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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
184/566

EP183 堕天使 前編

 黒い霧から現れたのはクウと全く同じ容姿の人物。服装は偽レーヴォルフの時と同じであり、さらに幻術の鎖で縛られたままであることから偽レーヴォルフと同一人物だと判断できる。そして声や話し方までもクウと瓜二つであり、本人からすれば鏡を見ているような気分だった。



「俺に触れた以上、もうお前の能力は通用しない」



 偽クウはそう言って自分を縛っている鎖を一瞥する。すると幻術の鎖は分解されたかのように消失してしまったのだった。【魂源能力】である《幻夜眼ニュクス・マティ》の幻術を解除するには同クラスの能力が必要となってくる。そしてクウと同じ姿をかたどり、一瞥で幻術を破壊したことから偽クウの本来の能力についての予想が出来た。



「偽装じゃなくてコピー。それがお前の能力か。まさか【魂源能力】までコピーしてくるとは思わなかったけどな」


「俺は触れた対象の姿とステータス、そして本来の能力差によって記憶も一部コピーできる。まぁ、お前の場合は強すぎて記憶までは複製できなかったけどな」


「そうだといいけど」



 クウはそう言って眉を顰める。

 触れた相手のステータスや姿をコピーする。そんな能力だとはさすがに思わなかったというのがクウの正直な感想だ。しかも【魂源能力】までコピーしてくるなど誰が予想できるだろう。

 現にクウが幻術で出した十本の剣や、鎖は跡形もなく消されている。《幻夜眼ニュクス・マティ》の幻術は《幻夜眼ニュクス・マティ》でしか自由に消すことは出来ないため、間違いなく【魂源能力】はコピーされていると理解できた。

 そして何より厄介なのは記憶もコピー出来ることだ。偽クウは力の差でコピーできなかったと言っているが、それが嘘ならクウの全てがバレたことになる。クウの目的や、この国でやろうとしていることも全て知られてしまうのだ。



(ちっ、だからミレイナに殴られそうになっても余裕だったのか)



 本来はミレイナに殴られたことを利用して姿をコピーしようとしたのだろう。鎖が幻術だと知らなければミレイナの《竜撃の衝破》は有効だと思われるからだ。しかし偶然、クウがそこに割り込んで手を触れてしまった。それによって鎖は幻術であると知られ、簡単に対処されたのである。

 一方のミレイナも突然現れた偽クウに目を見開いて驚いていた。



「誰なのだ? ……レーヴは一体どこに?」



 そういえば……とクウは思い出す。

 今のクウは白いマントで顔を隠しており、ミレイナはクウの姿を知らない。だとすれば偽レーヴォルフに変わって突然現れた偽クウに驚くのも当然だろう。

 それにミレイナはレーヴォルフが偽物とすり替わっていたことを知らない。本物はまだ迷宮近くで待たせてあるのだが、後であった時には説明しなければならないだろう。その手間を鑑みて、クウは自分を隠していたマントを外すことにした。



「ミレイナ、惑わされるなよ。あれがアイツの能力だからな」


「え……?」



 白いマントを外して出てきたのは薄手の黒コートを羽織った本物。黒髪黒目という非常に珍しい見た目であることは勿論のこと、偽レーヴォルフから変化した謎の相手とそっくりな風貌であることに絶句していた。

 クウはそんなミレイナに構うことなく手短に説明する。



「奴の能力は触れた対象の姿と能力をコピーすること。そして俺はさっき触れたことでコピーされた。お前が今までレーヴォルフだと思っていた奴は初めから偽物だ」


「なん……だと?」


「今は割り切れ! 俺の能力は危険だぞ!」



 クウはそう言いつつ念のため《森羅万象》を使用して偽クウのステータスを覗き見る。




―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 17歳

種族 天人てんひと ♂

Lv188


HP:38,324/38,324

MP:37,992/37,992


力 :35,921

体力 :35,154

魔力 :36,458

精神 :46,872

俊敏 :36,234

器用 :37,004

運 :40


【魂源能力】

幻夜眼ニュクス・マティ

《月魔法》


【通常能力】

《剣術 Lv7》

《抜刀術 Lv8》

《森羅万象》

《魔力支配》

《気配察知 Lv8》

《思考加速 Lv4》


【加護】

《Error》


【称号】

《異世界人》《虚空の天使》《精神を砕く者》

《兄》《到達者》《指名手配犯》

―――――――――――――――――――





 そこにあったのは間違いなく自分と同じステータス。名前から年齢から能力までクウと同じである。唯一異なるのは【加護】の部分が《Error》となっていることだろう。



(さすがに神の真名まなによる加護まではコピー出来なかったか。まぁ、加護なんて俺にとっては殆ど意味がないけどな)



 一応は幻術系能力に関する補正を与えてくれる加護になっている。また、光属性と闇属性に関する補正もあるため、全く役に立たないという訳ではない。ただ、クウの演算力があればそれほど必要としないだけなのだ。

 しかしコピーした相手には影響を与えることになる。確かに偽クウは本物と全く同じ能力を持っているのだろう。だがそれを実行する意思力はクウと異なるのだ。つまり演算力も異なるため、少しでも演算が優れている方が強くなる。だからこそ【加護】が消えた状態では少し不利になるのだ。

 そして何より【加護】にはクウも知らない秘密があった。



「がっ……ぐぅぅ……がぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


「どうしたのです!?」



 唐突に頭を抱えて苦しみだす偽クウにレイヒムも驚く。偽クウの本来の能力であるコピーには突然苦しみだすようなリスクなど無かったからだ。原因があるとすれば天使であるクウのステータスを中途半端にコピーしたこと。しかしレイヒムはそのようなことを知らないため、どういうことかと狼狽えていた。

 だが一方で、《森羅万象》を発動中のクウには偽クウのステータス画面にノイズが奔り、謎の文字列が流れているのがハッキリと見えていた。



「なんだこれは……?」



 まるでコンピューターウイルスでも受けたかのような画面。能力がバグっているとしか思えない現象だ。そして変化はステータス画面だけでなく偽クウの体にも現れ始める。



「ぐあぁぁぁぁぁっ!」



 耳を塞ぎたくなるような絶叫を上げながら片膝を着く偽クウ。本物のクウとしては自分と同じ姿であるために微妙な感情を抱いていたが、すぐにそんなことを考える暇などなくなった。

 絶叫と共に偽クウの背中からは漆黒の翼が六枚現れたのだ。

 それもいつもクウが使っている粒子状の翼ではなく、鳥のような形の翼である。艶も光沢もなく、ただ全ての光を吸い込むような三対六枚の翼は大きく開かれ、周囲に羽を散らしていた。



「なんなのだアレは!?」


「知るかよ。俺が聞きたいわ!」



 ミレイナは勿論のこと、クウですらも理解できない現象。そして当然の如くレイヒムはポカンと口を開けながら茫然とその光景を見つめていた。

 そしてクウの視界の端に映っていた《森羅万象》によるステータス表示にも変化が現れる。



「【通常能力】が……消去されていく? それに【称号】も……。なんだこれは?」


「あ"あぁぁぁあ"ぁぁああっ!?」



 そんなクウの呟きに重なるようにして上げられた最後の絶叫と共にステータスの表示は安定した。バグが奔っていたかのような画面は綺麗に戻り、幾つもの表示が本来のクウから変化していたのだった。






―――――――――――――――――――

ダリオン・メルク 198歳

種族 堕天使(神種魔人) ♂

Lv188


HP:38,324/38,324

MP:37,992/37,992


力 :35,921

体力 :35,154

魔力 :36,458

精神 :4,687 (46,872)

俊敏 :36,234

器用 :37,004

運 :0


【魂源能力】

千変万化ジョーカー

幻夜眼ニュクス・マティ

《月魔法》


【加護】

《虚空神の呪い》


【称号】

《天の因子を受け入れし者》《魔王軍四天王》

《到達者》《仮面》《神への反逆者》

《堕天使》《世界の敵》

―――――――――――――――――――




千変万化ジョーカー

触れた対象の姿、ステータスを完全にコピー

することが出来る。元の能力差によっては記

憶も複製可能。ただし、コピーの対象が死ぬ

と強制的に解除される。

コピーしたステータスは本来のステータスに

重なるように表示されるため、看破されるこ

とは殆ど無い。



《虚空神の呪い》

虚空神ゼノネイアに反逆した者に送られる証

であり、これを受けると幻術系、情報系能力

に対して妨害を受ける。

また精神値が十分の一になる。

さらに【固有能力】以下の全ての能力を強制

的に消され、運の数値がゼロ固定となる。





「堕天使……?」



 クウはどうにか言葉を絞り出してそう呟く。

 偽クウ……いや、ダリオン・メルクの背中に現れた漆黒の翼は確かに神話に出てくる堕天使のよう。そして《森羅万象》が映し出したステータスにも堕天使の文字があったのだった。







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あとがきが邪魔。感想と評価を毎回よこせとかどうかしている。物語に集中できるわけがない。
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