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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
ルメリオス王国編
17/566

EP16 技術と話術

「ほう……お前が?」


「ああ、文句ないだろ?」


「ふん。本当にいいんだな? 今ならなかったことにしてもいいんだぞ?」


「お前こそEランクに負けて恥をかかないように気をつけな!」


「後悔すんなよ?」



 ギルドマスターと対峙して睨みあう。

 クウの方が背が低いせいで見上げなければならないため首が痛いのだが、負けじと強い視線を送り続ける。



「こっちに修練場があるからついてこい!」



 踵を返して奥の扉に向かうギルドマスター。クウも追いかけるとギルドにいた他の冒険者たちもゾロゾロと付いてきた。冒険者たちが新入りとギルドマスターの試合という見世物に乗らないはずがない。一部の者は酒の肴とばかりにカップを片手に持っている。

 ギルドの裏手にある簡単な修練場では、何人かの冒険者たちが模擬戦をしたり、素振りや魔法の練習をしたりしていた。そんな中、ギルドマスターに追随するように大量の冒険者がでてきたことに驚いているようだった。

 大勢のギャラリーを引き連れている様はまるで百鬼夜行みたいだな、とかなり関係ないことを考える余裕があるぐらいには落ち着きを取り戻したクウだったが、どうやってこの化け物に勝とうかは目途が立ってない。

 これが《看破Lv6》で調べたギルドマスターのステータスだった。



―――――――――――――――――――

ブラン・ヨーダ 38歳

種族 人 ♂

Lv46


HP:1,468/1,468

MP:1,289/1,289


力 :1,397

体力 :1,313

魔力 :1,261

精神 :1,249

俊敏 :1,362

器用 :1,322

運 :31


【通常能力】

《双剣術 Lv6》

《炎魔法Lv5》

《気配察知Lv6》

《鑑定Lv4》

《投擲Lv3》


【称号】

《炎舞》《冒険者ギルドマスター》

―――――――――――――――――――



 正直に言うと勝てる気がしないというのがクウの感想だ。もちろんただで負けるつもりはないしクウにも勝機はある。精神値はブランに勝っているので《虚の瞳》で翻弄すれば……と考えたのだ。

 ちなみにクウのステータスはこうなっている。



―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 16歳

種族 人 ♂

Lv11


HP:258/258

MP:210/210


力 :187

体力 :189

魔力 :231

精神 :1,300

俊敏 :341

器用 :543

運 :40


【固有能力】

《虚の瞳》


【通常能力】

《剣術Lv2》

《抜刀術 Lv6》

《偽装Lv5》

《看破Lv6》

《魔力操作Lv2》


【加護】

《虚神の加護》


【称号】

《異世界人》《虚神の使徒》《精神を砕く者》

―――――――――――――――――――



 【ヘルシア】に来る道中は『風の剣』に任せっぱなしだったため、クウのレベルは上がってない。数字で負けているのだからスキルで勝つしかないだろう。

 修練場の一角で互いに向き合い、対峙する。それを囲い込むように野次馬たちがわらわらと集まってきた。修練場を使っていた冒険者も、ギルドマスターと向き合うクウの姿を見て、驚き、周囲に訳を聞いて可哀想なものを見る目を向けてくる。

 ちょっと気の強い新人が粋がっているようにしか見えないのだから仕方ないと言えばそうなのだが、クウとしては気分のいいものではなかった。



「おい……練習用の武器に変えなくていいのか?」

「大丈夫だよ。どうせギルマスが手加減しても一瞬で終わる」

「まぁ……そうか」

「そもそもなんであのガキはこの試練を受けたんだ?」

「事情を知らなかったらしいぜ」

「うわ……お気の毒ね」



 とことん期待されない。

 こうなったら意地でも勝たないと気が済まない。

 そういった気持ちでクウはアイテム袋から木刀ムラサメを取り出して左手に持つ。まだ試合は始まっていないので右手は柄にはかけずに遊ばしておいた。

 ギルドマスター=ブランは背中の2本の長剣の内1本を抜いて両手に構えた。どうやら本気で相手をするつもりはないらしい。舐めてかかってくれるのはクウとしては嬉しい限りだが、同時に複雑な気分でもあった。



「武器は抜かなくていいのか?」


「必要ないね」


「ちっ……図に乗るなよ。誰か審判しろ!」


「俺がやるよ」



 出てきたのは先ほどクウに忠告してきた槍の男だ。



「よし、両者とも準備は?」


「構わん」


「いつでもどうぞ」



 槍の冒険者はブランとクウが返事するを聞いて頷き、声を張り上げた。



「始め!」














 始まりと同時に踏み込んできたのはブランだ。

 一撃で決めるつもりなのか様子見なのかは分からないが、ステータス差があり過ぎてレベルで負けているクウからしてみれば驚異的な攻撃に見えてしまうのだが、クウはまだ落ち着いていた。



(悪いけどすでに先手は貰ってるしな!)



 実は既に《虚の瞳》で気づかないうちに幻覚をかけたおかげで、ブランの認識をずらすことに成功している。精神値の差から強力な催眠をかけることはできないが、その程度なら簡単だった。

 確実にクウの首元を捉えて寸止めする予定だったらしく、すでに何もないところでブランの剣が突然止まる。クウはこの時点で2歩ほど後ろに下がっているので、完全に間合いに居ながらも相手は動きを止めた状況だ。隙を晒すブランに対する慈悲などない。



「何っ!?」



 ブランにしてみれば一瞬でクウが下がったように見えたことだろう。そしてその対象がすでに攻撃態勢に入っていれば、自分の状況の拙さぐらい理解できた。



「終わりだっ! 『閃』!」



 アダマンタイトの特別な鞘から抜刀された強力な一撃。相手は本物の刃物を使っているのだから魔力を纏わせなければ木刀ムラサメは逆に切り落とされるため、クウは《魔力操作》を使ってムラサメを保護しておいた。

 そしてスキル《抜刀術Lv6》のおかげでこの瞬間のクウの攻撃力は約1,600になり、攻撃速度は約3,000にまで底上げされる。ステータス上、ブランを超える一撃を繰り出すことが出来るのだ。

 だが長年の経験からか、ブランは素早く2本目を抜いて防御した。


 ガイィィィィン


 とっさに抜いた程度の剣ではクウの『閃』を防ぐことは出来ず、剣ははるか後方に弾き飛ばされ、ブランも大きく体勢を崩した。しかし魔力を流したムラサメの攻撃を受けてもブランの剣は壊れておらず、それなりの業物だと分かる。

 クウとしてはこのまま隙を突いて勝負を終わらせても良かったが、ステータス差を考慮して、そうはせずにムラサメを納めてブランが態勢を整えるのを待つ。

 ブランはすぐさまバックステップで距離をとり、怪訝そうな顔つきで声をだした。



「……なぜ隙を突かなかった?」


「ふっ、なぜ俺がお前如きの隙を突かねばならないんだ?」


「っ!? 貴様!」



 ブランはこめかみに青筋を立てて怒るが、それでも必死に冷静になろうともしている。ここでクウはもうひと押しとばかりに挑発の言葉を畳みかける

 


「5分だ」


「なんだと?」


「5分間だけお前に攻撃させてやる。ほら、そっちに飛んだ2本目も拾ってきていいぞ?」



 それがとどめだった。

 顔を真っ赤にしたブランは2本目を拾いに行くこともせずにクウへと突っ込んでくる。冷静さを失った分、ブランは強力な一撃だが直線的すぎる攻撃を繰り出してしまった。


 つまり完全にクウの策に嵌ってしまったのだ。

 わざわざ隙を突かずに待っていたのはクウの方が格上だという嘘に説得力を持たせるための演技。

 尊大な態度も挑発して怒らせるための伏線。

 2本目を拾わせる許可は、ギャラリーが大勢いることを盾にブランのプライドを刺激してスキル《二刀流Lv6》を効果的にさせないためのものだ。



「クソッ、当たれ、この!」



 クウの一つ一つの言動によって2本目を使うことも許されず、怒りで単調になった攻撃は例えステータス差があったとしても簡単に避けることが出来る。5分間という設定も、焦りを与え、攻撃をより単純化させる働きを担っていた。

 固有能力《虚の瞳》を使用しながら翻弄することで、ブランの攻撃はすでに剣を振り回すだけのお粗末なものになっている。野次馬の冒険者たちもあまりの光景に「開いた口が塞がらない」状態となっていた。


 そして5分は過ぎ去る。



「時間切れだ。『閃』!」



 ギィィィィイン


 簡単に軌道が読める攻撃を弾くなどクウにとっては造作もない。2本の剣を失ったブランは剣を弾かれたときの衝撃で一瞬動きを止めてしまう。それを逃さずにブランの首元にムラサメの切先を突き付けた。








 沈黙が支配するギルドの修練場。

 勝負は決まったが予想だにしない結果に審判の男は固まってしまっている。仕方ないのでクウは審判を引き受けた槍の男に近寄って肩を叩きながら話しかけた。



「なぁ、審判。勝負はついたと思うんだけど?」


「…………」


「おい審判! 勝負は終わっただろ!」


「…………」


「返事がない。ただの屍のようだ」



 クウが肩を軽く叩いても反応が無かったため、大きく揺さぶりながら頬をペチペチと叩くことでようやく槍の男は意識を取り戻した。


 

「はっ! 俺は一体何を見てたんだ!?」


「夢じゃないとだけ言っておくよ」


「いや……お前Eランクだよな?」


「そうだな」


「なんで元Aランクのギルドマスターが負けるんだよ!」


「ランクと強さは関係ない!」


「お前が言うと説得力がすごいな」



 静まっていた野次馬の冒険者たちもようやく現実に戻ってきたのか、わいわい騒ぎだした。中には半分酔っている者もいるため、その興奮は最高潮になっていた。



「嘘だろ!? ホントに勝ちやがった」

「挑発しているときは馬鹿なやつだと思ったが……まさかマジで格上だったんだな」

「あんな女みたいな見た目なのにギルマスの攻撃を弾いてたぞ?」

「しかも攻撃の避け方も一流だった」

「あいつはうちのパーティが貰う!」

「おい、抜け駆けすんな」



 パーティに勧誘するとか聞こえたがクウとしてはソロで動く予定であるため、今後の勧誘のことを考えて憂鬱になる。能力や加護を知られると拙いので、そこは仕方ない部分なのだが……。

 クウが木刀ムラサメを樹刀の鞘に納めてアイテム袋に収納していると、後ろからブランが近づいてきたことが気配で分かった。振り向くとブランは神妙な顔つきになっており、2本の剣を鞘に納めながらクウに話しかける。



「完全にしてやられたな」


「お、冷静に戻って気づいたのか?」


「ああ、最初からお前の掌の上だったな。まるで始まる前から勝負がついていたみたいな戦いだった」


「まぁ、俺のステータスだとまともにやっても勝てないからな。ステータス差を技術と話術で埋めただけだよ。あんたが二刀流を使ってたら負けたかもな」


「確かに巧みに誘導されて2本目を拾うに拾えなくなったからな。だがステータス差はそんなにないだろう?」


「言っておくが俺はLv11だぞ」


「それは嘘だろ!」


「なんなら《鑑定》してもいいぜ。持ってんだろ? あ、俺のスキルは隠蔽してるから見えないぞ」


「ちっ、お前も《鑑定》持ちか。じゃあ見せてもらうぜ……ってホントにLv11だったんだな。信じられねぇよ」



 信じられないものを見たという顔つきで何度も《鑑定》し直すブラン。何度見てもクウのLv11なのには変わりがないのだが、ブランとしては到底信じられるものではなかった。



「なぁ、勝ったんだから約束通り迷宮に入る許可をだしてくれ」



「あ、ああ。そう言えばそうだな。まさかこの試練をクリアするやつがいるなんて思いもよらなかった。専用の許可証を準備するから明日ギルドで受け取ってくれ。ギルドカードを受付に見せれば貰えるように言っておく」


「忘れるなよ」



 クウは最後に念を押して修練場を去る。

 本当は受付嬢に迷宮の情報を聞きたいと思っていたが、格上との戦いで予想外に気力を使ってしまったため、明日許可証を貰う時でいいだろうと考えてクウはそのままギルドを出た。旅の疲れを癒すためにも出来るだけ設備が整った宿を探すのだった。


 




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