EP151 霊力と魔力
もう一つの小説も更新しました。
よろしければそちらもどうぞ
魔力とはこの世界エヴァンの特有エネルギーであって、魂の力であるMP=霊力とは異なるもの。この事実は少なくない衝撃をクウに与えていた。
しかしここで魔力が必要なのか? という疑問が出てくることになる。
霊力でもエネルギーとなり得るのならば、わざわざ魔力として変換する必要はない。変換にロスも生じるし、何よりスキルや魔法の発動に時間が余計に掛かることになる。そう考えるのは当然のことだった。
だがファルバッサは真っ向からその考えを否定する。
”魔力とはこの世界にはなくてはならないものだ。このことを解説するためにはまず霊力を詳しく説明する必要があるだろうな”
ファルバッサは一拍ほどの間を置いてから言葉を続けた。
”霊力は先程も言った通り魂から湧き出るエネルギーだ。それは生物固有のものであり、魔素と違って奪ったり自分以外の霊力を操作したりすることはできない。誰かが霊力を魔素に変換した時、その魔素を奪ったり操作したりという形なら可能だがな。また魔素を霊力に戻すことも可能だ。《魔力支配》スキルに含まれている《魔呼吸》……これは自分以外の魔素を扱うことが出来るスキルだから良く知っているだろう”
「つまり魔力はスキルのためにあると?」
”まぁ落ち着け。話を進めるのはまだ早い。今、霊力は固有のものだと言ったが、これは神すらも干渉不可能なものなのだ”
「神も……か」
クウは少し空を仰ぎながらそう呟く。
圧倒的な君臨者であり、世界を統治する神。地上に顕現するだけで世に混乱を齎すほどの存在。
その神ですらも手を出すことが出来ないのが霊力だというならば、それを生み出す魂というものは思った以上に凄いモノだと分かる。
その魂の潜在力を最大まで引き出せる状態が超越化なのだ。ステータスは魂に制限を掛けて一部までしか引き出せないようにしているのだと考えられる。
”そう、神すらも他人の霊力(MP)には干渉できない。だから神は考えたのだ。他者のエネルギーへと干渉する方法をな。それが―――”
「魔力か」
”そうだ”
ファルバッサは鷹揚に頷き、一旦言葉を止める。クウに少しだけ整理する時間を取らせるためだ。
多くの衝撃的事実を聞き、世界の真理を目の当たりにしたクウは《思考加速 Lv4》すらも使って頭脳をフル回転させていた。
多くの魂が……つまり生物が無制限に、さらに制御不能なままに世界へと解き放たれれば神も困ること間違いない。そう言う意味ではステータスという名の制限や、魔力を介した魂のエネルギーへの干渉方法を確立することは世界の統治の上で必要不可欠だと言えた。
ここまで考えてクウはあることに気付く。
「つまり……レベルアップとはパワーアップのことではなく、ただの制限解除なのか?」
”ほう、気づいたか。流石と言うべきだな。生物には全て二百に及ぶ封印がなされている。百九十九の潜在力封印と一つの意思力封印だ”
「だから最大レベルが二百なのか。そして意思力封印とは【魂源能力】のことだな。確かアレは魂に秘められた意思の力を顕現させた能力だったはずだ。強い意思力を持つ者ならば、神の加護というきっかけによってその力を手に入れる」
”そういうことだ。そして潜在力も封印であるために、あるきっかけで外れることがある。それは自らに命の危機が迫ったときや、それに準ずる命がけの戦闘を行った時だ。だから必ずしも殺害や戦闘だけがレベルアップに必要という訳でもない。普通に生活しているだけでもレベルアップすることはある。普通に鍛えてもステータス値は多少上がるが、やはり封印解除がもっとも効果的だな”
「なるほど。じゃあレベルが上がるごとにレベルアップしにくくなるのは?」
”封印に掛けられたエネルギーは減ることがない。たとえば百の封印が残っている時を考えてみるのだ。封印エネルギーは百の封印に平均的に分けられることになる。しかし五十の封印が残っている時は、その五十の封印に同じだけの封印エネルギーが平均的に分けられることになるため、封印一個あたりに掛けられたエネルギーが増えることになるのだ。つまり最終的にLv199からLv200に上がる時は、はじめ百九十九個に分けられていた封印エネルギーが一挙に集中することになる。
これがレベルアップが難しくなっていくプロセスだ”
クウの考えるゲーム的価値観で言えば、レベルアップは敵を倒すことによって得られる経験値がキーになっているというのが一般的だろう。しかしここでもゲームとは違う、一つの世界なのだと考えさせられることになった。
ステータスがあり、スキルがあり、魔法があるゲームや漫画のような世界。しかしそこには確かに人が生きており、世界を成り立たせるだけの仕組みがある。
少しだけ考え込むクウに構わずファルバッサは話を続けた。
”話が逸れたな。それで神が魂の発するエネルギーを制御する必要があるという話だったが、そのために神の一柱である魔法神アルファウが魔素というものを創りだした。魔法神は魔力や魔法システムを管理するこの世界の神であり、一般的には魔神ファウストとも呼ばれるな。またお主がこれから会う予定の魔王は魔法神の天使だ”
「ああ、そういえばゼノネイアからも聞いたな。魔神と聞いて邪悪なイメージをしてたけど、魔素と魔法を司る魔法神が正式名だったと聞いて驚いた覚えがある」
クウはバッと顔を上げて返事をする。
前に虚空迷宮の百階層でゼノネイアと話した時も魔法神の話は出てきた。魔王が魔法神アルファウの天使だということで覚えていたのだ。
ファルバッサも頷きながらさらに口を開く。
”うむ。それで魔素をこの世界に組み込んだことによって生物は霊力をそのまま扱うことが出来ないように制限されたのだ。さらに意思力も封印することで能力管理も徹底した。
意志力は強すぎれば封印された潜在力すらも引き出してしまう可能性のある危険な……いや、そういった可能性を秘めた潜在力と双璧を為す強大な力だった。現に封印解除も強い意思力が封印エネルギーを上回ることで解放される”
「そうなのか……? だが俺は【魂源能力】を獲得し、意思力が解放されている……にもかかわらずレベルアップは遅いぞ?」
”それはお主が強すぎるからだ。圧倒的に強いゆえにさらに強くなろうという意識が芽生えにくい。ゼノネイアが山脈越えをさせて山脈の六王と戦わせたり、危険を承知でこうして超越者になる前にオロチと引き合わせたりしたのは、自分と同等、またはそれ以上に強いものが居るということを示すためだったのだろう”
「ふーん」
クウはそう言いつつ心の内で「ステータス」と唱える。しばらくぶりに透明な板状のモニターのようなものが現れ、クウの現状を映し出した。
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クウ・アカツキ 17歳
種族 天人 ♂
Lv188
HP:38,324/38,324
MP:37,992/37,992
力 :35,921
体力 :35,154
魔力 :36,458
精神 :46,872
俊敏 :36,234
器用 :37,004
運 :40
【魂源能力】
《幻夜眼》
《月魔法》
【通常能力】
《剣術 Lv7》
《抜刀術 Lv8》
《森羅万象》
《魔力支配》
《気配察知 Lv8》 Lv1UP
《思考加速 Lv4》 New
【加護】
《虚空神の加護》
【称号】
《異世界人》《虚空の天使》《精神を砕く者》
《兄》《到達者》《指名手配犯》
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「大幅にレベルアップしてるな。今ならキングダム・スケルトン・ロードも物理だけで殺せそうな勢いだ」
”そうだろうな。圧倒的上位者である超越者と戦闘を行ったのだ。レベルアップしてもおかしくない。まぁ、元々天使という種自体にかけられた封印エネルギーは普通より大きい。それほどまでレベルアップするということはかなり危険な相手だったということだろう”
「ゼノネイアの野郎……」
”ふ……これで死ねばそれまでということだろう。生半可な天使では真なる超越天使になることは出来ぬだろうからな”
確かにゼノネイアはクウに「まだ強くなって貰う」と言っていた。それが超越化のことだとすれば、強い敵にぶつけてレベルアップを図るということは効率的な判断である。
クウは超越者となるために必要な条件の内、意思力解放は満たしている。あとはLv200になることで満たされる潜在力解放をすることによって超越者となれるのだ。
頭を抱えるクウにファルバッサが宥めるような口調で語り掛ける。
”まぁそのことは後でじっくり考えるがよい。それよりもまた話が逸れたな。それで神々は意思力と潜在力を封印することで生物が強大な霊力を操ることを防ぐことにも成功した。つまりこの世界エヴァンに住む者は必然的に魔力を使わざるを得なくなったのだ。
その代わりに神はスキルを生み出し、それを管理することで生物の持つ能力を安定させたまま管理することが可能となったわけだ。低くなった潜在力を補うようにしてスキルアシストを世界に設定し、逆にそれを制限としても利用して世界の管理体制を築き上げた。ちなみに魔法の詠唱もこのアシストの効果なのだぞ”
クウは大きく溜息を吐く。
召喚当初はあれ程にも興奮したステータスも、蓋を開けてみれば世知辛い事情が招いた神の都合だった。そんなことを知れば夢もクソもないだろう。世界の真理とは知らない方が幸せだったということである。
「まとめると……神ですら霊力は管理しきれない。だから魂の力を封印し、さらに魔素という代替エネルギーを作ることによって霊力の管理も可能とした。
そしてその弱体化を補うために、そして神が能力を管理し制限するためのスキルを世界に設定したと。確かに神からしてみれば必要不可欠だし、世界にアシストしてもらうためにも魔素を通して神が干渉権限を得ることも理に適っているな」
”そういうことだ。MPと魔力の違いは理解したな?”
「ああ」
クウは空を仰ぎ見ながらそう呟く。
星々は美しく瞬き、見たこともないような満天の星空を見せつけている。地球とは全く違う天上の景色。今日は改めて異世界だと感じさせられたが、それはこの空にも十分に表れている。
”今日はもう休むがよい。少し頭を整理することも重要だろう。我やオロチについてはまた明日、竜人の里に行ってから話すことにしよう”
「……そうだな」
思考能力が高いクウでさえも受け止めきれないほどの重大な情報。そんなクウに気遣ってのファルバッサの優しさだった。またリアは既にクウの肩に寄りかかって眠っているため、今日はこれぐらいにした方がいいだろうと考えたのだ。
オロチやレイヒムに関してはリアも知っておいた方がいいと思ったからである。
(クウは優秀だ。明日にはもう大丈夫になっているだろう)
ファルバッサはクウがリアをテントに運び込むのを眺めつつ瞼を閉じるのだった。
パチパチと焚火の炎が弾ける音だけが響き渡り、夜は更けていく。
レベルアップの仕組みについてようやく解説できました。理論的にかつ理に適ったレベルシステムだと自負しています。
神様の事情ってこんな感じかなーと考えながら作りました。





