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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
幽霊船編
244/566

EP243 ユナの情報


 思わず《神象眼》を発動してしまったクウだが、無意識でのことなのでクウ自身も気づかない。瞳に黄金の六芒星が輝いているが、鏡を見ているわけではないのでクウには分からないのだ。

 そしてクウの催眠にかかってしまったミランダは平坦な口調で語りだす。



「ユナ様は魔王軍第一部隊の隊長さ。人族でも魔王軍に所属している奴は結構いるけど、その中でもユナ様は別格だね。最強の戦闘部隊って言われている第一部隊で隊長をしているんだから当然さ。ユナ様は強くて美しい【レム・クリフィト】のアイドルなんだよ」


「なるほど。ゼノネイアの言葉はこういうことか」



 以前、クウは虚空迷宮の第百階層でゼノネイアと会話をしたとき、ユナは魔王の側近をしているという話を聞いたことがあった。どういうことかと思っていたクウだが、最前線で活躍する立場にいるということを聞いて納得した。

 クウは一人納得していたのだが、その間にもミランダは語り続ける。



「ユナ様は僅か十七歳にして魔王軍最強の座を欲しいままにされ、魔王様、そして魔王様の旦那様に次ぐ三番目の実力を【レム・クリフィト】の中でも持っておられるのよ」


「魔王の旦那? 【レム・クリフィト】の魔王は女性なのか。初めて知ったな。ユナより強い魔王の旦那って一体何者だよ……」


「実際に魔王様の旦那様が戦っておられるところを見た奴は少ないよ。でも、魔王様に似た実力だって話は聞いたことがあるね」



 それを聞いてクウは少し考え込む。

 ゼノネイアから魔王はクウと同じく天使であると聞いた。超越化しているかは不明だが、その可能性は十分にあると考えている。隣国【アドラー】の魔王オメガが超越者である可能性が高い以上、対抗するためには【レム・クリフィト】の魔王も超越者でなければならないからだ。

 とすれば、それと似た実力者だという噂の旦那も超越天使である可能性が浮上する。



(魔王が魔法神の天使だとすれば……旦那は造神クラリアの天使かな?)



 現在のところ、クウは虚神ゼノン、リアが運神アデル、ユナが武神テラ、ミレイナが壊神エクセス、魔王が魔神ファウストの加護を所持していることになっている。残るは造神クラリアと光神シンなのだが、光神シンが色々な所で暗躍している以上、造神クラリアの加護を持っていると考えた方が良い。

 もちろん加護が被っている可能性もあるのだが、それを考えればキリがないのでクウは一旦この予想を取り下げた。重要なのは加護の種類ではなく、超越者かどうかである。



(【アドラー】の四天王にも超越者が混じっている可能性は高いからな。二人の超越者が【レム・クリフィト】にいてもおかしくはないか)



 これがもしも本当だとすれば、西の魔王国【アドラー】と東の魔王国【レム・クリフィト】の戦力は果てしないものだと考えられる。魔王討伐のために勇者召喚など滑稽だとしか思えない程だ。

 いくら努力したとしても、いくら才能があったとしても、一般人が超越者を倒すことは不可能である。たとえ一般人が神装で身を固めたとしても、超越者の圧倒的な霊力と権能の前には無力だからだ。



「まぁいいや。とりあえず聞きたいことはこれだけだ。後は自分の目で見る」



 クウはそう言って落ち着きを取り戻す。すると無意識の内に能力を発動させていたことに気付いた。先程からやけにミランダが素直だと思っていたが、無自覚で催眠を掛けていたことには今気付いたのである。クウは慌てて能力を解除した。



「っと悪い。すぐに解除する」



 霊力を抑え、「魔眼」を解除したクウは軽く頭を下げて謝る。まだ能力に慣れていない面がある上、意思力が解放されているので軽く思っただけでも能力が自然発動することがある。また、クウの能力に心象を現実に映し出すという効果が含まれている事も影響しているだろう。

 強い感情が出ると、特に能力が自然発動してしまうのだ。

 世界を書き換えるほど強い能力であるため、無意識に発動しないように制御しなくはならない。超越化したクウの課題は手加減や制御の仕方だった。

 能力が解除され、意識が戻ったミランダは信じられないといった表情でクウを見つめる。



「アンタ……アタシに何したのさ」


「……気にするな。興奮して俺の能力が誤発動しただけだ」



 クウも無意識で発動していたため、ミランダには催眠がかかっていた間の記憶が残っている。自分の意思とは関係なしに、言われるがままクウの質問に答えていた記憶は恐怖でしかなかった。ミランダの隣にいたせいで同時に催眠にかかってしまっていたレプト船長も同様である。

 彼の場合はクウに質問されなかったので黙ったままだったのだが、自分の意思が何かに支配されているような感覚だけは覚えていた。レプトは部屋に入るなりクウがそれなりに強いとは確信していたのだが、まさかこれほどだとは思わなかったのである。

 緊張した空気が流れつ中、元からクウの実力をよく知っているヴァイスが口を開いた。



「ミランダ殿もクウ殿のことは理解できたか? それに彼の実力は儂が保証する。【砂漠の帝国】でのゴタゴタもクウ殿のお陰で解決した部分が大きいのだ。恐らく今回の海賊程度なら軽く全滅させることが可能だと思っている」


「いや、ヴァイスさんが紹介してくれたんだ。俺は初めから疑ってなかったさ。クウさんと言ったかい? よろしく頼む」


「こちらこそよろしく。【ネイロン】までは船長たちが頼りだからな」



 レプトとクウはお互いに立ち上がって握手を交わす。

 実はファルバッサに乗れば二日ほどで【レム・クリフィト】へと入れるのだが、それは口にしない。それに竜に乗って入国すれば、間違いなく騒ぎになるだろう。海賊という危機はあっても、ゆっくり穏やかな船旅はクウも望むところである。

 一方のレプトは少し驚いていた。

 彼もそれなりの体格をしているだけあって、武術の心得はある。故に手を握れば、その人がどれほど修練を積んでいるか見積もることが出来るのだ。しかし、クウの手は鍛練によって出来る特徴が感じ取れなかった。ヴァイスが保証しているのでクウの強さに疑いは無いのだが、どういうことかとレプトは思ったのである。



(いや、魔術師という線もあるか? ユナ様の影響で強者は武術を嗜んでいるという観念がある。でも魔術だって立派な戦力だ。そういうことだろう)



 実際はクウが超越者であることが原因だ。

 肉体に縛られていないため、クウの手は幾ら鍛練しようとも、幾ら傷を負ったとしても修復してしまう。よって鍛練によって出来る手のマメなども綺麗に治ってしまうのだ。これは超越化前の分も含まれているため、クウの手は非常に綺麗なのである。

 そんなことは知らないレプトがクウを魔術師だと思うのも仕方が無かった。

 尤も、クウは魔法の面でも一流以上の実力を持っているのだが……

 そして固く握手をやり終えたレプトは座る前にクウの隣へと目を向け口を開く。



「そうだ。そちらのお嬢さんと竜人の御二人も名前を聞かせてくれないかな?」


わたくしはリアと言います」


「私はミレイナだ」


「僕はレーヴォルフ」


「そうか。あなた方も頼む」



 レプトはこの三人にも手を差し出し握手を求める。断る理由もないので、三人ともレプトの握手に応じたのだった。副船長のミランダだけは未だに茫然としてソファに座ったままだったのだが、これに関しては彼女を責めるのはお門違いだろう。

 クウが能力制御をミスしたのが悪いのだ。

 しかし、この場では船長とさえ握手を交わせば問題は無い。

 挨拶としては十分だった。

 顔合わせが終わったところでヴァイスが口を挟む。



「挨拶はこの辺りで良いだろう。レプト殿は何か打ち合わせをしなくてはならないことがあるか?」


「いや、特に細かいことはない。俺の船で護衛を雇う時は、護衛してくれる人物に一任しているからな。サボるようなら文句を言うが、基本的には口出ししない」


「ならクウ殿は?」


「そうだな……食事とかはどうなるんだ? 俺たちの分は俺たちで準備すればいいのか?」


「必要ない。俺の船で用意しよう。もちろん、そちらが自前で用意するというのでも問題は無いよ」


「警戒はそちらでやるのか? それとも警戒も俺たちの仕事か?」


「基本的にはこちらの仕事だ。だが何か異変を感じたら知らせて欲しい。いざ海の魔物や例の海賊団と戦闘になれば、全面的に頼らせてもらう。俺の船に乗っている船員も自衛する程度には鍛えているが……戦力としては期待しないでくれ」



 寧ろ魔物を相手に自衛できる船員の方がおかしいのだが、やはり魔人族というのは戦闘能力が高いのだろうとクウは考える。もちろん戦いが苦手な魔族も存在はしているが、特別に鍛えていない一般人でも戦闘力を保有していることは普通だったりする。

 よく見ればレプトにもミランダにも体のあちこちに古傷の跡があった。

 それに気づいたリアが恐る恐ると言った様子で提案する。



わたくしとクウ兄様は治癒系魔法が使えますけど、例えば戦闘後に怪我人が出た場合は必要ですか?」


「兄様? 二人は兄妹きょうだいだったのか……まぁそれはともかく、治癒をしてくれるのなら非常に助かるね。是非ともお願いしたい。寧ろこちらが金を払わなければならないほどだ。海の上では応急処置をするだけでも違うからね」


「では任せてください。それにお金も必要ありませんよ。ね? 兄様?」


「いいんじゃないか? シュラムから幾らか資金も貰ったからお金には困っていないし」


「だがそれでは……」



 魔族領でも治癒系魔法は貴重だ。

 かなり才能に左右される属性であるため、これを生まれ持つだけで将来は約束されているとまで言われる程である。リアやクウのように軽く治癒系魔法を使うというのは信じられるものではなかった。

 それに無料タダで治療してもらえるというのはレプトとしても気が引ける。

 最終的には怪我に応じて相場の半額だけ治癒代を払うということで落ち着いたのだった。

 レプトは相場通り払うと言い張ったのだが、リアが治癒魔法の練習も兼ねているということで半額に収まったのである。

 ある程度の擦り合わせを終えたところでヴァイスが口を挟んだ。



「では双方ともこれで良いか? 良ければ契約書にサインをしてくれ」



 ヴァイスは筒のような入れ物から契約書を取り出し、机の上に置く。これは闇属性と召喚属性を利用した魔法契約のものではなく、普通の紙によるものだ。破ったところで直接的な被害はないが、信用という面では大打撃を受ける。

 クウとレプトが順にサインを行い、契約は成立したのだった。



「ではこれで今日の所は解散するとしよう。レプト殿とミランダ殿は城までご足労頂き感謝する。必要ならば城で宿泊場所を用意するが如何か?」


「いや、俺たちはいつもの宿を取ってあるから問題は無い。それに船員たちと打ち合わせもある。折角の申し出だが遠慮させて頂こう」


「そうか。無理にとは言わない。万全を期してくれ。クウ殿はどうだ?」


「俺たちは世話になりたい。もう遅いし、宿なんか空いて無いだろうから。皆もそれでいいか?」



 クウの問いかけにリア、ミレイナ、レーヴォルフはそれぞれ首を縦に振る。

 今の時間でも、設備が酷い安宿なら空いているだろうが、どうせなら綺麗な所で寝泊まりしたいのが正直なところだ。ヴァイスの申し出を断る理由もない。



「ならばヘリオン。クウ殿を含めた四人を宿泊させる用意を。儂は別の用事があるから無理だが、夕食は彼らと共に取るように」


「……分かった親父」


「それと、その前にレプト殿とミランダ殿を送って差し上げろ」


「……二人ともこっち」



 ヘリオンは軽く頷いて立ち上がり、扉の方へと向かってそれを開く。レプトとミランダもヘリオンに続いて立ち上がり、扉へと向かって行く。

 だがレプトは途中で立ち止まり、振り返ってクウの方を見ながら口を開いた。



「言い忘れたが明日は昼の出航だ。他に出港する船は無いから港まで来れば分かる。遅れるな」


「わかった。昼だな。最低でも少し前に到着するようにしておく」


「俺が見つからなかったら護衛で雇われたと近くの船員に言ってくれ。それで伝わるようにしておく」


「助かる」


「では明日にまた」



 それだけ言ってレプトはミランダを伴って部屋から出ていった。

 想定外の仕事を与えられることにはなったが、ユナの情報を得られたことは収穫だった。まさか【レム・クリフィト】でナンバースリーの実力者として知られているとは思わなかったクウだが、ユナが無事であることを知って安堵する。

 クウの旅の最終目的でもあるユナが見えてきたのだ。

 期待に胸を膨らませつつ、クウはカップに残っていたお茶を飲み干した。






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