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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
147/566

EP146 避難した竜人たち

もう少し早く投稿するつもりだったのですが、旅行疲れで寝てました。申し訳ないです。


感想で「敵側の強さがインフレしてね?」とご意見いただいたのでちょっとだけ説明を。もしかしたら「無計画に敵を強くして未完結のままになるのでは?」と不安を感じている方もいるかもしれないのでね。

大丈夫だ。問題ない。

一応は完結までの大まかな流れと四章先までの計画は出来ているので大丈夫でしょう。細かい設定や内容はその都度調整しているのですが、重要な設定などはすでに確定しているので途中で投稿を投げだすことはないと思いますよ。

地道に完結までやりきろうと思うのでお目汚しですが最後までお付き合いくださいな。

 後先考えずに神話クラスの魔術や秘術を発動していたオロチだが、一方でその光景を周囲から見ていた竜人たちは畏れ慄いていた。

 無数の大岩が天から落ち、凄まじい大雨が降ったかと思えば、地震が起きる。まるで天変地異のような光景をみて絶望しない者などいないだろう。竜人の里である【ドレッヒェ】の近くにあるオアシスまで逃げていた竜人の市民たちも、各々の家族同士で固まりながらその光景を眺めていた。

 そして住民を守る護衛としてその場に居たミレイナも茫然としつつ口を開いた。



「何なのだあれは……?」



 砂漠でも災害が無いわけではないが、砂嵐や日照りのようなものだ。地震はともかく、大雨、ましてや隕石など見たこともない。恐怖を感じても当然だった。



「ミレイナしっかりしろ。君が怯えては皆にとって悪影響になる」



 震えるミレイナの腕を掴んでそう言うのは三将軍の最後の一人であるレーヴォルフだ。ミレイナからはレーヴと愛称で呼ばれる彼はミレイナの戦いにおける師匠であり、実質この場での最高責任者である。しかし竜人族の長、シュラムの娘であるミレイナはこの場における象徴のようなもの。ミレイナが怯える様子を見せては、それが全体にまで広がることになるのだ。



「わ、分かっている! だがあそこには……」


「ああ、恐らくシュラム様もいるのだろう。だが、もしもそうだとすれば……君が竜人の長となる。弱い姿を見せてはいけない」


「っ! だが……」



 普段こそシュラムをジジイと呼んでウザがっているミレイナだが、決してシュラムのことを本心から嫌っているわけではないのだ。世の終わりかのような光景を見せられて、その場所に父親がいると考えれば心配するのも当然だった。

 しかしレーヴォルフはミレイナを諭すように言葉を続ける。



「君は単純な力では僕たち三将軍にも比肩する強さを持っている。経験や技術面では不安が残るけど、それを覆す【固有能力】があるから問題ない。民たちは間違いなく君を首長にと選ぶだろう」


「…………」


「それにシュラム様が生きているにしても死んでいるにしても、今のこの場で最も発言力が強いのはミレイナだよ。普段から街に遊びに出て民と仲良くなってしまった君のいつもの行動の結果だと思って観念するんだね!」



 最後だけ冗談めかしてそう語るレーヴォルフ。

 今も地面は揺れ続けており、とても冗談など言えるような状況ではないのだが、レーヴォルフの言葉にミレイナも少し余裕が出来た。



「そ、そうだな。私がしっかりしないと……」



 ミレイナは十六歳ながらも思いを奮い立たせて決意する。

 その様子を見たレーヴォルフも安堵の息を吐いてガシガシと頭を掻きむしった。族長の娘と言うこともあり、ミレイナに対する竜人の民からの信頼は意外と高い。若いながらも戦闘力が高いという面もあるため、将来の長は彼女だと殆どの者が思っているのは事実だ。

 しかし実力が三将軍に匹敵するという部分に関しては少し怪しい。ミレイナの能力を十全に扱えば現族長のシュラムすら超える戦闘力を発揮するのだが、実際は能力を使いこなすことが出来ていない。事実、レーヴォルフが師匠としてミレイナと戦えば必ずレーヴォルフが勝っているため間違いない。

 それでも怯える竜人を収めるためには自分よりもミレイナの方が適役であり、そのやる気を引き出すのも師匠としての役目なのだ。



(住民が混乱でもして死人が出ようものなら目も当てられない。僕は僕の役目を果たさないとね)



 バシバシと両手で頬を叩いて気合を入れているミレイナを眺めつつレーヴォルフはそう考える。鮮やかな赤色の髪を靡かせ、その間からは竜人特有の角が見えている。キリリとした表情で決意を固める彼女は明らかに雰囲気が変化していた。これも師匠としての信頼を築き上げてきたレーヴォルフだからこそ出来たことなのかもしれないが、彼女自身の強さもあってのことだろう。

 そうこうするうちに揺れも収まり、避難民たちも落ち着きを取り戻し始める。

 レーヴォルフは腰に下げた水筒を手に取り、ミレイナに手渡しつつ口を開いた。



「これでも飲んで一息つくといいよ。その後に一言やってくれ」


「ああ、分かった」


 

 受け取った水筒の蓋を空けて遠慮なく水を口に含むミレイナ。その様子をレーヴォルフは微笑みながら眺めていた。水筒の半分ほどまで水を飲み終えたミレイナとレーヴォルフはお互いに顔を見合わせて頷き……そしてミレイナは声を張り上げた。



「皆落ち着け!」



 その一言で竜人たちは静まる。

 強者に従うのが獣人や竜人のルールだ。里では強者の一人として知られているミレイナの言葉とあっては従わないハズがない。ここでも、ミレイナが竜人に良く知られていたことが幸いした。

 住民の護衛に当たっている竜人の正規軍は凡そ百人であり、その人数で千人を超える民を把握して混乱を抑えるというのは難しい。やはり絶対的な立場の指導者の力は大きいのだろう。

 多くの民に注目されたことで少しばかり緊張しつつもミレイナは言葉を続ける。



「あちらでは北帝軍と厳しい戦いが繰り広げられているようだが、ここはまだ安全だ。それにこの地は嘗て神獣様が居を構えていたという特別なオアシスなのだ。心配することはない!」



 今竜人の非戦闘員が避難しているのはファルバッサがこの地に住んでいた際に利用していたオアシスだ。ファルバッサの住処となるだけあってそれなりに大きなオアシスであり、水も豊富にある。よって大人数で避難したとしても渇くことがないのだ。

 さらに神獣が住んでいたことがあるという部分は竜人たちにとって心理的な支えとなる。

 とはいっても、そのことを口にしているミレイナは神獣を見たことがないし、若い竜人の中にもピンとこない者も多い。しかし、それでも大多数の者に希望を与える事実であり、それによって歓喜する古参の竜人を見た若い竜人たちも集団真理で安心感を覚えていた。



(これでいいのか……?)



 少し不安そうな表情をしつつもチラチラとレーヴォルフの方を見やるミレイナ。そんな様子を眺めていたレーヴォルフは苦笑しつつも頷くのだった。

 しかしミレイナの苦労とレーヴォルフの努力は思わぬ形で意味を為さなくなる。



「あれは……シュラム様!?」



 誰かが叫んだその言葉で竜人たちは一斉にある方向を見つめた。あるいはキョロキョロと見まわし、自分たちの首長の姿を探そうとしていた。

 当然ながらミレイナとレーヴォルフも近づいている多くの気配に気づき、その方向、つまり先ほどから天変地異のような光景を映していた方角へと目を向ける。

 するとより強い気配を放つ三人を先頭にして約二百人の武装した竜人がこちらに近づいているのが見え、明らかに北帝軍を迎撃に向かった正規軍の姿だと認識できた。



「……っ!?」



 突然のことでさすがのレーヴォルフも驚き、信じられないものを見たかのような目をしている。ミレイナも民を元気づけようと軽い演説のようなものをした矢先に、士気向上としてこの上ない竜人たちの長がやってきたのだ。先程の決意は何だったのかという思いでシュラムを睨みつけていた。

 しかし、シュラムはミレイナの視線に気づくことなく口を開く。



「皆無事か?」



 そう声を掛けたシュラムに民たちは歓声を上げて答える。護衛として付いていた正規軍も深く抑揚をつけて頷いていた。



「わあああ。シュラム様だ!」

「やはり勝利なされたのか」

「あ! パパもいるー!」

「ザント様とフィルマ様よ。かっこいいわぁ……」

「シュラム様!」

「シュラム様!」

『シュラム様!』



 興奮した民たちは「シュラム様」コールをし始めて逆に手に負えない状況になっている。ミレイナの人気もそこそこだが、それでもやはり竜人種族最強であるシュラムが最も人気なのだろう。

 しかしシュラムの側に居るフィルマは五月蠅そうにして顔を顰め、ザントも無表情で歩みを進める。よくよく見れば追随している正規軍の竜人の多くは難しい顔をしており、勝利を収めた後だとは思えなかった。

 不審に思ったミレイナは歓声を上げる民衆を背にシュラムへと駆け寄る。



「おいジジ……父上!」


「ミレイナか」


「どうしたというのだ? 帰っていたのだから勝ったのではないのか?」



 ジジイをギリギリ言い直してストレートに質問をぶつけるミレイナにシュラムは苦笑する。何とも真っすぐに育ってくれたことを喜ぶべきではあるが、女の子なのだからもう少し落ち着きのある雰囲気になって欲しいという願いもある。

 そんなことを頭の片隅で考えつつミレイナの質問に答えた。



「事情が変わったのだ。戦いは恐らくまだ続いている」


「戦いが続いている? 一体何が戦っているのだ?」


「それはだな――――」


「神獣ファルバッサですね」



 シュラムの言葉を遮って口を挟んだのはレーヴォルフだ。

 彼の発言でシュラムは眉を顰める。だが、それは自分の話に口を挟んだことが原因ではない。三将軍として高い立場にいる彼らはシュラムとも様々な議論をすることもあり、その程度でシュラムが機嫌を悪くするようなことはない。ここでの問題はレーヴォルフがファルバッサを呼び捨てにしたことに対するものだった。



「レ―ヴよ。神獣だ」


「そうだ。不敬だぞレーヴォルフ。いくら貴様が神獣様と会い見えたことがない若造とは言え、神獣様を軽く見る発言は看過できん」



 シュラムの注意にザントも追随してレーヴォルフをたしなめる。しかしレーヴォルフはフワフワとした軽い表情を崩すことなく言い返した。



「おっと……つい口を滑らしちゃったな。まぁいいか」


「? どういうことだレーヴォルフ。少し変だぞ?」



 レーヴォルフは三将軍の中では最も若く、嘗て竜人が帝都を追われることになった戦争をギリギリ体験している世代である。しかし、だからと言ってこれらの世代の神獣に対する信仰が薄いといったことはない。

 だが今のレーヴォルフの発言はそれを匂わせるものだった。

 この様子を近くで目の当たりにして不審に感じたザントがレーヴォルフへと近寄り何かを言おうとする……が、それよりも早くレーヴォルフが動いた。



「茶番はここまでだよ」


「なっ……レ―ヴ……!」



 レーヴォルフはいきなり細い糸のようなものを取り出したかと思うと、目にも留まらぬ速さでミレイナをがんじがらめにして動きを奪った。

 そして呆気に取られて動きを止めるシュラムやその他竜人たちの隙を突いてレーヴォルフはミレイナを脇に抱えつつ飛びのいて距離をとる。流れ作業のような自然な動きであったためか、それとも三将軍であるレーヴォルフがいきなりそのような行動をとるとは思わなかったのか、誰一人として反応できる者はいなかった。



「このは人質だよ」



 レーヴォルフはそう語って目元を細めた。




明日から(できるだけ)毎日投稿再開です。



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