EP12 Eランク昇格試験
ギルド登録からおよそ2週間が経った。
クウは雑用系の依頼や低ランクモンスターのゴブリン、スライムなどを駆除する依頼を受けながら日銭を稼いでいた。さすがにGランクやFランク程度の依頼では満足な報酬を得ることは難しく、徐々にルクセント王から貰ったお金を崩していくことになったのだが……
それでも少しずつレベルも上げ、今ではこうなっている。
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クウ・アカツキ 16歳
種族 人 ♂
Lv11
HP:258/258
MP:210/210
力 :187
体力 :189
魔力 :231
精神 :1,300
俊敏 :341
器用 :543
運 :40
【固有能力】
《虚の瞳》
【通常能力】
《剣術Lv2》
《抜刀術 Lv6》
《偽装Lv5》 Lv1UP
《看破Lv6》 Lv1UP
《魔力操作Lv2》
【加護】
《虚神の加護》
【称号】
《異世界人》《虚神の使徒》《精神を砕く者》
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(精神値が……おかしい……)
どう考えてもまともでない上がり方を見せる精神値にスキル《偽装》を手放せなくなるクウだが、その《偽装》もレベルアップしており、その点に関してはありがたく感じていた。
またその辺の魔物程度ならば精神値の差が大きすぎて《虚の瞳》で発狂させることが出来るようになってしまっていた。幻覚で火あぶりする、ナイフで切り刻む、何度もドラゴンに食べられる、などの幻覚を見せて《虚の瞳》に関するスキル実験をする内に不本意な称号が付いたほどだ。
《精神を砕く者》
数多くの他者の心を壊したものに送られる称号
クウとしては納得がいかないため、レベルアップした《偽装Lv5》でこの称号は隠したのだが……。
また《偽装》の他にもスキルがレベルアップして《看破Lv6》になったのはクウにとっては大きな収穫だった。これほどに早いレベルアップをクウは少し不思議に感じていたのだが、実は加護のせいだったりする。《虚神の加護》に偽装や看破系のスキルに補正があるからこその恩恵なのだ。それ以外にも普段からよく使うスキルだという理由もある。
ともかく強くなったことで、低ランクの依頼では満足できなくなり、ゴブリンやスライムを倒したり、王都内で御遣いをする日々に飽き飽きしていたため―――
「クウさんはFランクに昇格しました。また、これまでの依頼の達成状況からすぐにEランク昇格試験を受けても問題ないと判断されています。どうなさいますか?」
というネルの一言はクウにとって魅力的だったのだ。
「是非っ!」
即答したのは言うまでもない。
「という訳でEランク昇格試験を始める」
ここはギルドの修練場。
Eランク昇格試験はネル昇格試験を勧められた翌日に開催された。なぜ翌日だったのかと言えば、クウ以外にも昇格予定の受験者がいたからだ。今回の受験者はクウを含めて3人。
「まず、クウ・アカツキ」
「はい」
もちろん一人目はクウだ。
「ベン・ボウゼン」
「おう!」
2人目はベンという名の茶髪の癖毛が特徴的な少年だ。歳はクウより2つ上なだけなのだが、その体格は天と地ほども差があった。190cmはあるだろう身長と膨れ上がった筋肉から、完全な前衛特化型だとわかる。背負ったクレイモアも生半可な大きさではない。力で叩き切る、といった技を重視するクウとは正反対のスタイルの持ち主だ。
クウが《看破Lv6》でステータスを確認するとこう表示された。
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ベン・ボウゼン 18歳
種族 人 ♂
Lv13
HP:345/345
MP:179/179
力 :289
体力 :263
魔力 :190
精神 :228
俊敏 :254
器用 :239
運 :24
【通常能力】
《剣術Lv3》
《身体強化Lv1》
【称号】
《やんちゃ坊主》
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「最後にリアス・クレイア」
「は、はいっ!」
3人目のリアスは女の子だった。金髪碧眼という特に珍しくもない見た目で、顔やスタイルも平均的。街で見かけたとしても恐らく印象に残らないだろう。武器はその背に引っ掛けた弓だとわかる。Fランクらしく、優れた弓ではないが、使い込まれているのが見て取れた。
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リアス・クレイア 15歳
種族 人 ♀
Lv16
HP:320/320
MP:364/364
力 :237
体力 :246
魔力 :347
精神 :270
俊敏 :382
器用 :403
運 :24
【通常能力】
《弓術Lv2》
《風魔法Lv2》
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(何気にリアスが一番レベルが上なんだな……)
実は3人の中で最もレベルが低かったことに落胆するクウだが、異常な精神値を初めとしたチート級のステータスを持っているため、はっきり言ってレベルなど関係なかったりする。
「よし、3人いるな。俺は今回の試験の試験官を務めるボリスだ。Eランク昇格試験で落ちる奴なんてまずいないから特に気負うことはないぞ!」
試験官のボリスという男はレザーアーマーに急所のみ金属装甲を装着し、長剣を1本腰に差している。かなり一般的な冒険者のスタイルであり、普通といえば普通だが良く言えば無難な恰好だといえる。一種のテンプレートとも言えるスタイルは要するに成功例が多いということなのだから。
「今回の試験は特に難しいことはしない。この俺と模擬戦をすることだ。魔法やスキルは好きに使っていいが、死ぬような攻撃はダメだぞ? 武器はギルドで用意した刃を潰したものを使ってもらう」
模擬戦という言葉にベンは嬉しそうに口元を緩める。戦闘狂とは言わずとも、やはりその見た目通り戦う方が好きなのだろう。クウとしては試験と聞いてペーパーテストを思い浮かべていたこともあって拍子抜けした気分だった。
(まぁ、冒険者の試験だし頭脳より実力なのか……?)
予想と違う試験内容にクウは一瞬固まるが、ベンは待ちきれないとばかりにボリスへと質問する。
「この試験はあんたに勝てば合格なのか?」
「はっはっは! もちろん俺に勝てば合格だが、勝てなくても俺がEランクたり得ると認めれば合格だ。ちなみに俺のランクはCだぞ?」
「げ、マジかよ」
脳筋のベンはそう言いつつもワクワクした顔をする。嫌そうな声を出しつつも強者と戦える機会というのはベンにとっても貴重なのだろう。
「ではさっそく始める。誰が最初にやるんだ?」
「俺だ!」
やはりと言うべきかベンが1番を名乗り出た。
ボリスの前に躍り出たベンは、用意された刃を潰したクレイモアを両手に持ってさっそく構える。戦いたくてウズウズしているらしく、「始め」の合図を今か今かと待ち望んでいるようだ。
「はっはっは! そう慌てるな。ではいくぞ? 始め!」
ボリスは刃を潰した長剣を構えたまま受けの態勢をとる。対するベンは始まりと同時に地面を蹴って一気に接近し、クレイモアを振り下ろした。だがボリスはそれを正面から完全に受けきった。
「なっ!」
「力はなかなかだ。だが直線的すぎるぞ?」
「くっ」
ボリスはそのまま受け流すように刃を滑らせて半身になり、1歩下がる。そのせいでベンは前のめりにバランスを崩してたたらを踏んだ。本来ならその隙に攻撃を叩き込むはずだが、ボリスは何かすることもなくその様子を見るだけだった。あくまでも試験ということだろう。
「まだ、試験は終わっていないぞ? どうした?」
「くそっ! まだまだこれからだ!」
(いやいや! 本当なら既に殺されてるからな?)
手加減されて遊ばれていることに気付いていないベンにツッコミをいれるクウだが、そんな心の声など聞こえないベンは我武者羅にクレイモアを打ち込んでいった。しかし結局ベンは決定打を与えることなく、何度か打ち合ったところでボリスが強制終了した。
「ここまでだ。試験結果は全員終了後に発表するから残っているように」
「はぁ……はぁ……はい」
完全にベンで遊ばれていた試合を見せられて、さすがにCランクを名乗るだけはある実力者だとクウに実感させる。力任せにクレイモアを叩き付けるベンでは相手にならなくて当然だろう。Cランクと言えば、それなりに上位に位置する実力者という扱いなのだから。
「次はどっちだ?」
「わ、私は最後でいいですっ!」
「じゃあ俺だな」
リアスが最後を希望したため、必然的に2番目はクウになる。ベンとの戦いで見せられた戦いを反芻しつつ、木刀ムラサメを左手に持ってボリスの前に立った。
「ほう、それが噂の木刀か。Dランクのロビンをボコボコにしたんだって?」
「まぁな。不意を打っただけだけど」
「はっはっは。そういうことにしておこう」
クウはボリスと対峙し、気を引き締める。さすがにDランクでしかないロビンと違って隙が無く、また試験であるということもあって得意の挑発も効かないだろうと当たりをつけた。
(……《看破》)
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ボリス 31歳
種族 人 ♂
Lv36
HP:1,181/1,181
MP:924/924
力 :950
体力 :964
魔力 :893
精神 :931
俊敏 :915
器用 :901
運 :29
【通常能力】
《剣術Lv5》
《魔纏Lv3》
【称号】
《柔剣》
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(速さは負けてるが、精神値は俺が上だ。《虚の瞳》を使えばいけるか……?)
「では準備はいいか? 始め!」
「先手必勝!」
クウは始まりの合図と同時に飛び出して居合い抜きの構えをとる。この程度の速さではボリスにとっては遊びのようなものだろう。だが、スキル《抜刀術Lv6》の瞬間だけクウの攻撃速度と攻撃力はボリスの遥か上をいくことになる。完全に受けの態勢の今ボリスに一撃を当てることは難くなかった。
「お前も突っ込むだけ……なっ!?」
クウの速度に油断していたボリスは『閃』の一撃を受けきれずに大きく仰け反る。だがさすがはCランク冒険者だけあって、目だけは離さず、ステータスの高さに任せて無理やり反撃しようとした。
(その優秀さが命取りになったな。《虚の瞳》!)
「……何が起こった?」
次の瞬間に背後からクウの木刀ムラサメがボリスの首元に添えられる。ボリスは訳が分からないといった様子で茫然と立ち竦んでいた。
「今突然消えたように見えたが……?」
「…………」
今回クウは幻術でボリスの認識をずらすことにした。最後にボリスが反撃しようとした時、すでにクウはボリスの背後に回ろうとしていたのだ。認識をずらされたため、ボリスはまだ目の前にクウがいると勘違いしてそのことに気づかず、簡単に背後をとられたのだ。
外から見ていただけでクウの幻術にかかっていないベンとリアスからすれば、ボリスが何もないところを攻撃して隙を晒したように見えたことだろう。
「とりあえず俺の勝ちでいいよな」
「あ、ああ」
ボリスは納得のいかないような顔をしていたが、確かに負けたのは事実だ。Cランク冒険者だけあってクウが何かしらのスキルを使ったのだろうと予想をつけたが、特に詮索するようなことはなかった。冒険者にとって、スキルを晒すことは命取りになることもあるため、他人のスキルを無理に詮索することはマナー違反とされているのだ。
「では最後にリアス!」
「はいぃっ!」
気を取り直したボリスは最後に残ったリアスと模擬戦を開始する―――
「では、試験の結果を発表する」
結局リアスとの戦いでは、遠距離から放たれる矢や魔法をボリスが避けるだけというものだった。基本的に後衛であるリアスと前衛のボリスがまともに戦うというのが間違っているだろう。もちろんボリスには一発も当たることはなく、リアスは大層落ち込んでいたのだが……
「とりあえず俺に勝ったのはクウだけだったな」
「クッ、俺なんか遊ばれただけだったぜ」
「私なんかずっと攻撃させてもらったのに一度も当たりませんでした~」
「と言っても、全員合格なんだけどな! 今回の試験の目的は自分の強さに驕らないための通過儀礼も兼ねている。むしろ俺が負けると、試験の意義が半減するしな。負けたところで落ち込むようなことはない。逆に俺に勝ってしまったクウが異常なんだからな」
クウのようなチートスキルを持ってない限りはレベル差を覆すことは難しいため、ベンやリアスが勝てなくても仕方ない部分が多い。はじめにボリスが勝てなくても合格の可能性があると宣言していただけあって、クウ以外も合格はしていた。それでもベンは悔しそうな顔をしていたのだが……
そもそもEランク試験は、実際のところほとんどの冒険者が合格するようになってる。ギルド側もEランクに相応しいと感じたFランク冒険者を選んでいるので、実力としては元から問題ないのだ。だが冒険者の中には自分の実力を過信する者が多く、簡単なFランク以下の依頼を連続達成して自信過剰になることが少なくない。そんな冒険者たちに「上には上がいる」と教えるための試験が、このEランク昇格試験なのだ。
クウはと言えば、その目的を見事なまでに圧し折ってしまったのだが……
(ともかく、これで俺もEランク冒険者になったんだ。そろそろ王都を出る準備もするとしよう)
クウは当初の目的通り、迷宮を目指すための準備を始めた。
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