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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
180/566

EP179 レーヴォルフ・キリ

「レーヴォルフ・キリ……」



 クウはその名を聞いて黙り込む。少し前に竜人との会談でその名を聞いたが、それは確かにシュラムを裏切り、ミレイナを連れ去ったという三将軍の一人だった。確定ではないが、【ドレッヒェ】の泉にレイヒムの血をばら撒いた疑惑もある。

 しかし目の前の男は六十年間この牢に閉じ込められていたという。ならば裏切りのレーヴォルフとは全くの別人ということになるのだ。



(いや、こいつは今、元三将軍だと言った。ということはレーヴォルフ本人で間違いない? 俺の《森羅万象》でも嘘は見えないしな……)



 クウは裏切ったというレーヴォルフを実際に見たことはない。そのため容姿が一致しているのかは謎であるが、状況証拠から見ればレーヴォルフ本人であるということになる。

 裏切ったレーヴォルフと捕らえられていたレーヴォルフ。まるで分身やドッペルゲンガーのような不思議な状況にクウも戸惑っていた。

 すると目の前のレーヴォルフはクウの戸惑いに気付いたのか、遠慮がちに口を開く。



「えっと……どうしたのかな?」


「いや、何でもない」



 クウは咄嗟にそう答えるが、不穏な空気はレーヴォルフも感じていた。所々から聞こえる呻き声すらも気にならない程に緊張が高まり、耐え切れなくなったレーヴォルフが再び問かける。



「僕の名前に何かあるのかい? ああ、もしかして死んだことになっていたとか? あまり黙っていられると僕も困るんだけどね」



 どうやら本当に困っているらしいレーヴォルフにクウも少しだけ警戒を解く。まだ完全に信用した訳ではないが、どうやら何かしらのタネがあるようだと思い始めていた。クウはハッキリとした確信を得るために幾つか質問をする。



「少し質問だ。何故お前は捕まっている?」


「ん? 知らないのか? 昔の戦争で負けてね。当時は三将軍だなんて呼ばれていたんだけど、レイヒムの側近だとか言われてた蛇獣人に敗北して捕まったのさ。その側近だとかいう奴の名前は聞かなかったけど、不意打ちとか仕組みの分からない魔道具とかに惑わされてね。情けないけど敵わなかったよ」


「ならミレイナは知っているか?」


「ミレイナ? 誰のこと?」


「シュラムは?」


「シュラム・ハーヴェ様のことなら知っている。僕が捕まっていなかった時の竜人の長だ」


「なるほどね……」



 クウは情報を整理する。

 まずシュラムから聞いた情報では、六十年前の戦争でオロチの出現により前三将軍が殺された。そして新生した三将軍であるザント、フィルマ、レーヴォルフが誕生したのだ。

 そしてオロチとレイヒムはファルバッサが、当時の蛇獣人の長はシュラムが、狐獣人の長はザントが、猫獣人の長はフィルマが、最後にレイヒムの側近と言われた蛇獣人とはレーヴォルフが戦ったということだった。クウが聞いた話ではレーヴォルフがこの蛇獣人に勝利したということになっている。

 しかし目の前に立つレーヴォルフは負けて捕まったのだと言っているのだ。この矛盾した情報からある程度は状況を読むことは出来るが、次の情報が更なる補完をしている。

 それはシュラムを知っているにも拘らず娘のミレイナを知らないことだ。ミレイナはまだ十六歳であり、六十年間も牢に捕らえられているならば知らなくて当然である。

 ならば師匠としてミレイナを鍛えたレーヴォルフとは一体誰なのか?



(恐らくレーヴォルフは捕まり、そこで何者かと入れ替わっていた。相当な変装の技術を持っている奴がレーヴォルフに成りすまして六十年も騙し続けていたということか?

 《偽装》スキルではステータスの名前や種族は誤魔化せない。ということは俺も知らないスキルを使ったのか、強力な魔道具によって変装したかになるな)



 クウの《森羅万象》にかかれば嘘など簡単に見破ることが出来る。長髪を靡かせた目の前の青年は全くもって嘘をついていなかったため、こういった結論を出さざるを得なかった。

 この予想が正しいとすると、レイヒムは六十年という壮大な年月を掛けた計画を持っていたということになるのだ。恐らくはオロチを召喚するための時間稼ぎだと思うのだが、これほどまでに時間を掛けた仕込みをしていたことにクウは驚く。



(まぁいい。ともかくステータスをチェックしておくか。【称号】を確認すれば人となりは何となく把握できるからな)



 最後に念のためと、クウは《森羅万象》でレーヴォルフのステータスを覗き見た。







―――――――――――――――――――

レーヴォルフ・キリ 105歳

種族 竜人 ♂

Lv117 (衰弱)


HP:2,756/6,891

MP:5,183/5,183


力 :2,851(7,128)

体力 :3,128(7,822)

魔力 :2,084(5,211)

精神 :2,794(6,985)

俊敏 :2,938(7,347)

器用 :3,023(7,559)

運 :31


【通常能力】

《体術 Lv7》

《操糸術 Lv7》

気纏オーラ Lv7》

《気配察知 Lv10》

《気配遮断 Lv10》

《思考加速 Lv5》

《衝撃耐性 Lv6》


【称号】

《天才》《努力家》《到達者》

《元三将軍》《極めし者》

―――――――――――――――――――



衰弱

体力が低下した状態であり、ステータス値が

著しく減少する。食事や休息によって回復す

るため、心配する必要はない。

ステータス値の減少率は衰弱の程度によって

変化し、最低で30%、最大で99%の低下となる







 クウはレーヴォルフのステータスに驚いた。

 まず年齢を見るに、六十年前は四十代だったことが分かる。竜人としてはまだ若い方だ。それにも拘らず三将軍になったということは、【称号】にある《天才》と《努力家》は間違いないのだろう。また驚くべきことに《気配察知》と《気配遮断》は最大レベルにまで到達している。恐らくこのスキルは牢にいる間も鍛え続けたのだろうと予測できた。まさに努力家である。

 そして問題となるのは《体術 Lv7》と《操糸術 Lv7》だ。これはミレイナも同じスキルを習得しており、間違いなくレーヴォルフが師匠であったことを示している。



(まさかな……いや、それともわざわざ同じスキル構成の奴を探してレーヴォルフと成り替わったとでもいうのか? それとも初めから成り替わる目的で同じスキル構成の部下を育てた? そんな馬鹿な……)



 増々謎が深まったが、それでも今までの状況から見ればこのレーヴォルフは裏切者ではない。むしろ六十年も捕らえられ続けていた被害者だと言えるだろう。食事が制限されていたからか、HPも既に四割程度まで減っている。

 また『衰弱』という状態異常からも証拠付けられている。概算して減少率は六割といったところだろう。もしかするとHPと連動しているではないかとクウは予想する。

 それはともかくとして、クウはこのレーヴォルフはかつて三将軍であったことを確信したのだった。



「よし、とにかくお前をシュラムに会わせる。それでいいか?」


「シュラム様は生きておられたのか……よかった。それならば師匠も?」


「師匠? お前のか?」


「ああ、僕に《体術》と《操糸術》を教えてくださったパルティナ師匠だよ」


「いや、俺は知らん。シュラムに聞いてみろ」


「え? 知らないのかい? シュラム様と双璧を為すとも言われた美しい女性なのだけどね」



 レーヴォルフはそこでようやく目の前の男が一体何者なのかと思案する。あまり栄養を与えられず、思考することも滅多になかったレーヴォルフはその辺りが鈍くなっていたのだ。

 だが自分たち竜人の味方であるような発言をし、さらに族長であるシュラムを呼び捨てにする。また竜人の中では有名なパルティナを知らないというのだ。よくよく考えれば怪しすぎる。



「……そういえば君は何者なんだ? あまりに自然過ぎて聞きそびれていたけど、こうしてこの場所まで単独で潜入し、さらに地下三階に閉じ込められている重犯罪者たちを牢もろとも叩き伏せた。そして僕たち竜人に味方しているようにも思える。それに君は竜人じゃないよね?」


「どうしてそう思う?」


「シュラム様を呼び捨てにするなんて竜人ではパルティナ師匠以外はいないからね」



 レーヴォルフの指摘に成る程とクウは納得する。しかしクウとしては自らの正体をみせるつもりはない。何故ならこの状況で自己紹介をしているような余裕はなく、また話が更にややこしくなることは目に見えていたからである。

 それでもとクウは考えて名前は明かすことにする。



「俺はクウだ。今はそれだけ覚えておくといい」


「クウ……ね。まぁいいよ。とにかくシュラム様に会わせてくれるんだろう?」


「ああ、そのつもりだ」



 レーヴォルフはクウが名前以外を明かすつもりがないと理解して一旦は諦める。自らが衰弱していることは明白だし、仮に万全だったとしても目の前の男に敵うとは思えないとレーヴォルフは考えていた。

 白いマントに身を包んでおり、背丈と声と名前しか分からない正体不明の人物ではあるが、それでも君主であるシュラムに会わせてくれるというのだ。従わない理由などない。

 レーヴォルフが納得したのを感じ取ったクウはさらに言葉を続ける。



「それと今は地上で化け物の奇襲による大混乱が起きている。驚いている間に置いていかれるなよ?」


「そういえばさっきも言っていたね」


「そうだ。一応だけどこれを身に付けておけ」



 クウはそう言って虚空リングから白いマントを取り出す。予備で準備しておいたものであり、クウにサイズに合わせてあるのでレーヴォルフには少し小さい。だが顔さえ隠すことが出来れば問題ないので、少々窮屈でも着させる。レーヴォルフはそれよりも、いきなり現れた白いマントに驚いたのだが、何かしらの魔道具なのだろうとすぐに納得していた。

 そして問題のサイズはといえば……レーヴォルフも眉を顰めていたが、仕方ないと諦めて羽織ったのだった。肩幅などが若干足りないようではあるが、元が緩いマントであるため何とか様になっていたのである。



「キツイね」


「我慢しろ。それと可能ならミレイナも回収する」


「ミレイナ? 質問で出てきた名前だね」


「そうだ。ミレイナ・ハーヴェ―――シュラムの娘だ」



 クウの言葉にレーヴォルフはしばらくポカンと口を開けていたのだった。








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