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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
154/566

EP153 竜人の里へ 後編

はい、後編です。

もっとサクサク進む予定だったのにどうしてこうなった……

 一面に広がる砂景色を上空から眺めるクウとリア。砂漠と言っても地表から離れればある程度は熱さもマシになり、直射日光さえ防げばそれなりに快適なものである。またファルバッサも適度な速度で飛行してくれているため、向かい風が当たって寧ろ涼しいぐらいだった。



「あれがオアシス都市【ドレッヒェ】か」


”そうだ。さらに奥にあるもう一つのオアシスが我の住んでいた場所になる”


「とても綺麗な街並みです。泉に日の光が反射してキラキラしていますよ!」


「確かに澄んだ水だな。ようやく水の補給もできそうだし丁度いい」



 二人の一匹の視線の先にあるのは砂漠の真ん中に広がる白の街並み。土を使った白壁の建造物ばかりが建ち並んでおり、クウはギリシャにある海岸の街を思い出させる。

 街の中央部にある大きな泉の周囲にはヤシの木のような樹木が乱立しているのが見えるため、まさにイメージ通りの砂漠のオアシス都市といった風景を見せつけていた。



「さて、問題は俺とリアだな」


「そうですね。人族が入っても大丈夫なのでしょうか?」


「うーん。ファルバッサがいるからある程度の誤魔化しはできると思うんだけどなぁ」



 そう、目の前に竜人の里がありながらもすぐに下降しようとしないのは、この問題があるからだ。一応、昨日の時点で竜人の長シュラムとは会っている。とは言ってもファルバッサが代表して会話しただけであり、クウとリアに関してはただ出会っただけである。フードを被って顔を隠していたため、おそらくクウとリアが人族であることは知られていないだろう。

 しかしクウはある程度は大丈夫だろうと予測していた。



「俺も天使の翼を出しているのを見られているからな。神獣とその天使! って感じで勘違いされてたみたいだし、いきなり襲われるということはないだろう」


「そうですね。わたくしが教わってきたことも多くが嘘でしたし、魔族が凶暴で人族を見た途端に襲ってくるということもないでしょう」


”当たり前だ。そもそも寿命の長い竜人たちでも過去の人魔大戦のことを知らぬ者ばかりだ。人族自体を見たことのない者ばかりだろう”


「それもそうか」



 人族の間では、魔族とは人族と敵対している悪魔のような種族だと認識されている。魔物を操り、今も人族を駆逐しようとしていると信じられているのだ。

 二年ほど前に人魔境界山脈にあった魔族の砦を一度目に召喚された勇者たちが落としたというのは有名な話であり、それ以来は魔族と人族がまみえることはなかった。

 因みにこの砦は魔族領から侵入した強力な魔物によって再び落とされ、今は魔物たちが闊歩する接触禁止アンタッチャブルの場所とされている。一度目の勇者の内、二人はここで殺され、一人は……朱月 優奈は裏切ったとされているのだ。

 ここまで魔族=悪のイメージを植え付けられると、実際に魔族領を目にしているクウとリアからしてみれば違和感しか感じない。現に同じ魔族同士で争っているのが見受けられたのだ。とても人族を気にしているとは思えない。



「幻術で竜人のフリをすることも出来るけど、どうせすぐにボロが出る。俺たちは魔族領についても、竜人についても全く情報がないからな。ずっと旅をしてたとか取り繕うことも出来るだろうけど、そこまでするぐらいならある程度は正直に言った方が後腐れ無くていい。これで襲われたらそれまでだ。穏便に行動するのは止めにして無理矢理にでも情報を抜き取る」


”はぁ……あれでも我を崇めている種なのだ。手荒な真似は止めて欲しい”


「じゃあ、襲われたら逃げることにするか。ともかくお前に呪いをかけたレイヒムを何とかすればいいわけだしな」



 忘れたわけではなかったが、今回クウが砂漠まで来たのはファルバッサの呪いを解くためである。偶然にもその呪いを掛けた者をステータスごと確認することが出来たため、最悪の場合も問題ない。

 ステータスの【称号】部分に《砂漠の帝王》という表示があったため、この【砂漠の帝国】の皇帝であると予測できる。名も無き一般人を探すのは難しいが、皇帝ならば情報も集めやすく探しやすいのだ。



「それにレイヒムはボロロートスと同じ『神種』だった。ボロロートスは魔物だったから難しかったが、レイヒムなら詳しい話も聞けるかもしれないな。幻術を使った拷問方法ならいくらでもあるし」


”そうだな。神種に関しては我も分からぬことだらけだ。出来ることなら調べるべきだろう。神の真なる加護以外に【魂源能力】を発現するというのも不思議な話だ”


「そう言えば兄様。そのレイヒムと言う方の能力はどういったモノなのですか?」



 難しい会話をしているクウとファルバッサに割り込むようにしてリアが話しかける。そもそもリアはステータスが見えないために『神種』というものについてもあまり理解していない。クウとファルバッサだけで自分の知らない話をしているのが少し寂しかったのだ。

 クウも悲しそうな顔をしているリアに気付いて慌てて説明を始める。



「リアには詳しく説明したことがなかったか。そもそも俺やファルバッサが持っている【魂源能力】は虚空神ゼノネイアの真名の加護をきっかけとして生じたというのは知っているよな?」


「はい。迷宮九十階層で兄様の出自を聞いた時に説明されました」


「だがその加護無しに【魂源能力】を所持している者がいることが分かった。以前、辺境村で戦った神種トレントのボロロートスしかり、昨日見た神種獣人(蛇)のレイヒムしかり。

 つまり神種というのは神の真名の加護と同等の力を持つ何かしらの影響を受けた種であるという予想が出来る。そしてステータスを覗くと【称号】に《天の因子を受け入れし者》というのがあるから間違いないだろう」


「確か【魂源能力】は強力極まりなく、無闇に手に入れさせないために試練として迷宮が用意されているのですよね」


「よく覚えていたな。まぁ、基本的に神の仮の加護を受けた者しか攻略できないような難易度だから、実質は一般人に【魂源能力】の獲得は無理だな。だが実際にレイヒムは【魂源能力】を獲得し、ファルバッサに対して呪いを掛けている。

 呪いは俺でもファルバッサでも解除できなかったことから【魂源能力】としての力があることは間違いないだろうな」



 クウはここで一旦言葉を止める。

 呪いとは《付与魔法》の一種であり、マイナス効果を与えることを呪い、プラス効果を付与と呼称しているに過ぎない。呪いと言っても相手に対するダメージを与えることだけが目的ではなく、例えば武器に対して装備者制限の呪いを付与すれば武器を奪われるということがなくなる。身近な例を挙げればクウの神刀・虚月にも同様の効果が付いている。

 そして呪いは普通、意思力によって付与されるモノであり、意思干渉を可能とするクウの《幻夜眼ニュクス・マティ》やファルバッサの《幻想世界ファンタジア》ならば解除できるのだ。

 しかしそれは出来なかった。理由は【魂源能力】である《怨病呪血アヌビス》によって掛けられた呪いだったからである。これは血液を媒体として呪いを掛ける能力であるため、外から意思力だけで解除するのは難しい。さらに同クラスの能力であるということも難しさを跳ね上げているのだ。

 クウはこのことをリアに説明して最後に締めくくる。



「つまり俺が直接解除するよりもレイヒムに働きかけて解除させる方が簡単だし効率的だ。これが今回の相手の能力だよ」



 クウの説明にリアは黙り込む。

 ボロロートスとの戦いでリアも理解していたが、【魂源能力】は総じて強力であり厄介だ。ボロロートスが所持していた《無尽群体ボルボックス》は周囲の養分を奪い取って無限にも思える生命力と再生力を実現していた。クウとファルバッサの合わせ技が無ければ完全消滅は難しかっただろう。

 そして今回のレイヒムに関しては呪いに関する能力。レイヒムの血がキーとなっているため、滅多なことでは影響を受けることがない。しかし一度その能力を受けてしまえば圧倒的に不利な状況へと落とされてしまうことは間違いない。現に超越者であったはずのファルバッサも呪いをくらってしまったのだから油断するのは禁物だろう。



(まぁ、可能性として《月魔法》の浄化と《幻夜眼ニュクス・マティ》の意思干渉があれば解除できそうな気がするけどな)



 情報を整理するリアに目を向けながらクウはそんなことを考える。

 要は呪われた血液の浄化と呪い解除を同時に行えば《怨病呪血アヌビス》の呪いは解けるのだ。しかしスキルの並列起動が得意なクウでも【魂源能力】の同時発動だけはどうしてもできない。昨日のファルバッサの話を聞いたクウは、おそらく潜在力スペックの不足だろうと予想している。そのため超越者にならない限りは難しいのだ。



(てかそれなら超越者になってしまえばここで頑張る意味ないよな)



 ふとそんな考えが頭を過るが、クウは首を振ってそれを払う。これはもしもの可能性でしかないのだ。可能だとは思うが確実ではないため正規の方法で解く方がいいだろう。

 そんな風に考えるクウにファルバッサが声を掛ける。 



”話しは纏まったか?”


「ん? ああそうだな。リアは大丈夫か?」


「はい。何となく理解できました」



 かなり難易度の高い話だったとクウは思うのだが、リアはしっかり理解できたようだ。魔法の天才と呼ばれただけあって頭の回転は速い。クウの伝授した科学理論も理解できたのだ。意外と順応性も高いと言えるだろう。

 貴族は頭の固い連中が多いのだが、リアに関しては常識に捉われず、新しいものを受け入れるだけの柔軟性も持ち合わせていた。冒険者として迷宮に潜っていたことも順応性を高める訓練となっていたのだろう。

 リアの返事にクウは深く頷き、話を戻す。



「さてと、今後の方針だったな。竜人の里に下りてからの行動も含めてここで確認しておこう」


「そうですね」


”ではまず、我らはこのまま降下するということで良いか?”


「ああ、変装はしない。一応俺とリアはフードを被っておくけど、顔を見せろと言われたら素直に従うことにしよう。昨日のことを鑑みれば味方になる可能性もある。信用は築いておきたい」



 クウはそう言いつつ自分のマントのフードに触れる。幻術による変装は便利だが、場合によっては感情よりも純粋な利による信頼関係の方が有用な時もある。竜人に変装していれば、同種族として迎え入れてくれる可能性が高いが、一度ボロを出せば一気に信用は地に墜ちる。ならばこそレイヒムという共通の敵を持つ者として利を示した方が後々のためにはいいだろうと結論付けた。

 リアとファルバッサが納得して頷いたのを見てクウは言葉を続ける。



「そして俺たちの最大の目的は情報収集。ファルバッサの情報は六十年前のものだから当てにならない。だからこそ今の情報をすぐに集める必要があるだろう。可能なら竜人たちに六十年で何があったのかも聞いておきたい」


わたくしはどうしましょう?」


「リアは取りあえず杖の件を片付けないとな。無理だったとしても治癒の魔法で竜人の信頼を勝ち取る方向でいこう。一応《回復魔法》と《光魔法》は珍しい部類だしな。それに水の補給もしておきたいから出来るだけ恩を売っておいてくれ」


「はい」



 少し汚いがこれは重要なことだ。レイヒムが竜人たちを攻撃したのは事実であり、今回のことで怪我をした者は少なくないハズだ。リアの治療は【固有能力】のお陰で普通よりも強力である。死んでいなければ大抵の怪我を治せるため、信頼を得るには格好の手段だと言えた。



「ファルバッサは言わずもがなだな。俺は天使であることを隠さない方向で行こう。神獣ファルバッサ様の天使だと思われているみたいだしな」


”む……”



 からかうような口調でそう言うクウにファルバッサは少し恥ずかしそうに唸り声を上げる。

 確かに自分でも引くレベルで崇められているのを見られれば、とんだ羞恥プレイだろう。ファルバッサからしてみれば勝手に崇められているだけであるため迷惑極まりないのだが……

 そんなファルバッサを放っておいてクウは言葉を続ける。



「さて、①情報収集、②リアの杖、③物資補給が大きな目的だ。行くぞ」


「はい!」


”……うむ”



 若干一名……いや一匹が納得してないようだったが、クウの言葉のままに下降を始める。目標は竜人の里【ドレッヒェ】の中央にある大きな城。その最も目立つ場所にファルバッサが降り立つのだ。

 それはまさに神の降臨のように思えるだろう。

 少し腹黒い笑みを浮かべたクウと純粋な目をしたリアを乗せつつファルバッサは飛翔するのだった。






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