EP251 スキル合成
レギオンとの戦いは一進一退を繰り返すことになる。
三人で安全圏を守りつつの攻撃であるため、セイジたちに大きな怪我はない。しかし、レギオンは大きなダメージを負うたびに回復し、さらに手駒となるゴーレム軍団を量産する。戦闘開始から三十分を過ぎても状況は変わらなかった。
「拙いね。僕たちに自動回復系スキルが無かったら負けてるよ」
「どうするのセイジ?」
「もっと強い攻撃が必要でしょうか?」
「そうだね。となれば、やっぱり魔法攻撃が主体になりそうだ。これまでの攻撃で耐性は確かめたし、こっちも仕掛けるよ。風と闇、そして光をメインで攻撃だ。場合によっては絵梨香も補助を頼む」
「わかったわ」
「私も大丈夫です」
セイジは両手に持つ聖剣に目を向けつつそう答えた。
純白の気を纏わせた聖剣は少しぐらい乱暴に扱った程度で壊れるようなことも、刀身が歪むようなこともない。何度もレギオンに打ち付けているが、綺麗な形を保っていた。
しかし巨体を誇るレギオンに対しては針のようなもの。
決定的なダメージを与えることは難しい。
これまでの攻撃も、リコの魔法によるものが一番大きなダメージを与えている事実もあった。
「ガアアアアアアアアアッ!」
「来るよ! 構えて!」
「うん!」
「はい!」
地響きを立てて一歩ずつ三人へと迫り、重い左腕を振り上げるレギオン。この戦いで何度も見たレギオンの振り下ろしだった。地面に暗い影を落としながら迫る一撃をエリカが結界で受け止める。激しい音と共に攻撃は受け止められたが、やはり結界にも無視できない罅が走っていた。
つまり二度目は防げない。
しかし次に振り下ろされようとしている右腕の攻撃はリコが爆発魔法で吹き飛ばした。
「今よ清二!」
「私たちで抑えます!」
「分かった。はあああああああっ!」
二種類の強化スキルで身体能力を上昇させたセイジは飛び上がり、レギオンの頭に狙いを定める。そして剣を振り上げ、刀身に魔法を纏わせた。
それは二種類の属性。
スキルポイントを使って取得した風属性と闇属性だった。
周囲の空気を圧縮し、利用することで切断範囲、距離を格段に上昇させ、さらに闇属性の力でレギオンの体を脆弱化させる。普通の斬撃が効かないのならば、魔法を纏わせた斬撃を使えば良いのだ。
「行けえええええ!」
セイジが振り下ろした聖剣の斬撃範囲は刀身の延長十メートル、そして付随するようにして風属性と闇属性の余波が吹き荒れる。レギオンは頭部から縦にまっすく切り裂かれ、岩の体に無数の傷を付けられながらも真っ二つになった。
普通ならばこれで終わりだが、レギオンはゴーレムの魔物であり、さらに強い再生能力も保持していることが分かっている。もう油断はしない。
「清二離れて!」
「分かった」
そしてレギオンが足を止めている隙にリコが大魔法の準備をする。もちろん、エリカの付与による強化を忘れない。レギオンが眷属を生成する前に二人は魔法を発動させた。
「『《気流収束化》』」
「『《斬空天飛剣》』」
リコが放った魔法は全てを貫く風属性魔法《穿空天飛槍》の亜種だ。全てを切り裂く最上位クラスの風の剣と言われている。
こちらも射程が短いのが欠点だが、それはエリカの付与でカバーした。
これまでの攻撃から風の耐性は低めだと分かっているので、レギオンにも有効である。リコの放った風の剣は横薙ぎに振るわれ、既に縦方向へと裂かれているレギオンを上下に切り分けた。
さらにエリカがレギオンに対して呪いを発動する。
「『《耐性破壊:炎》』」
レギオンの炎属性に対する耐性は引き下げられ、ダメージが通りやすくなる。やはり破壊力では炎魔法が一番なので、トドメには最適なのだ。
さらにエリカはセイジとリコが準備している《炎魔法》にも強化を使う。
「清二君、理子ちゃん! 強化します。『《加速化熱強化》』」
完全に動きを奪われたレギオンは魔法発動を妨害することすら出来ない。さらに魔力を使いすぎたせいか《土魔法》と回復を同時にすることもできず、回復を優先させている以上、ゴーレム軍団の生成も不可能だった。
エリカの持つ《付与魔法 Lv9》によって炎属性が大幅強化される。そしてセイジとリコはレギオンを焼き尽くす地獄の炎を顕現させた。
「「『《灼熱獄炎》』!」」
それは炎魔法でも最高位の広範囲殲滅魔法《灼熱劫火》をも超えた術。セイジとリコが二人で創り上げたオリジナル魔法の一つだった。基本は《灼熱劫火》と同じなのだが、その温度は凄まじく、炎の色も青白く変化している。
全ての熱量がエントロピーの法則を無視して内側へと収束し、魔法範囲の外へと無駄なエネルギーを逃すことがない。故に近くで蒼炎を眺めるセイジたちは熱さ一つ感じず、逆に魔法範囲内では一万度を遥かに超えた熱量が暴威を振りまいていた。
レギオンは炎の耐性を消し去られ、逆にセイジとリコは炎属性を強化されている。
結果がどうなるかは言うまでもなかった。
「……終わったね」
「か、勝ったああぁ!」
「疲れました……」
レギオンがいた場所では全てが蒸発し、残っているのは巨大な魔石だけ。普通ならば魔石も熱で破壊されてしまうのだろうが、強さだけならSSSランクと言われるレギオンの魔石なら問題なかった。
討伐証明にもなるので、これで依頼達成である。
「取りあえずステータスを確認しようか」
「そうね」
「分かりました」
少しだけ息を整えた三人は早速とばかりにステータス画面を表示する。最近はSランクオーバーの魔物を相手に戦っているため、戦闘の度にレベルが上がることが続いていた。三人も成長が嬉しく、こうして戦いが終わるごとにステータス画面を開いているのである。
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セイジ・キリシマ 17歳
種族 人 ♂
Lv153
HP:15,438/15,438
MP:15,893/15,893
力 :15,119
体力 :15,238
魔力 :15,991
精神 :14,983
俊敏 :14,825
器用 :14,412
運 :40
スキルポイント:56
【固有能力】
《光の聖剣》
《融合》 New
【通常能力】
《魔法剣術 Lv7》 Lv1UP
《魔導》 Class UP
《時空間魔法 Lv2》 New
《罠感知 Lv8》 Lv2UP
《魔力支配》 Class UP
《気力支配》 Class UP
《超回復》 Class UP
【加護】
《光神の加護》
【称号】
《異世界人》《光の勇者》《スキルホルダー》
《到達者》《真なる勇者》《纏い剣士》
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《融合》
Lv100に到達し、真なる勇者として覚醒した
者が得るスキル。聖剣と聖鎧の本当の能力
でもあり、【固有能力】でもある。
二つ以上のスキルを融合させることで、より
上位のスキルへと変化させる。組み合わせに
ある程度の制限はあるが、場合によっては今
までにない、新しいスキルとして誕生するこ
ともある。
《超回復》(エクストラスキル)
自己回復系最上位スキル。
常にHPとMPを高速で回復し、無尽とも思える
継続戦闘能力を与える。肉体が常時活性状態
となるため、一定以上の肉体能力が無ければ
回復に耐え切れない。
基準はステータス値平均10,000以上である。
ただし、運は除く。
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リコ・アオヤマ 17歳
種族 人 ♀
Lv149
HP:7,211/7,211
MP:16,829/16,829
力 :5,591
体力 :5,123
魔力 :15,971
精神 :15,119
俊敏 :5,735
器用 :5,536
運 :28
【通常能力】
《光魔法 Lv8》 Lv2UP
《炎魔法 Lv8》 Lv1UP
《水魔法 Lv7》 Lv2UP
《風魔法 Lv8》 Lv1UP
《土魔法 Lv8》 Lv3UP
《魔弾 Lv5》 New
《MP自動回復 Lv9》 Lv3UP
【称号】
《異世界人》《希望の魔導士》《爆裂》
《到達者》
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エリカ・シロサキ 17歳
種族 人 ♀
Lv150
HP:7,691/7,691
MP:16,421/16,421
力 :5,023
体力 :5,122
魔力 :9,831
精神 :15,931
俊敏 :7,304
器用 :7,766
運 :25
【通常能力】
《光魔法 Lv7》
《結界魔法 Lv9》 Lv1UP
《付与魔法 Lv9》 Lv3UP
《回復魔法 Lv9》 Lv3UP
《魔弾 Lv4》 New
《魔呼吸 Lv3》 New
《状態異常耐性 Lv4》
《鑑定 Lv8》 Lv2UP
【称号】
《異世界人》《守護の聖女》《不死崩し》
《到達者》
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「レベルが上がったよ」
「ああ! 私だけLv150を越えてない」
「《結界魔法》のレベルが上がりました!」
やはり召喚勇者と言うべきか、ステータス値はレベルの割に高い。さらにスキルレベルも高位能力者と呼ばれる領域に踏み込んでおり、人族の中では最高クラスでもある。
特にセイジが勇者として聖剣、聖鎧に認められたことが大きいだろう。
Lv100に到達したときに変化が起き、新たなる【固有能力】を得たのだ。
その名も《融合》。
スキルとスキルを融合し、より上位へと変化させることが出来る特殊なスキルだ。セイジはスキルポイントで得た多くのスキルを《融合》で上位スキルへと変化させている。
例えば基本属性の魔法スキルをすべて取得、合成して《魔導》。
さらに魔力系スキルを全て取得し、合成して《魔力支配》。
また気力系スキルも全て取得し、合成して《気力支配》。
《HP自動回復》と《MP自動回復》を合成して《超回復》を生み出した。
これらのエクストラスキルはスキルポイントで取得不可能であるため、このようにスキル合成して手に入れなければならないのである。
これによってセイジはスキルを加速度的に強化していたのだった。
「スキルポイントも結構手に入ったね。次は何にしようかな」
「面白そうなスキルがあるの?」
「《魔法剣術》の強化で《魔闘剣術》ってのがあるみたいだよ。これがよさそうだね。ポイントは……結構高いな。200ポイントか」
「ならば魔物を一杯倒さないといけませんね」
「そうだね」
セイジが大量のスキルを入手できたのには他にも理由がある。
それは聖剣と聖鎧が覚醒したことで、魔物を倒すたびにスキルポイントが溜まるようになったのだ。強い魔物であるほど大量のポイントを入手できるが、ゴブリン並みに弱すぎれば全く入らない。それでもレベルアップ以外にポイントを稼げる方法があるというのは有り難かった。
「あとは《剛力》《硬化》《極魔》《恒心》《神速》ってスキルもあるね。この五つは合成したら強くなりそうだ」
「便利だよね。セイジの《融合》は」
「まぁね。優遇され過ぎな気もするけど」
「大丈夫ですよ。それに戦争も始まるのですから……力は多い方がいいです」
「そっか……そうだね」
エリカの言葉を聞いてセイジも考え直す。
未だに実感は湧かないが、魔族との戦争が待ち受けているのだ。辺境では要塞都市の建設が始まり、各地でも大量の魔物が狩られて資源を集めている。食料の備蓄も始まり、いよいよという気がしてきていた。
そしてセイジを不安にさせているのが一度目の勇者が魔族に殺されたということ。
さらに一人が裏切り、今回もクウ・アカツキが裏切っている……とされている。
リコとエリカの二人を守りたいセイジにとって、これらは不安要素でしかなかった。
「まぁ、今考えても仕方ないね」
「何か言ったセイジ?」
「いや、何でも。それよりも帰ろう。冷やしてくれるかいリコ」
「任せて」
超高温で焼き尽くされた跡地をリコが《水魔法》で冷やし、セイジたちはレギオンの魔石を回収する。そして周囲に他の魔物がいないか軽く確認した後、集まって帰る用意を始めた。
「二人とも近寄って。《転移》を使うからね」
「うん」
「わかりました」
セイジは500ポイントも使って手に入れた《時空間魔法》を使用し、転移魔法を発動させる。三人の姿は荒地から消え去り、後には静かな禿山だけが残されたのだった。
はい、勇者はチート。
我ながらとんでもないスキルを与えてしまった……なんてね。この《融合》はストーリーでも大きな関わりを見せてくれますので、楽しみにしておいてください。
ちなみにクウはチートではありません。努力です。
【固有能力】は与えられた力ですが、【魂源能力】や権能は努力によって得られる力です。
勇者の話は後一話分だけする予定です。やっぱり二話では収まりませんでした(土下座)。
評価、感想をお待ちしております。





