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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
砂漠の帝国編
143/566

EP142 VS.オロチ、レイヒム②

 激しい爆発音と共に舞い上がる砂塵。概算して凡そ数百……いや、もしかすると千すらも超えているかもしれない隕石が地面と激突していた。

 熱を帯びた隕石は衝突と同時に光を放ち、上空高くまで飛翔しているクウのところにすら熱を届かせる。それだけでも間違いなく天災と呼べるものだが、この《神罰:終末の第三アブシィンドゥム》はさらに別の効果もある。



「黒い煙、いや液体……? あれが毒か!」



 クウの視線の先には禍々しい黒色の流体が漂っているのが見える。

 気体でもなく液体でもなさそうな見た目なのだが、地表に留まりつつも徐々に広がり続けており、まさに神罰に相応しい被害を及ぼしていると言えた。

 砂漠に潜んでいた魔物たちは隕石によって粉砕され、焼かれ、どうにか耐えきった甲殻種の魔物たちも毒に侵されて苦しみながらバタバタと倒れていっていた。

 そしてクウが《森羅万象》で得た毒の分析結果はこうである。




―――――――――――――――――――――

神毒(弱)


世界の神が神罰で地上に降す死の毒物。植物の

ような環境には全く影響を与えないが、魂ある

存在に対して侵食し、苦しみながら死ぬ効果を

与える。解毒は不可能。

環境と同化し、水の流れや空気の流れなどに乗

って世界へと広がっていく。

この毒は(弱)であるため、一時間ほどで自然

消滅する。

―――――――――――――――――――――




「何て毒をばら撒いてんだよ!」



 恐らくエネルギー不足だったのだろう。毒の効果としては(弱)であり、世界を滅ぼすほどの効果がある訳ではない。本来は神が使う術を神でない者が使用したのだがら当然である。しかしこの場にいる者を殺すには十分すぎるほどの毒物だ。

 クウが直接目にした訳ではないが、隕石が衝突した辺りにはファルバッサとリアが居るはずであり、あの毒にも巻き込まれているのは間違いないだろう。

 解毒不可能で必ず死ぬ毒を浴びたのではないかと想像して、クウは顔を青くする。



「リア! ファルバッサ!」



 まだ土煙が晴れない場所に向かって叫ぶクウ。

 大量の隕石の衝突によって巨大クレーターを形成した砂漠の大地には、水が溜まるかのように黒い神毒が溜まっており、土煙で見えない場所に二人が居ないとすれば黒い湖に沈んでいるということになる。

 そして隣にはクウが顕現させた幻術のマグマの海が存在しており、そこでは熱さに暴れまわっているオロチの姿も見えた。まるで地獄がこの世に現れたかのような光景。

 しかし現実逃避している暇など無い。

 リアとファルバッサが黒い湖に囚われているなら助け出さなければならないのだ。



「あれを除去する方法……重力だな」



 クウは《魔力支配》をフル稼働させて魔力を練り上げ、膨大な魔力をその身に集めていく。もしかしたら手遅れかもしれない。そんな思いが一瞬頭をよぎるが、それを振り払って演算を開始していた。

 《思考加速 Lv4》も同時にスキル起動し、《魔力支配》《月魔法》《思考加速》の三つのスキルを同時使用している状況なのだが、クウの顔にはまだ足りないとすら書いてあるようだった。

 クウ自身もスキルの同時起動には慣れてきたものだが、それでも高等技術な事には変わりない。特に杖無しでの魔法発動には《魔力操作》と対応する魔法スキルの同時使用が必要であり、そもそもから難易度が高いのだ。

 それでも尚、常人離れした魔法を、常人では有り得ない速度で組み上げていくクウは、もはや人ならざる存在と言ってよい。いや、天使であるため人ではないのだが……



「重力で空間を湾曲させて……うまくオロチの方へと流すように計算するか。とすれば二次曲面の傾きを考えて道筋を作らないとな」



 時空間属性を無しに空間を捻じ曲げる力技。だが物理法則に則った方法であるために、恐らく魔法自体は発動されるだろう。しかし、膨大な魔力と【魂源能力】である《月魔法》から繰り出される魔法がただの魔法であるはずがない。無差別破壊魔法の《特異消失点ブラックホール》のように、予期せぬ副作用がある可能性が高かった。

 それでもクウは止まらない。安否不明なリアとファルバッサを助けるために、そこまで気が回っていなかったのだ。

 しかしその発動を止める者が居た。



(おい、クウよ。我とリアは無事だ。落ち着け)


「―――!?」


(念話だ。右手の魔法陣に集中するがよい)



 クウは慌てて魔法を中断し、黒いグローブによって隠されている魔法陣へと意識を集中させる。

 よくよく感じ取ってみればファルバッサからの通信が入っており、それは同時にファルバッサの無事をしらせていた。



(無事だったのか?)


(うむ。クウのお陰でな。お主が幻術でオロチの気を逸らしてくれたから《幻想世界ファンタジア》を発動して幻術世界に逃げることが出来たのだ)


(なるほど。リアも無事なんだな?)


(当然だ。我と共にこちらへきている。今回はそちらの状況がこちらからも見えるように設定したからな。お主が発動しようとしていた魔法を見て慌てて念話を繋いだのだ)



 それを聞いたクウは胸を撫で下ろして安堵する。

 今も現在進行形で地面に広がり続けている神毒の効果を知っているだけに、二人が別空間に避難していることは非常に安心できた。

 そしてなし崩し的に放った幻術もしっかりと役に立っていたのだと知って思わず口元が緩む。

 今も尚、幻術の溶岩海に沈んで苦しんでいるオロチを見下ろしがら少しだけ移動して安全と思われる場所まで行くことにした。



「ともかく二人の安全は確保されたか」



 神毒は環境の流れに沿って移動する。幻術の溶岩によって空気が熱せられ、上昇気流が発生しているので、上空はあまり安全ではないのだ。 

 世界すらも騙す幻術は環境にすらもある程度の影響を及ぼすため、ほぼ本物のマグマと同じように考えても良い。今回は強力すぎる効果が仇となった形だった。

 そしてクウは安全と思しき場所に向かって飛翔しつつも念話を続ける。



(それでファルバッサとリアは出てこれそうか?)


(いや、我の《幻想世界ファンタジア》は入り口と出口が固定なのだ。つまり、今出ていけば黒い湖のようなものの中に出現することになる)


(そうか。なら絶対に出てくるなよ。あの黒い流体は『神毒』っていう触れたら必ず死ぬ毒だ。一時間程度で自然消滅するみたいだから、それまではそっちで待機しておいてくれ)


(了解した。リアには我から説明しておこう)


(頼む。こっちも出来るだけオロチとやりあってみる)



 それだけ言ってクウは念話を切る。

 それと同時にオロチの方を見ると、どうやらようやく溶岩の海から抜け出そうとしているようだった。



”シュルル……開け【深奥魔導禁書グリモワール】”



 再び出現した黒い本。相変わらず鎖で厳重に封印されているが、それもオロチの一言で弾け飛びながら解き放たれる。パラパラと勝手に捲れる魔導書からは魔法陣が飛び出して、魔力光を放ちながら空中に描かれていくのが見える。

 先程の《神罰:終末の第三アブシィンドゥム》を見た以上は阻止するべきかとも考えたクウだが、逆に安全な位置から相手の手札を見るチャンスだとも考えてそのまま静観する。



”余が欲するは……シュルル……『水の書』『天の書』”



 黒い本から出ていた魔法陣からさらに二冊の本が出現し、それも自動的に捲れてパラパラと音を立てる。二冊の本からはまた別の魔法陣が描かれ始め、高速で形を成しながら天を覆うほどの巨大魔法陣へと変化していく。

 オロチを中心として描かれた魔法陣は広がり、広がり、その範囲は半径一キロほどにまでなっていた。遠くに見える竜人の里も、もう少しで魔法陣の範囲に入ろうかというところであり、当然ながらクウもその範囲に入っている。



「拙いな。さすがにこれは予想外だ」



 想像以上の範囲であることに頬を引き攣らせるクウだが、今更後悔しても遅い。クウが動く前にオロチの魔法は発動されてしまった。



”地上を裁く大水を《開け天の窓カディーテ・カエルム・アクエリア》”



 その瞬間、魔法陣から大粒の雨が降り始めた。

 いや、ただの大粒の雨と言うには生易しい。それは大鍋をひっくり返したかのような勢いで振り始め、雨と言うよりかは滝という言葉が相応しいように思える。ザーザーという擬音語も適切ではなく、ガガガガガガ! というような表し方が相応しい。

 


「おい……ふざ、っけんな!」



 クウは滝のような大雨に打たれて飛行を保っていられず、墜落するようにして地面に激突する。地表が砂であったために……いや、寧ろ雨によって泥の沼へと変わっていたために怪我はない。しかし纏っていた白いマントが泥だらけとなり、そうかと思えば降り注ぐ大水によって洗い流されていく。

 もはや立つことすら難しく、化け物のようなステータスを誇るクウでさえも片手と片膝を付いて地面に縫い付けられてしまっていた。凄まじい水量によって泥沼と化した地面に足が吸い込まれていき、増々動きが鈍くなる。しかしそれでも何とか脱出しようと全力を尽くしていた。



「……《魔障壁》」



 《魔力支配》に内包された《魔障壁》の能力によって体を保護し、障壁を足場代わりにして何とか乗りあがる。お陰で体への被害は軽減したが、大きく体力を消耗してしまった。

 単純な疲労だけでなく体温の低下も痛い。

 しかし何よりもクウを不安にさせたのは、視界が全く確保されないことだ。

 一メートル先ですら見えず、もしも《魔障壁》で防御してなければ自分の手足すら確認するのが難しくなるほどなのだ。

クウは紫外線対策に纏っていた白いマントを絞って水気を取りつつ口を開く。



「これは酷い。とにかく障壁を強化しておくか。このままだと神毒も流れ出てしまいそうだ」



 そう、この広範囲に降り注ぐ大雨は、あの神毒で出来た黒い湖にも降り注いでいることだろう。環境と同化して広がる神毒は、水とも順応性が高い。この水量ならば簡単に流出してしまうだろう。



「何とも傍迷惑な蛇だな」



 クウはそう呟きつつもある方向を見つめる。

 気配を集中すれば巨大な存在を感知できるが、やはりその大きさはクウですらも計り知れない。圧倒的にクウよりも強者であることが今更ながら理解できる。



「超越者……か……」



 ドゴオォォォォォォォォォン!

 ズゥゥゥゥゥン!

 クウの漏らした声に呼応するかのようにして爆発音と何かが倒れたような振動がする。それを聞いたクウはやはり、という顔つきをしながらポツリと呟いた。



「水蒸気爆発。これでやられてくれたら楽なんだけどな……」



 クウの《魔障壁》を打ち付ける雨水の轟音だけが響く中、さらにその奥には巨大な気配が未だに存在しているのだった。





開け天の窓カディーテ・カエルム・アクエリア》のイメージは『ノアの箱舟』ですかね。オロチの魔法は神話シリーズがいっぱい出てくると思います。



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― 新着の感想 ―
[一言] 拙い(つたない)より不味い(まずい)を普通使いませんか? シリアスな場面で、つたないを連発してる主人公に思わず笑ってしまいましたw
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