EP226 天使の軍勢③
感想欄でも書いたのですが、少しだけ説明です。
現在、クウは魔力を体内に溜めておく仮想器官(=魔力の器)が損傷し、魔力を使用できないようになっています。これ、ファルバッサの法則改変で修復できないかと思われた方もいるかもしれませんが、残念ながら不可能です。
理由としては、この魔力の器はファルバッサよりも高位の存在によって法則が支配されているからです。
以前にEP151『魔力と霊力』で記述したと思いますが、魔素・魔力は魔法神アルファウ(魔神ファウストの正式名称)によって作り出されたという設定でした。これにあたって、魔素の存在に関わる法則や、魔力を練り上げて保持する魔力の器に関する法則など、一部の法則は魔法神アルファウが直接管理していることになっています。つまり、この辺りの法則関連はファルバッサに操作することが出来ないのです。
まぁ、この辺りの設定は、何としてでもクウに回復をさせまいとする何者かの計り知れない意思を感じさせますね(白々しい)
「はあああああああああああああっ!」
ミレイナが放った全力の《竜の壊放》は終末の天使レプリカの《結界魔法 Lv10》によって防がれる。力を集中させず、ただ発散させるだけのミレイナでは天使の防壁を破ることは叶わなかったのである。
「行けっ!」
ヴァイスが気配を消しつつ《気纏》を纏わせたナイフを無数に投擲するが、終末の天使レプリカたちは超絶剣技でその全てを弾き返していた。纏っていたヴァイスの気も神輝聖金の神剣による無効化能力で打ち消され、まるで意味を為さない。
「まるで歯が立たぬとはな……侮っておったか」
巨大な戟を振り回しながらアシュロスは苦い顔をする。
ステータス値は終末の天使レプリカに優っているが、スキルで圧倒的に負けているのだ。身体能力の差は《魔力支配》と《気力支配》によって埋められ、《魔闘剣術 Lv10》の圧倒的な剣技が襲いかかる。何より神輝聖金を鍛えた神剣は全てを切断し、あらゆる性質を無効化してしまう能力を有しているのだ。武器の性能すらも勝てないのではこうなってしまうのも仕方がない。
「咬み砕け!」
シュラムは深紅の気を槍に纏わせて奥義『竜牙紅気咬』を放つ。殆ど同時に放たれる上下からに槍撃が直線状の対象を竜の顎の如く噛み砕くことを可能とするが、それは天使たちの放つ黄金の気によって防がれた。
「風よ切り裂くのだ」
《魔法双剣術:風》を扱うエルディスは見えない風の斬撃を飛ばして終末の天使レプリカを殲滅しようとするが、やはり結界による防御で防がれていた。
ファルバッサによる手助けで空中を移動できるようにはなっているものの、天使たちの能力はそれを遥かに凌駕しているかのように思える。
しかし天を埋め尽くす天使の大軍は、この時点ですら手加減の域を出ていなかった。つまり、こうしてシュラムたちが生き残っているのは天使軍が手を抜いているからだと言えるのである。
何故なら終末の天使レプリカは今も天上にある白き次元門から召喚中であり、最後に現れる熾天使級の四体を待っている状態だったからだ。
”思ったより拙いか……”
ファルバッサは声を低めて召喚され続けている天使を眺める。
現時点で神域大結界の中に召喚されている天使はおよそ六千万体であり、あと一億四千万体が現れて熾天使級が出現するまでは積極的に攻撃してこないだろう。しかし二億体ともなれば超越者でも眉を顰めたくなる数だ。その上オロチも相手にしなくてはならないため、出来ればクウ、シュラム、ミレイナ、アシュロス、エルディス、ヴァイスで天使を始末して欲しい所である。
”だがそれも望めそうにはないな”
いざという時は《楽園の結界》の絶対防御を発動させることを考えつつ、ファルバッサは完全復活したオロチへと目を向けた。
”厄介な事よ。もう一度、その身を朽ち果てさせてやろう”
”シュルル。やってみろ駄竜”
オロチはそう言って基本属性を司る七つの龍頭から一斉に龍息吹を吐きだした。炎水風土雷光闇の属性が込められた七色の息吹がファルバッサに襲い掛かり、時空間属性による空間破壊攻撃、付与属性による呪い攻撃、結界属性による回避妨害、回復属性による自己活性が行われる。巨大な身体を有するファルバッサでは回避することも難しいが、これを権能によって可能にした。
”魔素透過の法則を発現”
ファルバッサは自身に魔素を透過させる法則を織り込み、魔素圧縮攻撃である息吹を無効化した。これによって結界も通過できるようになり、ファルバッサは空間破壊攻撃と呪い攻撃にだけ注意を払うだけで良くなる。
さらにこの状態でファルバッサは接近戦を仕掛けた。
”小癪な!”
”重力支配、慣性支配を実行”
ファルバッサは力の法則を支配して通常ならば実現不可能な飛行を可能に変えている。慣性力を全て方向転換に利用し、重力を調整してバランスを取ることで、物理法則に喧嘩を売っているかのような飛翔を見せつけたのだ。
”消し飛べ。《真・竜息吹》!”
ファルバッサは口元に魔素を極大圧縮させて一気に放つ。臨界点に達した魔素はファルバッサの破壊の意思を込められて銀色に輝き、破壊の一閃となってオロチの龍頭を一つだけ消し飛ばす。
”おのれ!”
”遅いぞ。《風魔神斬》”
ファルバッサが大きく翼を羽ばたかせると、魔素で出来た刃が無数に飛来してオロチへと襲いかかる。一つ一つが圧縮された魔素の塊であり、その全てがコントロールされてオロチの巨体へと降り注いだ。
”そのようなもので余を傷つけられると思うな!”
オロチは結界によって防壁を張り、降り注ぐ《風魔神斬》を防ぎきる。そしてカウンターとばかりにオロチの持つ最強の息吹を放ったのだった。
”消え去れ! 《次元共鳴・時空崩壊龍息吹》”
付与属性によって強化された時空すらも破壊する究極の息吹がファルバッサへと襲いかかる。次元を引き裂き、全てを飲み込んで葬り去る極悪の攻撃は付与の効果によって昇華され、周囲の空間を連鎖破壊して広範囲に滅ぼし尽くすことを可能にしている。
(またアレか。我の後ろに味方はおらぬし、逃げた獣人たちは絶対の法則防御をしておる。回避しても問題は無かろう)
ファルバッサは一瞬のうちにそう判断して、慣性支配による物理法則を無視した動きで回避する。そしてゼロコンマ一秒前にファルバッサがいた場所を《次元共鳴・時空崩壊龍息吹》が通過したのだった。
それは音もなく、慈悲もない。
この最強息吹に飲み込まれた対象は問答無用でこの世から永遠に消え去ることになる。同じ時空間支配系の能力を持っていない限りは脱出不可能だろう。もしくは特殊な対抗能力が必要になることは間違いない。
そしてこの息吹に巻き込まれた天使たちは残念ながらこの手のスキルを有しては無いかった。神輝聖金の神剣もオロチの権能による効果は無効化できず、次元の彼方へと吸い込まれて消えていく。これによって千体以上もの終末の天使レプリカが犠牲となったのだった。
尤も、二億体の内の千体程度では痛くも痒くもないのだが……
”グルアアアアッ!”
”シャアァァァッ!”
息吹を回避してようやくオロチの懐へと飛び込んだファルバッサは近接戦闘による牙と爪での攻撃を開始する。これで派手な攻撃をしては自爆する可能性が増えたオロチは大技を使うことが出来ず、天使たちを相手にする周囲への被害は抑えることが出来るようになったのだった。
”ふぅん。やるやん”
そんな様子を少し離れた場所で見ていた天九狐ネメアは感心したような目でファルバッサに称賛を送った。そしてそんなことをしつつも死を纏う《死神の衣》を使って天使たちを屠り続ける。
ネメアの《死神の衣》は情報次元に侵食して対象を崩壊させる毒を纏う技であり、高い防御力と回復力を有している天使すらも一瞬で塵にしていたのである。
”《吸命殺生》”
ネメアはウイルスのような毒を撒いて天使の持つMPを魔素に強制変換させ、それを奪い取ることで絶命させる。天使たちはネメアに近づけば《死神の衣》で滅ぼされることを学習したらしく、遠距離から《光魔法》による攻撃へと変えてきたため、ネメアも遠距離攻撃を中心にし始めたのだ。
”これで千体は潰れるやろ。《冥王の死宝》”
纏っていた《死神の衣》を一点に集中させ、禍々しいばかりの赤黒い毒玉を生成する。圧縮することで毒性を極大増加させたネメア最強の攻撃は、弾ければ広範囲に死を撒くことになるだろう。
命を刈り取る冥界の宝玉が今、ネメアによって静かに放たれ、天使たちの近くで炸裂した。
「『《抗魔結界》』」
「『《破邪結界》』」
「『《光の聖衣》』」
「『《聖光領域》』」
終末の天使レプリカたちは全力で防御しようとするが、所詮は通常能力による効果だ。ネメアの権能を正面から打ち破ることなど不可能である。
ネメアの宣言通り、千体近くの天使が赤黒い毒に飲まれたのだった。
現在、消滅した天使の数は三万六千二百五十三体。
これは殆どネメアが倒した数であり、クウですらも千体も倒していない。
シュラム、ミレイナ、アシュロス、エルディス、ヴァイスの五人が倒した天使の数に関しては、合計しても僅かにゼロ体でしかなかった。
つまり、一体も倒すことが出来ていなかったのである。
「拙いか……」
槍を構えるシュラムは難しそうな顔でそう呟く。
神輝聖金の神剣は打ち合えばこちらの負けであり、確実に武器を破壊されることになる。それゆえ、シュラムたちは気による遠距離攻撃を強いられていた。しかし《気力支配》を有している天使たちの方が当然ながら気の制御は上手く出来るので、攻撃は全て弾かれてしまうのである。
「あの剣を掻い潜り、あの防御を貫くだけの攻撃を与えるには……」
今のままではそれは不可能だとシュラムも理解できている。
数でも能力でも武器でも負けているのだ。それを覆すには何か突破力になる力が必要になるのだが、そんな都合の良いものは――ないわけではない。
この状況をどうにか出来るかもしれない方法はあると言えばあるのだ。
だがそれは天使二億体を削りきれる程の大きな力でもない。途中で力尽きるのは明白だった。
(いや、そんなことを気にしてどうする。それに私だけでも全てを解決する必要などない。アシュロス殿もエルディス殿もヴァイス殿もいる。それにミレイナもクウ殿もいるのだ。私は私の出来ることを確実にこなせば良い。そうすればファルバッサ様とネメア様の役にも立てるだろう)
シュラムはそう決意を固めてずっと残していた切り札となる力を解放する。
竜人として生まれたときから遺伝子の中に宿している竜の能力。圧倒的な身体能力と耐性を有する強靭な肉体に秘められた更なる力の先。それを解放するためにシュラムは自分の奥底に眠るモノへと呼びかけた。
「この身に竜の力を―――『竜化』!」
その瞬間、天使軍が埋め尽くす戦場に一人の竜戦士が現れたのである。
あっるぇ……
何で物語の中盤で最終決戦みたいな戦いになっているんだろ……
最強ヒュドラと二億体の天使とかラスボス臭が漂っている気がするんだけど気のせいだよね。
物語はまだ折り返し地点です。
ホントのラスボスにはもっとエグイ奴らを用意しているので楽しみにしておいてください。
評価、感想をお待ちしています





