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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
203/566

EP202 頼もしい? 味方たち


 収監所に捕まっていた反レイヒム派のメンバーを救出していたクウ、エブリム、ヘリオンは、すでに救出を終えて事情説明を始めていた。



「―――って訳だ。これからレイヒムを陥落させるために一仕事してもらうぞ」



 クウはこれまでの経緯と自身のことを話し、そう締めくくる。もちろん自分が天使であることや、本当の目的などの機密は語っていない。必要以上に広める必要が無いからだ。

 今はレイヒムを倒すために協力関係にあるということだけをアピールすればよいのである。



「事情は理解した。あんたのこともな」



 代表して答えたのはリッツという獅子獣人。彼は同じ獅子獣人であり、首長アシュロスの息子でもあるエブリムとは親友同士だ。エブリムがクウを信用していることから、同じく信用することに決めたのだろう。他の何人かも同様に頷いて肯定の意思を示していた。

 しかし当然ながら疑いの目を向ける者たちも出てくる。



「本当に味方なの? どう見ても怪しいのに?」


「そうだぜ。それに怪しさは目を瞑るとしても、レイヒムの野郎をこんな強襲で落せるとは思えねぇ。どういうつもりなのかは教えて欲しいもんだな」


「おい! リッカ! ハッカ!」



 そういった目を向けたのは二人の男女の狼獣人だった。エブリムが窘めるようにして名を呼んでいたことから、女の方がリッカで、男の方がハッカという名前なのだと分かる。顔が似ていることから姉弟なのだろうとクウも予想できた。

 それに事実、この二人は狼獣人の首長エルディスの娘と息子であり、双子の姉弟としてよく知られているのである。

 リッカはクウに鋭い視線を向けつつも質問する。



「これまでの事情はわかったけど、あなたが本当に私たちの味方をするのか理由が不透明過ぎるわ。それにどう見ても隠し事をしているじゃない。信用できるはずがない。あなたの目的は何なの?」


「さっきも言っただろう。レイヒムを殺すことだ。それと情報を抜き取るつもりでもある」


「だからその理由は何なのよ!」



 相変わらず、わざと答えをはぐらかすクウに苛立ちの声を上げる。

 クウとしては余計な情報を与えたくはないので、詳しいことを話すつもりはない。エブリムやヘリオンには天使であることも語ったが、それ以上のことである神や【魂源能力】に関する詳細は語っていないのだ。あくまでも神獣=神と勘違いさせ、さらに【魂源能力】も強力なスキルという風に誤魔化しているのである。

 つまり、虚空神ゼノネイアに頼まれてファルバッサの呪いを解くと同時に、レイヒムを処理するためだと正直に言うことはしたくないのである。

 だが騙すことにかけては詐欺師並みのクウ。

 彼らを納得させるための切り札はしっかり用意していた。



「お前たちが神獣と呼んでいる幻想竜ファルバッサのためだ」


『っ!』



 この一言を聞いて明らかに息を飲む獣人たち。ファルバッサは彼らの崇める神獣ではないが、歴史的には【砂漠の帝国】に留まっていたと知っている。だからこそ、その言葉の意味を理解できない者などいなかった。



「そ、そういうことなら……」



 リッカも引き下がり、反レイヒム派のメンバーはようやく落ち着いた。今回の強襲作戦の性質上、あまり時間をかける訳にはいかないのだが、思ったよりも早く納得させることが出来たことにクウは安堵する。

 シュラム一人にレイヒムを抑えさせているため、クウも早くいかなければならないのだ。如何にシュラムが竜人最強であっても、ランクS超えの魔物を六体同時に相手にするとなれば逃げることも難しいだろうと予想していたからである。

 話しを聞く態勢になった彼らを見て、クウは再び口を開き、これからのことを話し始めた。



「これから地上に上がってレイヒムを落とす。基本的にその役目はシュラムに負ってもらう予定だが、そのために城の兵士やその他諸々から二人の戦いを邪魔しないようにしてもらいたい。今はその役目をたった二人で負担してもらっているからな。つまり時間稼ぎを頼みたい」



 これには反レイヒム派のメンバーの一部から不満そうな雰囲気が漏れ出る。呪いの力で獣人を支配してきたレイヒムを倒すべく活動してきたのに、そのレイヒムを倒す役目を負っているのが竜人シュラムなのだ。自分たちがレイヒムを倒したいと願っていた者たちからすれば不満に思っても仕方ないだろう。

 だがクウはその不満も感じ取って何も言わせることなく論じる。



「時間稼ぎを頼む理由は……お前たちの体力が万全ではないからだ。牢に入れられている間は食事制限をされて衰弱の状態異常になっているはずだ。強力な召喚獣を操るレイヒムを相手に出来るとは思えない。レイヒムの召喚獣は非常に強力だ。たとえ数でかかっても無駄だろうな。倒すためには一定以上の質が必要となってくる」



 そう言われて何も言えなくなる獣人たち。

 感情面では言いたいことも多いが、クウの言っていることが正しいと理解していたのだ。確かに体力が落ちていることは考慮しなければならないし、レイヒムからの被害を最も受けているのは竜人だとも分かっている。

 グッと不満が下がった彼らに向かってエブリムとヘリオンも口を開いた。



俺たち・・・の目的はレイヒムを倒すことだ。自分を優先させるな」


「……こんなところで時間はかけられない。クウの言う通りにして欲しい」



 首長の子でありそれなりに実力も認められている二人の言葉を聞いて、不満を持っていた者たちも完全に納得したのだった。やはり実力が上の者からの言葉が絶対なのだろう。

 クウに関しては実力が未知であるため、このような反応となったのだった。



「行くぞ。レイヒムを倒す」


「……いつもの班分けでいく」


「ならば私、ハッカ、エブリム、ヘリオンがいつも通りリーダーとして指揮を執りましょう。ハッカもいいわよね?」


「いいぜ。やってやるよ」



 エブリム、ヘリオン、リッカ、ハッカが順にそう言い、他の者たちは反レイヒム派として活動していた時の班へと別れていく。

 そしてそれを見たクウは、もう十分だろうと判断して静かにその場から消えたのだった。

 反レイヒム派……少数ながらも強者ばかりが揃った反乱の礎たちが動き始める。



(おっと、忘れるところだったな)



 クウは密かに魔力を目へと集め、彼らに向けて能力を行使する。

 最後にクウが《幻夜眼ニュクス・マティ》を使ったことは誰も知らない。









 ◆ ◆ ◆









 兵士たちの引き付け役を負っていたミレイナとレーヴォルフは、そろそろ囮に不足を感じ始めていた。ミレイナが派手な戦闘をすることで、自然と周囲の目を集めることが出来ていたのは既に過去の話。レイヒムが召喚獣を出したため、そちらの方にも目が行き始めたのである。

 兵士はともかく、特に一般住民の目はレイヒムの方に目が行きがちだった。

 シュラムとレイヒムの邪魔をさせないために目を引いておくのがミレイナとレーヴォルフの役目なのだが、やはり二人では限界がある。

 だがここでようやく援軍がやってきた。



「竜人が二人だ。やっぱりここだ!」

「へっ! 腕が鳴るぜ」

「兵士共を抑えろ! 俺たちの強さを見せてやれ!」

「おいおい……衰弱状態だってのに無茶言うねぇ」

「なら後ろで震えているか?」

「冗談いうな! やってやるさ!」



 突然現れた獣人たちが白い布を纏った兵士たちを取り押さえていく。服装はバラバラでかなり汚れているのだが、その動きは見た目に反して統制が取れている。まるで熟年の仲であるかのように連携を取りながら兵士を無力化していた。当然ながらクウが解放した反レイヒム派のメンバーの一部である。

 突然のことでミレイナとレーヴォルフは驚く。



「な、何なのだ!?」


「味方……なのかな? もしかしてクウが上手くやってくれたんじゃないかい?」


「あ……そそそそそうだな! 私はちゃんと分かっていたぞ!」


「……うん。そうかい」



 何故か意味のない言い訳をするミレイナにレーヴォルフは呆れた目を向ける。

 するとミレイナはスッと目を逸らしたのだった。そして誤魔化すかのように言葉を絞り出す。



「……さてと、暴れるぞ」


「……そうだね」



 微妙な雰囲気になった二人だったが、それでも仕事は優秀である。相変わらず暴れまわるミレイナとフォローするレーヴォルフというスタイルで周囲の目を引き続けた。そして反レイヒム派のメンバーのお陰もあって先程よりも楽に無力化は進んで行き、周囲には屍のように倒れ伏した兵士たちが散らばっている。



「オラオラァッ! 錬度が下がってんじゃねぇのかぁ!?」

「うふふ。その程度なのかしら? ほらそこよ?」

『あぎゃあああああっ!?』

「死にさらせぇぇぇぇっ!」

『うわあああああああ!?』

「きゃははははっ! 爆発しちゃえ!」

『ぐわあああああああああああっ!?』



 久しぶりの戦闘で興奮しているのか、獣化を使用して暴れまわる反レイヒム派のメンバーたち。この光景だけ見ればテロリストで愉快犯な危ない人たちが暴れまわっている風にしか見えない。その中には狼獣人の首長エルディスの娘であるリッカの姿もあった。炎魔法で爆炎を撒き散らしているのが彼女である。

 衰弱を獣化で補っているだけであるため、恐らく長くは戦えないだろう。だが狂ったように戦っている反レイヒム派のメンバーを見た兵士たちは次々と戦意を折られていた。

 ちなみにクウが《幻夜眼ニュクス・マティ》を使っていた件とは関係ない。彼らの本心で暴れているのである。



「僕たち……いや僕って必要ないかもね」



 ミレイナを含む、彼らを見て密かに溜息をつくレーヴォルフだった。






 


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