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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
277/566

EP276 闘技大会予選④


「ミレイナが勝ったか」



 第四ブロック選手として闘技場入場通路に待機していたクウは小さな声で呟いた。情報次元を見ればミレイナが何をしたのか解析可能であるため、闘技場が見えない位置に居ても結果を判別できる。

 現にアナウンスがミレイナの勝利を告げ知らせたところだ。



「今度は戦略的なことも教えるべきだな」



 一戦場における戦術的な立ち回りはミレイナに一通り教えた。しかし、多数の戦場を想定した戦略的立ち回りはまだ教えていない。自分の切り札を常に残し、情報を操って戦況を支配するということは高度であるため、まだミレイナには必要ないと判断したのだ。

 恐らく、今回の予選での情報から本選出場者の戦い方は解析され、本選で利用されることだろう。つまり、予選で全力を出してしまった者は、本選で対策されてしまうということである。

 《竜の壊放》を見せ、更に竜化状態の切り札である《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》すらも晒してしまったのだ。この二つに対策が殆どないのは確かだが、全く対策出来ないことはない。

 自分のスキルやステータスが足らなければ魔道具で補うこともできるし、魔法武器マジックウェポンを使えば対抗できるかもしれない。

 ミレイナは本選で苦戦する可能性が高いだろう。



「ま、取りあえずは俺も第四ブロックで勝たないとな」



 クウは思考を一旦止め、入場が始まったために歩き出す。フードを深く被り、目を閉じて視界を封じて入るが、情報次元を見たり、気配を感じ取ることで周囲を把握することは難しくない。普通に歩く程度ならまるで問題なかった。

 そして闘技場へと足を踏み入れたクウは適当な位置で止まり、腰にさしてある鋼の長剣を軽く触ってから姿勢を正して佇む。ちなみに長剣は左右の腰に二本差している。基本は予備としての扱いだが、余裕があれば二刀流の練習をするつもりだったからだ。折角、武器を二つまで所持してよいことになっているため、二本持ち歩くことにしたのである。



『第四ブロックの選手入場が完了しました。まもなく試合が開始されます。選手各位は武器から手を放し、待機してください。試合開始前の攻撃行動等は反則行為とみなされ、審判により失格が言い渡されます』



 アナウンスが聞こえて、第四ブロックの試合準備が整ったことを知らせる。これを聞いて選手たちは緊張を高め、試合開始を待ち望んだ。構えを取ると失格になるので直立したままだが、全員から今にも飛びかかられそうな程の闘気が滲み出ている。

 クウも選手ソラとしての意識に切り替え、開始の合図を待った。



『第四ブロック、試合を開始してください』



 その合図とともに激しいブザー音は鳴り響き、選手たちは一斉に武器を抜いて構える。ある者は魔力を練り上げて魔法発動を用意し、格闘技使いはバネのような膝を使って近くの選手を狙い始めた。

 ソラは右手で左腰に差していた剣を抜き、何をするでもなくその場で待機する。本来、超越者であるソラには無縁の話だが、バトルロイヤルでは体力配分が大切だ。無暗に戦いを仕掛けず、序盤は襲ってくる敵に対処しながら数が減るのを待てばよい。

 すると案の定、モーニングスターのような打撃武器を持った男性選手がソラへと近づいてきた。



「おらっ!」



 男はモーニングスターを大きく振り上げ、ソラの頭へと打ち付けようとする。こういった闘技大会では、打撃武器というのは案外効率的だ。丈夫であり、防具を付けている相手にも多少のダメージを与えることが可能になる。斬ることを優先した剣よりも攻撃力が高く、乱戦においては槍よりも扱いやすい。加えて、相手の武器破壊も狙える優れものだ。

 男はソラが視界を悪くするフードを被っていることから狙い目だと考えたのだろう。

 振り下ろされたモーニングスターは、そのままソラの頭に直撃するかと思えた。



「甘いな。攻撃するなら掛け声など出さずに不意打ちするべきだ」


「ちっ!」



 ソラは鋼の長剣に魔力を纏わせてモーニングスターを受け止め、軽く押して打ち返す。華奢な見た目の割に力が強いことで男は驚いたが、すぐに気を取り直して新たな攻撃を仕掛けた。

 フェイントを織り交ぜ、急所を狙いつつも腕や足などへも攻撃を仕掛け、攻撃パターンを読ませないように立ち回る男。ソラはそれらを全て打ち返し、反撃することなく防御に徹していた。



「このっ! 守ってばかりじゃ勝てねぇぞ!」


「では逆に言ってあげよう。そんな気配丸出しの分かりやすい攻撃なんて目を閉じていても防げると」


「うるせぇ!」



 フードを深く被っているので、男はまさかソラが本当に目を閉じているとは思わない。しかし、明らかな挑発を受けて、彼は苛立ちを強めた。攻撃に粗が目立ち始め、ソラは気配を読むだけで攻撃を捌く。この程度なら情報次元を見ずとも、その軌道を読むことは容易かった。

 気配で感じた周囲の景色を映像として処理し、それに合わせて剣を振るう。魔力で強化された鋼の長剣はモーニングスターを破壊し、切り返しで男の首を切断する。

 物理ダメージが精神ダメージへと変換され、そのまま男は気を失って倒れた。



「取りあえず一人」



 ソラは次に自分へと迫ってきた火球を剣で切断する。どうやら今の男との戦いが終わった直後を狙っていたらしく、油断したところに魔法を叩き込んだつもりだったようだ。

 しかし、情報次元を見ることが出来るソラは魔法発動の兆候を確認できる。魔法の規模と軌道を読み取って防ぐことは容易い。

 すると今度は背後に気配を感じたので振り返りつつ剣を薙ぎ、相手の剣を弾く。だが背後から不意打ちを仕掛けようとした相手は攻撃を弾かれることも予想していたらしく、剣を持つ方とは逆の手で銃を取り出し、ソラへと向けた。そして間髪入れずに弾丸を発射する。



「なっ!」



 しかし、驚きの声を上げたのはソラではなく銃を放った相手の方だった。何故なら、ソラが剣の斬り返しで弾丸を弾いたからである。回避ならまだしも、剣で弾くなど驚かない方が無理である。

 ソラは相手が驚いている隙に銃を切り裂き、その流れで心臓を突く。

 これで絶命と判定され、闘技場の効果で気絶した。



(銃口の向きと発射タイミングさえ分かれば問題なく銃火器も対処できるな)



 ソラは情報次元から銃口の向きを読み取り、気配で発射タイミングを感知していた。あとはそれに合わせて剣を振れば銃弾すらも剣で弾くことが出来る。鋼の長剣も魔力で保護しているので、銃弾を弾いた程度では刃こぼれすらしない。



(さてと、少しは反撃してみようかな?)



 幾度か襲撃を撃退し、周囲からは実力者だと認識されたらしく、ソラを狙っていた選手は距離をとり始めていた。ペース配分が大切なバトルロイヤルでは最初から実力者と戦って体力を消耗することは避けるべきことだ。そのため、実力者が必然的に選別され、最後まで残ることになる。

 ソラは戦闘を避けるべき相手として認められたらしい。

 そのため、反撃する余裕が生まれたのだ。



(技をコピーさせてもらうぞ。ミレイナにファルバッサ)



 ソラは選手が密集している場所に向かって指先を向け、霊力を魔素へと変換しつつ圧縮する。更に破壊の意思を込めながらオーラを織り交ぜ、銀色のエネルギー体を作り出した。仕組みとしてはドラゴンの使う息吹ブレスと同じであり、オーラを混ぜることで破壊力を底上げしたものだ。

 つまり、ミレイナが使用した《爆竜息吹ドラグ・ノヴァ》、もしくは天竜ファルバッサが使用する《真・竜息吹ドラゴンブレス》と同等のものである。

 ソラの指先に見える高圧のエネルギーを見て拙いと考えた者は即座に射線上から逃げ去り、気付かぬ者はそのまま戦い続ける。必然的に、射線上には大して強くない者たちが残った。



「《崩閃シヴァ》」



 指向性のある破壊の魔素砲が放たれ、直線上とその周囲を吹き飛ばす。ソラのオーラが込められているお陰で殆どの防御が役に立たず、《崩閃シヴァ》の効果範囲に触れた選手は全て意識を失う。圧縮された魔素の暴威によって身体をズタボロにされ、それが精神ダメージへと変換されたからだ。

 まさに破壊神シヴァの名に相応しい威力である。

 頑丈な闘技場で放ったために地形への効果が分かりにくいが、普通ならば大地を抉り取るほどの威力がある。更に言えば、これでも手加減した威力なのだから凄まじい。本来の全力で放てばファルバッサと同等の威力が出せると言えば分かりやすいだろう。超越者オロチの龍頭を消し飛ばした《真・竜息吹ドラゴンブレス》が元になっているのだから。

 それに魔力と気力の制御が出来れば簡単に再現できるため、超越者でなくとも似たようなことは出来てしまう程度の技なのだ。超越者であるソラがコピー出来たのも当然のことである。



「《崩閃シヴァ》」



 ソラは再び破壊の銀閃を放ち、呆けている選手を一掃する。直線上だけの技とはいえ、かなり範囲が広いのも確かだ。今の二発で大方の選手が退場し、残りはソラを含めた八名だけ。つまり、あと七人倒せばソラの勝利である。その七人の中には、待合室でソラに声をかけてきたランド・チェイスもいた。

 そして七人は確信する。

 今は協力してソラを倒すべきだと。

 防御も関係なく破壊する《崩閃シヴァ》を見せられれば、悠長にソラ以外と戦っている余裕は無い。気を緩めれば、あの破壊の閃光によって退場確定となるのだ。つまり、先にソラを倒さなくてはならないと結論付けられるのである。

 七人は言葉もなく互いに頷き合い、一斉に動き出した。



(ふーん。そうきたか)



 だが一方のソラは余裕を崩さず、左手で二本目の剣を抜く。そして両手の剣に魔力を纏わせ、魔法を発動しようとしていた魔人の選手に飛ぶ斬撃を放った。二つの斬撃が三日月状になって飛翔し、魔法使いは回避を余儀なくされる。ソラは追撃しようとしたが、別方向から放たれた銃弾に邪魔された。

 情報次元と気配からそれを感知し、ソラは両手の剣で数十発の銃弾を全て切り裂く。相手は驚いているようだったが、ここまで残っている実力者なのだ。驚きで動きを止めたりはしない。銃弾を弾くために足を止めていたソラを前後から挟むように二人の選手が迫り、前の一人は大剣を振り下ろし、後ろの一人は槍を突き出した。

 当然ながらソラが回避するには左右どちらかへと跳ぶしかない。上に跳べば次の回避が出来なくなるからである。そしてソラは右へと回避した。

 だが、それを読んでいたかのように上空からランド・チェイスが迫る。地面に影が出来ているのだが、目を閉じているソラが気づくはずもなく、攻撃的な気配で反射的に剣を振り上げ防いだ。

 ガキンと金属音がして二人は拮抗する。

 ソラの剣とランドの手甲が打ち合わされたのだ。



「やるな!」


「そちらこそ即席の割には良い連携をする」



 ソラはそう言ってもう一つの剣を振るうが、ランドは上手く飛びのいて空中で回避した。そのまま魔力斬撃で追撃しようとするが、再び魔法攻撃を感知してソラはその場から跳び去る。その直後に雷が一瞬前までソラのいた場所を焼いた。



「《崩閃シヴァ》」



 速さが取り柄の雷属性魔法を避けられ、驚きの余り硬直してしまった魔法使いへと放たれた銀閃。一瞬で飲み込まれ、一人脱落となった。これで残り六人である。

 《崩閃シヴァ》は大量の魔素を使用する攻撃ではあるが、ソラは霊力量まで制限していないため、基本的には無限に撃つことが出来る。まさに一撃必殺でありながら弾切れの無い理不尽な攻撃だった。

 新たに倒された選手と派手な攻撃に沸き立つ観衆。

 第四ブロックの戦いはまだ終わらない。







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