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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
285/566

EP284 銀魔術


 上空からダリオンとオリヴィアを見下ろしていたクウは、二人が先の攻撃を受けて無傷であることに少しだけ驚いていた。完全な不意打ちだったはずだが、咄嗟に防げたのだと予測する。

 ただ、流石のクウも今の攻撃で倒せるなどとは思っていなかったため、驚きもすぐに収まったのだった。



(ともかく、まずはダリオンの隣にいる女の解析だな)



 クウはいつも通り、《真理の瞳》で情報次元を解析し、視界に能力を映し出した。




―――――――――――――――――――

オリヴィア・エイクシル   671歳

種族 超越神種魔人

「意思生命体」「魔素支配」「並列思考」


権能 【英霊師団降臨エインヘリアル

「死霊召喚」「死者支配」「死の祝福」

―――――――――――――――――――




(こいつがオリヴィアか!)



 見えた能力は超越者のもの。そして名前の欄にはオリヴィア・エイクシルと記されている。これを見たクウは即座に賢者モルドや海賊オリオンを作り出したのがこの女であると悟った。

 以前にモルドを解析した際、オリヴィアという超越者が関わっているということは分かったのだが、流石に顔まで知っているわけではない。ダリオンを追いかけて偶然出会えたことはクウにとっても都合が良いことだった。



(俺の《銀焔シロガネホムラ》を防いだのはオリヴィアか。特性「魔素支配」があるし、オーラを付与した魔素結界で防御したってところだろ。とすれば、かなり魔素とオーラの扱いに長けているな)



 先程クウが使用したのは銀魔術しろがねまじゅつという権能【魔幻朧月夜アルテミス】の応用だ。大量の魔素とオーラを圧縮することで銀霊珠という核を生み出し、これを基にして銀魔術しろがねまじゅつは発動される。クウのオーラが白銀色であることから同じ銀色のエネルギー体となったので、銀霊珠と名付けたのだ。

 銀魔術しろがねまじゅつはこの銀霊珠を特性「意思干渉」で性質変化させることで性能を発揮する。例えば破壊の意思を込めて指向性を持たせれば、闘技大会予選でも使用した《崩閃シヴァ》になる。そして燃やし尽くすという意思を込めることで銀霊珠が炎の性質を持ち、先程使用した《銀焔シロガネホムラ》となるのだ。

 この燃やし尽くすという意思によって、雑木林は跡形もなく焼き尽くされたのである。

 銀霊珠は意思の表出であるオーラと、意思力に反応して現象を引き起こす魔素という物質によって形成されているため、特性「意思干渉」の影響を受けやすいのだ。

 クウが闘技大会予選の後に思い付きで《崩閃シヴァ》に改良を加えた結果がこの銀魔術なのである。



「炎の形状はエネルギーが広がり過ぎだったか。だったら……」



 クウはそう呟きながら能力を行使して右手の上で燃える銀の炎に干渉する。正確には燃やし尽くすという意思が込められたエネルギー体であるため、クウの「意思干渉」を使えば性質変化など造作もないことだ。

 破壊力と貫通力、そして速さを優先した結果、エネルギー体はバチバチと音を立てて弾け、銀色の稲妻を散らしながら雷の形状へと変化する。



「《銀雷鳴シロガネライメイ》!」



 その言葉と同時にクウは右手をダリオンとオリヴィアの方に向け、銀のいかづちを放つ。落雷の性質を持ったエネルギーが走り、一瞬にして大地を穿った。

 ズガンッ! という轟音がして着弾点が抉れる。雷のようでありながら地面にクレーターが出来てしまっているのは、一重に《銀雷鳴シロガネライメイ》が普通の雷とは違うからだろう。

 しかし、この雷速の攻撃ですら、オリヴィアとダリオンは回避を選択することで無傷だった。より正確に言えば、ダリオンはオリヴィアに手を引っ張られてギリギリ逃げることが出来たに過ぎない。しかし、裏を返せば、ダリオンはともかくオリヴィアには雷速でも避けられるということである。



(ダメか。まぁ、俺でも雷速程度なら避けられるから当然かもしれないな)



 超越者に攻撃を当てたいならば、光速、広範囲、必中のような攻撃である必要がある。勿論、隙を突けば遅い攻撃でも当たるが、正面から攻撃を仕掛けるという状況に限定すれば、先に挙げたような性質が必要だった。

 上空からとは言え、今の《銀雷鳴シロガネライメイ》は正面攻撃だ。

 避けられて当然である。

 ただ、オリヴィアとダリオンも余裕だったわけではない。また、クウの使う謎の攻撃に戸惑っている部分もあった。



「ねぇ、ダリオン。あの黒い天使の攻撃は一体何かしら?」


「俺が聞きたい。どうやら幻術ではなさそうだが……いや、超広範囲の幻術という線もなくはないか?」


「でも今の攻撃って魔素とオーラによるものよ? 魔術に近いわね。明らかに幻術じゃないわ」


「そういう風に錯覚させる幻術かもしれんということだ」


「もしそうなら……厄介ね」



 二人が話す通り、何も説明が無ければクウの攻撃は謎だらけである。感知によって魔素とオーラによる攻撃だというのはすぐに理解できるが、それがどうして炎や雷の形になるのかは理解できない。通常の魔力制御や気力制御では性質変化など出来ないからだ。

 魔法はスキルによって世界が属性変化をアシストしてくれるが、ただの《魔力支配》スキルでは魔法が使えないのと同じである。



「どうするのだオリヴィア?」


「そうね……今の炎や雷程度なら私のデス・ユニバースでも大丈夫なハズよ。適当に召喚するわ」


「では、俺はその隙に逃げさせて貰おう」


「そうしなさい」



 ダリオンが逃げることに関してオリヴィアが文句を言うことはない。何故なら、ステータスに縛られた身では超越者に絶対勝てないと理解しているからだ。この場にダリオンが居ても足手まといにしかならないため、オリヴィアとしてもさっさと逃げて欲しいのである。

 そして一方のクウも次に使用する技のことを考えていた。



(月属性の光攻撃を使うか? いや、銀霊珠に光の特性を付与する? あまり能力を見せたくないから、選択肢が狭まるな……)



 超越者であるオリヴィアを倒すのは難しいため、クウは最低でもダリオンを始末しておこうと考えた。意思次元に対して直接攻撃を与える《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》ならばオリヴィアに対しても大ダメージを与えることが出来るのだろうが、攻撃速度を考えればまず当たらない。

 勿論、権能【魔幻朧月夜アルテミス】を十分に活用すれば勝てる自信がある。しかし、この戦いを【アドラー】に監視されてクウの能力に対策をたてられた場合が厄介なのである。情報次元を詳しく解析すれば監視があったとしても見抜ける可能性は高いが、そこまで深く解析する程の余裕は無い。

 超越者を相手にして余所見をしながら戦えるほどクウは傲慢になったつもりはないのだ。

 そして、その結果クウが導き出したのは銀魔術しろがねまじゅつでダリオンを仕留めるという答えである。それは奇しくもダリオンを逃がそうとしているオリヴィアと真っ向から対立する答えだった。



「《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》!」


「《死界門デスゲート》!」



 クウとオリヴィアは同時に術を発動させた。

 右手に銀霊珠を作ったクウは、それを両手で包み込むようにしつつ意思を込める。付与されたのは破壊の意思と槍としての形である。演算時間があれば《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》と同じく意思次元攻撃も付与するつもりだったのだが、今回はダリオンさえ仕留めれば良いので必要ない。肉体を器としてこの世界に定着しているので、その肉体を破壊できる威力があれば十分なのだ。

 クウが両手を引き離すと、銀霊珠が伸びて棒状に変化する。そして込められた意思のままに銀霊珠は一メートル半ほどの投げ槍となった。先が尖っているだけの槍であるため、どちらかと言えば細長い杭のようなものだ。もしくは銛に近い形かもしれない。

 完成したそれを、クウは逆手に持ちつつ上段に構えたのだった。

 一方、オリヴィアは右手を高らかに上げて死者たちを呼び出す。あらゆる世界の情報次元を彷徨うことで見つけた死者の情報次元を元に構成した眷属たち、デス・ユニバースを召喚したのである。

 特性「死霊召喚」によってデス・ユニバースを構築し、「死者支配」で強制的に従える。後は「死の祝福」で強化を施すだけの単純な能力だ。応用性が低い代わりに、たった一人でありながら無限とも言える軍団を生み出すことが出来るのである。

 今回、オリヴィアが構築した死霊は異世界の情報録から見つけて来た妖鬼という種族。恐ろしいまでの肉体能力を備えた大型種であり、成人の妖鬼は五メートルを軽く超える。巨人というほどではないが、人型としては相当な大きさだろう。三百キロを超える体重でありながら俊敏に動く妖鬼は、まさに物理フィジカルの化け物である。

 それがデス・ユニバースとして強化され甦ったのだから手に負えない。



「消し飛べ!」


「盾になりなさい鬼共っ!」



 クウは《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を投げてダリオンを消し飛ばそうとする。オリヴィアはダリオンを逃がすべく、隙を作るために死霊妖鬼デス・ユニバースを盾にした。このときオリヴィアが生み出していたデス・ユニバースは五十体。盾にするには充分な数だった。

 放たれた《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》は一直線に音速でダリオンへと向かうが、盾となるために躍り出た妖鬼の肉壁がそれを阻む。着弾した瞬間に《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》に込められたエネルギーが炸裂し、その場で巨大な白銀の柱を生み出した。

 光線として放つだけの《崩閃シヴァ》と異なり、《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》は全てのエネルギーをその場で解放することになる。元からより大量の魔素とオーラを込められているだけあって、破壊力は桁違いに大きい。超越者でも本気で防がなければダメージを受ける程だろう。

 しかし妖鬼が盾となり、ダリオンには届かなかった。



「ちっ!」



 情報次元からダリオンに攻撃が届いていないことを知り、クウは両手を胸の前でパンッと合わせる。そして再び魔素をオーラを超圧縮して銀霊珠を作成し、両手を引き離して二本目の《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を構えた。

 ダリオンは既に堕天使翼を広げているため、このままでは逃走されることだろう。今の一撃で舞い上がった砂煙が視界を塞ぐが、情報次元を見ることが出来るクウにはそれが分かっていた。



「今度こそ終わりだ!」



 音速でダメならばと、クウは《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》を音速の十倍で投擲する。ダリオンまではかなりの距離があるのだが、この速度なら殆ど一瞬で到達するだろう。オリヴィアが未来を読むことでも出来なければ先程のように防がれることはない。

 何故なら、今生き残っている妖鬼のデス・ユニバースは殆どが《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》で塵になったのだ。スキル《無限再生》で甦るには時間がかかるため、ダリオンを守る暇など無い。

 だが、《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》はクウの予想に反してダリオンに直撃する前に炸裂して白銀の柱を見せた。この術は着弾と同時に炸裂するタイプであるため、何かそれなりの質量の物体にぶつかったということになる。ダリオンとの間に障害物など認識していなかったクウだが、何が起こって《神殺銀槍かみころすしろがねのやり》が失敗したのかは理解できた。



「……遠隔召喚か」


「間に合ったようね」



 オリヴィアは新しい妖鬼のデス・ユニバースを生み出し、遠隔召喚でダリオンの盾となる位置に出現させたのである。

 ただ、それでも土煙で視界が封じられている中、肉壁を的確に配置するためには、クウの攻撃を完璧位読んでタイミングを合わせる必要があった。一発目の音速投擲を見ているだけあって、二発目の速度が音速の十倍に達するなどと予想できるはずもない。

 知覚能力が優れている超越者でも、流石に音速の十倍は即座に対応できない速度だった。ちなみに音速程度であれば、見てからでも攻撃に対処できる。

 こうしてオリヴィアが対処できたのは、特性「死の祝福」によってダリオンの死を予感したからである。この特性のお陰で、オリヴィアは死に近い人物を知覚することが出来るのだ。事前にダリオンの命の危機を察したため、素早い対処が出来たというわけである。



「結局狙い目のダリオンには逃げられたな……」


「貴方が黒い天使……その能力を暴いてあげるわ」


「はぁ……夕方に帰れるように頑張るか」



 遠く離れたところで対峙している二人はお互いの言葉が聞こえていない。咬み合わない会話をしつつ、超越者二人のよる戦いが始まったのだった。








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