。



「ならば《幻葬眼》」



 こちらから意思の力で攻撃しても回復されるなら、全てを幻想へと葬り去れば良い。細かい調整が出来ない代わりに、視界の範囲全てを幻想だったことにする《幻葬眼》ならば効果を期待できると考えた。

 「意思干渉」によってアスキオンの意思すらも侵食され、全て見えていたものは幻想だったと認識させられる。同様に『世界の意思プログラム』も熱と炎は夢幻ゆめまぼろしに過ぎなかったとだと認めさせられた。

 空間中に亀裂が生じ、ガラスが割れるような音がして世界が崩壊する。

 アスキオンの炎は幻想の中へと葬られ、初めの状態へと戻ったのだった。



”何だと……?”


「隙を見せたな。《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》」



 クウは虚空リングに神刀・虚月を収納し、空いた両手を合わせて手の中に銀霊珠を作った。そして僅かに見せたアスキオンの隙を突いて「意思干渉」による意思次元攻撃を混ぜ込み、本当の意味での神殺しの槍を作成する。

 手を引き離して出来たのは一本の槍。

 白銀に輝く投擲槍をクウは音速の十倍で投げつけた。

 一瞬だけ気を抜いたアスキオンは正面攻撃にもかかわらず回避できない。それでも咄嗟に空中で身体をずらすことには成功したが、左の翼を大きく穿たれた。

 更にそれと同時に銀霊珠のエネルギーが炸裂し、意思次元攻撃を伴って白銀の巨大柱が出現する。《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》程ではないが、超越者にも直接的なダメージを与えることが出来るため、これにはアスキオンも悲鳴を上げた。



”ギィィィッ!”


「やはり攻撃そのものが通らないわけではないか。この手の能力は特殊攻撃しか効かないってのが定石だと思ったんだけど……いや、そもそも意思次元攻撃は特殊攻撃のようなものだったな」



 クウは試しにもう一度《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を発動させる。ただし、こちらは形状変化だけであり、意思次元攻撃は付与されていない。尤も、いつもとは少しだけ違う性質を込めていた。

 白銀の柱が消えてボロボロのアスキオンが視界に映った瞬間、クウはそれを投擲する。

 まさか様子見もなく二連続で攻撃を加えてくるとは思わなかったアスキオンはあっさりと頭部を貫かれてしまった。今回の《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》は貫通力重視であり、その場でエネルギーを炸裂することなく、全てを貫通力へと変換している。

 貫く意思が顕現し、アスキオンの頭部が消し飛んだ。



”ふざけるなよ貴様!”


「ほう……そう回復するのか」



 確かにアスキオンの頭部は吹き飛んだが、それは「焔」のように揺らめいて再び元の形に戻る。種族的に肉体を「焔」へと変換できるアスキオンが、権能【極焔不死鳥フェニックス】の特性「炎熱体」によって肉体流動を完全なものにしたのだ。

 権能による補助のお陰で、概念攻撃すらも耐えることが出来る。

 この流動性を破壊するには、純粋に意思力で超えるか、超越神クラスの圧倒的な霊力、あるいは相性の良い攻撃が必要になっていたのだ。つまり、クウの予想は当たっていたということである。



(意思次元攻撃みたいな特殊攻撃、氷系の能力、空間ごと消滅させる能力……通じるとすればそのあたりかな? それなら月属性も試した方が良さそうだ)



 クウも力押しによる攻撃方法は持っている。

 それは権能【魔幻朧月夜アルテミス】が持つ特性「意思干渉」と双璧を為す特性「月」だ。複数の効果を持つ複合特性であり、強力な消滅の概念を操ることが出来る。この月属性の中でクウが編み出した最強の術式が《虚無創世ジェネシス》であり、これならば空間ごと削り取ってアスキオンにダメージが与えられると予想できた。

 しかし、回復するとは言え頭部を破壊されたアスキオンは怒りに燃える。

 普段は軽く炎を出すだけで圧倒出来たアスキオンだけに、これほどコケにされたのは初めてだった。



”燃え尽きろ貴様ァァァァァァッ! 全て消し炭に変えろ【極焔不死鳥フェニックス】!”



 アスキオンは手加減していたわけではない。

 出せる力は出していた。

 ただ、それは先程までの意思力で出せる限界というだけの話である。適当にクウの相手をすれば殺せるだろうと甘い考えをしていたアスキオンでは、一方的にやられるのも当然だった。

 しかし、今は違う。

 確実に、絶対的にクウを殺すと決断したアスキオンは、怒りで意志力を解放し、権能【極焔不死鳥フェニックス】が持つ本来の炎を顕現させたのだった。それは破壊と再生の象徴であり、まさに世を地獄へと変える能力ちから

 オリヴィアが使用した死の地獄《冥府顕在ヘルヘイム》のように、空間そのものを作り変えてしまうほどの圧倒的な炎だった。



”《灼熱顕在ムスペルヘイム》!”



 世界そのものへと「火の恩恵」が与えられ、さらに「異常活性」の効果で爆発的に熱量を上げる。空間が揺らいでまともな景色が消え去り、大地はマグマとなって煮えたぎっていた。更にあまりの熱量で地中にある地下水脈が水蒸気爆発で破裂し、地殻運動すらも刺激されてマグマの柱が吹きあがる。

 クウは急いで天使翼を展開し、地面から離れることでマグマから逃れたのだった。



「《幻葬眼》」



 クウは冷静なまま能力を発動させ、全てを夢幻の彼方に葬り去る。アスキオンの放つ怒りの激しい意思力が一瞬だけ拮抗したが、クウの「意志干渉」によって突破され、地獄は消え去った。

 しかし、《灼熱顕在ムスペルヘイム》はこれで終わらない。

 この術はアスキオンの「異常活性」によって効果を限界突破で底上げしているため、元に戻った世界は再び灼熱の支配する地獄へと変化した。

 恐らくもう一度《幻葬眼》を使えば破壊できるだろうが、それを続けるだけでは勝負は終わらない。超越者にとって霊力は底を突くものではないので、気力勝負になる。そうなれば、ただ怒りのままに熱量を上げれば良いアスキオンよりも、繊細な「意思干渉」を必要とするクウの方が先に消耗してしまうのは間違いないだろう。



”キイィィィィィィイイッ!”



 ひたすら鳴き声を上げて温度を上昇させるアスキオンの周囲では、炎が流動してアスキオン自身の炎を交わっている。「火の恩恵」によってこの空間はアスキオンにとって回復薬だらけの場所と化しており、攻撃と防御と回復を同時にこなす万能の効果だと言えた。

 クウは魔素結界と意思力強化、更に《神象眼》による抵抗で《灼熱顕在ムスペルヘイム》の中でも涼しい表情を続けていられるが、不利な状況であるのは間違いなかった。



(この炎……情報次元を焼き尽くす概念攻撃か。つまり、本来燃えないハズの物質も簡単に燃やし、更にこちらが概念攻撃をぶつけようとしても、周囲の炎が情報を焼き尽くして概念効果を焼却するってことか)



 不死者という現象を引き起こすフィールドを作るだけだったオリヴィアの《冥府顕在ヘルヘイム》と違って、《灼熱顕在ムスペルヘイム》は圧倒的な情報破壊の嵐だ。そしてこの破壊はアスキオンにとっては回復であり、自分以外を全て破壊するまで止まらない。

 相手は超越者であるため、エネルギー切れもない。

 クウにとっては苦手なタイプの能力なのである。



(《虚無創世ジェネシス》でも一瞬炎が消えるだけだ。すぐに元通りになるだろうな……つまり、こちらも継続的な情報破壊をする攻撃が必要になるということ。情報破壊には情報破壊で相殺するしか方法はないか)



 クウが持つ概念攻撃は月属性。

 しかし、権能【魔幻朧月夜アルテミス】においては、「意思干渉」によって生じた矛盾する現象に対する反発力を消し去る補助効果としての使用がメインである。

 ならば、逆に月属性をメインとして、「意思干渉」を補助とした概念攻撃は出来るのだろうか。クウはそう考えて対策を練り上げた。



(実験無しに本番ってのは今までもやってきた。今回もやってやるさ)



 具体的な術式は纏まっていないが、方針は出来た。

 クウは両手に神剣イノセンティアを構え、爆炎と灼熱に包まれたアスキオンと向き合うのだった。







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