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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
幽霊船編
241/566

EP240 港町

新章スタートです


 港町【カーツェ】。

 ここは猫獣人たちの里でもあり、魔人の国【レム・クリフィト】と繋がる海の出入り口でもある。なお、実際に【カーツェ】と繋がっているのは【ネイロン】という街だ。【レム・クリフィト】の首都までは陸路を行かなければならない。

 そして現在の【カーツェ】はかなり活気に満ちていた。

 何故ならオロチのせいで荒れた【帝都】を復興するために盛んな交易をしていたからである。復興に必要な機材や素材に留まらず、砂漠では手に入りにくい食材なども、大量に輸入されていた。



「おー。結構賑わっているな」


「そうなのですか兄様?」


「前に一回だけ来たことがあるからな。その時と比べたらかなり賑わっている」



 そんな獣人の街の中で歩いている二人の人族。能力で顕現させた黒コートを羽織っているクウと、いつもの白い服装をしたリアだった。

 二人は特にフードも被らず、顔も隠してはいないのだが、この港町【カーツェ】では意外と気にする人が少ない。何故なら、二人以外にも人族が幾らか混じっていたからだ。



「やっぱり【レム・クリフィト】には人族も住んでいるって噂は本当みたいだな。たまに見かける人族は全員が【レム・クリフィト】から来る船に乗ってきたみたいだし」


「ファルバッサ様も言っておられた二つの魔人の国ですか。わたくしがずっと聞かされてきたのは【アドラー】の魔人の話に近いですからね。まさか、もう一つ魔人の国が存在するとは夢にも思っていなかったですから」


「まぁ、その辺りは向こうに着いてからのお楽しみってことにしよう」


「はい」



 クウとリアは街並みを眺めつつ活気にあふれた市場を練り歩く。海でとれた魚介を中心に、【レム・クリフィト】からの輸入品なども並べられた非常に大きな市だ。各所では競りなども行われており、落札出来て歓喜する者や、予算が足りずに落胆する者など実に様々。

 二人とも、見ているだけで十分に楽しめる程だった。

 そしてこの街に来たのは二人だけではない。

 シュラムとの協議で、レーヴォルフとミレイナを共に連れていくことにしていた。

 その二人もクウとリアの後に続いて街を見学していたのである。



「おいレーヴ! あの魚が美味しそうだぞ!」


「いや君ね。さっきお昼ご飯を食べたばかりだろう?」


「はっ! あっちからも美味しそうな匂いがする」


「ちょっとミレイナ!?」



 どちらかと言えば、暴走するミレイナを止めるレーヴォルフ……という構図にはなっている。だが、ミレイナが初めて見る港町の光景で興奮するのは仕方のないことであり、苦労人レーヴォルフも仕方ないとばかりに付き従っているのだった。

 四人が竜人の里【ドレッヒェ】を旅立ってから数日。

 ファルバッサを乗り物にすることで、四人はたったの数日で【砂漠の帝国】を縦断し、【カーツェ】へと辿り着くことが出来ていた。

 ミレイナとレーヴォルフが躊躇う様子も見せずにクウとリアの旅に同行すると言ったおかげで、かなり順調な日程になっている。少しぐらい観光しても悪くは無かった。

 クウとリア、ミレイナとレーヴォルフ。

 二人一組となり、離れないようにしつつもそれぞれで楽しむ。

 人混みで逸れそうになっても気配を感じ取ればすぐに合流できるため、それぞれは特に気にする様子もなく観光していたのだった。

 そんな中でリアはクウに尋ねる。



「そう言えばクウ兄様?」


「何だリア?」


わたくしたちが乗る船は手配されているのですか?」


「ああ、それか。一応はヘリオンに頼むつもりだな」


「誰です?」


「リアは知らないんだっけ? 猫獣人の首長の息子だよ。【帝都】での戦いでも、反レイヒム派の一部隊を率いて活躍していた。まぁ、初めて出会ったのは破壊迷宮の中なんだけどな」


「そうでしたか。あの戦いはわたくしも概要しか知りませんからね。また詳しく教えてください」


「そうだなぁ。船旅の途中はゆっくり出来そうだし、話すならその時かな」


「はい、お願いしますね」



 クウは観光しつつも、実はある場所に向かっていた。

 それはこの【カーツェ】を治めている首長ヴァイスの居城だ。やはり帝城に比べれば小さいのだが、それでも遠目から確認できるほどには目立っている。また、以前に一度【カーツェ】に来た際に、クウはヴァイスの居城には入ったことがあるのだ。

 今更道に迷うことはないのである。

 四人はそれぞれのペースでヴァイスの居城へと向かって行ったのだった。







 ◆ ◆ ◆







 寄り道をしつつ歩き回っていたため、城に着いたのは日が沈みそうになる頃だった。

 港に寄って貿易船を見てみたり、魔人の国から来た珍しい魔道具を物色して見たり、シットリして甘い謎のお菓子を食べたり、本来の目的を忘れているのではないかという勢いで観光していたためである。

 もちろんクウは本当の目的を忘れてはいない。

 ただ、久しぶりになるリアとの時間をゆっくり過ごそうとしただけなのだ。



(まぁ、今回は完全に放置だったから……な)



 確かにリアでは耐え切れないような激しい戦いだったが、クウが生き残れたのも結果論でしかない。何度も死にかけたし、実際に一度は死んでいる。死を無かったことにする神具のおかげで復活できたが、それがなければ確実に死んでいた戦いだった。

 心配を掛けたお詫びという意味も込めて、リアとの時間を作ったのである。

 これも世話好き天竜こと、ファルバッサによる助言で思いついたことだった。



「リア」


「どうしました?」


「今日は楽しめたか?」


「はい。とても珍しい体験でした。人族と魔族が共に過ごしている街なんて不思議でしたが……とても楽しそうにしていましたから。わたくしも楽しかったですよ」


「それは良かった。杖の方はどうだった? よさそうな魔道具店は見つけたか?」


「いえ……」



 リアは少し残念そうに首を振る。

 人魔境界山脈でキングダム・スケルトン・ロードに杖を折られて以来、リアの杖は代用品である短杖となっている。いつも使っていた杖の半分ほどの性能しかないため、これまでも直そうとはしてきた。

 だが、【砂漠の帝国】には満足できる杖が無かったのである。

 やはり魔術関連道具となれば、錬金術が盛んな【レム・クリフィト】が一番だということが分かっただけだった。直接的な交易をしている【カーツェ】ならばと考えて良さそうな店を探してはいたのだが、やはり満足できる店を見つけるのは難しかったのである。



「仕方ないか。折角だし《魔力操作》スキルの練習だと思えばいいだろ」


「そうですね。《魔力操作》が上手くなれば杖無しでも魔法は使えますし」



 魔法使いイコール杖という固定概念が定着している面はあるのだが、杖は《魔力操作》スキルの代用でしかないのだ。内部に仕込まれている魔術回路が《魔力操作》の代わりに機能するため、楽に魔法を発動できるというわけである。

 クウの場合は刀と魔法を同時に使うので、自前の《魔力操作》で術を発動していた。

 尤も、超越者となった今は霊力を使って自在に能力を使えるのだが……



「まぁいいや。取りあえず城に入る前にミレイナとレーヴォルフを待つぞ」


「そうですね」



 好きに観光してたため、いつのまにかミレイナとレーヴォルフは結構離れた位置にいた。レーヴォルフが気配を感知できるので心配はしていないが、少し計画性が無かったと反省する。

 ミレイナとレーヴォルフが追い付いてきたのは十五分ほど後のことだった。



「悪いね。待たせたかい?」


「少しだけな。まぁ、誤差の範囲だろ」


「それなら良かった」



 レーヴォルフが少しだけ謝罪をしながら近づいてくる。

 隣にいるミレイナが何やら満足そうな顔をしていたため、充分に楽しんだのだろう。両手に良い匂いのする串焼きを持っていることから、買い食いが中心だったと予想できる。

 そして全員が揃ったことで、クウは城の方へと目を向けつつ口を開いた。



「じゃあ行くか。ヘリオンには手紙で連絡済みだから、追い返されることはないだろ。多分ヴァイスにも伝わっているだろうしな」



 クウはそう言って城の門へと歩き出す。

 リア、ミレイナ、レーヴォルフも共に向かって行ったのだが……



「何だ貴様らは」


「ここは猫獣人の首長たるヴァイス様の居城。それを知って入れろというのか不審者め!」



 ……と言われて猫獣人の門番に止められてしまったのである。

 これにはクウも溜息を吐かざるを得なかった。



(ちゃんと手紙で伝えただろヘリオン……門番には連絡しておけよ)



 確かに、いつ到着するかは記していなかった。だが、クウの特徴を伝えて、該当する人物が来れば通すように門番に言っておくことぐらいは出来たはずだ。

 ヘリオンには少し抜けている部分があるものの、これは少し面倒になったとクウは考える。

 基本的にクウはヘリオンと知り合いであることを示すことは出来ない。人族であるクウが首長の息子と知り合いであると言われて納得できる方がおかしいだろう。

 むしろ、【レム・クリフィト】から外交のために首長ヴァイスに会いに来たという方が信じられる。ただ、外交に来た人物は【レム・クリフィト】の証書を持っているため、この手は使えないのだが。 

 それでもクウは念のため確認を取る。



「あー、門番の御二人さん。一応ヘリオンに俺たちが来ることを連絡してあるんだけど聞いてないか?」


「何? 人族がヘリオン様と?」


「いや、まさか? 最近は例の騒ぎで忙しくされていたのだぞ。そんなはずは……」



 クウは門番たちの会話で連絡が伝わっていないことを確信する。

 そして面倒なことになったと再び溜息を吐いた。



「……ともかく、ヘリオンに連絡してもらえるか? クウが来たって言えば伝わるから」


「分かった。では俺が確認に行こう」



 クウの言葉を聞いて、意外にも門番の一人はアッサリとヘリオンを呼びに行く。一悶着あるのかと思っていたクウからすれば予想外だった。



(まぁ、面倒が起こるよりはいいか)



 最近はトラブルに巻き込まれてばかりだったのだ。

 少しぐらい平和な時間があっても良いだろう。特にリアとゆっくり出来るのは、迷宮都市【ヘルシア】での最後の日以来かもしれない。あの日も最終的にはSSSランク冒険者レインに襲われて平和が幕を閉じたのだが、あれから数か月経っていると思えば感慨深いものもある。



(神種トレントに魔境のスケルトンたち、そしてスケルトンを生み出している創魔結晶。そして最後は超越者か……色々あったもんだな)



 クウが数か月で歩んできた道のりは非常に濃いものばかりだ。その中で一番の収穫は自身が超越化したことであるが、世界の真実を知るには虚空神ゼノネイアに再会しなくてはならない。そしてゼノネイアと会える神界を開くためにも、早く魔王に会わなければならないのだ。

 当然ながらユナと再会するのが一番の目的であることに変わりはない。

 そんなことを考えている内に時間が経ったのか、門番の一人ががヘリオンと共にやってきた。ヘリオンはクウと会うなり頭を下げて謝罪する。



「……済まない。ゴタゴタしていて門番への連絡を忘れていた」


「いや、大丈夫だ。何か忙しいのか? ……って言うのは愚問だったな」


「ああ。復興関連のこともそうだけど、やっぱり交易が活発になって忙しい。最近は親父の手伝いをしているからな」



 ヘリオンの言葉にクウは納得する。

 連絡を怠ったのはヘリオンが全面的に悪いのだが、逆に言えばそれだけ忙しかったのも事実だ。クウもその程度で怒るほど狭量ではない。むしろこの忙しさは平和の証なのだからと微笑ましく思ったほどだ。

 だが次のヘリオンの言葉に、クウは今の考えを撤回することになる。



「……実は向こう側の港町【ネイロン】との海路に問題が起こっている。クウにも協力してほしいことがあるんだ」



 自分はトラブルに愛されているのかもしれない。

 クウはそんなことを思いつつ、今日何度目かも分からない溜息を吐くのだった。





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