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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
幽霊船編
242/566

EP241 助け合いの精神……?


 およそ一か月ぶりとなるヘリオンとの再会。

 城の前で立ち話をするのも邪魔になるため、クウたちは客間へと案内され、お茶を飲みながら事情を説明されることになった。単に船を手配して貰おうとアポイントを取っていただけなのだが、クウたちは強制的に新たな問題の前へと立たされていたのである。



「海賊船?」


「……そう。海賊船だ」



 クウが聞き返すとヘリオンは頷きながら肯定する。

 そして捕捉するようにして話を続けた。



「それもただの海賊船じゃない。数十隻の大船団だって話」


「それって海賊なのか? 寧ろ軍だって言われても納得するぞ」


「……多分海賊」



 どうも自信なさげなヘリオンにクウは眉を顰める。

 海賊の出没という大問題にもかかわらず、情報が中途半端だったからだ。早急に対応するべきことなのだろうが、どうにもその感じが見られないのである。

 そこでクウは直接問いただすことにした。



「対策は?」


「……無理。その海賊に見つかって生き残ったのはまだ一隻だけ。それも十隻からの大きな船団だったのに、逃げ切れたのが一隻だった。情報が少なすぎるし、出没する場所や時間も特定できない。【レム・クリフィト】との交易が活発になり始めてから行方不明になる船が結構あったけど、海賊の仕業だって判明したのは三日前だから」


「街ではそんな噂を聞かなかったぞ」


「一般にはまだ秘密。商人たちや水夫たちの間では既に注意喚起をしているけど、出来るだけ公にしないように言ってある。レイヒムの事件があってから時間が経ってないし、市民には不安を与えたくない。それに公表するにしても正式な調査をしてからになる。証人となるのは例の一隻に乗っていた人だけだし」


「ふーん」



 海賊とは言っているが、要は賊なのだ。

 人族領でも盗賊というのは珍しくないのだが、見つかれば冒険者ギルドによって即座に討伐される。それは魔族領でも同様であり、わざわざクウに頼まずとも自前の軍で対処するのが通常であるハズだった。

 しかしヘリオンは頼みたいことがあると言って海賊のことをクウに話しており、戦力として期待してるように思える。何故だと問いただしたい気分だった。



「何で俺なんだよ。面倒は嫌だぞ」


「……ダメか?」


「逆に何で大丈夫だと思ったんだ」


「レイヒムの時は協力してくれた」


「あの時は俺にも事情があったからな。今回の海賊騒ぎは別に関係ないし」



 クウは別に正義の味方ではない。

 不本意ながらも虚空神ゼノネイアから天使の役割を貰っているが、天使とは世界を調整する存在だ。決して悪を討伐することではなく、海賊だろうが盗賊だろうが、わざわざ面倒に首を突っ込む必要はない。

 またこれらのことも世界の流れの一つであり、介入する気は起きなかった。

 だがここで、お茶と一緒に出されたお菓子を食べていたミレイナが口を挟む。



「別にいいだろクウ? どうせ私たちも船で海路を通るじゃないか。なぁレ―ヴ?」


「そうだね。僕は構わないと思うよ。彼と僕たちの仲だしね」


「いや、そりゃな。確かに俺たちが乗っている船と例の海賊が遭遇したなら、俺も相応の対処はさせて貰うぞ。だけど、わざわざ討伐するために行動するのは嫌だって言っているんだよ。俺は出来るだけ早く【レム・クリフィト】に向かいたいからな」



 クウは眉を顰めつつ答える。

 本来の目的であるユナとの再会は、クウがこの世界に召喚されてからの願いだ。虚空迷宮をクリアしたときにゼノネイアからヒントは貰った。そしてようやくここまで来たのだ。今更、海賊如きのために足止めをされるなど、クウにとっては不満でしかない。

 そんな顔をするのも当然だった。



「それに俺に頼むなら【レム・クリフィト】側にも海賊討伐を要請すればいいじゃないか。というか、普通はそっちが先だろ」


「……それは明日出航の船で向こうに連絡することになっている。船長には手紙を持たせるから、それがあれば伝わるハズ。こんな時に出航してくれる船を探すだけで大変だった」


「そういえば、門番の二人もお前が忙しくしているって言ってたな。このことか?」


「多分そう。大船団の海賊だって話を聞いても出航してくれる船長は一人もいなかった。その中でもマシな反応を見せてくれた船長を説得して、ようやく今日約束を取り付けることが出来た。ちなみに最強の護衛を付けると言ってある」


「もしかしてその最強の護衛って……」


「勿論クウのこと」


「おいこら人を勝手にダシに使うな」



 事前に手紙でヘリオンへと連絡していたため、思いついたことなのだろう。言わずとも船を手配していたことは有り難いが、勝手に戦力に数えられているとは予想外である。

 だがヘリオンの衝撃行動はこれだけではなかった。



「……向こうの港町【ネイロン】の市長にはクウを戦力として討伐軍に参加させると良いって内容の手紙を送るつもり。というか、その手紙はここにある。後で明日船を出してくれる船長に渡す予定」



 ヘリオンは懐から封筒に包まれた手紙を取り出して見せつけた。蝋による封印とヴァイスのサインがされており、それはつまり公式な文書であることを示していた。ヘリオンの父親であるヴァイスも、ちゃっかりこの件に絡んでいたということである。

 クウは出されているお茶を一口だけ飲み、軽く息を吐きつつ呟いた。



「その手紙は俺が塵も残さずにこの世から消滅させてやる。寄越せ」


「……何で?」


「逆に何でお前が『何言ってんのコイツ?』みたいな顔をしているんだよ。それは俺のセリフだ」



 睨みつけるクウに対してヘリオンは本当に不思議そうな表情を浮かべる。だが、これはヘリオンが図太いのではなく、単にクウが獣人竜人の文化を理解していないだけだった。

 基本的に獣人や竜人というは義理堅く、仲間意識が強い。

 そして互いに助け合うのは当然だと考えている種族である。特に困っている時は、初めて出会う赤の他人だったとしても助けてくれることがあるほどだ。さらに一度でも助け合った間柄であれば、次の機会でも平然と頼みごとをしてくることは珍しくない。それに頼まれた側も、喜んで要請に応じるのが獣人や竜人なのだ。

 逆に裏切りは絶対に許さず、レイヒムはそこの感情を突くことで【砂漠の帝国】を真っ二つに割くことが出来たのだった。

 つまり今回の場合、クウはレイヒムの件で反レイヒム派に力を貸した。だからこそ、ヘリオンの中で、クウは遠慮なく頼みごとが出来る仲であるという認識になっており、初めからクウが断るという想定はしていなかったのだ。

 先程からミレイナやレーヴォルフが反対意見を述べないのはそう言うことである。



「力を貸してやればいいだろう? 私は構わないぞ」


「そうさ。既にレイヒムの件で力を貸したんだから、今更もう一回や二回ぐらい大差ないだろう?」


「……そうなのか?」



 さも当たり前かのように海賊討伐を手伝う流れになっていることにクウは首を傾げる。チラリとリアの方を見ると、リアもコクリと頷くだけだった。言葉は無いが、それなりに戦場を共にしてきたのだ。言わずともリアの言いたいことは理解できる。



(つまり反対しているのは俺だけか……)



 クウは悪くないハズなのだが、まるで一人だけ悪者になっているかのような空気になっている事には驚きだ。しかしこれは文化の違いを認識していなかったクウの落ち度であり、結果を言えばクウが悪いということになる。

 リアに関しては普通に心優しい少女であるため、頼まれれば海賊退治も引き受ける所存だった。頼られるのが嬉しいお年頃という面もある。

 四人中三人が海賊退治に賛成しているとなれば、多数決の観点でクウの意見は却下される。クウも流石にこれ以上ヘリオンの要請を拒否するつもりは無かった。



「はぁ……分かったよ。引き受けるって」


「良かった。クウならそう言ってくれると思っていた」


「……どの口が言ってんだか」


「何か言った?」


「別にー」



 猫獣人首長の息子から前途多難な航海を約束されたクウたち。

 クウは溜息を吐きながらお茶を口に含む。

 ヘリオンはその間に説明を続けた。



「この手紙を渡すために後で船長を呼ぶから、その時に顔合わせをして欲しい。クウが今日来たから、明日出航だって伝える」


「明日の出航ってのは俺たちが来た時点で決まったことだったのか……」


「そう。船長は魔人族。まだ若いけど優秀な人。自分にも他人にも厳しいから、真面目に働くと良好な関係を結べる」


「船でゆっくりする計画は早々に頓挫しそうだなリア」


「そうかもしれないですね兄様……」



 ヘリオンの言葉を聞いてクウとリアは顔を見合わせつつ苦笑する。

 天使として、あまり余計な干渉はしたくないのだが、世界を見守るだけというのも退屈なものだ。少しぐらいは構わないかと考えてクウも無理矢理納得する。



「じゃあ、親父や船長にも連絡してくる。また呼ぶまでこの部屋で休んでいてくれ」



 厄介事の解決に目途が立ったからか、少しだけ嬉しそうなヘリオンの背中を見送りつつ、クウは再びお茶に口を付けるのだった。







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