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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
235/566

EP234 開眼



 『世界の意思プログラム』は誰にも聞こえない言葉で処理を開始する。

 それは機械的で、冷たい声。

 ただ世界を……運命を導くためだけの存在。

 死者の処理は毎日のように行っている作業だった。

 だが、今回の作業は少しだけいつもとは違っていたのである。




――肉体の崩壊を確認。


―――情報次元を破壊し、データを消去します。


―Error


――権能【虚数領域ゼノネイア】を確認。


――――現象は虚数次元に封印されました。


――情報次元を再生し、再び魂を世界わたしに組み込みます。


―――Error


―魂封印の完全開放を確認。








―――超越化を開始します。






――『世界の情報レコード』からの解放を確認。


―――固有の情報次元を確立します。


―成功。


――――特性「意思生命体」を獲得しました。


――特性「天使」を獲得しました。


――――特性「魔素支配」を獲得しました。


――超越化に成功しました。


―――続いて魂の素質より権能を解放します。


――特性「魔眼」を獲得しました。


―特性「意思干渉」を獲得しました。


―――特性「理」を獲得しました。


――――特性「月(「矛盾」「夜王」「力場」)」を獲得しました。






―――権能【魔幻朧月夜アルテミス】を発現しました。





――告。


―――エヴァンより新たな超越者が誕生しました。


――規定により、『世界わたし意思プログラム』は創造主への報告を行います。











 ◆ ◆ ◆











 意識が浮上していき、ゆっくりと目を開く。

 初めに映ったのは自分の両手であり、試しに握ったり開いたりを繰り返した。問題が無いのを確認してから他の箇所も確認していく。

 いつもの黒髪。

 変わらない黒目。

 背中には白銀に輝く三対六枚の天使翼。

 そして傷一つない左胸。



(予定通り生き返ったな)



 クウ・アカツキは頭に流れ込んできた情報に意識を向けつつ、安堵の息を吐きだした。






―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ   17歳

種族 超越天人

「意思生命体」「天使」「魔素支配」


権能 【魔幻朧月夜アルテミス

「魔眼」「理」「意思干渉」

「月(「矛盾」「夜王」「力場」)」

―――――――――――――――――――





「ステータスは見れなくなったけど、自分の能力は何となく把握できる感じだな」



 能力を確かめたいと意識すれば、自然と理解できる。今の能力は借り物のスキルではなく、クウの魂から発現した固有の能力ちからだ。理解できて当然だろう。

 使いこなせるかどうかはまた別の話だが……



「あ……」



 クウが頭に流れ込んできた能力の詳細を確認していると、突如として黒コートがボロボロと崩れ去った。まるで燃え尽きて灰にでもなったかのように塵となって消えていく。エヴァンに召喚され、【ルメリオス王国】で貰ってから半年以上も愛用していた黒コートであるため、こうして無くなると寂しい気分になってくる。



(まぁ、あのコートのお陰で生き返れたんだけどな)



 クウは愛用のコート……幻影の黒コートの詳細を思いだす。




―――――――――――――――――――

幻影の黒コート


製作者 不明


謎のコート。

コート自体に《偽装》の効果があり、その

真の能力を測ることは難しい。

―――――――――――――――――――




 《看破》スキルでは不明なままだった幻影の黒コートだが、実は《森羅万象》のスキルを手に入れてからもう一度調べ直したことがある。そして、初めてその効果を知ったときはクウも目玉が飛び出そうになったのだった。




―――――――――――――――――――

幻影の黒コート


製作者 虚空神ゼノネイア


虚空神ゼノネイアがその権能を込めて制作

したコート。虚空神ゼノネイアの【加護】

を有する者が着用している時に限り、死を

一度だけなかったことにする効果がある。

なお、効果が発動された場合、このコート

は壊れる。


かつて虚空迷宮の低階層で発見されたのだ

が、効果が分からずに巡り巡って【ルメリ

オス王国】の王城宝物庫に眠っていた。

―――――――――――――――――――





 死を一度だけ無かったことにするという破格の……いや、世の理すらも超越した反則効果。かつてクウが王城で幻影の黒コートを見たときに何故か惹かれたのも、虚空神ゼノネイアの加護と引き合った結果だったのだ。

 そしてこれこそがクウが保有していた真の切り札。

 強すぎる効果ゆえに、クウとしては保存しておきたかったという気持ちもある。しかし、事実としてクウは命拾いしたのだから、この黒コートには感謝の念しかなかった。

 そして死を乗り越えたことにより、クウの意思力は魂の潜在力封印を完全に打ち破った。結果としてLv200に到達し、生き返ると同時に超越化を果たしたというわけである。



「いつものコートが無くなると物寂しいな……自分で出すか」



 ついに超越者となったクウは、もはや肉体に縛られない。

 食事も排泄も睡眠も必要なく、やろうと思えば性欲なども抑えることが出来る。それが究極の存在である「意思生命体」であり、「意思生命体」となったクウは服すらも霊力と意志の力で顕現させることは不可能ではなかった。




「うん、こんな感じかな?」



 失ってしまった幻影の黒コートを元にしたイメージを固め、自分の身体に顕現させる。以前と異なるのはファー付きのフードがあることだろう。色も形状もそれ以外は同じだった。

 砂漠なので非常に暑そうな恰好ではあるが、超越者となったクウには熱さも関係ない。肉体に縛られていないので、常に快適な気温のように感じられるのだ。

 身だしなみを整えたクウは、ここでようやく周囲の様子を確認する。



「さてと……《真理の瞳》」



 クウは「魔眼」と「理」の特性を混ぜた瞳術で周囲の状況を確かめる。いわゆる《森羅万象》の上位互換に当たる能力であり、超越化によって脳細胞への負荷を考えなくても良くなったことを加味すれば、今までとは格が違うほどの情報系能力になっている。

 「魔眼」の効果でクウの瞳には六芒星の紋章が浮かんでおり、それを通じて解析の術式が発動していたのだった。



「残りの天使は一億九九七八万六二〇九体か。ネメアが拘束系の神装で動きを封じられているみたいだし、俺がやるしかないな。ファルバッサもオロチで手一杯だろうから、折角だし能力の慣らしでもするか」



 独り言を呟きながらやるべきことを決めたクウは早速とばかりに行動を開始する。まずは自分の中に意識を向けて、莫大な霊力を操ることから始めた。



「確かに……今までとは比べ物にならないMP量になっている。これが超越者の霊力か」



 量は莫大だが、操作方法は魔力とも変わらない。意志のままに、むしろ魔力よりもクウの意思を汲んでくれるので、操作に関しては楽だと言えた。

 これなら……と考えたクウは少量の霊力を取り出して術式を発動させる。

 狙うは終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカが密集している場所だ。今のクウからすれば少量の霊力とは言え、一般的な観点から見れば想像を絶するエネルギーが空間の一点に超圧縮される。



「消し飛べ。《虚無創世ジェネシス》」



 その瞬間、臨界状態すらも超えて原子よりも小さな一点で圧縮された霊力が破裂し、空間を引き裂きつつ異空間を生成する。小規模な異世界を構築し、世界ごと次元の狭間へと葬り去る殲滅術式が牙を剥いた。

 クウの感覚としては僅かな霊力を使用したつもりだったのだが、暗黒色の異空間はモルドに放った時よりも大きく膨張して天使軍を丸呑みする。密集地点に放ったため、五千体近い終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカが巻き込まれたのだった。

 これには術を発動させたクウも驚く。



「これが霊力……魔力とは比べ物にならないエネルギーってことか。魔素に変換するとエネルギーロスが結構多いらしいから当然か」



 魂から無限に湧き出る霊力を直接操れるようになったクウにエネルギー切れは無い。以前ならば《虚無創世ジェネシス》を一発放つだけで魔力が底を突いていたのだが、今では数十発ほど放っても問題にならないのだ。むしろ鼻歌交じりで百発ほど撃つことが出来るだろう。

 これに満足したクウは、次に消滅エネルギーを生み出してみた。



「これも扱いやすくなっている。演算力が超越化前とは桁違いだから……そうなるだろうな」



 紅色の雷を放ちながら球状を保っている消滅エネルギーは、以前ならば詠唱を使って安定させなければ使用不可能だった。生物の脳細胞の限界からか、演算能力を駆使してもこれだけはどうにもならなかったのだ。もちろん、その欠点を補って有り余るほどの利点もあるが、発動に時間が掛かるのは問題だった。

 それが今は、念じるだけで自在に消滅エネルギーを扱えるのだ。

 今まで苦労していたのが何だったのかと言いたくなるほどである。



「折角だ。これで天使軍を消し飛ばしてみるか」



 クウは霊力を込めて消滅エネルギーを増大させ、それを無数に分裂させて周囲に浮かべる。これほどの大魔術演算も、超越者となれば容易いものだった。余裕のあるクウは、分裂した無数の消滅球を形態変化させ、それぞれを矢の形にする。



「上手く出来た。行け! 《魔神の矢》!」



 深紅のいかづちを纏った無数の矢がネメアを攻め立てている天使軍の一角に降り注ぐ。クウの意思力と潜在力から発動された《魔神の矢》はそれぞれが紅色の軌跡を残しながら超音速で終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカたちを殲滅していく。

 消滅エネルギーは防御など関係なく情報次元から消し飛ばす概念攻撃であるため、概念防御の能力を持っていなければ防ぐことは出来ない。よって終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカの《結界魔法 Lv10》など紙のように消し飛ばしながら大量の天使を滅ぼした。

 今の攻撃で塵に還ったのがおよそ八千体である。



「……意外と減らないもんだな」



 二億という数の暴力は予想以上に険しい。

 さらに、今の《魔神の矢》で終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカたちもクウを一斉攻撃の対象に加えたようだった。

 《虚無創世ジェネシス》と《魔神の矢》による大量殲滅を察知した終末のアポカリプス・熾天使セラフィムレプリカの一体であるラファエル・コピーがクウの前に立ちふさがる。若草色の神弓・原初の風ジ・オリジンを構えたラファエル・コピーは言葉もなくクウへと矢を浴びせる。



「挨拶も無しかよ……」



 必中の効果を持ったラファエル・コピーの矢は囲い込むように軌道を変化させて同時に迫る。さらに一本一本が全て音速を突破しているため、普通ならばこのままミンチになってしまうことだろう。

 しかし、今のクウにとっては音速すらも問題にはならなかった。



「――ッ! ――ッ!」



 即座に虚空リングから神刀・虚月を取り出したクウは短く息を吐きながら連続して抜刀と納刀を繰り返し、全ての矢を叩き落す。以前のスキルに縛られていた状態ではとても出来なかった神業だ。

 超越者として「意思生命体」の特性を得たクウは、霊力と意志力によって有り得ない動きすらも可能となる。強靭なクウの意志が可能だと判断すれば、一秒間に百回の居合切りすらも成功させることだろう。もちろん相応の霊力が必要ではあるが。

 超越者とは霊力の限り、意志力によって無限の可能性を得た存在。

 そしてそれと同時に、クウは他者の意志力すらも干渉し、捻じ曲げる究極の能力者でもある。



「お返しだ。……《神象眼》」



 クウは納刀状態の神刀・虚月を静かに構え、莫大な霊力を込めた「魔眼」を開眼する。金色に燃える六芒星の紋章がクウの「魔眼」に浮かび上がり、視界に映る全ての終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカを捉えた。睨まれた終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカは一斉に金縛りに遭う。

 三対六枚の天使翼を持つラファエル・コピーすらも動くことが出来ず、ただクウの一撃を受け入れることしか出来そうになかった。

 そしてクウはそんな天使軍に情けなどかけるつもりはない。

 所詮は紛い物のコピーであるし、倒したところで誰も困らないのだから。



「――『閃』」



 クウは静かに、音もないほどの滑らかな居合を放った。

 知覚不可能な速度だったクウの居合は天使軍の一体にすら触れることなく納刀される。鋭すぎて空気を完全に切り裂き、衝撃波すらも発生させなかったクウの『閃』は空振りしたかのように思われた。

 だが次の瞬間、クウの視界に映っていた全ての終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカが横一文字に切り裂かれて命を散らす。天使エンジェル級も、天使将アークエンジェル級も、熾天使セラフィム級であるラファエル・コピーまでも……およそ百万体全てがそれぞれ一刀両断されていたのだった。

 音もなく淡い粒子へと返っていく天使軍を眺めつつクウは呟く。



「俺の能力は「意思干渉」だ。『世界の意思プログラム』……つまり運命すらも捻じ曲げて俺の心象を現実に変える能力。つまり幻術を現実に変える力だ。どんな矛盾すらも覆して幻を本物にすることが出来る」



 究極の能力とも言える「意思干渉」。

 先程、クウは神刀・虚月で世界を切りつけ、《神象眼》で『世界の意思プログラム』に斬られたと思い込ませた。さらに《神象眼》の対象を天使軍に向けて意志力を操作し、『世界の意思プログラム』が感じた斬られたという感覚を無理やり同調させたのである。

 つまり、クウは世界を切りつけることで視界にいるすべての対象を好きに切り刻むことが出来る。

 クウが《神象眼》を発動させている間は、視認するだけで天使軍を葬ることが出来るようになったというわけである。



「さてと……やられた分はやり返すか」



 超越化するまでは散々手こずらせてくれたのだ。

 クウは半ば八つ当たり気味で……そしてその実は能力実験として天使軍の蹂躙を開始する。








主人公が超越化しました!

これで主人公最強タグも生きてきますね。


それにクウの権能も気になっていた方が結構いらっしゃったと思いますが、ようやく公開です。

どうでしょう? 

主人公らしいというよりもラスボスチックな能力になっていますけどね。


ただ、作者が想定しているラスボスはクウの能力でも苦戦するレベルです。一体どうなるのでしょうね?


それとクウの装備について覚えていらっしゃった方は居るのでしょうか? この作品を投稿し始めた当初から砂漠の帝国編まではある程度の構想が出来ていたので、伏線回収にかなり時間が掛かっています。幻影の黒コートはそのつもりでずっと温めていたのですけど、もう忘れている読者の方が多い気がします。



これからも宜しくお願いします。





※捕捉

権能【虚数領域ゼノネイア】についてです。

誰の能力かは分かりますよね?

主な能力は虚数化です。数学で言うところの、虚数単位iを付与することで虚数次元に何でも封印してしまう能力です。分かりやすく言えば、現実を幻術に変える能力と言った方がいいでしょうか?

要するにクウとは逆の能力になっています。

詳しくはまたいつかきっと……




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― 新着の感想 ―
[一言] 意志生命体だからイメージした服を顕現させてるけど それなら剣も自由に顕現させられるんですか? それとも生まれてこの方服を着てきたからイメージをしやすいからできることですか?
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