表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
239/566

EP238 神殺しの太刀


 オロチを中心として空間に罅が走り、その罅の隙間から不規則に変化する光が漏れ出る。空間は罅を基点として少しずつ崩壊が広がり、凄まじい勢いで空気が吸い込まれ始めた。



”クウよ。アレは何だ?”


「ちょっと待てファルバッサ。解析しているから数秒待て」



 即座に《真理の瞳》を発動させたクウはオロチの発動した《神罰:終末の第七ハルマゲドン》を解析し始める。情報次元を直接見ることが出来るようになったクウは、余程巧妙に隠蔽されている術式以外ならば十秒と掛からずに解析が出来るようになっていた。

 そして解析が完了したクウは慌てた様子でファルバッサとネメアに説明をする。



「おい拙いぞ。あのクソ蛇野郎……世界を崩壊させる術式とか使いやがったぞ」


”何? それは本当か?”


「霊力量の関係で崩壊するのはこの周囲一帯だけだろうけど……下手すれば惑星運動に影響を与えるかもしれないな」



 オロチが使用した術式《神罰:終末の第七ハルマゲドン》。

 これは世界に存在する異次元空間を物理世界と同化させ、崩壊させる術式である。そしてこの世界エヴァンに存在する次元は大まかに分けて四つだ。一つは実際に生活し、目にする物理次元。あらゆる情報がコードされ、演算しながら世界を動かしている情報次元。魂の最深層であり、全てを決定付ける根源とも言える意思次元。そして最後にあるのが虚数次元だ。

 この虚数次元は世界の調整と辻褄合わせを担当している。

 例えば、魂から無限に湧き出る霊力……魂から発せられた霊力はどこへ消えていくのか? エネルギー保存則が世界の前提としてある以上、誰もが霊力(MP)を使い続ければ、世界には霊力が溢れすぎることになってしまう。

 それを調整するのが虚数次元だ。世界に発生した余分のエネルギーを虚数次元に破棄することで、バランス調整を行っているのである。逆に何らかの原因でエネルギーが不足した場合、虚数次元からエネルギーを供給することでバランスを保っているのだ。

 そしてこの《神罰:終末の第七ハルマゲドン》はこの物理次元と虚数次元を統一する。さらに正確に言えば、物理次元を決定している情報次元も同時に統一されてしまう。この虚数次元は虚数化によって相互不干渉となっている次元であり、物理次元や情報次元が虚数次元と同化することによって、前者二つの次元にも不規則に虚数化が適応されることになる。

 虚数化イコール無効化というのが基本的な性質だ。値がゼロになるなどと言う生温いものではなく、完全に無かったことになる。物理次元や情報次元がそのような虫食い状態になれば、当然ながら次元が崩壊する。

 つまり世界の終焉だ。



”どうするのだクウよ”


「うーん。『世界の情報レコード』が引き込まれそうだから、ファルバッサが領域干渉すれば多分大丈夫だと思うんだけどな」


”今の我には無理だ。《楽園の結界システム・エデン》を解除した瞬間に、獣人たちが虚数次元に引き込まれるぞ”


「その前に領域干渉を完成させられるか?」


”出来るなら無理とは言わぬ”


「だよな」


”言っておくけど、ウチにも無理やからね”


「ネメアには最初から期待してねぇよ。そういう能力者じゃないだろ」



 そう言った会話をしている間にも虚数次元と繋がる罅は広がり続けている。既に罅の周辺は虚数化が適応されており、《真理の瞳》で見れば異常事態であることが理解できた。

 このままでは周囲一帯が崩壊し、超越者以外は全て虚数次元に葬り去られることになるだろう。さらに空間ごと不自然に崩壊したことで、この惑星自体にも悪影響を与えることは間違いない。異常気象、地殻変動は覚悟しなくてはならない。

 当然ながら世界を調整し、安定を保つ役割を与えられている天使にそんな失態は許されない。



「はぁ……俺がやるしかないよな……」



 クウは両目に霊力を集め、超速演算で意思次元に干渉を開始する。それと同時に「理」と「月(「矛盾」)」を使って情報次元にも干渉を始め、術の発動を整える。

 練習無しの発動ではあったが、クウには失敗するビジョンなど見えていなかった。



「発動《幻葬眼》」



 その瞬間、クウの視界に収まっている全ての空間に亀裂が走る。《神罰:終末の第七ハルマゲドン》によって生じた次元の割れ目すら上書きして、クウの《幻葬眼》が起動したのだった。

 世界を書き換える力。

 あらゆる矛盾を超克して意思のままに世界を操る力。

 クウの思い描いた心象を運命すら書き換えて現実にする力があるのなら、逆に、全ての現実を幻術へと変貌させることが出来ても不可解ではない。

 意思次元を操作し、現実を幻術へと変える「魔眼」。

 これが新しく開発したクウの奥義だった。



「消えろ」



 その一言で世界は壊れる。

 より正確には幻術に改変されていた世界が壊れたのだった。

 つまり《神罰:終末の第七ハルマゲドン》によって終焉を迎えようとしていた世界は幻術であったと世界が誤認したのだ。クウはその幻術を解き、現実世界へと戻しただけである。

 闇夜は静寂に包まれ、月と星々が輝く。

 凪に支配された空間で存在感を放つのは銀翼の天使、美しい銀竜、荘厳なる金狐。そして胴の半分と九つの龍頭を失い、茫然としているヒュドラだけだった。

 幻術を現実に、そして現実を幻術へと自在に変化させる常識はずれな能力。オロチが茫然としてしまうのも当然である。

 そしてクウはその隙を突くために動き出していた。



「はああっ!」



 白銀の天使翼から生み出された速度は音速など遥かに超え、一瞬にしてオロチとの距離を詰める。もはや物質に縛られていないクウは音速だろうが光速だろうが肉体が崩壊することがない。制約から解き放たれた天使は必殺の一刀を意識する。

 虚空リングより取り出した神刀・虚月を左手に持ち、右手はその柄にかける。

 そんな小さな刀ではオロチに小さな傷を付けるだけで精一杯だろう。

 オロチもそう判断したゆえに無視して次の術式を権能【深奥魔導禁書グリモワール】より引き出そうとする。だが、それは間違いだったとすぐに気づかされることになった。



(な……これは!?)



 オロチはクウの背後に巨大な太刀を幻視する。白銀に輝く半透明の巨大な太刀はクウの神刀・虚月と連動するかのように動き、持ち主もなく宙に浮いていた。

 一刀でオロチをも切り裂くことが出来るだろう白銀に輝く半透明の太刀はクウの幻術でしかない。だが、オロチがそれを認めてしまった瞬間に幻術は現実になる。特性「意思干渉」が込められた、いや、意思の塊とも言える白銀の太刀はクウの居合に合わせて神速の一撃を見せたのだった。



「これで沈め! 《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》」



 クウがイメージしたのは水神・八岐大蛇を葬ったとされるスサノオノミコトの一太刀。神が為した神殺しを再現した超越者殺しの一撃だった。

 特性「意思干渉」によって意思次元を直接切り裂かれ、超越者にすら直接的なダメージを与える。概念攻撃によって情報次元を破壊しつつ……などと言う遠回りな方法ではない。本来ならば届き得ぬ意思次元を直に攻撃するのが《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》なのだ。

 これはかなり反則に近い能力である。

 世界をオンラインゲームに例えたとき、物理世界は画面に見えている部分、情報次元はゲームを動かしている演算コード、意思次元は画面の前にいるプレイヤー本人だとみなすことが出来る。このとき、演算コードを攻撃して画面に見えているアバターを消滅させる行為が概念攻撃だ。そしてプレイヤー本人がいる限りは、演算コードを組み直すことで何度でもアバターを復活させることが出来る。超越者を倒すとは、このプレイヤー本人がアバター復活を諦めるまで何度も消滅させるということに相当するため、超越者を倒すことは非常に難しい上、面倒だ。

 だが、クウの使用した《素戔嗚スサノオ之太刀のたち》は少し違う。

 これは言わば、プレイヤー本人を直接殴っている行為に等しいのだ。意思次元を直接攻撃できるとは、こういう意味である。そう思えば、これがどれだけ反則に近い能力か理解できるだろう。

 白銀に輝く半透明の巨大な太刀はオロチを一撃で切り裂いたのだった。



”―――――ッ!?”



 意思次元を破壊され、魂の根源を切り裂かれたオロチは最早それまで。意思を破壊されたために、声を発することもできず、意思の崩壊に伴って情報次元も崩れていく。それはつまり超越者の死を意味しており、魂の完全破壊であるとも言えた。

 輪廻によって巡回し、滅びることがない一般の魂とは異なる……超越化した魂を殺すということは、魂を完全に破壊することに等しい行為だ。どのような手段を用いても復活することは出来ず、崩壊が始まれば止める手段もない。

 オロチの「龍鱗」がボロボロと剥がれていき、その肉体を構成していた霊力が分解されて虚数次元へと消えていく。超越者を構成している過剰な霊力を異次元に逃がしているのだ。

 本来は徐々に意志力を削っていき、それに伴って少しずつ霊力量も下がっていくのだが、クウは一撃でオロチを仕留めてしまったので、莫大な霊力が噴き出ることになったというわけである。

 現実と幻想の狭間を自在に操作し、超越者に特効とも言える攻撃を加えることが出来る。クウの権能【魔幻朧月夜アルテミス】の凄まじさはここにあった。



「超越者の最後って……何か寂しいな」


”うむ……謂わば魂の消滅だからな。悲鳴など上げる余裕は無いだろうよ”


”意外に呆気ないねぇ”



 意思力を消失したオロチの霊力は拡散を続け、あっという間に形を保てなくなる。クウ、ファルバッサ、ネメアはその光景を観察しつつ、会話を続ける。



「あと、ファルバッサ。俺がさっき《幻葬眼》で無効化した《神罰:終末の第七ハルマゲドン》だけど、情報次元に余波が残っているかもしれないから、後で調整しておいてくれ」


”よかろう。我の得意分野だからな”


”ウチは何かすることある?”


「……強いて言うなら、今のうちに破壊迷宮に戻っておいたらどうだ? 一応は狐獣人の神獣扱いだし、このまま残っていると面倒だぞ」


”そうやねぇ。それやったらウチは先に戻らせてもらうわ。ウチの【殺生石】ではやれることもなさそうやしねぇ”


「ともかく世界のバランスを崩す超越者オロチは討伐完了だし、俺らは手早くドロンするぞ」


”そうだな”


”そやねぇ”



 意外にも呆気ない決着ではあったが、クウにとっては収穫の方が大きい戦いでもあった。超越化を成し遂げ、獲得した権能【魔幻朧月夜アルテミス】は最高クラスの能力。

 クウの主人でもある虚空神ゼノネイアの思惑通り、ファルバッサに掛けられていた潜在力封印の呪いを解除し、さらにオロチとの決戦で超越化したクウは、ようやく魔人の国【レム・クリフィト】を目指すことになる。

 【砂漠の帝国】での後処理は残っているが、また一歩近づいたユナ・アカツキとの再会に、クウは胸を躍らせるのだった。









《神罰:終末の第七ハルマゲドン

 また私は、もう一人の強い御使いが、雲に包まれて、天から降りてくるのを見た。その頭上には虹があって、その顔は太陽のようであり、その足は火の柱のようであった。

 その手には開かれた小さな巻物を持ち、右足は海の上に、左足は地の上に置き、

 獅子がほえるときのように大声で叫んだ。彼が叫んだとき、七つの雷がおのおの声を出した。

 七つの雷が語ったとき、私は書き留めようとした。すると天から声があって、「七つの雷が言ったことは封じて、書き記すな」と言うのを聞いた。

 それから、私の見た海と地との上に立つ御使いは、右手を天に上げて、

 永遠に生き、天とその中にあるもの、地とその中にあるもの、海とその中にあるものを創造された方をさして、誓った。「もはや時が延ばされることはない。

 第七の御使いが吹き鳴らそうとしているラッパの音が響くその日には、神の奥義は、神がご自身のすもべである預言者たちに告げられたとおりに成就する」

   ヨハネの黙示録 10章1~7節


  ……は参考になりませんでした。

   適当に効果を考えたので、かなり雑です。




評価、感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
能力の名前アルテミスよりツクヨミのほうがあっていたのでは?と思う今日この頃です
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ