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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
幽霊船編
255/566

EP254 感知の方法


 深い霧に包まれてから数時間。

 より正確には、今朝、周囲が霧に包まれていると気付いてから数時間だが、未だに視界が晴れる様子は見られなかった。クウたちが感知で警戒を続けているとはいえ、何時間も連続して集中力が保たれるわけではない。休憩を挟みつつ気配や魔力を探っていた。



「敵影は無し……か」


「不気味ですね」


「霧の術者の居場所すら特定できないからな」



 クウとリアはペアを組んで警戒に当たっている。同様にレーヴォルフもミレイナと組んで警戒しているのだが、感知能力の違いから、実質はクウとレーヴォルフだけで警戒しているようなものだった。

 そうなると超越者であるクウはまだしも、レーヴォルフには疲れが見え始める。今は、ミレイナの練習に付き添わせつつレーヴォルフを休ませて、クウが感知を担当していた。



「周囲数キロは何も無し。上空にも感知を向けてみたけど反応は無かったな」


「この霧も魔法なのですよね? これだけの出力を維持できるものなのですか?」


「普通なら無理だな。魔道具で補助している線が濃厚だろ」


「海賊……ですよね? 仮にも賊にこのような魔道具が用意できるのでしょうか?」


「さあな」



 霧を発生させるだけとはいえ、何時間も術を発動し続けるのは至難だ。領域に霧を発生させるだけならば一度発動させるだけで十分だが、リンフェル号は絶えず海を移動している。船の移動に合わせて霧も移動しているため、常時発動状態でなくてはならないはずなのだ。

 霧の発生範囲はリンフェル号を中心として半径五キロほど。

 これはクウの解析で判明していることである。

 すでにレプトを始めとしたリンフェル号幹部、そしてリア、ミレイナ、レーヴォルフには通達済みだ。



「念のため空間解析もしたけど、亜空間を作って隠れているとかも無かったな。少なくとも半径十キロの海上は何もなかった」


「それってわたくしが感知する意味があるのでしょうか……」


「練習だと思えばいいんじゃないか?」


「そうですね……」



 クウは普段行っている無意識化の感知で数百メートル、そして意識しての感知が数キロほどの距離だ。更に《真理の瞳》を使って情報次元解析できる物理的距離は半径十キロになる。

 現在のリアが《魔力感知》を発動できる範囲は半径数百メートルであるため、クウの無意識化の感知範囲と変わらない。彼女が自分の感知の意味を疑うのは当然のことだった。

 しかしこれはクウの言った通り、感知の練習という意味合いが強い。

 勿論、リアとしては複雑な気分だが……

 そんな風に話し合っていると二人の元にミレイナとレーヴォルフが近づいてきた。



「クウ。遂にミレイナが《気配察知》を習得したよ」


「見たかクウ!」


「早いな。まだ数時間なのに。流石は加護持ちだ」



 実際、スキルのある世界と言っても気配を読むのは簡単ではない。地球でもそんな技術の持ち主が滅多にいないように、この世界でも習得には相応の努力が必要なのだ。ただ、魔物などを相手に戦う能力が求められるため、習得している人物が多いというだけの話である。

 今回の場合、そんな技術を数時間でスキルとして習得したのだからクウが驚くのも当然だった。

 才能ある者に神の加護が与えられるとはいえ、流石である。

 クウの言えた義理ではないが。



「ミレイナもやれば出来たんだね。何故練習しなかったのさ?」


「レ―ヴが教えてくれなかったからな」


「だから君に戦いを教えていたのは僕の偽物だよ」


「そういえばそうだった!」



 忘れがちだが、レーヴォルフがミレイナに出会ったのは最近である。六十年もレイヒムに囚われ続けていたため、クウの救出によって初めてミレイナと会ったのだ。今の二人の仲からは想像もできないが、出会ってから一か月ほどしか経っていないのである。

 ミレイナが勘違いするのも仕方が無かった。

 そんな二人を眺めつつ、今度はクウが口を挟む。



「まぁ、ミレイナが早めに習得できたのは良かった。レーヴォルフが先生として優秀だったのかもしれないな」


「からかわないでくれよ」


「普通に褒めているだけだって。それで本題の海賊だけど、レーヴォルフは何か掴んだか?」



 クウは答えを予測しながらも一応は尋ねる。

 それに対してレーヴォルフの答えはクウの予想通りだった。



「ダメだね。全く見つからないよ。まだ、近くにはいないみたいだね。僕の《気配察知 Lv10》を抜けられるならともかく、クウの感知力を欺くなんて有り得ない」


「だよなぁ」


「相手は何をしたいのかな? 僕たちを疲弊させるにしても、これだけ長時間、広範囲に渡って霧を発動し続けるには労力が見合わないはずだよ。完全に魔道具で発動させるにしてもコストだってかかる」


「せめて発動場所が分かればな……」


「クウの解析で分からないのかい? 霧の発動者の位置情報を解析とか出来そうだけど」


「無理無理。いや、技量があれば出来るだろうけど、今の俺はそこまで器用じゃない。精々が術の内容を解析したりする程度だな。情報次元に記録されている術式の一部が理解できる程度じゃ、発動地点までは逆探知できない」



 クウの《真理の瞳》は情報次元を直接見る能力だ。そして情報次元はコンピュータプログラミングのような意味のある文字列の集合体であり、情報次元を元に現象を自動的に理解できる形で開示してくれる《森羅万象》のような能力ではない。

 解析するには情報次元を支配している文字列を理解する必要があるのだ。

 今のクウが理解しているのは効果、効果範囲などを示す変数記号などになる。というより、超越者となった時点で各種記号は理解できるようになったのだが、それを逆算して利用する技術スキルまでは習得に至っていないのである。

 要するに、クウは知っている単語から大体の意味を予測しているに過ぎないのであって、具体的な文法などを理解しているわけではないのだ。

 これを聞いたレーヴォルフは顔を顰めながら呟く。



「難しいものだね」


「俺だって全能じゃないからな。万能には近いけど」



 クウは苦笑しつつ答えるが、笑い事ではない。

 つまりは、まだ能力を使いこなせていないということなのだから。

 正直なところ、クウは莫大過ぎる霊力と強すぎる権能を持て余していると言えた。オロチとの戦いでは全力戦闘で良かったのだが、細かい制御や手加減は練習中である。特に霊力制御は、気を抜けば周囲に威圧の嵐を振りまきそうになるほどだ。

 超越者が制御をせずに霊力を垂れ流しにすれば、周囲十数キロは被害を受ける。特に、至近距離で霊力圧を浴びれば気絶も免れないだろう。鍛えていれば別かもしれないが、一般人では耐え切れない。

 二日前のアーク戦でも、霊力を制御しつつ能力行使するのは骨が折れた。それで想定外の範囲まで攻撃してしまったという結果が残っている。

 超越化してもクウに課題は残っているのだ。



「それで兄様。結局どうするのですか? 相手の居場所が分からなければ、こちらから仕掛けることは出来ませんよね?」


「そうだな。リアの言う通り、今の俺たちで出来ることはない。この霧では視覚も役に立たないし、監視に就いている船員も嘆いていたな。俺が霧の術を解除してしまうという手もあるけど、どうせなら海賊を誘い出したい」


「……解除できたのですね」


「言ってなかったか?」


「言ってませんよ」


「私も聞いてないぞ」


「僕もだ」


「すまん。実は解除できるんだ」



 クウは《幻葬眼》で術式を幻想に置き換えれば術を無かったことに出来る。思い返せばこの事実を説明していなかったと気付いてクウは素直に謝罪した。

 ただ、説明のないまま海賊を誘い出したところでクウならば簡単に対処できるだろう。

 そのことで非難する三人ではない。

 リア、ミレイナ、レーヴォルフは首を横に振って謝罪を受け入れた。



「ともかく、海賊も航海の度に遭遇する訳じゃないみたいだからな。機会があるなら討伐するに越したことはない。特に、相手は俺の感知を掻い潜って霧の術を発動させたんだ。多分、軍として出動しても先に気づかれて逃げられるだろ」


「それもそうか。確かにクウが感知するよりも先に相手はリンフェル号を捕捉したのは間違いないね。そうなると、僕たちでは想像もつかない感知手段を持っている可能性もある」


「そうだな……俺が思いつく限りだと、電波レーダーなら可能か。俺の最大感知範囲よりも広い範囲を調べることが出来るかもしれないな」


「電波……ですか?」


「何の話だ?」


「僕も初めて聞いたけど」



 三人はクウの言葉を聞いて首を傾げる。

 電波を使った探索は一般的に思えるが、呪いのせいで科学の発展が遅れているエヴァンでは聞いたこともない概念のようだ。《邪神の呪い》を持たない魔人ならば開発しているかもしれないと考えたのだが、やはり人や竜人の中では一般的ではないのだろう。

 クウは苦笑しながら説明を始める。



「リアには説明したことがあるけど、光って言うのは種類があるんだ」


「はい、わたくしは覚えています」


「光に種類?」


「僕も初耳だね」



 リアは大きく頷き、ミレイナは早々に混乱しかけている。レーヴォルフは興味深そうな顔で次の説明を待っていた。

 そんな三人を観察しながらクウは説明を続ける。



「それで光の種類は波長によって分けられる。説明してなかったけど、光ってのは波の一種なんだ。本質的にはちょっと違うんだけど、海の水みたいな感じで光は進んでいる。ここまではいいか?」



 リアは復習の範囲なので大丈夫そうだが、レーヴォルフは少し頭を悩ませているようだった。普段見る限り、光が波として進んでいるなど想像もできないから当然だろう。ミレイナは既にギブアップしているのでクウも無視することにした。



「まぁ、今は光が波として進むと覚えてくれ。それで、波の間隔によって光に種類が生まれる。波の間隔が長いと赤っぽい色になり、間隔が短いと青紫っぽい色になる。レーヴォルフ、今はそう覚えてくれ」


「分かった」


「それでだ。波長が長い……つまり波の間隔が長くなると、赤くなっていき、さらに波長が長くなると目では知覚できなくなる。俺たちでは認識できない色になるってことだな」


「そんなことがあり得るのかい?」


「ああ、逆に波の間隔が短くなりすぎると青色から紫色に近くなっていき、さらに短くなると見えなくなるんだ。俺たちが色として見えているのは大量にある光の種類の一部だな。そして俺たちが見える光を可視光線と呼んだりする。ちなみに赤すぎて見えなくなった光を赤外線、紫過ぎて見えなくなった光を紫外線と言うんだ」


「……大丈夫。ちょっと難しいけど何とか付いていけているよ」



 レーヴォルフは眉を顰めながらではあるが、クウの言葉をどうにか理解する。正確には、理解したというよりも丸覚えしたと言う方が正しい。レーヴォルフには波動の概念がないので、理解するには知識不足だったのだ。

 今は、クウの話を『そういうこと』として覚えただけである。

 クウもそれは分かっているが、これ以上は本格的に教えなくてはならないので、そのまま話を続けることにする。



「それで、電波って言うのは赤外線……つまり波の間隔が長い光の中でも、さらに間隔が長い光だ。これを放射した先に物体があると、その物体が電波を反射する。この反射した電波を観測することで、電波を放射した先に何かが存在すると感知できるんだ」


「電波っていうのは反射する性質をもっているのかい?」


「ああ、言い方が悪かったな。基本的に光は反射するし、物体に吸収される。例えばミレイナの赤髪は赤以外の光が吸収され、赤色だけが反射しているから、俺たちは赤色を知覚しているんだ」


「そういうことかい! 大体分かったよ」


「寧ろこんな説明で理解できたレーヴォルフに驚きだ」



 クウは少しだけ呆れたような表情を浮かべる。流石は【称号】に《天才》と記されているだけはあるが、レーヴォルフは頭の回転も良かったらしい。簡単な理解は出来たようだった。



「まぁ、それで説明を続けると、電波も光だから吸収、反射がされる。でも、電波は基本的に反射しやすい性質だから、物体に当たって反射した電波を観測できるってこと。そして電波を使えば数十キロなんて簡単に調べることが出来る。もし、この技術を持っていたら俺よりも感知範囲は広いだろうな」



 納得しているリアとレーヴォルフ。そして頭上にハテナマークを幾つも浮かべているミレイナ。対照的ではあるが、難しい話には違いないので仕方ないだろう。以前から何度か講義しているリアはともかく、レーヴォルフが一発で理解できたことの方がおかしいのだから。

 だが、談笑の時は突如として終わる。



『っ!?』



 前触れもなく四人の感知範囲に出現した気配、そして魔力。

 リアやミレイナまで感知できる距離に……リンフェル号を囲い込むようにして何かが出現したのを感じることが出来た。

 クウは即座に《真理の瞳》を発動し、六芒星の輝く「魔眼」で周囲を見渡す。



「これは時空間系……じゃなくて召喚系か!」



 空間上に突如として物体を移動させるとなると、時空間属性と召喚属性のどちらかになる。クウは《真理の瞳》で情報次元を解析し、術式の形から召喚属性であると突き止めた。

 召喚された物体は巨大であり、さらに無機物。つまり召喚獣を呼び出す術ではなかった。

 深い霧の中でも薄っすらと見えるそれは、リンフェル号の甲板に影を落とす。



「これは……船? 噂の幽霊船か!」



 クウが断定すると同時に、ボロボロの船がリンフェル号を囲むようにして無数に姿を見せる。海を動き続けるリンフェル号と相対速度を合わせ、檻でも形成しているかのように追随し始めるのだった。






感想の返信でも書いたのですが、幼馴染ことユナさんの性格は未定なんですよね。


ヤンデレ

ツンデレ

姐さん

清純

天然


の中から決めようとは思っているのですが、結構悩んでます。主人公との絡みも含めて、性格は大事ですからね。

希望があれば是非とも寄せてください。

募集というわけではありませんが、反映すると思います。



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Yandere, though it is way too late.
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