EP247 銃と弓の勇者
今回は勇者の話です。
毎回、『主人公以外の話が長い!』と怒られてますので、今回は短めに挟みます。
セイジたちとレンたちの二回を予定してます。
ご了承ください。
(……セイジの話が2話分になったらごめんなさい。と先に言っておきます)
クウたちが海の上でのんびりと過ごしていた頃、人族領で辺境とも呼ばれる場所に勇者一行が訪れていたのだった。
ただ、勇者と言ってもセイジ・キリシマのことではない。
三つめの召喚陣を用いて召喚された勇者である。
「おーいレン君。そっちは終わったかい?」
「アヤトさん……の方も終わってるみたいやね。俺の方も終わりましたよ」
二人は近寄りながら互いが仕留めた獲物を確認する。
レンの背後には体中が穴だらけになったオーガが数体ほど横たわっており、同様にアヤトの背後にも体中から血を流しているオーガが息の根を止めていた。
辺境地区だけあって強力な魔物が群れをなしていることも少なくはないが、二人は召喚勇者だ。実戦を経て強くなっており、今ではこの程度の相手に苦戦することはない。
「しかしレン君の【固有能力】はズルくないかい?」
「そういうアヤトさんの【固有能力】もチート級ですやろ」
「同じ飛び道具系だけど、やっぱりレン君の方が強いと思うよ」
「いやー、アヤトさんの能力は万能型ですやん。俺のは早さ重視の一点突破ですもん」
「そんなもんかな?」
「そういうもんやと思いますよ」
実は三度目の勇者たち。
レン・サギミヤとアヤト・ヤシマは二人ともが光神シンの加護を持つ光の勇者だった。これには【ルメリオス王国】の国王ルクセントも驚いたのだが、喜ぶべきことであるため問題にはならなかった。
召喚に携わったエルフの女王ユーリスも同様に喜んだのである。
さらに二人の勇者が出現したことで、ユーリスは片方をエルフで引き取りたいと言い出したのだが……
「レン君。そういえばユーリスさんは?」
「ユーリスさんは俺たちじゃ手に負えなさそうなのを潰しに行ったみたいやね」
「あの人ってエルフの女王だよね? やっぱりいいのかな?」
「今更ですやん。正直言って俺たちより全然強いって知ってますやろ?」
「そ、そうだよねー」
そう、ルクセントとの協議の結果、二人ともユーリスが鍛えるということになったのだ。精霊王と契約するハイエルフであり、人族最強の魔法使いであるユーリスが鍛えるのだ。
当然ながらその場所は生半可で済むはずがない。
もちろん迷宮で鍛えるのもアリだが、生憎ユーリスは迷宮の罠を見抜いたり解除したりするスキルを持っていなかったので断念したのである。当然、レンとアヤトも持っていなかった。
他にも理由はあるのだが、ルクセントの助言を受け、辺境地域で鍛えているのである。
「そうだ、レン君。ステータス確認をしておこうよ」
「そうやね。ユーリスさんも居てへんみたいやし、今のうちに見ておきましょ」
二人はステータスを開く。
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レン・サギミヤ 17歳
種族 人 ♂
Lv74
HP:5,283/5,283
MP:3,219/6,721
力 :5,012
体力 :5,321
魔力 :5,987
精神 :5,643
俊敏 :5,559
器用 :6,013
運 :33
スキルポイント:230
【固有能力】
《破邪の光弾》
【通常能力】
《銃術 Lv5》
《光魔法 Lv5》
《召喚魔法 Lv7》
《闇耐性 Lv2》
《魔力操作 Lv5》
《気配察知 Lv4》
《MP自動回復 Lv5》
【加護】
《光神の加護》
【称号】
《異世界人》《光の勇者》《魔物使い》
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《破邪の光弾》
魔を穿つ光の弾丸を生成する能力。瘴気を
祓い、聖気を与えることが出来る。
光速の数%までの速さで飛ぶ。
威力は消費MPに依存しているが、連続生成
も可能である。
《銃術》
銃器を扱う時に補正がかかる。特に反動制御
や命中率が補正される。
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アヤト・ヤシマ 21歳
種族 人 ♂
Lv73
HP:5,428/5,418
MP:3,918/5,922
力 :5,583
体力 :5,619
魔力 :5,982
精神 :5,429
俊敏 :5,234
器用 :6,732
運 :38
スキルポイント:32
【固有能力】
《虹の聖弓》
【通常能力】
《魔法弓術 Lv6》
《光魔法 Lv5》
《鷹目 Lv6》
《魔障壁 Lv2》
《気配察知 Lv4》
《属性耐性 Lv3》
【加護】
《光神の加護》
【称号】
《異世界人》《光の勇者》
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《虹の聖弓》
矢に基本七属性全てを纏わせることが出来る
スキル。対応スキルとして《魔法弓術》が必
要になるが、魔法系スキルがなくとも属性付
与が可能。
消費MPによって威力が変化する。
《鷹目》
遠くを見通すことが出来る魔眼の一種。
スキルレベル×100mの位置にある物体をハッ
キリと識別することが出来る。
レンは教会から聖具として聖銃を貰っている。この聖銃はMPを込めることで魔力弾を生成し、放つことが出来る優秀な武装なのだが、これに《破邪の光弾》を組み合わせることで更に使い勝手が良くなる。瘴気を祓う性質の光弾を放つため、魔物に対して特効なのだ。また悪意を持っている人物にも効果が高いという利点もある。
そもそも銃器を扱うスキルがあることにレンは驚いていたのだが、銃など使ったことがないレンでも補正によって銃を使えるようになったので、本人は喜んでいた。
更に召喚された時から持っていた《召喚魔法》スキルによって、召喚獣で足止めしつつ、遠距離から聖銃で敵を撃ち抜くというスタイルが出来上がったのである。
レンの場合、スキル構成も完成されているのでスキルポイントは使ったことがなく、かなり溜まった状態になっている。
「お、レベルが上がってる! アヤトさんは?」
「僕は上がってなかったよ。レン君に抜かされちゃったね」
アヤトは肩を竦めながら苦笑する。
彼もレンと同じく遠距離タイプであり、銃ではなく弓を武器としている。ただ、《虹の聖弓》という【固有能力】によって基本七属性を付与可能であり、様々な状況に対応できる万能型なスキル構成だ。さらにアヤトの場合、弓を生かすために《鷹目》という遠見スキルをスキルポイントで入手しており、その分だけレンよりもポイントを消費していた。
ただ、上位スキルである《魔法弓術》スキルを初期から持っていたのは幸運だと言えるだろう。
「どうしますアヤトさん? ユーリスさんが帰ってきぃへんみたいやけど」
「まぁ、心配は無いと思うんだけどねぇ……」
アヤトは《鷹目 Lv6》を使って周囲を確認する。気配を感じ取る感知系スキルはレベルが低く、あまり広範囲には知覚できないからだ。アヤトが周囲を見渡していると、すぐにユーリスらしき人物が空を飛んで向かって来ているを確認する。
「あ、見つけた」
「さすがアヤトさん。どっちです?」
「あっちだよ」
アヤトが指した方を見ると、確かにレンにも上空で何か点のようなものが見える。それは想像を絶する速度で迫っており、僅か十数秒で二人の近くに降り立ったのだった。
フワリと風が舞い、ユーリスの金髪が揺れる。流石に辺境の地でドレスは来ていなかったが、露出度の高い服装のせいで、二人は目のやりどころに困っていた。
そんな中、ユーリスは美しい笑みを浮かべつつ口を開く。
「あら、オーガたちは倒せたみたいね」
「勿論ですよユーリスさん。流石にオーガ程度やったら慣れてきましたって」
「それでユーリスさんは何を倒したんですか?」
「私? 私が倒したのはスカル・スカルっていう蜘蛛型魔物よ」
「それってSランクのヤバい奴やないですか!?」
「流石エルフの女王……」
「そう?」
ユーリスは軽く流したが、スカル・スカルという魔物は非常に堅い外骨格に守られた魔物だ。唯一関節部だけが弱点なのだが、気性が激しく、接近戦で挑めば間違いなく死ぬという相手だ。鋭い牙と鉤爪を有しており、鋼鉄すらも簡単に引き裂くと言われている。
倒す時は魔法を推奨されているため、精霊王と契約し、全属性の精霊魔法を使えるユーリスならば有利に戦えるのだ。特に彼女は風の力で空を飛べるため、空中から一方的に攻撃できる。
人族最強の魔法使いというのは伊達ではないということだ。
「ともかく今日はここまでね。帰るわよ」
「了解ですユーリスさん」
「わかりましたよ」
三人はユーリスの精霊魔法で風に包まれ、上空へと消えていったのだった。
◆ ◆ ◆
辺境地域。
近づくことすら禁忌と言われる人魔境界山脈に近い平原部であり、古来から住み着く僅かな人だけが点々と辺境村を開いて生活している。以前にクウとリアが訪れた村もその一つだ。
一応は【ルメリオス王国】の領土なのだが、余りの危険さに今までは開拓しようという計画も頓挫し続けていた。なぜなら都市建設中に出現する魔物も強力なものばかりであり、AランクはまだしもSランクオーバーが出現することが稀にあるからだ。
流石にこのレベルともなれば騎士団でも対応できず、最高位の冒険者に頼ることになる。
しかしそれほどまでお金をかけてまで都市を建設するだけのメリットもなく、都市が完成したとしても危険なことには変わりない辺境都市に住みたい物好きは少ないだろう。特に問題なのが、都市を治める貴族がいないことである。
なので特別な理由が無い限りは開拓など出来なかったのだ。
しかし、三度目の召喚陣を起動し、レンとアヤトを召喚した一か月後……辺境都市を建設するだけの特別な理由が出てきたのである。
―――――――――――――――――――――――
神託
近いうちに魔族と戦争になるだろう。
戦いの準備を整えよ。勇者を育成し、辺境地域に
要塞都市を建設するのだ。迷宮の攻略は一時中断し
て、戦いに備えよ。
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【ルメリオス王国】にある光神教会本部の地下で『聖なる光の石板』が反応し、全世界に向けて新しい神託が降りたのだ。教会が発信した新しい神託は、人族全体に衝撃を与えたと言って間違いない。
人族領全体で混乱が生じ、一時期は景気が大暴落しかけたのだ。
そこで新しい勇者レンとアヤトを公表し、人族は魔族との戦いに向けた準備を整えていると説明した。その際に勇者セイジがルクセント王の元まで舞い戻り、説明を求めたのは余談である。セイジは三つめの召喚陣を使わせないために勇者として活動していたからだ。
結局は召喚陣を使うようにとの神託があったと説明することでセイジも納得はしたが、この時のルクセント王の内心はヒヤヒヤものだったと言っておこう。ちなみにセイジはレンが元クラスメイトであることに気付き、クウに関する情報も共有済みとなっている。
……それはさて置いて、新たな神託によって辺境地域に要塞都市を建設することになった。
こういうわけもあって、都市建設予定地の護衛と勇者の訓練を兼ね、レンとアヤトがユーリスと共に派遣されていたというわけである。
「ほら、見えて来たわよ」
「ほー、朝に見たときよりも壁建設が進んでるなぁ。流石はドワーフ族や」
「確かに凄いよね」
ユーリスの精霊魔法によって空を飛んでいるレン、アヤトは上空から都市建設の様子を確認することが出来る。周囲の魔物を討伐するために朝出かけたのだが、その時よりも明らかに壁が大きくなっていると分かる程の変化だった。
この都市建設は人族全体への神託であり、人、エルフ、ドワーフが総力を掛けて建設を行っている。主に人が数の力で物資を運び込み、ドワーフたちが建設を進め、エルフが周囲の魔物を狩りながら護衛しているのである。
特にエルフは女王ユーリス・ユグドラシルが出て来ていることもあり、七長老家と呼ばれる名家の当主も順番に出張ってきているほどだった。ちょうど今はブルーコスモス家とグリーンソーン家の当主が出張して来ており、戻ってきたユーリスを出迎えに出て来た。
「おかえりなさいませ女王陛下」
「本日も怪我なくお戻りのようで」
出迎えた二人のエルフは長命種族だけあって若々しく、二十代にも見える。しかし彼らは既に五百歳を超えており、ユーリスには及ばないが、相応の実力を持った精霊魔法使いだった。名家の当主ではあるが、辺境地域ですら護衛を必要としない程の猛者なのである。
そして二人の前に降り立ったユーリスは微笑みつつ答えた。
「出迎えご苦労様。何か変わったことは?」
「いえ、誰も死ぬことなく、光神シン様のために役目を果たしております。詳しい戦果は既にまとめてありますので、必要ならば後でお持ちしましょう」
「ありがとうブルーコスモス。後でお願いね。それとグリーンソーンは明日、ヴァイオラベンダーと入れ替わりだったかしら? 引き継ぎの準備をお願いね」
「はい。既に完了しております」
「あら、仕事が早いのは流石ね」
ユーリスと二人の当主は会話をしながら建設中の要塞都市に入っていく。レンとアヤトも三人に続いて入っていき緊張を解く。
その際、レンは東にある人魔境界山脈へと目を向け、心の内で呟いた。
(空、優奈……今頃何しているんやろなぁ)
クウ・アカツキ、ユナ・アカツキと親友でもあるレン・サギミヤ。
彼が勇者という立場を受け入れているのは、再び親友たちと再会するためである。
評価、感想をおまちしています。





