EP275 闘技大会予選③
第一ブロックが決着した後、すぐに第二ブロックの戦いが始まった。このブロックでは魔法使いが集まっていたのか、派手な魔法が闘技場内で飛び交い、激しさを見せていた。そして最後に残ったは低威力ながら連射性に優れた魔法を放つ魔人の女性だった。一度も武器を使用することなく、魔法のみで勝負を決めてみせたのである。
軍服を着ていることから、魔王軍に所属していると分かった。
『ただ今の結果を発表します。勝者は選手番号二六二番のメリッサ・トルメイン選手です』
メリッサはインタビューを受けた後、最後に四方向へ向かって礼をして、闘技場内を去る。自信あり気で芯の強そうな顔つきであり、会場を支配する歓声を受けつつ彼女は消えていった。
次はようやくミレイナが戦う第三ブロックの試合である。
ミレイナたち第三ブロックの選手は既に闘技場に繋がる通路で並びながら待機しており、いつでも入場できる体制を整えていた。緊張で汗を流す者、動じずに目を閉じて集中している者、早く試合が始まらないかワクワクしている者……選手たちの様子は実に様々であり、その中でミレイナは気負うことなく普段通りにしていた。
(はぁ~。暇だ)
ジッとしていることに疲れたミレイナは背伸びをして体をほぐし、脱力する。ミレイナにとって今の待ち時間は非常に暇であり、動かずに待機しているせいで身体が固まりそうだった。軽く体を伸ばす程度のスペースはあるのだが、準備運動をするほどではない。
第三ブロックの試合が始まる瞬間を今か今かと待ち望んでいたのである。
『第三ブロックの試合に参加する選手は入場してください』
ミレイナがもう一度伸びをしようとしたところで入場を促すアナウンスが聞こえ、先頭から順に闘技場の中へと進んで行く。既に前の方が進んでいるのを見ると非常に焦れるが、流石にそんなことで癇癪を起こすほどミレイナは子供ではない。
いや、確かに子供っぽい行動が多いのは認めるが、十六歳相応の分別はあるのだ。
これでも竜人の里【ドレッヒェ】では人気があったのだから。
(さてと……このブロックで注意するべきなのは五人ほどだな)
ミレイナは入場する前に待合室で感じ取った気配から、注目するべき選手を選別していた。待合室で少し会話をした竜人ローランドは勿論として、他にも四人だけ他とは違う気配を放っている者がいたのだ。
それは微妙な差異であり、一般人が見ても感じ取れる強さではない。だが、その気配は強さを隠そうとしているものではなく、自然と漏れ出てしまう風格のようなものだとミレイナは看破した。
(この五人以外なら別のことを考えながらでも倒せそうだな)
試合は始まっていないが、待合室にいる時点で戦いは始まっている。注意するべき強者を見抜き、必要な体力配分を想定して試合をシミュレート。自分が取るべき戦術を決めていく。
バトルロイヤルのような無差別で多人数が先頭をする場合に必要な技能だった。他にも一対多での戦闘では必須であり、今回のような試合はともかく、実戦では一瞬で全てを判断することが求められる。クウとの仮想空間訓練を経てミレイナはその技術を身に着けていた。
元から勘は良いので、下手に考えるよりも本能的に敵の危険度順位を定められる。ミレイナが苦手としていたペース配分さえ練習すれば、一対多の戦闘もすぐにこなせるようにはなったのである。
『第三ブロックの選手入場が完了しました。まもなく試合が開始されます。選手各位は武器から手を放し、待機してください。試合開始前の攻撃行動等は反則行為とみなされ、審判により失格が言い渡されます』
ミレイナは闘技場の中央付近を陣取り、深呼吸して気持ちを整える。目を閉じて気配を知覚すれば自分に向けてハッキリと敵意を向けている視線を感じ取れるため、試合が開始されれば即座に狙われることだろうと予想できた。
何せ、ミレイナは戦闘民族として名高い竜人族なのだ。例えミレイナの強さを感じ取れなかったとしても、危険視されるのは当然である。この世界では見た目と強さが一致しないこともあるため、少女でしかないミレイナを侮るようなことはないのだ。
確かに、中には見た目でミレイナを雑魚と判断してしまっている愚か者も存在しているが、そのような者は所詮予選を潜り抜けられるような実力者ではない。侮蔑の視線は腹立たしいものの、その程度の相手なら気にする必要もないだろう。
闘技場が静まり、緊張がピークへと達したとき、アナウンスが試合開始を告げ知らせた。
『第三ブロック、試合を開始してください』
試合開始の合図。
それと共にブザーが鳴り響き、ミレイナは案の定、敵意を向けて来ていた選手たちに狙われた。逃げ場のないように全周囲から六人が走り寄り、更に奥では三人ほどが魔法発動をしようとしている。特に魔法使いたちにはミレイナへと迫っている六人すらも巻き添えにしてしまおうという魂胆が見えていた。
(ふん。舐められたものだな!)
内心でそう呟いたミレイナは即座に《身体強化》を発動し、流れるように近い順から六人を吹き飛ばす。そして残像すら残る速度で駆け抜け、魔法を発動しようとしていた者の顎に膝蹴りをお見舞いした。更にそのまま反転して両腕に巻き付けていた糸を飛ばし、《操糸術》で操って残り二人の魔法使いの足を絡み付かせ、あっという間に転ばせる。そしてミレイナは地面をも砕く脚力で鳩尾を踏みつけ、合計九人を一瞬で戦闘不能へと追い込んだ。
元から高い力のステータス値を持つミレイナが《身体強化》スキルまで使用したのだから当然である。今のミレイナはパンチの一撃で殆どの選手を戦闘不能に出来るのだ。
どんな雑魚にでも《竜の壊放》――以前は《竜撃の衝破》だったが――で片づけていた昔とは違い、今は敵の強さを判断して、必要な力で攻撃するということを覚えたのである。
「馬鹿め。私をただの小娘だと思うなよ」
ミレイナは糸を器用に操って回収し、周囲を警戒しながら腕に巻き付ける。糸という武器は暗器に近い性質があるため、一度見られれば簡単に対処されやすい。この試合ではもうあまり使えないだろう。
しかし、ミレイナの真骨頂は圧倒的なパワーだ。
奇襲にさえ気を付ければ、大敵の相手は正面から打ち破れる。
右手にグッと力を込めたミレイナは、そのまま腕を振り払いつつ《竜の壊放》を使用した。薙ぎ払うような破壊の波動が放たれ、ミレイナの正面にいた選手の肉体を蹂躙する。ただの衝撃波ならば強い打撃を受けたようなダメージだけで済むが、ミレイナの《竜の壊放》は振動によって破壊をもたらす別次元の能力だ。喰らった時点で体内にまで破壊が浸透し、《気纏》のようなスキルを使用していない者は軒並み気絶してしまったのである。
致死に至るダメージだと判定され、精神ダメージに変換された結果、気絶したのだ。
今の一撃に巻き込まれた十八人はそのまま強制転移され、闘技場から消え去る。その中には、ミレイナが目を付けていた者もいた。どうやら戦いの序盤で《気纏》を使用することを躊躇っていたようである。体力配分のつもりだったのだろうが、それが仇となって負けに繋がった。
より正確には、相手が本気を出す前にミレイナが片を付けた、というわけである。
やられるまえに殺るというのは戦術における一種の鉄則だ。敵に能力を使わせる前に勝負を決めるのは別に汚い行為ではない。本来、戦いは見世物ではないのだから。
しかし、軍に所属していない魔人たちにとって戦いとは試合の中でことであり、命懸けのものではないことの方が多い。従って魅せる戦いというものを意識しており、相手の力を引き出したうえで正々堂々と勝利するという考え方をする者も少なくなかった。
ミレイナはそこを突いたのである。
「ふむ。折角だから華々しく勝利してみせるぞ」
ここで勝利したとしてもまだ本選が残っているが、ミレイナには手札を残すという選択肢はない。戦術面ではかなり磨かれてきたが、戦略的なことまでは頭が回らないのだ。そのため、この予選でも力を出し切って勝利を掴むつもりだったのである。
「竜化」
種族特性である秘められた竜の力を解放し、ミレイナは真なる意味で竜人となる。背中からは二枚の竜翼が生えて深紅に輝き、身体は同じく深紅の竜鱗に覆われる。首から頬まで竜鱗に覆われ、さらに頭部の角が少しだけ伸びて竜化が完了した。
服を着ているので分かりにくいが、今のミレイナは全身に鎧をまとっている状態なのである。爆発的に防御力と各種耐性が上昇し、もはや殆どの攻撃が通用しない。
圧倒的な竜の気配を纏ったミレイナは竜翼に魔力を込めて空中へと飛び、溢れる魔力を口元で極限まで圧縮させていく。ミレイナの使う深紅の気すらも同時に凝縮し、口元に現れたのは球状のエネルギー体。
これは父シュラムから教わり、習得しているミレイナの切り札の一つだった。
「《爆竜息吹》!」
闘技場の上空から真下に向けて放たれた超新星の爆発。
まさにそう表現するのが正しいだろう。
竜化によって激しく活性化させられた魔力が大爆発を引き起こし、ミレイナの込めた深紅の気が煌めきながら、破壊の意思を以て全てを蹂躙する。幸いにも闘技場には観客席を守護する結界が施されているため、全く被害はない。それどころか、目の前で放たれた派手すぎる技に興奮しているようにも見えたほどである。
だが、闘技場内部にいた選手たちからすれば堪ったものではない。
空中を含めて全域に及んだ大爆発によって全ての選手が地に倒れ伏していた。そして気絶して五秒経った者から強制転移させられ、あっという間に闘技場に存在する選手の人数が減っていく。
そして最後に残ったのはローランドと名乗った竜人の男だった。
「ふん。私の最大攻撃の一つを受けて生き残るとはな」
ミレイナは竜翼を使ってゆっくりと降り立ちつつ、ローランドへと声をかける。そこには確かな賞賛があり、この《爆竜息吹》を受けて致死だと判断されなかったことへの驚きがあった。
「う……直撃の寸前に竜化を……したゆえ……」
「なるほどな。だが、あの攻撃は気の力で殆どの防御を貫く。我が父から受け継いだ竜人最強の象徴たる技だぞ」
「ふ……あの時のシュラム様は……本気でなかったということか」
「む。確か貴様は以前に私の父と戦ったのだったな?」
「ああ」
息も絶え絶えと言った様子のローランドに、もはや立ち上がる力はない。強烈な精神ダメージを受けたせいで意識が朦朧とし、身体に力が入らないのである。このまま放置するだけでもいずれはミレイナの勝ちとなるだろう。
闘技場内にはミレイナとローランド以外に残っていないからだ。
「では終わりだ」
最後にミレイナはそう呟き、ローランドへと強烈なパンチを叩き込んだ。放置して勝利するよりも、こうしてトドメを刺すことを選んだのである。凄まじい力で叩き込まれたパンチは闘技場を揺らし、ローランドは意識を失う。
そして五秒が経過し、強制転移された。
『ただ今の結果を発表します。勝者は選手番号五六三番のミレイナ・ハーヴェ選手です』
終了のブザーが会場に鳴り響く。
アナウンスによって勝利者が発表され、闘技場は一気に沸いたのだった。
最近のミレイナはポンコツ過ぎたので、今回は見せ場です。
彼女もやれば出来る子なんですよ。
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