EP225 天使の軍勢②
クウは翼を広げて飛び上がり、虚空リングから神刀・虚月を取り出す。そして現在の能力を正確に確認しておくために小さく「ステータス」と呟いた。
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クウ・アカツキ 17歳
種族 天人 ♂
Lv196
HP:9,456 /40,023
MP:47 /39,814
力 :38,434
体力 :37,389
魔力 :38,551
精神 :49,428
俊敏 :38,495
器用 :39,876
運 :40
【魂源能力】
《幻夜眼》
《月魔法》
【通常能力】
《剣術 Lv7》
《魔法抜刀術 Lv9》 rank UP
《森羅万象》
《魔力支配》
《気配察知 Lv8》
《思考加速 Lv6》 Lv2 UP
【加護】
《虚空神の加護》
【称号】
《異世界人》《虚空の天使》《精神を砕く者》
《兄》《到達者》《指名手配犯》
《情報操作のプロ》《扇動》
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「超越化には少し足りなかったか……」
現在のクウはLv196であり、超越者へと至るためには少し足りない。スキルの性能が上がったり、何やら不名誉な称号が付いてはいるが、現状においては有効な能力が少ないだろう。
何よりモルドとの一戦でHPとMPが大きく消耗しているのだ。
これからの天使軍との戦いでどれだけ影響するかは分からないが、万全でない状態であることには間違いない。切り札はあるものの、気を付けて戦うべきだろう。
「天使たちの武器は厄介だ。破壊不能武器を所持していないなら絶対に打ち合うなよ!」
クウはシュラムたちにそう忠告して翼を羽ばたかせる。
そして《思考加速 Lv6》を発動させつつ、圧倒的なステータス値を存分に使って終末の天使レプリカへと接近した。瞬間移動を思わせる急加速と急停止はクウへと負担をかけるが、クウはそれに耐えつつ神刀を抜き放った。
「まずは一体目」
次の瞬間に終末の天使レプリカは両断され、構えていた黄金の剣ごと上下に分かれる。そしてそのまま淡い光の粒子と化して消えていった。
これで二億体の内の一体である。
カチリと神刀・虚月を納刀したクウは即座に次の相手へと切りかかろうとする。神域大結界中にはまだ数千万ほどしか召喚されていないが、それでも周囲を埋め尽くすほどの天使がいるのだ。ターゲットには困らない。
しかしクウは二度目の居合を思いとどまって一旦下がった。
「クソッ! 《魔力支配》と《気力支配》で強化されたか。さすがに《思考加速 Lv10》と同等のスキルがあれば俺の動きにもついて行けるってことか?」
終末の天使レプリカが一斉に黄金のオーラを纏い始め、体内の魔力が活性化しているのがクウにも見えた。つまり《気纏》と《身体強化》が発動したということである。
この二つの強化があればクウとのステータス差も十分に埋めることが出来る。つまりはクウのアドバンテージが消されたということだった。
「剣技は向こうが上。魔法とか特殊能力は俺が勝っているけど魔力が無いから使えないしなぁ。やっぱり大人しく待っていた方が良かったか?」
若干の後悔をしつつ呟いているクウの下に、四体の天使が迫る。神輝聖金で出来た神剣には光属性が宿っており、《魔闘剣術 Lv10》が起動していると理解できた。先程オロチを回復させるために放たれていたのを見ているため、クウは注意しつつ抜刀の構えをする。
(右に二体と左に一体、そして上から一体か。右からの二連攻撃をこちらに受けさせ、そこで左の奴に攻撃させるつもりだな。右利きだから俺がバランスを崩すだろうって思われているはず。そして俺がバランスを崩したところで上の奴が本命の一撃と……上手く連携してくるな)
クウは敢えて相手の思惑に乗ることにする。
まずは右から来ている二体の天使の内の一体がクウへと切りかかり……クウはそれを神速の抜刀で弾き飛ばした。《魔法抜刀術》のスキルは居合の時に攻撃力と攻撃速度をスキルレベル×1.5倍する効果を有している。つまり、現在のクウは居合の時に限り、攻撃力と攻撃速度が13.5倍になるのだ。天使スペックであるクウから放たれる居合は想像を絶する威力であり、その際の強烈な衝撃波で四体の天使を全て吹き飛ばしたのである。
さらに弾き飛ばされた神輝聖金の神剣は音速を遥かに超えて別の天使たちへと直撃することになった。これを喰らった天使たちは当然ながら即死である。
しかし天使たちは動揺した様子もなく、今度は八体同時にクウへと掛かってきた。
(全てを切り裂き、無効化する神輝聖金の神剣を弾かれても、仲間の天使を殺されても表情一つ動かさないのか。不気味だな)
黄金に輝く神の金属、神輝聖金を鍛えて造らている神剣だが、虚空神ゼノネイアの権能を込めて創造された神刀ならば問題なく対処できる。簡単に神輝聖金の神剣を弾いたことで少しは動揺があるかと思っていたクウだが、そうでもなかったことに内心で溜息を吐いていた。
「流石に八体は無理そうだし、ちょっと汚い手を使わせてもらうか」
クウはそう言いながら神刀・虚月を引き抜き、そのまま背中を見せて逃げる。すると天使たちはそれに対応するかのように次々とクウを追いかけ、ある時は先回りし、追い詰めようと動き始めた。
しかしクウは全ての天使から逃げて、どうしても避けられない攻撃だけは鞘で撃ち返す。反撃することなく逃げるだけのクウを追いかけることに痺れを切らしたのか、天使たちは遂に魔法を使い始めた。
『《降天神罰光》』
その瞬間、天より降り注ぐ光の乱舞が辺りを真っ白に塗り変えた。
数百体の天使が同時発動した《降天神罰光》は上空から無差別に光の柱を降り注がせる術だ。数百体分の術ともなれば、回避する場所すらも与えられずに滅ぼされることになるだろう。
だがそれは普通の者を相手にした場合の話だ。
(《月魔法》が使えたら簡単に対処できるってのに……めんどくせぇ……)
普通ならば闇系統の魔法などで防御するしかないだろう。
だがクウには《森羅万象》と《魔力支配》のスキルがあった。これによってランダムに発生する全ての光の攻撃を予測探知し、最適行動を計算して全ての光の柱を回避したのである。《森羅万象》を少し本気で使用すれば術式を解析して攻撃予測ポイントを開示させることもできる。あとは《魔力支配》で魔力を感知して確認をとれば正確に攻撃地点を予測探知できるのだ。
(五、四、三……)
天使たちの放つ《降天神罰光》の効果が切れるまでのカウントをしつつ、その後に取るべき行動を考え始める。見てからの回避が不可能な光攻撃を前にして余裕を見せるクウだが、あくまでもこれはクウだからこそ出来ている事であって、普通ならばあっという間に身体を焼き尽くされていることだろう。
(二、一……行くぞ!)
光が消えると同時にクウは一気に下降しつつ、神刀・虚月をゆっくりと鞘に収めていく。それを見た天使たちは一斉に追いかけるが、クウは慌てることなくそのままカチリと刀を収めた。
「溜めておいた斬撃の嵐だ。喰らいな」
クウがその言葉を言い終わるか終わらないかといったところで追いかけて来た天使が全て綺麗に切り刻まれた。当然ながら神刀・虚月による絶対切断の効果が発動したのである。
回避に徹していた時のクウは神刀・虚月に魔力を流したままにしていた。つまりは空間中に大量の斬撃を設置していたのである。神刀・虚月に流す程度の魔力は残っているからこそ出来た手段だった。
そして先ほどの光の柱の乱舞の際にも斬撃は設置し続けており、クウが回避していた場所は一種の結界のように無数の斬撃が設置されることになったのである。あとはクウがその空間から離れつつ、大量の天使を誘い込んでから神刀・虚月を鞘に収めれば良い。
「これで二百体ぐらいは殺ったか? ネメアの方はもっと凄いけど」
少しだけ余裕の出来たクウは金毛の九尾ことネメアが暴れている場所に目を向ける。権能【殺生石】によって無数の毒を操るネメアは広範囲に大量の敵を葬ることを得意としているため、天使の大軍すらもまるで相手になっていなかった。
”ただの天使ではウチの相手にならへんで。最低でも熾天使級超越天使を用意せな焼け石に水と同じよ?”
ネメアが九つある尾を振るうたびに数十の天使が吹き飛ばされ、衝撃波と共に飛ばされる毒の波動を浴びた天使たちは《光魔法》や《回復魔法》すら間に合わずに消滅する。《結界魔法》で防御も試みているようだが、超越者たるネメアが本気を出せば紙屑のように消し飛ばされていた。
しかしネメアがこれらの攻撃で倒せる天使の数は一秒あたりに百体ほどだ。総勢にして二億体の天使を全て駆逐するためには二十日以上もかかる計算になる。
そのことに気付いているネメアは更に効率的に天使を始末するための毒を生成した。
”《幻惑の毒霧》”
思考を惑わせ、味方を敵に見せることで同士討ちを狙う幻惑効果の毒霧だ。ネメアを中心として広範囲に撒かれていき、数千体もの終末の天使レプリカが効果範囲へと捕らわれる。
そして天使たちはカクンと動きを止め、ネメアへの攻撃を止める。そして次の瞬間には幻惑効果のままに同士討ちをし始めた。
魔闘剣技が放たれ、各種魔法が飛び交い、終末の天使レプリカたちの争いは一層激しくなる。しかし不自然なことに、天使たちはいくら攻撃を受けても傷一つ負っている様子が無かった。これにはネメアも不審に思う。
”どうなってるんや?”
終末の天使レプリカは【固有能力】である《裁きと慈悲》のお陰で味方同士の攻撃は全て回復効果に転じることになる。つまりフレンドリィファイアを狙っても効果を発揮しなかったのだ。
残念ながら解析系の能力を所持していないネメアはそれに気づかず戸惑うばかり。クウがこの光景を見ていれば注意をすることが出来たかもしれないが、既にクウも次の天使たちの対処へと当たっている。
ネメアは効果が無いと考えて仕方なく割り切り、最強毒を纏う《死神の衣》で天使軍の中へと踏み込んでいくのだった。
消された天使の数はたったの一万二千五百十七体。
天上の白き次元門より溢れる天使軍によって神域大結界内部は更なる天使に満たされるのだった。
クウのステータスは結構久しぶりに出しましたね。
個人的にはステータスの記述って飛ばし読みする派なので、あまり細かく記載しないようにしていますけど、キャラのステータスを気にする方っていらっしゃるのでしょうか? 一応、アシュロスとかのサブキャラはステータスを出さずに文面だけで能力説明しているので、分かりにくいかもしれませんがね。
まぁ、もともとステータスなんて超越者の設定を説明するためだけの繋ぎでしかないので、作者としてはもっと簡単な記述方式にするべきだったと後悔しています。
どうしても各キャラのステータスを詳しく見たい方がいらっしゃるなら、設定集みたいなのを作って合間に投稿するかもしれません。
評価、感想をお待ちしてます。





