EP235 クウの権能
クウは夜空を覆いつくすほどの天使軍へと《神象眼》を向ける。
切断されたという幻術はクウの「意思干渉」によって昇華され、多少の無理すらも「月(「矛盾」)」の性質で捻じ曲げてしまう。切断されたという幻想を信じ込まされた天使軍は肉体にすら影響を及ぼされ、その幻想の通りに身体を切り裂かれた。
一睨みで百万体近い数の討伐。
このままでも数分で天使軍を全滅させることが出来るだろうが、クウは自身の能力を確かめるために一度《神象眼》の発動を止めたのだった。
「《月蝕赫閃光》」
クウは右手で消滅エネルギーの塊を生み出し、易々と制御してみせる。そして更に霊力を込めて、今までは制御できなかったほどの巨大な消滅球を生成した。
「行け!」
直径にして一メートルはある巨大な消滅球が音速で天使軍の中へと飛び込んでいき、即座に膨張して破滅の効果を暴発させる。急速に膨張した《月蝕赫閃光》は周囲にいる終末の天使レプリカを巻き込みつつ赤黒い雷を放っていた。
元からエネルギー消費の大きい《月蝕赫閃光》も、超越者として無限の霊力を得た今ならば使い放題である。
クウは次々と《月蝕赫閃光》を生み出し、周囲の天使軍を綺麗に消し去った。
「あの男を狙え。一斉攻撃開始!」
そんな中で終末の天使将レプリカの一体が指示を出し、雪崩のような天使軍がクウへと殺到する。全周囲から寸分の隙も無く迫ってくる天使軍から逃れる術は転移する以外になく、クウは流石に転移能力を持ち合わせてはいない。
だが、迎撃するだけの能力は十分に持っていた。
「《神象眼》発動。切り刻め」
クウの心象を現実へと映し出す瞳。
視界に捉われた対象はクウの想像した『切り裂かれた』現象から逃れることが出来ず、無数の斬撃に晒されることになる。もはやクウが斬ったと望めば、それは切断されているのだ。
今までに幾度となく刀を振ってきたクウの中には切断のイメージがこれ以上に無く完成されており、どんな矛盾を抱えていても、斬られたことは現実になる。抵抗するにはクウの干渉力を超える意志力で防ぐしかない。
クウが望むだけの切断攻撃が無数に放たれ、迫りくる天使軍は為す術もなく粒子に還る。
さらに斬撃だけでなく、爆炎、雷轟、氷結、暴風が発生し、まるで天変地異でも起こっているかのような様相を見せていた。全てはクウの幻術なのだが、それは「意思干渉」によって『世界の意思』をも侵食し、現実へと変えている。対象である天使軍も「意思干渉」によって幻術を信じ込まされ、それを幻術だと認識することは出来ていなかった。
たった一人の想像も、万人が認めることで現実となる。
万物を決定している情報次元の上位に意思次元が存在しているため、意思次元が「在る」と認めれば、情報次元でも「在る」のだと改変される。それによって物理世界に影響が及ぼされ、想像が現実として発現してしまうのである。
難しいように感じるかもしれないが、実はスキル発動も似たようなプロセスを使っている。
意思次元から発せられた意思によって情報次元に記録されているスキルが起動し、情報次元を改変しながらスキル効果を発揮する。そして改変された情報次元は他者の意思次元にも改変を信じさせ、物理世界で現実として発揮されるのだ。ただ思うだけで強力なスキルを発動させることが出来るのは、このシステムのお陰なのである。
魔法発動も同様である。
炎や水などを想像するだけで発生させるなど本来有り得ないことだ。これが発動されるのは、スキルとして記録されている現象が情報次元で動いているからであり、その情報次元を動かしているのが意思次元だからだ。意思次元で発生した魔法の演算が情報次元を改変し、改変された情報次元は他者の意思次元に改変を信じさせる。結果として物理世界に魔法が発生するのだ。
詠唱は情報次元へと語り掛けることによって改変の補助をさせる行為であり、演算が不足している分を補うことが出来る。
今見ている現実は意思次元と情報次元の相互作用による結果なのだ。
そしてクウの「意思干渉」は強制的に意思次元へと介入し、情報次元で改変されていない事柄すらも無理やり信じさせることが出来る。つまり、「無い」ことを「在る」ことに出来るのだ。
クウが《神象眼》を発動させている間は、クウが世界を支配していると言っても過言ではない。
「なるほどね。能力の使い方も理解してきた」
圧倒的な力で天使軍を捻じ伏せているクウだが、これも所詮は能力の使い方を練習しているに過ぎない。そしてこの短時間ですら、クウは権能【魔幻朧月夜】のことを理解し始めていた。
特性「意思干渉」がメインであり、「理」と「月」の特性はこれを補助する役割を持っている。「理」と「月(「矛盾」「力場」)」によって情報次元の反発力を消しているのだ。やはり情報次元を介することなく、意思だけで他者の意思次元を改変することは難しい。情報次元による反発で、「意思干渉」の邪魔をしてくるのである。
たとえば『水の中で炎が燃える』という現象は情報次元に記録されている情報(法則)が有り得ないと判断する。これによって干渉された他者の意思次元が『水の中で炎が燃える』現象を疑ってしまうのだ。そして疑いがあれば想像は想像の域を出ることがなく、それは現実にならない。
この情報次元による反発力を抑え込むのが「理」と「月(「矛盾」「力場」)」なのである。「理」によって情報次元へと介入し、「月(「矛盾」)」によって不可解な点を無理矢理抑え込む。そして「月(「力場」)によって情報次元ベクトルを操作し、クウの望む方向へと現象を発生させるのだ。
さらに「月(夜王)」は夜を支配する追加効果である。対象を夜に飲み込み、クウに有利なフィールドを創り出すことが出来る。このフィールドはクウの支配する世界であり、現実の改変も容易に行える。
最後に残った「魔眼」の特性は対象をロックオンすることに特化している。
基本的に能力を発動するとき、その対象の座標を演算する必要がある。しかし、「魔眼」は見ただけで対象をロックオンし、座標演算をする必要が無い。どんなに遠くであっても、見れば即座に対象として定められることになるのだ。
これがクウの権能【魔幻朧月夜】である。
「《虚無創世×10》」
特性「魔眼」にてロックオンした十か所の極小地点で霊力を臨界圧縮し、小規模なビックバンを引き起こして小さな異世界を生成する。生成された異世界は重力による圧縮で終焉を迎え、その中に飲み込まれた天使たちは次元の彼方へと消し飛ばされることになった。
超越者となった今は、このような膨大な演算を必要とする術式すらも容易く発動できる。一度に使える限界量はあるものの、霊力もほぼ無限に扱えるのだ。例え二億体の天使軍すらも相手にならない。
「『《降天神罰光》』」
「『《聖気霊斬滅》』」
「『《流星光滅雨》』」
「『《崩閃光波動砲》』」
「『《霊域星光葬》』」
「『《七光聖天凛》』」
近づくことの出来ない天使たちは遠距離からの《光魔法》で攻撃をするが、クウは「夜王」の特性で全てを飲み込み、完全に無効化する。クウを纏う闇の波動が光属性を完全に吸収していたのだ。
ならばと黄金の闘気でクウを攻撃しようとするが、「意思生命体」に対して《気纏》の攻撃が効くはずがない。意志力を完全開放されている今のクウに気の攻撃をするのなら、同じ超越者クラスである必要があるだろう。
クウは飛来する気の攻撃を完全に無視して再び「魔眼」を発動させる。
「《神象眼》」
クウの両目に浮かぶ六芒星の紋章が怪しく光り、金色に輝く。そしてその視界に捉われた終末の天使レプリカたちは切り刻まれ、爆炎に包まれ、雷撃に焼き尽くされ、氷の棺に閉ざされ、暴風にて弾き飛ばされる。
「残り五二七一万〇六三八体」
一睨みで対象を殺せるクウは次々と終末の天使レプリカを葬り、その数を減らしていく。
天使軍も数が減ったことで動きやすくなり、クウの視界から逃れるべくバラバラに散っていく。五千万体以上も残っているとはいえ、元の数の四分の一なのだ。かなり動きやすくなっているのである。
しかし、クウはそんな天使たちの行動を嘲笑うかのようにして能力を発動させた。
「《特異消失点》」
その瞬間、空間中の一点に超重力が発生する。その中心点は消滅エネルギーの塊でもあり、触れた瞬間に情報次元を消し飛ばされて消滅することだろう。
今のクウならば「月(「力場」)」の特性で本物のブラックホールすらも生成可能だ。しかし、そのような超重力天体を出現させた瞬間、今いる惑星の運動にも影響を与えてしまう。最悪は惑星軌道から外れて大災害が引き起こされることだろう。
そのため、クウは本物ではなく疑似的なブラックホール風の現象を発生させたのである。
重力の届く限り無差別に物質を吸い込み、中心部の消滅エネルギーの塊で消し去る。バラけてしまった天使たちを効率的に仕留めることに適していると言えた。
終末の天使レプリカたちは必死に重力から逃れるべく天使翼を羽ばたかせるが、重力に抗うことが出来ずに少しずつ引き込まれていく。また重力は距離の二乗倍で反比例しているため、近づけば近づく程に引き込む力が増していく。およそ一千万体が《特異消失点》の中心より逃れるべく必死になっているが、吸い込まれるのも時間の問題だろう。
そしてクウはその間に残りの方へと目を向けた。
「熾天使級が二体残っているな。ウリエル・コピーとガブリエル・コピーか。二体がかりでネメアを抑え込んでいるみたいだし、今が楽に仕留められるチャンスだな」
《真理の瞳》で情報次元を解析したクウはウリエル・コピーとガブリエル・コピーの居場所を感知し、その場所に右手を翳す。そして霊力を込めて小さく呟いた。
「行け。《赫月滅光砲》」
莫大な消滅エネルギーが発生し、クウはそれに指向性を持たせて放つ。赤黒い閃光となった《赫月滅光砲》は触れる全てを――天使も、魔法も、空気すらも――消滅させながら一直線に二体の熾天使級のもとへと向かって行く。
さすがにかなりの遠距離だったため、ウリエル・コピーとガブリエル・コピーは迫りくる破滅の閃光の存在に気付くことが出来た。そしてそれが自分たちを滅ぼす可能性があることも同時に悟ったのだ。
「Neppah si tahw!?」
(何だ!?)
「Egdod tsum ew!」
(回避しましょう!)
ウリエル・コピーとガブリエル・コピーは咄嗟に回避して《赫月滅光砲》の射線上から外れることが出来た。
しかし、それによって発動していた神斧・原初の地と神槍・原初の水の効果を消失させてしまう。そしてそれは封じていたネメアの解放を意味していた。
”舐めた真似をしてくれたもんや。死ね。《傾国の吐息》”
重力と停滞という束縛系の能力によって封じられていたネメアはすぐに死の概念毒を生成し、気と共に圧縮して放つ。二体の熾天使級の命令を受けて魔法攻撃を放っていた終末の天使レプリカが煩わしかったが、今はウリエル・コピーとガブリエル・コピーを優先的に消すことにしたのだ。
全てを殺し尽くす死の吐息が迫ってくることを知覚したウリエル・コピーとガブリエル・コピーは咄嗟にそれぞれの神装の効果を発動させる。
「Ytivarg fo rowop a em edivorp, htrae eht」
(大地よ、我に重力の力を与えよ)
「Ecnelis fo rowop a em edivorp, retaw eht」
(水よ、我に停滞の力を与えよ)
目前まで迫ったネメアの《傾国の吐息》に対して重力と停滞による効果を発動させた。神装の能力であるため、この二つの束縛能力は物質だけでなくエネルギーなどにすらも効果を発揮することだろう。これによって《傾国の吐息》はウリエル・コピーとガブリエル・コピーのもとへと辿り着くことなく停止し、拡散するハズだった。
だが超越者であるネメアが意思の力を込めた放った《傾国の吐息》にそのような効果は通じない。概念死を込められたネメアの攻撃は重力と停滞の性質すらも殺し、一瞬すらも足止めできずにウリエル・コピーとガブリエル・コピーを飲み込んだのだった。
”余計な手間を掛けさせてくれたもんや”
自分の動きを封じていた二体の熾天使級を消し飛ばしたネメアは満足気に呟く。
こうして四体全ての熾天使級を失った今、形勢は一気に傾いたのだった。
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