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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
幽霊船編
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EP268 市長との対談


 朝食を終えたクウたち四人は、レプト船長を加えて【ネイロン】の市長に会いに来ていた。魔人の国【レム・クリフィト】では、首都【クリフィト】を魔王直轄地として、他の都市は民主制による自治を行っている。基本は魔王が頂点だが、市民が深く政治にも関わっているのだ。

 【レム・クリフィト】では貴族という地位が存在しないためである。

 万人が義務教育によって等しく学ぶことが出来るため、識字率も高い。まさに先進国というべき国家として君臨しているのだ。

 《邪神の呪い》による文明力低下があるかないかの違いで、ここまで差が生まれるのである。

 この【ネイロン】の街道を歩く中で、クウはそのことを強く実感していた。今は市長にアポイントを取り、応接間で待機しているところなのだが、この応接間を見るだけでも他種族との文明的格差を思い知らされる。



(邪神カグラねぇ……本当に何者だ?)



 クウがこの世界に来て聞き及んでいるのは八柱の神。

 光神シン、運神アデル、武神テラ、造神クラリア、虚神ゼノン、魔神ファウスト、壊神エクセス、そして邪神カグラだ。このうち、邪神カグラに加えて光神シンは色々と怪しいのだが、クウにはまだ何も分からない。それを聞くためにも魔王に会わなくてはならないのだが、邪神カグラのせいで分からないことがさらに増えて困っていた。

 魔人族だけは邪神カグラによる呪いを免れているという点もネックになりそうである。



(となると、魔人族を本気で信用してもいいのか……いや、邪神が悪いやつとは限らないけど、呪いを掛けている時点で良いやつとは思えないしな)



 虚空神ゼノネイアから、魔王は魔法神アルファウの天使であると聞いている。味方だと思いたいが、素直に味方と信じられない要素があるのも間違いない。だからこそ邪神について何か情報を得たいのだ。

 そんなことを考えていると、不意に扉がノックされて開かれる。見れば、二人の男性魔人が応接間に入ってきた。キッチリした服装であることから、この二人のどちらかが市長なのだと予想できる。

 すると、二人の内の片方、白髪交じりの男性の方がクウたち五人に向かって口を開いた。



「待たせました。私が【ネイロン】の市長、ドレイン・メイクルと申します。この度は、【カーツェ】からの手紙を届けて頂き、ありがとうございました。先程、レプト船長から受け取った手紙を読ませていただきましたよ」



 非常に丁寧な話し方をするドレインは、そのままクウたちと対面する位置にあるソファへと腰掛ける。伴っていたもう一人もドレインに続き、彼の隣に腰を下ろした。

 そのタイミングで更にドレインが話を続ける。



「私の隣にいるのは秘書のレイモンド・ロス君です」


「ロスです。私はメイクル市長の付き添いですので無視していただいて構いません」



 そう言うと秘書と呼ばれたレイモンド・ロスは軽くお辞儀して気配を薄めた。置物として扱ってくれという意思表示なのだろう。クウたちも軽く頷いて、ドレインへと視線を戻した。

 そしてまずは、船長のレプトが話を切り出す。



「俺たちは猫獣人の首長、ヴァイス・ベルハルト殿からの手紙を届けに来たのですが、少しだけ事情が変わったので、報告をするために来ました」


「なるほど。確かに、【ネイロン】と【カーツェ】の間では通信魔道具が使えませんからね。情報に齟齬が生じてしまうのも承知しています」



 通信魔道具は遠く離れた場所とも連絡できる便利な道具だが、使用にはある程度の条件がある。地球の携帯電話に圏外が存在していたように、この魔道具にも限界があるのだ。

 それは濃密な魔力の影響を受けると、通信で飛ばされている魔力が掻き消されてしまう点である。多少ならばノイズが入る程度で済むのだが、海の魔物のように強力な種ばかりの領域を魔力波が通過すると、魔物たちが自然に発している魔力のせいで、通信不可能なほどに乱されるのだ。

 ちなみに砂漠の魔物も強力な種が多いが、それらは隠密に長けているため、強大な魔力を垂れ流しにすることは無い。そのため、通信魔道具を十分に運用できる。

 ヴァイスがわざわざ手紙で連絡をしようとしたのはこういった理由があったからだ。もしも、こんな理由が無いならば、その場で連絡可能な通信魔道具を使用するハズである。



「それで、私が拝見した手紙の内容は、最近続いていた行方不明船が海賊被害によるものだったという情報に加えて、その海賊討伐のために軍を出動させる要請だった。間違いないね?」


「俺はそのように聞いております」


「それで事情が変わった点というのは?」


「はい、実は海賊は既に討伐されました」


「………………はい?」



 落ち着き払っていたドレインも、レプトの言葉を聞いて一瞬停止してしまった。百隻近い船がすでに被害に遭っていると考えられ、手紙を読んだ後も、これから大変になると憂鬱になっていたのだ。だが、聞いてい見れば既に海賊は討伐されたという。

 言葉を失うのも仕方がない。一拍遅れても反応できただけマシだろう。

 レプトもドレインの反応を予想していたのか、少しだけ道場の視線を送りつつ口を開く。



「実は俺たちの船が【ネイロン】へと向かっている途中に海賊と出くわし、護衛であるこちらの四人が討伐してしまったのです。詳しくは……クウ殿、お願いできるか?」


「俺か? 分かった」



 レプトは霧のせいで海賊たちとの戦いを把握していない。海賊はクウを含めた四人だけで対処したので、詳細を知っているのは護衛として雇ったクウたちだけなのだ。レプトは、ただクウたちが海賊を撃退したということしか知らない。

 正確には、海賊を撃退したのはクウ単独であるが……。

 ともかく、彼がクウにパスするのは当然だった。それが理解できているクウは、一瞬戸惑うものの、仕方ないといった様子で語り始める。



「相手は海賊でしたが、その正体はアンデッドでした」


「…………何?」



 急展開過ぎる話に付いていけず、ドレインは再び一拍ほど思考を停止させる。流石にクウも、話を端折り過ぎたと反省して細かく話し始めた。



「相手は霧に紛れてやってきたのですが、相手はオリオンという海賊のアンデッドでした。百年前に地中海を恐怖に陥れ、魔王によって討伐されたというオリオンです」


「何だと……!? だが記録によれば、魔王様は海賊オリオンの死体を塵一つ残さない攻撃で船ごと消し飛ばしたとされている。アンデッドとして復活するなど……」


「いや、俺の情報系能力で確認しているので間違いないでしょう。それと、もう一つ分かっていることとして、オリオンを復活させたのはオリヴィアという者らしいですね。称号欄に《オリヴィアの眷属》というのがありましたから」



 クウの言い放った言葉を聞いた途端、ドレインだけでなく、彼の秘書であるレイモンドも驚愕の表情を浮かべる。そして二人はほぼ同時に叫び声を上げた。



「馬鹿な! オリヴィアだと!?」


「まさか『死霊使い』が!?」



 余程驚いたのか、二人は丁寧な言葉づかいも忘れていた。そしてクウは、二人の言葉を聞いて、予想していたことが当たったと確信する。



(やはりオリヴィアの正体は『死霊使い』の四天王か。納得した)



 レイヒムが召喚していた賢者モルド・アルファイスは魔王オメガから貰い受けたと言っていた。そして『死霊使い』と呼ばれる四天王がいることから、その『死霊使い』こそがデス・ユニバースという種を生み出しているのだと予測していたのである。

 さらに、今回の海賊の件から、デス・ユニバースは大量に生み出せる存在だと確認できた。間違いなく超越者だろう。

 クウは念のためにドレインへと質問する。



「ちなみにオリヴィアってのは、仮に出会ったら即逃げなければならないとか言われています?」


「っ!? ええ、その通りですよ。良く知っておられますね。聞いた限りでは初めて【レム・クリフィト】に来たということでしたが。確かに、この国では【アドラー】という敵国において四人の人物に接触禁忌が言い渡されています」


「魔王と四天王ですか?」


「ええ。『氷炎』ザドヘル、『死霊使い』オリヴィア、『人形師』ラプラス、そして魔王オメガの四人は決して接触してはならないと決まっているのです。この四人と戦えるのは、魔王アリア様と旦那様だけとされています。魔王軍最強の第一部隊でも刃が立たないそうです」


「『仮面』の四天王だけは接触禁忌じゃないんですね」


「彼の場合は名前すら明らかになっていません。【アドラー】が対外的に名乗っている四天王を表す二つ名が『仮面』ということなのですよ」



 なるほど、とクウは頷く。

 これで【アドラー】には最低でも四人の超越者が存在し、【レム・クリフィト】にも二人と神獣二匹の超越者が存在することが分かった。数の上では拮抗しているため、簡単には勝負がつかないだろう。

 さらに『仮面』の四天王に関する情報の少なさには驚かされた。

 【砂漠の帝国】で接触した『仮面』ダリオン・メルクは完全変化の能力者だ。諜報や工作活動に有利な能力であるため、意図的に情報を隠しているのだろう。ただ、存在するということだけを発表している理由は謎だが。



(案外、様式美って理由だったりしてな……)



 四天王と名乗っているのだから四人いないとおかしいのは分かる。だから一応、存在だけは明らかにしておくというのも納得できる理由だ。【レム・クリフィト】に謎の四天王を意識させるという高度な政治的意図があるのかもしれないが、流石にクウでも分からないことである。



(まぁいいか。ダリオンの情報は渡しても良いけど……魔人はまだ信用できると決まったわけじゃない。魔王に会ったら直接言ってみるか。中枢なら、裏でダリオンのことを掴んでいるかもしれないけど)



 流石に軍の機密まで市長程度の人材が把握しているということは無いだろう。秘密の諜報部隊のような存在が、四天王の『仮面』の正体に勘づいていても不思議ではない。

 情報を公開しない理由としては、そのような誰にでも変身できる存在がいると分かる方が、都合の悪い事態になるからだろう。どこまで警戒してよいのか分からないし、ダリオン一人のために疑心暗鬼になっては本末転倒だからである。

 そこまで考えて、クウは再び会話に戻った。



「まぁ、四天王の話は置いておくとして、ともかく俺たちが戦ったのはオリヴィアによって復活させられた海賊オリオンでしたよ。証拠品として海賊たちが乗っていた船、さらに彼らの装備品があるのですが、どうしますか?」


「そんなものがどこに……いえ、あるのでしたら提出をお願いします」


「了解しました。証拠類は港に準備しておくので、好きに調査してください。多少壊してしまいましたが、海中を航行できる船みたいですし、実りはあると思いますよ」


「ありがとうございます。協力感謝します。詳しい話は、後でロス君と話し合ってもらうことにしましょうか。それで、海賊討伐の件でもう一つお話が」


「何です?」


「いえ、畏まらずとも宜しいですよ。報酬の話ですから」



 少し身構えたクウは、その言葉を聞いて納得する。海賊討伐は魔王軍と協力することになるという旨の手紙を届けたのだ。その中にはクウたちへの報酬の話も含まれていたハズである。

 何が報酬となるのかは聞いていないが、恐らくお金だろうとあたりを付けていた。

 しかし、ドレインは意外な言葉を発する。



「報酬は何が宜しいですか?」


「……え? 決まっていないんですか?」


「はい、軍と協力して討伐した場合、あなた方の貢献度に沿って報酬を渡すつもりでした。今回はあなた方だけで討伐完了してしまったため、かなりの報酬を受け取ることが出来ますよ。尤も、証拠品を調べてから報酬を渡すことになりますけどね」


「そうですか。報酬ね……」



 クウは少しだけ考える。

 取りあえずお金は確定だろう。クウたちには仕事が無いので、しばらく過ごす分だけのお金は必要だ。しかし、ドレインの言い方から考えると、お金以外にも何か報酬を望めそうな雰囲気だ。

 そこでクウはある提案をする。



「お金がまず欲しいのと、海賊オリオンが所持していた魔剣を貰えます? ちょっと面白そうな能力だったので欲しいのですけど」


「魔剣ですか? まぁ、構わないと思いますよ。ちなみにどのようなものですか?」


「これですけど」



 クウはそう言って虚空リングから魔剣ヴァジュラを取り出す。海賊船スケルディア号と共に収納したものだが、虚空リングから取り出すときは個別に選択することもできる。

 そしてクウが取り出した魔剣を見たドレインは思わず驚きの声を上げた。



「これは! 魔王軍第二部隊の隊長殿が持つことを許される魔剣ヴァジュラ! かなり前に盗み出されていたものですよ!」


「え? マジか!?」



 衝撃的な事実に、クウは思わず素の言葉で対応してしまう。それでもクウは気を取り直して、魔剣について尋ねてみた。



「強力な電撃を放つ魔法武器マジックウェポン、魔剣ヴァジュラで合ってます?」


「その通りです。まさかこんなところで見ることが出来るとは……。いえ、魔王軍第二部隊は治安維持を目的とした部隊で、対象を無傷なまま倒さなければならないことがあるのです。その際に隊員たちは電撃系の魔道具を使用するのですが、隊長だけは殺傷能力を極端に引き上げた魔剣の使用を許可されています。まぁ、滅多に使用されませんがね」


「盗品だったのか。じゃあ、報酬には望めそうにないですね」


「申し訳ありませんが」


「なら、俺たちのした仕事に見合うお金で。現金でお願いしますね」


「分かりました。証拠の検分が終わり次第、払いましょう。ついでに証拠品は【ネイロン】で買い取ったということにさせていただきます。その分、報酬を上乗せしておきます。それと魔剣ヴァジュラの捜索願いも国から発注されていますので、その報酬分もあります」


「了解です。リアたちも特に望みは無いよな?」


わたくしは特に」


「特にないぞ。それに私は大した活躍も出来なかったからな。要らん」


「僕もミレイナと同感だよ。クウの好きにしてくれ」


「決まったようですね。この件に関しても後でロス君から詳しく説明させましょう。今日はありがとうございました」



 ドレインは座ったままクウたちに向かって一礼する。それにならって秘書レイモンドも頭を下げたので、クウたちも軽く会釈しておいた。

 トラブルはあったものの、これで海賊事件は解決した、ということである。
























「あ、それとアークの死体が四つほどありますけど、買い取ってくれます?」


「っ!?」



 という会話があり、クウたちへの報酬がさらに倍以上に増えたとか……






やったね。これで金策は完璧だよ!


というわけで、幽霊船編は終了です。

今回のテーマは敵国アドラーの超越者を明かすことです。ぶっちゃけ、クウの昔話はどうでもいいです。次章で登場するユナ・アカツキのためにフラグにしかなっていません。もともと過去話は次章でする予定でしたが、次章の話数が増えそうなので繰り上げました。

多分、次はそこそこ長くなると思います。

出来るだけ圧縮はしますが……


では、次回より『再会編』を始めます。

お楽しみに!



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