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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
231/566

EP230 天使の軍勢⑦


 熾天使セラフィム級の出現。

 それは二億体にも及ぶ天使軍が全て召喚されたことを意味していた。もちろん、少なくとも十万体は倒しているので正確に二億体もいる訳ではないのだが、その程度なら誤差にしかならない。二億体の内の十万体など微々たるものだ。



「あれが俺と同じ熾天使セラフィム級の天使か……」



 クウは上空にいる四体の熾天使セラフィムを見上げながら呟いた。背にある三対六枚の翼は最高位の天使であることを示しており、この距離でも他の天使とは格が違うと判断できる。

 さらに彼らが所持している神剣イノセンティアにも微妙な違和感があった。



(何か偽装されている? 見た目は同じだけど)



 《森羅万象》の情報開示では偽装されているということだけが見えている。一体何を偽装しているのかは不明だが、神剣クラスの武器にかけられた偽装など、嫌な予感しかしなかった。

 だが今はそんな予感のことだけを考えているわけにはいかない。熾天使セラフィム級が出現したことで一斉に停止した終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカたちの方にも気を配らなければならないのである。



(停止したのは熾天使セラフィムの命令を待っているってことかな?)



 もしも熾天使セラフィム級が一斉攻撃を命じれば一巻の終わりだ。圧倒的な天使の物量に飲み込まれてしまうことは間違いない。それだけにクウの緊張は最高に達していた。



「Slegna espylacopa , ereh ckab emoc」

(終わりの天使たちよ。こちらに戻りなさい)



 熾天使セラフィム級の一体が発した言葉が緩やかに神域大結界の中で広がり、停止していた天使たちが再び動き出す。不思議な発音の言語であり、何を言っているのか理解できない。

 ……だがクウにはその意味だけ何となく伝わっていた。



「一旦引くのか……?」



 何故だか意味が分かってしまったことで思わずそう呟く。そしてクウの思った通り、終末のアポカリプス・天使エンジェルレプリカたちはクウの方など見向きもせずに熾天使セラフィム級の下へと集い始めた。

 これまでは乱雑に動き回っていた天使たちが一糸乱れぬ軍隊のような動きを見せ、四体の熾天使セラフィム級の後ろで整列していく。二億近い天使が整然として並んでいる光景を見ると、まさに神話のようだと思えた。しかしこれは終末の始まりを示す前奏曲プレリュードなのだ。見惚れて油断する訳にはいかない。

 大量の天使を消し飛ばしていた天九狐あまつここのえきつねネメアでさえも、余計なことをせずに見守っていたのだから。

 オロチとファルバッサも一旦戦いを中止し、全員が熾天使セラフィムへと目を向ける。



「Daol ym fo tnorf ni era ew……」

(我らの身は御前に……)



 不思議な響きを有している熾天使セラフィムの言葉がクウの中で一つの意味となる。何故意味だけを理解できるのかは不明だったが、今のクウにはそれを考える暇はない。《森羅万象》で解析できれば良いのだが、これは目視したモノの情報を開示する能力であるため、音に対しては機能しなかったのである。

 そして全ての天使が集合し、熾天使セラフィムたちと共に服従の意思を示した相手は召喚者であるオロチだった。この《神罰:終末の第六アンゲルス・ミリトゥム》は召喚者に敵対する者を殺し尽くす術式であり、一時的にでも主となったオロチには絶対服従だ。つまり、オロチは最強の手駒を手に入れたということである。

 空を飛び、魔法にも物理にも優れ、圧倒的な性能の神剣を持ち、強力な回復を使える天使が二億体。神域大結界という効果範囲制限が無ければ世界の終わりだ。尤も、世の終末に使用される神罰であるため、それだけの性能があるのは当然のことなのだが……



「Daol ym noitcetorp sah ydobon. Doal eht rof lla taefed dna. Tiaw……llew! Live fo noitcetorp evah taht owt era ereht. Tsrif ta owt eseht taefed」

(我が主の加護を持った者はいない。全てを打ち滅ぼせ。いや……待て! 邪な神の加護を持つ者が二人いるぞ。先にこの二人を始末する)


「Ecruoc ffo. Daol eht rof si lla」

(もちろんだ。全ては我らの主のために)


「Htaed srennis evig lliw ew!」

(罪人に死を!)


「Daol eht ta yrolg reffo lliw ew!」

(主に栄光を!)



 四体の熾天使セラフィムはクウとミレイナが加護を所持していることに気付いた。彼らの主……つまり召喚者であるオロチを唯一とせず、他の神からの加護を持っている者は等しく大罪人とされ、問答無用でターゲットとなる。

 神獣であるファルバッサとネメアも加護を持っているのだが、二人に関しては超越者としての情報プロテクトによって気付かれることがなかった。それでクウとミレイナだけが加護持ちだと判断されていたのである。

 当然ながら、熾天使セラフィムたちの言っていることが理解できたクウは焦りを覚えた。ようやく天使が引いてくれたかと思えば、態勢を整えてクウとミレイナを最優先に仕留めるというのだ。やってられないというのが正直な感想である。



(……仕方ない、か)



 クウはチラリとミレイナの方へ目を向けつつ内心でそう呟いた。全ての天使が上空にいる熾天使セラフィムの側へと行ってしまったことで、今だけは味方の姿がハッキリと確認できる。素晴らしいことに誰一人として欠けておらず、竜化・獣化をしている状態で困惑した表情を浮かべていたのだった。

 恐らく奮闘しているところで熾天使セラフィム級が出現し、戦いが急に中断されたことによるものだろう。

 このタイミングで熾天使セラフィム級が現れたのは痛いが、逆にこれはチャンスでもあるとクウは考えたのである。ことを決めればすぐに動くべき。そう考えたクウは大きく息を吸い込んでから天竜ファルバッサへ向けて叫んだ。



「ファルバッサァァッ! 俺以外の全員に絶対防御を使えェッ!」



 クウ以外の全員……つまりシュラム、ミレイナ、アシュロス、エルディス、ヴァイスの五人に《楽園の結界システム・エデン》の絶対防御結界をかけることの要請である。ファルバッサも今の状況がチャンスであると考え、即座に権能【理想郷アルカディア】を発動させて、《楽園の結界システム・エデン》を五人にかけたのだった。

 さらに黙って眺めていたネメアも毒物を生成し、天使たちに向けて放つべく能力を行使する。



”固まって遠くに逃げるなんて、ウチの標的になるだけや”



 広範囲に毒を散布することで一度に大軍をも死に追いやるネメアからすれば、遥か上空に集合して固まっている天使軍など的にしかならない。

 ネメアの毒は強力すぎるゆえに、周囲の環境などに配慮しなくてはならず、基本的に無差別で権能を発動させることは禁止タブーだ。世界を細かく調整する存在である神の使いが、積極的に世界を壊していたのでは話にならないからだ。

 しかし今のように一か所に纏まっているならば話は別である。一方向に向かって毒を放射する程度なら環境への被害が無いようにするのも容易く、【理想郷アルカディア】でネメアの毒を無害化しているファルバッサへの負担も少ない。ファルバッサ自身もオロチを抑えることに集中できるようになるのである。



”《傾国の吐息フォールン・ブレス》”



 ネメアは「魔素支配」にて口元に魔素を圧縮させ、それに強力な死毒を混ぜ合わせる。禍々しい色に変貌した魔素の圧縮体はネメアの口元で縮み続け、直径二メートル程の球体になった。

 そのまま炸裂させるだけでも国が滅びる毒の塊は、方向性を与えて放射することで遠距離からピンポイントで対象を狙い撃つことを可能とするのだ。そして今回の場合、ネメアが狙うのは天使軍のヘッドである熾天使セラフィム級の四体である。

 もはや吐息とは思えない、息吹ブレスのようなものが放たれた。



「Sreirrab sekam ydobyreve!」

(総員、結界を張れ!)



 熾天使セラフィムの一体が慌てた口調で指示を出し、天使たちは《結界魔法 Lv10》を用いて防壁を構築する。およそ二億体もの天使が一度に展開した防御壁は重ねられて分厚くなり、ネメアの《傾国の吐息フォールン・ブレス》を受け止める。

 本来ならば紙のように消し飛ばされる結界も、こうして重ねれば十分な防御力を持つ。

 半分ほど結界防壁を打ち破ったところでネメアの吐息は消失した。



”……これは驚いたねぇ”



 ネメアも流石に言葉を詰まらせた。辛うじて零れた感想は本心から来るものだろう。

 確かに超越者の権能に対して、スキルを使って対抗することは不可能ではない。だがそれは【魂源能力】レベルの話であり、如何に最高レベルとは言え【通常能力】で対抗することなど出来るはずがないのだ。

 しかし天使たちは何重にもスキルを重ね合わせることでそれを可能にした。

 数によるゴリ押しと言えばその通りなのだが、結果として対抗できているのだから何も言えない。



「Slegna espylacopa noillim htiw srennis taefed eno. Slegna rehto eht htiw erutaerc sliat enin eht taeb owt. Eltsopa live eht llik lliw i dna」

(一人は百万の終末天使を率いて罪人を滅ぼし尽くせ。二人と残りの天使全てで九尾の獣を倒す。そして私は邪の使徒の一人を殺そう)



 先程からよく発言している熾天使セラフィムが指示を出す。

 すると整然と並んでいた天使たちは一斉に動き出し、熾天使セラフィムの言葉通りに行動を起こしたのだった。

 つまり、熾天使セラフィム級の一体が率いる百万体の天使が神域大結界の中に囚われている者を殺し尽くすために散らばり、二体の熾天使セラフィム級が率いる残りの天使――およそ一億九千九百万体――がネメアへと向かう。そして天使軍全体に指示を出した最後の熾天使セラフィム級がクウの下へと降りて来たのである。



「律儀に一騎打ちをしてくれるってことか?」


「Suolucidir si taht. Daos ym htiw htaed og nac uoy」

(笑止。貴様など私の剣のみで十分だ)


「やってみろ劣化コピー天使!」



 クウと熾天使セラフィムは言葉を言い終わると同時に消えて、次の瞬間には剣を交える。亜音速戦闘による激しい剣の舞が空中で火花を散らし、周囲を彩っていた。

 一方のネメアも二体の熾天使セラフィムと数えきれない天使たちと戦い、ファルバッサもオロチとの戦いを再開する。そして他の者を殺し尽くすために解き放たれた百万の天使と一体の熾天使セラフィムが、《楽園の結界システム・エデン》を施された者たちへと襲いかかる。

 長時間にわたる召喚を終えた《神罰:終末の第六アンゲルス・ミリトゥム》の真骨頂は統制された大天使軍による侵攻。どんな軍隊でも、どんな砦でも、どんな国でも絶対に滅ぼす天使軍との本当の戦いが始まったのである。






熾天使の言葉は何語でしょう?

簡単な暗号化をしていあるので分かりにくいと思いますが、当ててみてください。当たっても何もありませんけどね(笑)


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 中盤のお使いクエスト長ぇ…
[一言] セラフィムだと話すことができるんだ。ていうか、なんかクウとセラフィムが普通に話せてたんだけどなんで?クウはともかくとしてセラフィムはなんで言葉がわかったんだろ?
[一言] 英語を逆から書いただけ
2019/12/02 23:37 あああああ
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