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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
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EP162 砂漠の疾走

 東の空に明かりが差し始めた早朝の砂漠。まだ魔物すらも眠っているその時間帯に砂煙を挙げながら北へ向かって疾走する二人の人物がいた。二人とも白いマントを被っており、どこからどう見ても砂漠の旅人にしか見えない。しかしこの時間帯を二人だけで疾走するとなれば「旅人?」と首を傾げる者が多いだろう。

 そう、二人は【帝都】を目指すクウとシュラム。例の強襲作戦を実行するために【ドレッヒェ】を日が昇る前から抜け出していたのだ。



「シュラム。まだ走れるか?」


「当然だ」



 いつの間にかシュラムの敬語が抜けているのはクウがそう頼んだからだ。何となく気付いていたのだが、シュラムがクウに話しかけるとき、どうにもやりにくそうな表情をしていたのだ。

 だがそれもそのはずで、明らかに年下のクウに対して敬語というのは難しい。もちろん強者への敬意はあるのだが、それとこれとは話が違うのだ。そこで作戦を実行する上でも障害になり得ると考え、クウが敬語が要らないと言ったのだ。



「なら次のオアシスが見えたら休憩にしよう」


「心得た」



 二人はさらに速度を上げて北へと走る。

 地図上で【帝都】は【ドレッヒェ】の真北に位置しており、その間には街一つない。また現在、【ドレッヒェ】は反旗を翻した街とされているため、このルートを通る者はいないのだ。それゆえこのような無茶苦茶な走りを見せても全く問題なかった。



(それにシュラムも思ったより優秀だったしな……)



 クウは隣を並走するシュラムをチラリと見ながらそう考える。




―――――――――――――――――――

シュラム ・ハーヴェ 143歳

種族 竜人 ♂

Lv155


HP:9,732/9,732

MP:5,832/5,832


力 :8,622

体力 :8,891

魔力 :5,272

精神 :7,828

俊敏 :6,945

器用 :5,476

運 :29



【通常能力】

《槍術 Lv8》

《風魔法 Lv6》

気纏オーラ Lv7》

《気配察知 Lv7》

《気配遮断 Lv5》

《状態異常耐性 Lv3》

《土耐性 Lv1》

《剛力 Lv8》

《統率 Lv7》


【称号】

《竜人の長》《到達者》《南帝》

―――――――――――――――――――





 魔族だけあって能力が非常に高い。堅い砂漠の甲殻魔物を相手にしているためか、珍しいスキルである《剛力》も習得しており、物理攻撃力が極端に高いようだ。それでいて魔法攻撃も持っているとなれば優秀さも分かるというものである。

 また耐性スキルを所持していることも良点だ。耐性スキルは非常に有用であり、スキルレベルによってはほとんど攻撃を無効化することもできる。しかしレベルを上げるのが非常に困難であり、そもそも習得も難しい。

 一定の攻撃を食らい続けるという苦行が必要なのだ。

 砂漠には状態異常を操る魔物が多くいるためシュラムは習得できたのだろう。《土耐性 Lv1》については生まれながらに持っていたスキルなので除外だ。



(これが竜人の長クラスか。魔物の襲撃も頻繁に起こるみたいだし、これぐらい強くないと生きていけないんだろうな)



 もちろんクウには遠く及ばないが、その強さは十分以上だ。《気配遮断》も所持しているので今回の潜入でも足を引っ張るということはない。

 またいざ戦闘となれば、切り札として竜化も残されている。



「見えたぞクウ殿。最初のオアシスだ!」



 突然聞こえてきたシュラムの叫び声にクウは思考の海から引き戻される。見ると遥か先にヤシが繁っているのが見え、小さなオアシスとなっているのが分かった。

 都市を形成するほどではないが、このような小さなオアシスは砂漠に幾つも点在している。このようなオアシスは旅人の休憩地点としてよく利用されており、砂漠では非常に重要な拠点だった。だがこのオアシスも利点だけではない。



「やはり魔物がいるな」


「そのようだ。十体以上の反応がある……おそらくデザートフォックスだ。体は弱いが強力な《土魔法》を使う厄介な魔物だぞ」


「まだ眠っているみたいだし奇襲して脅かせば逃げるだろ」



 砂漠のオアシスは魔物にとっても休息の場となる。貴重な水場に魔物が集まるのは当然だった。特に街を形成しているような巨大オアシスに近づくことの出来ない弱い魔物はこのようなオアシスで眠っていることも少なくない。

 弱いと言っても魔族領基準であるため雑魚という訳ではないのだが、この二人にとっては大した魔物とは言えなかった。



「「はああっ!」」



 クウとシュラムは同時に大声を上げてオアシスへと走り込み、クウは魔力を放出して魔圧を掛ける。これに驚いたデザートフォックスの大家族は驚いて一目散に逃げ出した。肉食で気性の荒い魔物だが、自分より強い相手を見たら即座に逃げ出すという臆病さも持ち合わせている。それ故にクウの魔圧を感じて勝てないと悟ったのだ。



「キュゥ~」

「クゥーン!」

「キュキュッ」

「キュン、キュゥン!」

「クルルルルッ」



 クウもシュラムも逃げまどうデザートフォックスを追撃するつもりはない。ここで戦闘になって小さな泉に死体が落ちることは避けたいし、無駄に命を刈り取る必要もない。

 オアシスを追い出すだけで十分なのだ。



「こんなもんか?」


「デザートフォックスはそれほど強い魔物ではない。アレはアレで厄介だが、この砂漠で最も恐ろしいのは毒を使う魔物たちだ。今は毒消しの薬草が私たちまで届かないからな。【ドレッヒェ】でも年に数人は被害者が出ている」


「移動するときにも気を付けておいた方がいいな。流石に毒は治せる自信がない」


「……本当に?」


「お前は俺を何だと思っているんだ」



 さすがに毒は無理だと語るクウに懐疑的な目を向けるシュラム。確かにクウの能力は万能にも見えるが、本当に万能なわけではない。幻術を使って毒の効果を感じさせなくすることは出来るだろう。だが毒自体が消える訳ではないので、解毒することは出来ない。

 思い込みの力で治癒力が上がる、といったことが精々だ。

 ジト目を向けるシュラムに気まずさを感じたのか、クウは話題を変えるべく口を開く。

 


「まぁ、それはともかく少し休憩するぞ。【帝都】まではまだ結構あるんだろ?」


「そうだな。このペースなら三日ほどだと思う。私が知る限りはあと四つほどオアシスがあるから、休憩場所にも困らないだろう」



 シュラムは泉の水を手で掬って口に運び一息つく。砂漠では水の補給は命に関わる重要なことだ。だが汗を掻きすぎないように一気に水を飲み干すということも避けなければならない。クウはその辺りの知識はあまり持っていないので、シュラムに教わりつつ砂漠での生活を習得しようとしていた。



(やっぱり迷宮の砂漠階層を経験した程度ではダメだな……)



 虚空迷宮でもフィールドフロアとして砂漠地帯があった。そこでは毒性魔物や熱さに苦しめられたが、一階層ごとに外に出られたのだ。準備も常に万端な状態で挑むことが出来たし、何より水の心配をする必要が無かったのだ。

 本物の砂漠とは天と地ほども差があると思わされる。

 



「ともかく朝食にしよう。日も上ってきたしな」



 クウが目を東へと向けると、完全に日は昇っていた。暁の朱色は消え去り、すでに空は青くなり始めているのが分かる。何時かは分からないが、感覚的には七時ぐらいだろうか。

 オロチとの激戦でクウの腕時計は壊れてしまい、もはや正確な時間は知ることが出来ない。

 かつて腕時計を付けていた左手を見て残念だと思いつつ、クウはその思考を振り払って虚空リングから朝食用のパンと干し肉、そして果物を取り出した。



「これを食え」


「かたじけない」



 シュラムはクウに渡された朝食を素直に受け取って口に運ぶ。元々クウが食料を用意するということだったため、シュラムにも遠慮がないのだ。若干、生の果物に驚いているようだったが、恐る恐る口に運んでそのおいしさに目を見開く。クウはその様子を面白そうに見ていたのだった。



(やっぱり砂漠で生のものは貴重なんだな。もしかして虚空リングで商人でもやったらぼろ儲けするんじゃないか?)



 ふとそんな考えが頭に浮かぶが、すぐにそれを振り払う。たしかにそれも楽しいかもしれないが、今はそれよりももっと重要な案件があるのだ。やることがなくなってから考えればいいだろう。



(いや待て……ナチュラルにこの世界に残るみたいに考えているよな。初めは地球に帰る気しかなかったのに不思議なもんだ。意外とこの世界を気に入っているのか? いや、それとも―――)



 クウの頭に浮かんだのは共に旅をしているもう一人の仲間。今は家族として行動しているリアの姿だった。クウの中では既にかけがえのない存在として大きな部分を占めている。かつて家族を失ったクウにとっては絶対に守るべき対象だった。

 つまりリアを置いて地球に帰るという選択肢はないのである。

 またもう一人の家族であるユナのこともある。血は繋がっていないが、クウの中では最優先とも言える人物がユナ・アカツキなのだ。そのために魔族の領域まで来たのであり、むしろ虚空神ゼノネイアの頼み事の方がついでだ。



「待ってろよ……優奈」



 そう小さく呟いたクウだったが、シュラムにも少し聞こえていたらしい。先程から動きを止めて考え事を続けていたクウを心配そうに見つめながら声を掛けた。



「どうかしたのか? 何か呟いていたようだが」


「ん? ああ、何でもない。ちょっと昔を思い出していただけだ」


「調子が悪いなら早めに言うことだ。砂漠は慣れないのだろう?」


「そうだな……もう少し休んでから出発することにしよう」



 シュラムもクウに同意して頷く。

 そして三十分経った頃、小休憩を終わらせ再び二人は北を目指して走り始めた。日が昇ったことで熱さが二人の体力を奪い続けるが、それでも止まることはない。偶に出現する魔物もクウが一撃で切り裂き、シュラムが一撃で穿って仕留める。

 そんな無茶苦茶な旅を続けること三日。ようやく目の前に【帝都】が見え始めたのだった。

 




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