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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
175/566

EP174 奴隷化

 幻術の力で周囲からの意識を逸らしたクウは難なく城の中に侵入していた。この幻術はあくまでもクウ自身を路傍の石ころのように気にならない物だと感じるという効果だ。《気配察知》のように生物の気配を感じる能力者ならば違和感を感じるため、念のため外で混乱を起こして囮にしたのである。



「城内部の把握とミレイナって奴の場所、あと出来れば捕まった反レイヒム派のメンバーも探したいところだな。それと最優先はレイヒムの普段いる場所か。ボスは最上階にいると相場決まっているから取りあえずは上を目指すか? それとも捕まっている奴らの把握を先にするか……」



 捕まった囚人は城の外にある離れの建物に収監されているのだが、クウがそのことを知るはずがない。テンプレ通り地下室だろうと的外れな予想を付けて城の中を彷徨っていたのだった。クウは《気配察知 Lv8》や《魔力支配》で気配と魔力を探すのだが、城の中に纏まった存在は感知できない。せいぜい残った兵士たちがまばらに居る程度である。



「いないな。魔力や気配を遮断する細工でもしてあるのか? でも牢にそんな機能をつける意味はないだろうからな。どうなってる?」



 レイヒムが偽装の魔道具を使って自らのステータスを隠しているという情報もあったため、クウはそんな魔道具もあるのではないかと疑った。また魔人の国である【レム・クリフィト】は錬金術が発達しているのだという。そのような高度な魔道具があったとしても疑う余地はなかった。

 尤も、その予備知識が勘違いを引き起こしていたのだが……



「ん? 誰か来るな」



 そうして城の内部を探索していたとき、少し先にある曲がり角から誰かがくる気配がした。クウは侵入者であり、このままでは見つかって騒がれることになるだろう。

 騒がれる前に気絶させるという手もあるが、結局あとで面倒なことになるのは間違いない。となれば見つからないようにするのが最善である。意識を逸らす幻術でも構わないが、ここは本気で隠れることにしたのだった。



「《幻夜眼ニュクス・マティ》起動……世界よ、遮断せよ」



 クウは世界へと干渉して虚数軸のように仮想的な意思ベクトル軸を展開する。それを弄り、現実に影響を与えて姿隠しの幻術を発動した。光や音、熱、気配などは全て遮断され、余程のことでもなければ感知することは出来ない。それこそ同じ【魂源能力】でもかなり特殊な力が無ければ無理だろう。

 そしてクウが姿を隠したと同時に通路から一人の兵士が出てきた。



「……誰かが居た気がしたんだが」



 不思議そうに呟いて辺りを見回すが、やはり誰もいない。だが《気配察知》スキルを持っているわけではなく、獣人としても鋭敏な感覚によって何者かがいるかもしれないと感じていただけだ。スキルではないため、やはり気のせいだったのだろうと判断して去って行ったのだった。

 その姿が消えていったのを見て通路の端に白マントを纏ったクウの姿が現れる。



「獣人……凄い五感能力だな。スキル無しでも気付くのか」



 クウは《森羅万象》で先程の兵士が感知系スキルを持っていないことに気付いていた。それでも誰かが居たことに気付いていたということは、素の五感が鋭いということになる。獣人らしく、鼻や耳が多種族よりも優れているのだ。



「それに姿隠しの幻術は移動できないことが難点だな。意思干渉は制御が難しいから仕方ないけど」



 以前に人魔境界山脈でも姿隠しの幻術は使ったが、あの時は普通の幻術であり、意識を逸らす幻術に近い効果だった。そのため動きながらでも発動を維持できたのだが、今回のように完全な遮断を行う場合は意思干渉が必須となり、移動するためには意思干渉に座標の概念を組み込んで変数的な処理をする必要が出てくるのだ。さすがにそれをするだけの演算力はクウにはない。

 意思干渉に座標移動用の変数処理をして関数化、そして少しでも移動するたびに座標値を代入して演算を実行するというのは人には無理がある。完全にコンピューターの仕事だろう。

 クウは自分の周囲ごと遮断領域とすることでギリギリ発動しているに過ぎないのだ。



「さて、次行くか」



 クウは演算で少し疲れた頭を振って探索を再開する。現在も外では巨大蛸の幻術生物を七体も顕現させているため、実は結構ギリギリなのである。しかしこれでも遮断領域を連発するよりかはマシなので、外の囮は無駄という訳ではない。

 兵士が外に出動してなければ更なる負担を強いられていたのは間違いないのだ。

 ちょっとした息抜きのつもりでふと窓の外の景色を眺める。遠くでは巨大蛸が暴れているのか、土煙が上がって騒然となっていた。【ルメリオス王国】の王城と異なり、城壁がないので非常に良く見えるのだ。

 また今回は基本的に巨大蛸には攻撃してきた者に反撃するだけで留めるようにと設定している。暴れているということはかなり激しく攻撃されているのだろう。それをみてクウはふと呟く。



「やばいな。マジで俺一人でこの国を落とせそうだ」



 被害を少なくする設定の幻術でこの被害なのだ。如何に幻術が解ければ無かったことになるとはいえ、これは酷い状況だと言えるだろう。言い換えれば、クウが本気なら単騎で国一つを陥落させられるということになるのだ。しかも超越者でもなくステータスに縛られた現状でも出来てしまうのだから天使スペックの高さが窺える。

 そう悟って遠い目をしていたクウだが、ここで窓の外に誰かがいることに気付いた。



「っと拙いな」



 クウが現在いる場所は城の二階であるため、外にいる誰かはクウに気づいている様子はない。しかし念のためということでクウはすぐに隠れ、窓から僅かに顔を覗かせて様子を窺った。念のため意識を逸らす幻術を使い、可能な限り気配を薄めてよく観察する。

 他よりも少しだけ豪華な服装をした人物と少しボロいローブを着たもう一人の人物が見え、特に豪華な服装の人物はクウにも見覚えがあった。



「あれは……レイヒム! それともう一人は誰だ?」



 レイヒムは近くの建物から出てきたらしく、そこを警備していた兵士が礼をとっている。城でもない場所に警備がいることも怪しいが、何よりレイヒムがそこから出てきたことがもっと怪しい。

 この【帝都】の混乱はレイヒムも把握しているハズであり、皇帝という立場にいる以上は放置で済ませる訳がないのだ。つまりあの建物には何かがあると考えるべきである。そしてレイヒムに追随するようにして歩いているもう一人の人物も気になるところだ。

 単純に考えれば護衛なのだろうが、灰色のローブのような服装で姿を隠している上に、まるで子供のように背が低いのだ。背の高さはクウと同じぐらいだろう。例外はあるかもしれないが、レイヒムの護衛としてはどうかという体格だ。



「この距離ならいけるか……《森羅万象》」



 クウは情報を開示させてステータスを覗き見た。

 だがこの情報はクウを驚愕させることになる。





―――――――――――――――――――

ミレイナ・ハーヴェ 16歳

種族 竜人 ♀

Lv114 (奴隷化)


HP:7,626/7,626

MP:5,591/5,591


力 :7,428

体力 :7,215

魔力 :5,032

精神 :5,317

俊敏 :6,829

器用 :5,692

運 :35


【固有能力】

《竜撃の衝破(神による下位変換化)》


【通常能力】

《体術 Lv6》

《操糸術 Lv4》

《風魔法 Lv1》

《身体強化 Lv7》

気纏オーラ Lv7》


【加護(神による秘匿)】

《壊神の加護》


【称号】

《壊神の使徒(神による秘匿)》《到達者》

《竜人の期待》

――――――――――――――――――――




《竜撃の衝破(神による下位変換化)》

力の波動を操り、対象を破壊する一撃を繰り

出すことを可能とする。衝撃を飛ばすことも

出来る遠近両用の無差別破壊スキル。

ただし神の介入によって下位変換されている

ため、本来の能力には及ばない。



《操糸術》

糸を使った動作に補正が入る。植物繊維の糸だ

けでなく、鋼糸のような糸も対象である。

また裁縫などもこのスキルが対応している。






「あ……」



 シュラムの娘であるというミレイナ・ハーヴェ。探していた人物がこんな形で見つかるとは思わずクウは一瞬動きを止める。ステータスを見てみれば情報通り【固有能力】を有しており、【加護】も秘匿された状態で保持していることが分かった。

 ミレイナの【加護】は《壊神の加護》であり、おそらく破壊迷宮をクリアすれば良いのだろうと予想できる。また有している【固有能力】も破壊迷宮をクリアするのに有効であるように見える。尤も、下位変換されているのはリアと同じらしいが……



「それにしてもミレイナがレイヒムの後ろに従うように歩いている……か。恐らくこれは奴隷化の影響なんだろうな」



 【ルメリオス王国】に居た時も奴隷を見たことはあったが、あまり興味が無かったので調べたことはほとんど無かった。クウは再び《森羅万象》を用いて『奴隷化』の部分に注目する。




奴隷化

闇属性の特性である「汚染」と召喚属性の特性で

ある「契約」を用いた魔法陣を付与した魔道具に

よって得られる効果。「汚染」によって精神を侵

食し、「契約」の効果を強制させる。契約主の命

令に逆らえなくなり、無理に逆らうと全身に激痛

が走るように設定されている。




「なるほど。何かしらの魔道具が使われているということか。首輪や腕輪みたいに奴隷本人に装着するタイプだったらいいけど、遠隔で効果を発揮する魔道具がどこかにあるとかだった場合は厄介だな」



 クウが人族領で見たのは首輪型の奴隷用魔道具だ。仕組みがミレイナの物と同じかは不明だが、同様に奴隷の行動を縛る効果があった。クウの見た奴隷首輪は血液を使って奴隷と主が契約する仕組みであり、同じだとすればレイヒムの血と契約解除の意思が必要となる。

 無理に首輪を外せば奴隷が死ぬというパターン多いため、迂闊なことは出来ない。クウの《幻夜眼ニュクス・マティ》の意思干渉でどうにかなる可能性もあるが、まだ首輪型と決まったわけでもないので焦りは禁物だ。



「ミレイナの件は後回しだな。それよりあの建物……ミレイナが出てきたということはもしかして牢屋か何かの収監用施設なのか?」



 てっきり地下に牢があると考えていたクウは自らの予想が間違っていた可能性に行きつく。確かにクウの感知では城の地下に纏まった気配や魔力を感じることが出来ず、寧ろ視線の先にある建物から幾つもの気配と魔力を感じる。



「調べてみるか……」



 クウはレイヒムがどこかに消えていったのを見計らって窓から飛び降りた。







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