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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
再会編
271/566

EP270 予定の計画


 その夜、クウたちは無事に宿……というよりはホテルの部屋を借りることに成功し、四人で集まって話し合っていた。ちなみに借りた部屋はダブルの二部屋であり、男女で分けている。海賊討伐で大量の資金を手に入れたため、このまま数か月は遊んで過ごせるだろう。謙虚に生活すれば数年は大丈夫だ。

 そして今は男部屋へと集まり、首都【クリフィト】を紹介するパンフレットなどを漁っていた。



「魔法迷宮ですか兄様?」


「ああ、この都市も【砂漠の帝国】の首都みたいに、迷宮を中心として出来ているみたいだ。魔法迷宮の近くには兵舎とか、商業施設も豊富らしいな。どうやら観光資源として利用しているらしい。他にも迷宮内に出現する魔物を狩って資源にしたり、兵士たちの訓練、学生たち向けの実戦演習などもしているみたいだ」



 パンフレットには【レム・クリフィト】の建国逸話も簡単に紹介されていた。どうやら、魔法迷宮を攻略した魔王アリアが、迷宮内で手に入れた力で国を興したということらしい。

 故に魔法迷宮を中心として、首都【クリフィト】が作られ、更に国土を広げながら各地に都市を建設していったということだ。そして、都市建設などには北方にあるヴァンパイアの国家からも助けられ、今でも友好関係にあるとのこと。

 更に、魔王アリアの旦那もヴァンパイアだと書いてあったのだ。

 そして【レム・クリフィト】での錬金術や科学技術の発展は魔王の旦那を中心として発展しており、今も魔王軍第七部隊は研究開発部隊として、彼が率いているのだという。

 流石に機密情報は知り得ないが、国の概要は簡単に調べることが出来た。



「リア、それと魔王の旦那だって奴の名前……見覚えが無いか?」


「リグレット・セイレムですね。人族の間でも、錬金術の祖として有名です。まさか魔族だったとは思いませんでした」


「だよな。まさか同姓同名の別人ってことは無いハズだ」



 魔王の旦那にして魔王軍第七部隊の隊長を務めているリグレット・セイレム。この国では建国にすら携わった有名人であり、最高の学者でもある。そして、これまでの情報を統合すれば、間違いなく超越者だろうと予想できた。

 クウの所持している神魔剣ベリアルも、元はリグレット・セイレムによって作り出されたものだと分かっている。リグレット自身がヴァンパイアであることから吸血武器を考案したのだろう。

 クウとリアにとっても意外な繋がりである。



「まぁ、リグレットの件は置いておこう。今気にしても仕方ないし」


「そうですね……それで、クウ兄様の探し人は?」


「噂通り、魔王軍第一部隊の隊長さんをやってるらしいな。軍の幹部クラスが名前まで公開されているなんて珍しいけど」



 通常、軍幹部の情報はかなりシャットアウトされているハズだ。機密に近い情報であるし、晒せば暗殺の危険性も生まれてくる。必要以上には隠さないが、公開するようなことでもない。

 だが、こうした観光パンフレットにすら魔王軍の隊長の名が記されている。勿論、全ての部隊ではなく、魔王軍最強戦力の第一部隊、治安維持を担当する警察ポジションの第二部隊、研究開発を行う第七部隊の隊長だけだ。しかし、パンフレット以外の資料を見れば他の部隊の隊長名も記されていた。

 割と一般公開されているらしい。

 これでいいのかとクウも首を傾げるが、国として公開を選んでいるのだから口出しすることも無いだろうと考え直した。

 そして、そんな風にリアと話し合っていると、別の資料をレーヴォルフと共に漁っていたミレイナが興奮気味にクウとリアへと話しかけて来た。



「おいクウ、リア! これを見てみろ!」


「何だ?」


「何です?」



 クウとリアがほぼ同時に返事をして振り返ると、一枚のチラシを手に持って嬉しそうな表情をしているミレイナが立っていた。そしてチラシの内容を見て、ミレイナがそんな反応をしていた理由を理解する。



「―――闘技大会?」


「武術や魔法を使った大会ですか」


「また古風だな。都市としてはかなり進んでいるのに」



 ミレイナが見せて来たチラシは魔王主催の闘技大会開催のお知らせだ。どうやら魔法迷宮の屋上を改造することで闘技場のように仕立てたらしく、迷宮の頑丈さを利用して激しい戦いにも耐えられるようになっているとのことだった。

 結界によって観客の安全は保障されており、闘技フィールドも、物理ダメージを精神ダメージに置き換える特殊装置によって血生臭さを失くしているらしい。主旨としては、エンターテイメント性のある娯楽の意味が強いようだ。

 謂わば、格闘技大会のようなものだった。もっと言えば、競技が一つしかないオリンピックと考えても良いかもしれない。内容こそ武器や魔法を使用した戦闘行為だが、これも競技として認められているからこそだった。



「私はこれに参加したいぞ!」


「ふーん。予選は来週で、本選は一か月後。本選には魔王軍の第一部隊と第七部隊を除く部隊長がシード出場。優勝者は最後のエキシビションマッチとして第一部隊の隊長ユナ・アカツキと戦える権利を有する。なんかユナだけ特別扱いだな」


「予選はまだ受け付けているようですね。闘技場に直接申請すれば、予選開催前日でも受け付けてくれるようです」


「ダメか?」


「まぁ、いいんじゃないか? ミレイナなら優勝も出来るだろ」


「やった!」



 チラシの説明をよく見ると、予選には軍所属の兵士も出場できるらしい。職業軍人が大量に出場するために、一般からの参加者で本選へと出場できるのは稀のようだ。本選はシード出場する五人の部隊長に加えて、予選から十一名を選出し、十六名からなるトーナメント戦になる。予選から選ばれる十一名の中で、一般人が入り込めるのは、毎回三人ほどとのこと。やはり、【レム・クリフィト】では軍の力が強いのだろうと予想できた。

 ちなみに今更だが、魔王軍は第一部隊から始まり、第七部隊まで存在している。第七部隊は名目上は研究部隊だし、隊長を務めるリグレット・セイレムは超越者だと思われるので、仮に参加すれば反則だろう。第一部隊の隊長ユナ・アカツキは部隊長の中でも格が違うほど強いため、トーナメントには参加せず、優勝特典としてユナ・アカツキと戦える権利を与えることになっているようだった。

 一応は国家が運営しているイベントであるため、観客を楽しませるためにもバランス調整は怠らないらしい。



「レーヴォルフは出ないのか? こういうの好きそうだけど」


「僕はいいかな。今回はミレイナを応援することにするよ」


「いいのか?」


「まぁね。それに競技という面が強いようだから、僕はあまり興味が無いよ」


「なるほど」



 確かにこの闘技大会は、安全性を重視して開催されているのだ。物理ダメージを精神ダメージへと変換するため、恐らく血が流れることすらない。体が木っ端みじんになるような攻撃を受けても、気絶するだけで済むのだろう。

 しかし、レーヴォルフが求めるような戦いは、そんなものではない。血の通った本物の戦、生死を賭けた極限を求めているのだ。

 優しく温厚な見た目のレーヴォルフだが、その中身はやはり竜人ということである。

 一方でミレイナは、その辺りをあまり気にしていないようだが……



「ちなみに優勝したら何かあるのか?」


「あ、少し待って下さい……」



 クウの言葉にリアは闘技大会の資料を捲り――



「……どうやら、優勝者には魔王様に謁見して願いを叶えて貰えるみたいですね。もちろん、最後にあるエキシビションマッチでの勝敗に関わらずです」



 と言ったのだった。

 なかなか優遇された優勝特典である。ある程度の制限はあるのだろうが、国のトップが直々に願いを叶えてくれるというのだ。悪くない賞品だろう。

 だが、ここでクウが注目したのは賞品ではなく、魔王と謁見できるという点だった。



「ほうほう。魔王と会えるのか。その手を逃すわけにはいかないな」



 魔王アリアと会うのが虚空神ゼノネイアから頼まれた最終目的だ。ここまで長かったが、ようやく到達目前までやってきたという気分である。また、闘技大会で優勝すれば、エキシビションマッチとしてユナとも合法的に会うことが出来るだろう。

 上手くいけば、今の彼女の実力も測ることが出来る。



「俺も出場しようかな」


『っ!?』



 ポツリと呟いたクウの言葉に他の三人は激しく反応する。

 クウはそんな三人にジト目を向けつつ口を開いた。



「……何だよ」


「いえ、クウ兄様が出るのは反則かと」


「私もクウが出ると優勝は無理だな」


「いやー。他の真面目な出場者が可哀想だね」


「お前らいい度胸だな」



 クウはそう言うが、この場合はリア、ミレイナ、レーヴォルフの言い分が正しい。超越者であるクウが出場すれば、もはや優勝は約束されていると言って過言ではない。更に、下手な概念攻撃を使用すれば、闘技大会で使用される物理ダメージ変換システムをも無効化して、実際の体ににダメージを与えてしまうことも考えられる。

 明らかな反則だろう。



「いや、俺だって手加減はするぞ。例えば……剣術だけ使うとかな。あと身体能力は相手のステータスを確認して調整したりすれば大丈夫じゃないか?」



 流石にクウも権能を使うのは反則だと理解しているらしい。剣術、魔力制御、気力制御を使う程度ならまともな勝負になると考えた。それに剣も、神魔剣ベリアルや神剣イノセンティアのような反則級の武器を使用するつもりはない。手加減用に持っている鋼の長剣を使うつもりである。

 これならば問題は無いだろうとクウは必死に説明した。



「俺もスキルが消失したから、剣技に関しては自力で鍛えないといけないんだよね。だから、練習する機会にも丁度いいんだよ」



 この世界のスキルは、補助システムが組み込まれているため、例えば《剣術》スキルもレベルに応じて動きに補正が入る。この補正は単に、斬撃の鋭さ等だけに対応しているため、剣技としての動きは自力で修練無くてはならない。ただ、こうして自動的な補正が入るのはかなり便利だ。

 クウも超越化してから、剣技や刀技の劣化を認識しているため、技能向上のためにも練習の機会が欲しかったというのはある。それに、超越者はその気になればスキルレベル10以上の技術を習得可能なのだ。破壊迷宮で出会った天九狐あまつここのえきつねネメアも体術技をスキルレベル15相当で会得していたので、クウもそこを目指していたのである。



「それと、俺はついでに視界を封じて戦うつもりだ。気配と魔力、あとは情報次元から得られる周囲の環境情報だけで戦う予定にしている。目を閉じても情報次元は見えるから」


「それなら大丈夫かな。僕には情報次元の視点というのが分からないけど」


「あれはデータの塊みたいなもんだ。普通にしてたら、何が起こっているのか理解できない。情報次元に見えているコードを読み取り、理解して環境を判断するだけの演算能力が必要になる。下手すれば枷にもなるかもしれないな」


「まぁ、そこまで言うなら大丈夫だろうさ。それなりのハンデみたいだからね」


「魔力制御と気力制御だけでも充分戦えるつもりだけどね」



 クウの説明を聞いて、レーヴォルフも納得したらしい。反対とは言わなくなった。

 得意分野とする能力を制限し、さらに身体能力を抑えた上で視界を封じる。ここまでやれば、相手によっては不利な戦いをすることになるだろう。



「よし、じゃあ闘技大会には俺とミレイナで出ることにしよう。一応聞くけどリアは出ないよな?」


「出ませんよ」


「なら、予選開始までは適当に観光するか」



 四人はそう決め、再びパンフレットを漁り始めるのだった。








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