EP250 勇者とレギオン
今回はセイジたちの話です。
予定では今回と次回の二話になります。
もしかしたら三話ほど使うかもしれませんので先に謝っておきます。
クウが巨大亀型魔物アークを瞬殺した半日後。
航海中の地中海から遥か西方、人族領【ルメリオス王国】に存在するはげ山。周囲は荒地であり、生物の気配がしないこの場所でも巨大魔物が暴れていた。
その名はレギオン。
冒険者ギルドがSSランクに指定している魔物である。
そしてその魔物と戦っているのは三人の少年少女だった。
勇者として召喚されたセイジ、リコ、エリカである。
「理子! レギオンを足止めしてくれ!」
「任せて!」
レギオンは巨大な人型ゴーレム魔物であり、その身体は岩で構成されている。故に質量を利用した爆撃の如き攻撃が特徴的だ。如何に勇者と呼ばれるセイジでも、この攻撃をまともに受け止めようとは思わない。だからこそ、足止めをしてから攻撃というのが基本的な戦術だった。
リコは《水魔法》スキルを使ってレギオンの足元を凍らせ、さらに無詠唱で関節部も凍らせる。すっかり無詠唱にも慣れてきたため、この程度なら一瞬で発動可能だった。
そしてこれによってレギオンは少しだけ動きを鈍らせる。
「行くよ! 《魔法剣術:炎》!」
その隙にセイジは聖剣へと炎を纏わせ、レギオンの体を熱で焼き斬る。岩が溶ける程の高温はセイジにも間接的ダメージを与えるはずだが、セイジは耐性スキルによって涼しい顔を崩さなかった。
しかしレギオンも岩の体を持つゴーレムであり、熱さや痛みを感じる相手ではない。すぐに自らを縛っている氷を破壊し、セイジへと重たい一撃を振り下ろした。
「清二君! 危ないです!」
《結界魔法》が得意なエリカはすぐに察知して防御結界を張り、その一撃からセイジを守る。レギオンの攻撃が結界にぶつかった瞬間、空気が破裂するような音が響いたのだが、結界は破れなかった。しかし、放射状に罅が走っていたので、ギリギリ防げただけだったのだろう。
セイジは冷や汗を流しつつエリカにお礼を言う。
「助かった絵梨香!」
「清二! 前っ! 前っ!」
「え? うわっ!?」
「わあああっ! 間に合ってください! 『《大障壁》』」
レギオンは無慈悲にも攻撃を続けるため、セイジにはお礼を述べる余裕もない。このレギオンという魔物がSSランクに収まっているのは滅多に動かないからであって、いざ戦闘となれば、SSSランク災害級はあるとも言われているのだ。
今のセイジたちでも荷が重いと言わざるを得ない。
エリカの防御でレギオンの攻撃が止められている隙に、セイジは下がって戦況を振り出しに戻す。
「ダメだね。僕の攻撃じゃレギオンに届かない。聖剣だけだと攻撃が小さすぎる」
「それにアイツの攻撃も凄いわね。絵梨香の結界を破壊したわよ」
「うぅ……ごめんなさい」
「絵梨香のせいじゃないさ。レベルを考えれば絵梨香の結界は一級品なんだ。これはレギオンの攻撃力が強すぎるって考えた方が良さそうだね」
「そうよ。それに防御力も半端じゃないわ。それに見て!」
理子は指をさしてセイジが切り裂いた部分を示す。
すると、赤熱して切り傷が入っていたレギオンの体が修復され、元に戻っているのが見えた。ゴーレム系の魔物は特性として自動回復系の能力を持っていることが多いが、これはその中でもかなりの高速回復に見える。
「アイツが回復しきる前に倒さないとだめね!」
「難しいな。魔石を破壊出来ればいいんだけど……」
「何処にあるか分からないですね」
三人は十メートル以上もある巨大ゴーレム魔物レギオンを見上げつつ呟く。これは冒険者ギルドで受けて来た討伐依頼であり、情報収集のために資料も漁ってきた。しかし、実際に戦ってみれば実感する。
これは化け物だと。
魔族との戦争を示唆する神託が降りて以来、セイジたちは武装迷宮の攻略を中止して各地の災害種を狩る生活を始めた。それは魔族と戦争になる前に災害種という爆弾を排除するためであり、それと同時にセイジたちが強敵との実戦経験を積み重ねるためだった。
すでに騎士団長アルフレッドの実力を通り越しているため、三人だけで依頼を受け続けていたのである。
ちなみにアルフレッドは戦争に備えて城に帰還しており、王太子アーサーも迷宮攻略は止めて国王ルクセントの手伝いをしている。
既に世界は戦争へと向けて動き始めていたのだ。
「理子、絵梨香! 全力でやるよ!」
「もちろんよ!」
「はい!」
そして勇者たちも人族最高クラスの力を身に付けていた。今の彼らが全力で戦うとなれば、普通の者では足手まといにしかならない。そんな領域へと足を踏み入れていたのである。
「ガアアアアアアアアアアアアッ!」
そして巨大魔物レギオンも本気の気配を感じて出し惜しみせずに力を解放する。それはレギオンという魔物の所以であり、この魔物が持つ特性と《土魔法》スキルを組み合わせた能力だった。
それを見たセイジはいち早く叫ぶ。
「来たよ! 情報にあったゴーレム生成だ!」
レギオンは《土魔法》の力で周囲の土壌からゴーレムを生成し、それを特性によってリンクさせ、遠隔操作が出来る眷属を創り出す。流石にレギオン本体の大きさには及ばないが、三メートルクラスの岩ゴーレムが数十体と生成された。
ゴーレムの軍団を生成する能力。
これが巨大ゴーレム魔物の真なる力である。この能力故にレギオンの戦闘力はランクSSS災害級とまで言われているのだ。余計な手出しをしない限りは動かないために、ランクSSに甘んじているだけなのである。
「理子ちゃん! 『《加速化熱強化》』」
「ナイス絵梨香!
『降臨せよ、灼熱の世界
全てを焼き尽くす地獄の炎
《灼熱劫火》』」
エリカは《付与魔法》によってリコの炎属性を強化し、さらにリコは自身の持つ最高クラスの《炎魔法》を詠唱省略で解き放つ。
それは指定空間のエネルギーを増大させ、分子結合を上回る加速エネルギーで塵一つ残さず焼き尽くしてしまうという広範囲殲滅魔法。本来はそこまでの威力は無く、せいぜいが対象を炭化させる程度。だがエリカが付与属性で強化したことで、それほどまでの効果を発揮していたのである。
強大な回復力を有するレギオン本体はまだしも、眷属として生成された人形には耐えることなど出来なかった。
「ガアアアアアアアアアアッ!」
深紅に燃える領域をエリカが断熱結界で遮断し、セイジたちが余波を受けないように配慮する。そして密閉された分だけ相乗的に熱量が増大した内部では、レギオン本体以外は塵へと還った。
さらにレギオンを構成する岩もボロボロと崩れ、赤熱してドロドロと融けている部分すらある。
まさに結界内部は地獄の顕現だと言えた。
しかし熱による破壊を回復が上回り、徐々に再生しているように見える。
「ダメね。思った通り、耐性スキルを持っている」
「すみません。私の《鑑定 Lv8》が通じれば良かったのですが……」
「仕方ないわよ。相手がそれだけ強いってことなんだから」
エリカの持つ《鑑定》スキルは便利なのだが、基本的には格下にしか通用しない。格上に対しては弾かれた上に、《鑑定》スキルを使用したことを察知されることすらあるのだ。スキルレベルが上昇することで改善はされていくが、格上には通じにくいのである。
ただし、ここで格上というのはレベル……つまり潜在力封印解放度のことだ。《鑑定》スキルの使用者や対象が所有する技術は無関係である。
そしてレギオンが熱に耐性を持っていることを確認した三人は次の行動に移った。
「次は風でいこう! 僕が時間稼ぎをする!」
セイジは純白の気を纏いつつ言葉を発した。肉体性能を引き出し、態勢を高める気力系スキルであり、純粋な肉弾戦闘では圧倒的な効力を見せる。さらにセイジは魔力を体内で高速循環させ、活性化によって身体能力を高めた。
この状態でレギオンへと躍りかかる。
「はっ!」
気合の掛け声と共にセイジはレギオンへと聖剣を叩き付けた。周囲にはリコが放った《灼熱劫火》の熱が残っており、普通なら近寄るだけで皮膚が焦げる。しかし気がセイジの肉体を防御し、さらにスキルポイントを使って取得した耐性スキルで何事もないかのように行動できた。
白い気を纏い、強化されたセイジの剣がレギオンの左足を破砕する。脛の辺りが弾け飛び、レギオンは大きくバランスを崩した。
しかしセイジは止まらない。
さらに切り上げによってもう一度同じ個所へと剣を叩き付け、完全に吹き飛ばしたのだった。支えを失ったレギオンは左手を地面に付いて動きを止める。それだけで地面が揺れたが、すでにセイジは飛びのいて距離をとっていた。
「今だよ!」
「いきます理子ちゃん。『《気流収束化》』」
「オーケーよ絵梨香。『《穿空天飛槍》』」
セイジが時間稼ぎしている間に詠唱を終えた二人が同時に魔法を使用する。エリカがリコの風属性、特に気流を収束する付与を行い、リコは風属性でも最高クラスの威力を誇る術を発動させた。
全てを穿つ槍。
そのように恐れられるほどの威力を持つ術だが、実は致命的な欠陥を持っている。
限界まで空気を圧縮することで、その圧力と爆発力を貫通力として打ち出す魔法。筒のような空気の入れ物をイメージし、その筒に沿って全ての力が放たれる。本来ならば撒き散らされる威力を一点に集中させるため、普通の衝撃波などと比べるのはおこがましいほどの高い効果を持つ。
しかし、その一方で射程が短すぎるのだ。
それも距離にして三メートル。
理由は高密度気体を筒状のレールに沿って飛ばすという行為が非常に難しいからだ。高位術者と呼ばれる者でさえも三メートルが限界であり、凄まじい魔力値と高レベルスキルを持つリコでさえも五メートルが精々だった。
だがそれはリコ一人で魔法を使った場合の話。
エリカの手助けによって収束力を上げた状態ならば、十倍の五十メートルは飛ばすことが出来るのだ。
「クガアアアアアア!」
レギオンは右足の付け根を撃ち抜かれ、破壊されて倒れこむ。流石に両足を失っては支えきれなかったようだ。地に着けていた左手の労力も虚しく、地響きを立てて正面に倒れこむ。
これで巨体を誇るレギオンもただの石像と同じだ。
「やったわ!」
リコが歓喜の声を上げ、セイジとエリカも笑みを浮かべる。
しかし相手はSSSランクにすら匹敵する魔物だ。行動能力を奪った程度で気を抜くのは悪手である。
レギオンは再び《土魔法》を使用し、ゴーレム軍団を創り出した。さらに今回は人型だけでなく、四足歩行の獣型、空を制するドラゴン型まで存在している。リンクによってレギオンの支配下に置かれた人形たちは、一斉に勇者たちへと襲いかかった。
「拙い、《光の聖剣》」
「ちょっとぉ!? 『《炎槍撃×50》』!」
「えぇっと……『《脆化呪縛》』」
驚いた三人は慌てて迎撃する。
セイジは保有する【固有能力】の《光の聖剣》へと莫大なMPを注ぎ込み、数百もの光剣を飛ばした。
リコは咄嗟に五十もの炎の槍を生成し発射する。
エリカはゴーレム軍団を対象に呪いを発動させ、岩の体を脆弱化させた。
光と炎の乱舞が荒れ狂い、結合力が低下したゴーレム軍団を破壊する。数えきれないほどの光剣がレギオンの人形を貫き、炎の槍による爆発で吹き飛ばしていた。だが、これらは人形を破壊するだけにとどまり、レギオン本体には届かない。
「あぁっ!」
そしてリコが悲痛な声を上げるのも虚しく、レギオンは両足を再生させてしまう。元の体が岩であるためか、自己再生能力と土属性の魔法を併用することで高速再生が可能なのだ。勿論、HPも高速で回復するわけではないのだが、欠損を治せる利点は大きい。
三人の勇者と巨大魔物レギオン。
戦いはふりだしに戻ったのだった。
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