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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
210/566

EP209 レイヒムの自白

「これで終わりだなレイヒム」


「くっ……」



 クウがそう問いかけながら近寄る。

 いつもは胡散臭い笑みを浮かべているレイヒムも、さすがに悔しそうな表情をしていた。レイヒムの手札である召喚魔物が尽く潰され、最強の六体であるジーロック、ポイズンコブラ、デッドスコーピオン、デザートエンペラーウルフ、デーモンロード、マンティコアすらもいない。それに対して天使クウ、竜人の首長シュラム、壊神の使徒ミレイナが相手なのである。

 普通に考えれば絶望しかない。



(どうにかして時間稼ぎをしなければ……。使いたくなかったのですが、アレ・・を召喚するには時間が掛かりますしね)



 レイヒムはまだ諦めてはいなかった。

 相手の力量は凄まじいモノであり、どんな間違いが起こってもレイヒムの実力で勝利は有り得ない。レイヒムが勝つにはクウたちを倒せる召喚獣を呼び出す以外に有り得ないのだ。

 そのための時間稼ぎを願っていたレイヒムだが、たとえどんな悪人だったとしても諦めない者には幸運が降りて来るらしい。クウの方からそのための提案がなされた。



「ちょっと話をしようかレイヒム」


「……は?」



 思考の八割近くを時間稼ぎの計画に費やしていたレイヒムはワンテンポ遅れて返事をする。まさにレイヒムが願っていた時間稼ぎをするために、会話というのは絶好のチャンスとなるからだ。

 レイヒムは出来るだけ困惑した表情を保ちながらクウへと聞き返した。



「話……ですか?」


「ああ、いろいろと喋って貰いたいことがあるんだよ」


「なるほど。情報を抜き取るということですね」


「そういうことだ」



 クウは頷いて肯定する。

 レイヒムも馬鹿ではないため、クウの言わんとしている意味を推測するぐらいは容易かった。シュラムとしてもクウが聞きだそうとしているレイヒムの話は気になる部分がある。一度槍を収めて話を聞く態勢へと変化させた。最低限の警戒はしているが、戦闘状態は解除したと言えるだろう。

 しかし先程来たばかりであるミレイナだけは不服そうに声を上げた。



「何故そんな奴の話を聞く必要があるのだ? 早く殺せばいいのに」


「コイツを殺せば呪いを解除する手段が無くなる。殺すわけにはいかないと説明しただろう?」


「む……」



 クウにそう指摘されたミレイナは少し考えるような素振りを見せる。そして数秒もすると思い出したらしく、納得したような表情へと変化した。

 竜人の里では多くの民が呪いの効果で苦しんでいるため、そこから早く解放するためにもレイヒムには呪いを解かせなければならない。そして呪いの発動元である《怨病呪血アヌビス》で解除をしなければ発動した呪いを解くことは出来ないのだ。

 肉体を侵食し続ける呪いの核と、呪いを生み出す汚染された肉体。

 いわばウイルスが他の生物の細胞を使って増殖するように呪いが体内で無限に生成され続けるのがこの能力の恐ろしさの秘密なのだ。



「なるほど。私に呪いを解かせる、もしくは呪いの解き方を聞き出すのが目的ということですか」


「それがメインの一つではあるな。俺が個人的に聞きたいこともあるけど」


「個人的にですか?」


「ああ」



 クウはレイヒムが素直に会話に応じている事を疑問に思ったが、今更なにかを企んでいたとしても問題ないだろうと判断して質問をする。



「お前はどうやって【魂源能力】を手に入れた? 神種とは何だ?」


「何故それを!? いえ、今更ですね」



 いきなり核心を突く質問だったが、変に会話を長引かせるのは得策ではない。クウはそう考えてレイヒムを見つめつつ強い口調で聞いたのだった。話しが読めないシュラムはクウに詳しい内容を聞きたそうにしているが、クウはそれを軽く流す。

 一方でレイヒムは焦ったような声を出した。

 【魂源能力】についてはまだいい。ダリオンがクウのステータスをコピーしたことで、レイヒムもクウが【魂源能力】を所有していると知っているからだ。だが神種についても知られているとは驚きだったのである。

 しかしクウの実力を見たレイヒムはすぐに納得した。

 クウならば何でもアリだろうと思ったのである。



(ふむ……あの人・・・には恩もありますが、話したところで問題はありませんね。彼も気にしない様子でしたから大丈夫でしょう)



 レイヒムにとっては今を生き延びる方が重要だ。

 それに大人しく話さないと手段を選ばないという雰囲気を発していたクウに気圧されたという部分もあったのである。獣人として、強者には逆らえないという本能もあったのだろう。レイヒムは大人しく話し始めた。



「私が能力を手に入れたのは魔王殿のおかげですよ。【アドラー】を治める最強の魔王オメガ殿です」


「魔王オメガね。随分と簡単に喋るな」


「私も命は惜しいもので」


「確かにお前が素直に口を割らなかったら無理やり吐かせていたな」



 サラリと恐ろしいことを言い出したクウに、レイヒムは大人しく話し始めてよかったと密かに安堵の息を吐いていた。

 しかし無理やり吐かせるのが良いとは限らない。

 《幻夜眼ニュクス・マティ》の能力で精神を狂わせ、無理やり情報を吐かせることも可能と言えば可能なのだが、やはり精神を壊す分だけ情報に欠けや誤りが生じてしまう。《森羅万象》で嘘は見抜けるので、普通に情報を吐いて貰う方が良いのである。



「それでどうやって魔王が【魂源能力】を? それになぜお前が与えられたんだ?」


「さぁね? 何故そんな能力を与えることが出来るのかは知りませんよ。ただ、何か淡く光るモノを心臓の辺りに押し付けられましたね。それで能力が開花し、進化して神種蛇獣人となりました。あれはおよそ七十年前になりますかね―――」



 レイヒムも七十年前は蛇獣人の里【シュラング】に住む普通の青年だった。生まれながらに珍しい《召喚魔法》のスキルを所持していたが、彼自身の戦闘力はやはり低かった。そのため、当時は強力な召喚獣など一匹も持っていなかったのである。

 肉体能力こそが至高という風潮にある【砂漠の帝国】において、魔法が得意な蛇獣人は弱種族と認識されていた。獣化をしても体を龍鱗に覆われて防御力が急上昇し、恐怖を与える邪眼を得るだけだ。邪眼は便利そうではあるが、ちょっとした実力者ならば簡単に抵抗レジスト出来る程度のものでしかない。

 同じく竜化で凄まじい身体能力と防御能力を得る竜人とも比較され、差別的な扱いを受けていたと蛇獣人は今でも主張している。

 だが実質はそうでもない。

 竜人の歴代皇帝は蛇獣人を文官として登用してきたし、差別的だと感じていたのは単に決闘で勝つことが出来ないからだ。【砂漠の帝国】では決闘で物事を決めることも少なくないのだが、武器の使用を含めた肉体戦闘能力の高さに重点を置いていたのでは蛇獣人が不利になっても仕方がない。

 そういったこともあって蛇獣人は決闘でも負け続け、彼らの主張が受け入れられることが滅多になかったのである。【シュラング】に住む蛇獣人はそのことを不満に思う者が多く、レイヒムもまたその一人だったのだ。

 いや、レイヒムこそがそういった者たちを率いていたのである。

 ちなみに【ドレッヒェ】へと出陣して竜人を捕らえようとしていたクリークも当時からレイヒムを支える立場にあった。というよりも、現在の【砂漠の帝国】で要職についている殆どの蛇獣人がそういった者たちなのである。

 だが七十年以上前は非常に立場が低かった。

 さすがに皇帝も反抗的な者たちを登用はしないので、余計に肩身の狭い思いをしていたのである。

 それが変わったのが魔王オメガと出会ってからだ。

 ―――力が欲しいか?

 そんな言葉と共に現れたのは黒髪の魔人だった。

 【アドラー】の魔王を名乗っていた彼は四天王『仮面』のダリオン・メルクを伴ってレイヒムの前へと現れたのである。

 蛇獣人の里【シュラング】は魔人の国【アドラー】との国境近くにあり、魔人が来ること自体は珍しいことではない。砂漠の貴重な薬草や鉱物と食料を取引しているからである。

 だが魔王が直々に来るなど信じられるはずもなかった。

 ―――魔王ですか? 面白い冗談です。

 レイヒムはそんなことを言いつつ《鑑定》スキルを使用した。

 だがスキルは全く機能せず、魔王オメガは威圧だけでレイヒムと仲間たちを跪かせてみせたのである。そしてもう一度言ったのだ。

 ―――力が欲しいか?

 ただそう言ったのである。

 絶望的な恐怖と破滅の威圧が支配する中、レイヒムは頷くことしか出来なかった。



「そして私は魔王オメガ殿から三つのモノを頂いたのですよ」



 レイヒムはあの時に魔王から受けた絶望的な圧力を思い出して自嘲しつつそう語る。

 クウはそんなレイヒムの思いに気付くことなく質問を続けた。



「三つか。【魂源能力】と何と何だ?」


「一つはオロチですよ」


「ああ、なるほど」



 クウは納得したかのような返事をしたが、内心では非常に驚いていた。

 何故ならオロチは超越者であり、簡単に与えるなど出来るはずがないからである。本当だとすれば魔王オメガも超越者である可能性があるのだ。クウはセイジたちと共にこの世界エヴァンへと召喚されたが、魔王が超越者ならば異世界人を召喚したところで倒せるはずがない。こちらが瞬殺されて終わりである。

 そして一応はクウも納得している部分があった。

 【魂源能力】を得ているとはいえ、ステータスに縛られている身であるレイヒムが超越者を召喚契約しているということは疑問だったのだ。オロチが超越者である魔王オメガから与えられたものだと仮定すれば辻褄は合う。

 尤も、まだ予想の範囲に過ぎないが……



「ダリオンともその時に出会ったんだな」


「ええ、魔王オメガ殿に役立つからと戦力を貸していただきました。色々と【アドラー】との融通を図ってくれますし、私の計画にも大いに助けとなりました。奴隷首輪も彼を通して仕入れたモノですしね。彼は元々ジョーカーと名乗っていたのですが、変化能力を使って色々しましたよ。レーヴォルフ・キリに化けさせたのはその一例です」


「ということは他にもやったのか?」


「ええ。帝国の要職についている者になり替わって評判を落としたり、内部情報を集めるためにも非常に役立ちました。私の行った工作は彼が多くを担ってくれていますよ」



 やはり能力ごと為り替わるというのは厄介なようだ。

 特定の人物に変化して悪いことをすれば簡単に評判は落ちる。また記憶もある程度はコピーできるため、機密クラスの情報すらも集めることは容易いのだ。

 内部から国を崩すということにおいて強力な手札となることに違いない。



「あとは私の《怨病呪血アヌビス》で国を混乱に落とせばあっと言う間です。国の弱い部分も強い部分も分かっており、さらに有能なものが消えていたのですからね。私が呪いを国中に撒き、それを私自身で直せば簡単に地位も得ることが出来ましたからね。

 相手の土台を弱くし、一気に片を付けることが出来ました。馬鹿な民衆は愚かにも私の掌で踊っていたということですよ」


「なるほどね。なら三つめは何だ? 能力、オロチだけでもかなりだけど」



 クウは予定通りレイヒムが自ら悪事を話し始めていることで更に踏み込んでいく。もっとレイヒム自身から証言を引き出したいという思いから適切な言葉の選択には気を遣っていたのである。

 だがレイヒムはこの質問に言葉ではなく魔法で返した。



「これが三つ目です。こいつらを殺しなさい。異界の死霊魔導士デス・ユニバース!」


「何?」


「これはっ!」


「何なのだ!?」



 レイヒムの周囲に巨大魔法陣が出現し、新たな魔物が出現する。まさかあの状態でまだ召喚獣が残っているとは思わなかったクウ、シュラムは驚き、ミレイナも急に現れた巨大魔法陣に驚きを隠せていなかった。

 魔王オメガがレイヒムに与えた三つめのモノ。

 それは災禍級の魔物だったのである。






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