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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
233/566

EP232 天使の軍勢⑨


 クウが熾天使セラフィム級であるミカエル・コピーと激しい戦いをしていた頃、天九狐あまつここのえきつねネメアのもとにも二体の熾天使セラフィム級が攻撃を仕掛けていた。

 土の属性を有するウリエル・コピーと水の属性を有するガブリエル・コピーである。

 二体は既に神装を解放し、その力を存分に発揮していた。



「Htrae eht……」

(大地よ……)



 ウリエル・コピーは解放した神装に魔力を込める。剣の形から解放され、長柄のポールアックスへと変形したウリエル・コピーの神斧は全体が黒に近い茶色をしていた。

 彼の持つ神斧・原初の地ジ・オリジンは大地に関する能力であり、物質生成や重力系の効果を持っている。また、大地からエネルギーを吸収することで破格の回復力も有しており、タフネスさでは四体いる熾天使セラフィム級の中でも一番だった。

 そして神斧・原初の地ジ・オリジンの加重能力がネメアへと圧し掛かる。



”ぐっ、これって……”



 突如として重力を数百倍にされたネメアは砂漠の大地へと押し付けられる。有り得ないほどの超重力によって地面が陥没しており、そこへ砂が流れ込んで流砂のようになっていた。ネメアはそのまま飲み込まれそうになる。

 しかし超越者であるネメアがこの程度のことで止まるはずがない。環境変化はネメアの「変化無効」では防げないものの、ただ重力が増大しただけなら動けるのだ。単純に霊力を大量に引き出し、出力を上げることで身体能力も上昇するのである。

 身体に霊力をまわす分、権能に使う霊力が少なくなるのだが、この超重力から抜け出すには仕方がなかった。だが不思議なことに、ネメアがいくら霊力を込めても体は動かなかったのである。



(どうなっているんや? 重力なんかで動けへんようになるなんて有り得へん。それにこれって……拘束系の能力で縛られてるみたいや)



 超越者である自分を縛ることが出来るなど、同じ超越者でなければ不可能だ。【魂源能力】などの特殊な何かがあれば別かもしれないが、オロチをファルバッサが抑え込んでいる以上、ネメアを拘束できる者は存在しないハズである。

 ところが、現状としてネメアは拘束されていた。

 これを為していたのがもう一体の熾天使セラフィム級であるガブリエル・コピーだった。



「Erom yna evom tonnac uoy」

(これで貴女は動けませんよ)



 ガブリエル・コピーは手にしている神槍・原初の水ジ・オリジンを掲げつつそう呟く。彼の持つ美しい青色の槍には見事な装飾がなされており、その穂先から特殊な効果が発動していた。

 それは停滞と沈静の能力。

 あらゆる対象を停止させ、沈静させる概念能力によってネメアは動きを止められているのだ。この神槍・原初の水ジ・オリジンは水を操るほかに、この停止能力によって熱運動を沈静化させ、凄まじい冷気をも操ることが出来る。さらにこの沈静化は生物に使うことで対象の行動を縛ることが出来るのだ。

 超越者であったとしても、神装とよばれる武具の影響は受けてしまう。これら神装は権能に匹敵する効果を有しているためだ。そもそも神装は超越者クラスの者が戦いで使用する武具であるため、これぐらいの概念能力を持っていて当然なのである。



(「変化無効」でも効果がなさそうやね。このままやと権能に霊力を使う余裕もあらへんわ)



 ネメアはどうにかして拘束を解除しようと試みるが、やはり動くことが出来ない。

 あらゆる変化系効果を無効化する権能【殺生石】の特性「変化無効」も意味がなかった。なぜなら変化とは時間経過による対象の遷移のことであり、対象を固定化する停滞に対しては効果を発揮できないのだ。



「Tnemgduj!」

(裁きを!)


「Yar yloh!」

(聖なる光を!)



 ウリエル・コピーとガブリエル・コピーは動きをとめたネメアへと無慈悲な宣言をする。

 熾天使セラフィム級の指揮下に入った終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカ、終末のアポカリプス・天使将アークエンジェルレプリカはその命令に従い、一斉に《光魔法 Lv10》を発動させてネメアへと攻撃を開始した。

 【固有能力】である《裁きと慈悲ジャッジメント》によって攻撃力が増幅され、さらに天使将アークエンジェル級の《付与魔法 Lv10》によって効果は極大上昇していた。それは物量にまかせた圧倒的攻撃密度も相まって、超越者にダメージを与えることが出来る程である。



”うっ……”



 世界が真っ白に染まるほどの激しい光を浴びてネメアは呻き声を上げる。霊力で構成された肉体は即座に再生しているのだが、この苦痛が続くとなれば精神的なダメージが大きくなる。それは意思力の減少を意味しており、それに伴って霊力を扱う力も失われてしまう。

 いずれは心が折れ、超越者の消滅だ。

 重力と停滞という二種類の神装に抑え込まれたネメアは完全に打つ手を失ってしまったのである。さらに一億九千九百万体もの天使から一斉に放たれる攻撃は砂漠すらも焼き尽くし、融解させるほどの熱量を生み出していた。

 これに関しては油断して熾天使セラフィムたちの神装を侮っていたネメアの落ち度だ。

 天九狐ネメアはこれまでにないほどの危機を迎えることになる。









 ◆ ◆ ◆







 一方で、百万もの天使を率いながら神域大結界内部の殲滅を受け持ったラファエル・コピーは全く戦果を出せずにいた。神域大結界に囚われている獣人、または竜人を殲滅するのが役目であるにもかかわらず、どれほど攻撃してもダメージが通らなかったのである。



「Laes esaeler. Nigiro ria eht」

(封印解放。神弓・原初の風ジ・オリジン



 ラファエル・コピーは神装を解放し、若草のような緑の弓を左手に顕現させた。弓という割に弦が張られていなかったのだが、ラファエル・コピーは構うことなく弓を引く動作をする。

 すると右手に純白の矢が出現し、同時に現れた光の弦によってキリキリと引き絞られた。矢の自動生成と必中、さらに使用者に風の防壁効果を与える神弓・原初の風ジ・オリジンの力が今、解き放たれる。



「Niur!」

(滅びなさい!)



 狙いを上空へと向けつつラファエル・コピーはそんな声を上げた。

 そして放たれた矢は運動エネルギーが消失するまで上空へ向かいつつ、無数に分裂する。そして必中の効果を持っている矢は雨のように降り注ぎ、地上で目を見開いている獣人たちへとぶれることなく向かって行った。



「うわああああああああっ!」

「嘘だろ。やべぇよ」

「いやぁ! 神獣様!」

「畜生。俺が弾いてやる」

「《気纏オーラ》で耐えるしかない。全員で備えろ!」

「子供だけは守れ。俺たちで盾になるぞ」

「わかっている」

「もちろんだ!」



 獣人たちは必死に《気纏オーラ》を発動させようとするが、神装である神弓・原初の風ジ・オリジンから放たれた矢がそんなもので防げるはずがない。このまま獣人の大量虐殺が行われるのかと思われた。

 しかし、降り注ぐ矢は獣人たちの身体に触れる瞬間に分解されて消失する。



「Gnizama si ti……」

(信じられない……)



 ラファエル・コピーは茫然としつつ呟く。

 所持している神弓・原初の風ジ・オリジンは攻撃力こそ低めだが、それは神装の中においての話だ。本来は一射万殺の殲滅力を誇る広範囲攻撃可能武器であり、結界などでも防ぐことは難しいハズである。しかし現に、ラファエル・コピーの眼下では誰一人として死んではいなかった。

 これは全てファルバッサの権能【理想郷アルカディア】による最強防御《楽園の結界システム・エデン》の効果だ。あらゆる法則を無効化することでどんな攻撃さえも通さない。それは神装による攻撃も同様だった。

 ファルバッサを遥かに超える出力で攻撃すれば別かもしれないが、ステータスに縛られているラファエル・コピーには不可能なことである。



「Niaga yrt」

(もう一度だ)



 ラファエル・コピーは自身の攻撃が消失理由を理解できず、神弓・原初の風ジ・オリジンから矢を連射する。さらに百万体の天使たちに命じて光やオーラによる攻撃をさせた。

 それでもファルバッサの絶対防御は破れない。

 ラファエル・コピーは終わらない消耗戦を強いられることになったのだった。







 ◆ ◆ ◆






 オロチを抑えていたファルバッサも苦戦を強いられていた。

 まずクウとネメア以外の味方に発動した《楽園の結界システム・エデン》のせいで【理想郷アルカディア】の能力を攻撃に転じさせることが出来ない。結果としてオロチの攻撃を防御したり無効化したりする作業に集中することとなり、押されている状況だと言えた。

 接近戦を仕掛けたことで多少はマシなのだが、やはりオロチの手数の多さは侮れない。



”グルアア!”


”シャアアアッ!”



 竜と龍が絡み合い、暴れて互いを攻撃する。

 その余波に巻き込まれた天使軍が幾らか消滅しているのだが、ファルバッサもオロチも気にすることなく戦いを続けていた。

 オロチが龍頭の数を生かして多方向から同時攻撃すると、ファルバッサは物理法則を無視したかのような飛行を見せつけて回避する。そしてファルバッサが放つ魔素収束系攻撃はオロチの「龍鱗」によって弾かれ、逆にオロチの放つ息吹ブレスはファルバッサの魔素透過法則で回避する。

 お互いに超越者であるため肉体的な疲れなどなく、先に精神が折れた方の負けとなる。今のファルバッサに求められているのは、どこまでも根気強い戦いだった。



(ネメアが拙いようだな……我もすぐには動けぬというのに厄介な)



 ファルバッサはオロチとの死闘を繰り広げつつも、「領域」による万能の感知で周囲の様子を知覚している。数えるのも嫌になるような天使と、二体の熾天使セラフィムによって動きを封じられ、集中攻撃を受けているのはファルバッサも感知していたのだ。

 だが目の前のオロチをどうにかしなくてはネメアを助けることなど出来るはずがなく、むしろオロチを倒すためにファルバッサが助けて欲しいほどである。



(あとは……期待できるとすればクウが戦いを乗り越えて超越化することぐらいか)



 ファルバッサが感知の意識を向けると、漆黒の瘴気と紅蓮の爆炎がぶつかりあっているのが感じられる。クウとミカエル・コピーの戦いは熾烈を極めたものとなっており、いつ勝負がついてもおかしくはなかった。

 それは権能にすら対抗しうる神装を用いた戦いだからであり、ステータスに縛られているクウやミカエル・コピーは一撃で死に至る可能性が高いのだ。

 何かの間違いで勝負が決まってしまうような戦い。

 クウは残りMPが殆どない中、ミカエル・コピーと対峙していた。






いい感じに「あとは主人公に託された!」状況になりました。

これにて『天使の軍勢』のタイトルは打ち止めです。長かったですね。

次回はクウとミカエル・コピーの戦闘になります。



……基本的に戦闘シーンを書くと長くなってしまうのですけど、嫌いな人っているのでしょうか? もっとサクサクとストーリーを進めて欲しいと思っている人はごめんなさい。やはり能力を解説しながらだと、どうしても長くなるんですよね。今回は特別な能力な武器がたくさん出たので余計に長いです。


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