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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔の境界編
127/566

EP126 創魔結晶

 暗い血の色を思わせる光。

 純白の心洗われるような光。

 二色の閃光が薄暗い洞窟を明るく照らす。広間から漏れていた薄明りはクウとリアの魔法によって塗りつぶされていたのだが、それも一瞬のことだった。

 元々クウの幻術で正常な景色を見せているだけであるため、眩しさも僅かな瞬間のみである。《幻夜眼ニュクス・マティ》が調整して二人に正しい景色を見せたのだ。



「避けやがったか……」


「こちらも防がれましたね」



 クウは唇を噛みしめながら呟く。

 タイミングは完璧で、不意打ちも成功していた。しかし二人の視線の先には黒いオーラを激しく纏った四体のスケルトンの姿。その内三体は長剣と盾を装備したフル装備の騎士鎧を身に付けたロイヤル・スケルトン・ナイト。そしてもう一体は六本の腕を持つ黒銀の鎧を装備した異色の存在だ。

 クウの放った《赫月滅光砲サテライト》が直線状にあったものを空気ですら強制的に消滅させたのだが、直前で攻撃を察知したキングダム・スケルトン・ロードは回避に成功していた。



「そして近衛騎士たちも健在と……《気纏オーラ》を使って防御したか」



 リアの使用した《流星シューティングスター》は避けられる攻撃ではない。何故なら秒速三十万キロメートルという目視不可能な攻撃なのだ。認識したときには既に当たっている。

 以前にクウと戦ったロイヤル・スケルトン・ナイトが《閃光フォース・レイ》を防いだように、《気纏オーラ》による耐性強化で耐えきったのだ。



「逃げますか?」


「逃がしてくれるならな」


「そうですよね……」



 不意打ちが失敗してしまったために二対四という状態だ。既に数の上で負けているのだが、さらにロイヤル・スケルトン・ナイトとキングダム・スケルトン・ロードはスケルトンの最上位に当たる種だ。当然ながらリアでは対抗できるはずもないため、実質クウ一人で対処することになる。

 


(いや、無理だろ)



 クウの《気配察知》でキングダム・スケルトン・ロードが非常に怒っているのが感じ取れていた。何故それほどの怒気を発しているのか理解できなかったが、リアを連れて逃げ出せる状況ではないことは理解できた。

 スケルトンの帝王は魂すらも揺さぶるようなおぞましい声を発してクウを睨みつける。



”貴様……よくも儂の秘宝を……”


「秘宝……?」



 何のことか分からない、といった様子のクウだが、よくよく見れば《赫月滅光砲サテライト》の通った直線状に大きく損傷した巨大水晶があること気付いた。《魔力感知》をしてみると、非常に多くの濃密な魔力を蓄えているのが感じ取れる。



(迷宮の転移クリスタルに似ているな……)



 迷宮エントランスにある巨大転移クリスタルにも比肩するほどのクリスタルは、クウの放った《赫月滅光砲サテライト》によって綺麗に抉り取られ、点滅しながら薄明りを放っていた。



「……《森羅万象》」




―――――――――――――――――――

創魔結晶(type スケルトン) 損傷


制作者 光神シン


魔力を使って魔物を生み出す結晶。この結

晶はスケルトン種を生み出すことが出来る。

消費した魔力の量によっては上位種すらも

生じさせることが可能。

大樹ユグドラシルとリンクしており、大樹

が集めた魔力が創魔結晶に送られて無限に

魔物を生み出すことを可能としている。

また結晶が破壊されても魔力で修復する魔

法陣が付与されており、破壊するには魔力

源である大樹ユグドラシルとのリンクを消

す必要がある。


現在修復中

―――――――――――――――――――




「これは……っ!」



 クウは目を見開いて驚く。

 魔力を使って魔物を無限に生み出すことを可能とした目の前のクリスタルは、確かにキングダム・スケルトン・ロードにとっての秘宝だろう。魔力さえあれば上位種も創造できるとすれば、クウとリアにとって非常に厄介なものとなる。



(そう言えば《森羅万象》はスケルトンが無限に湧き出るとか回答していたことがあったよな……というかまた光神シンが関わっているのかよ)



 クウたちがこの山を上り始めた初日、倒しても倒しても湧き出るスケルトンとの戦いを強いられていた。そのときに《森羅万象》を使ってスケルトンの総数に関する情報を開示させた結果「無限に湧き出る」との回答が得られたのだ。

 当時は信じられなかったが、目の前にあるクリスタルを見れば本当のことだったのだと理解できる。現在は修復に魔力を使っているため、新たなスケルトンを創造することが出来ないようだが、それでも脅威であることには変わりない。

 そして何より怒りを全身で体現しているキングダム・スケルトン・ロードの対処をしなければならないのだ。



”貴様らは儂が自ら滅ぼしてくれる。まずは黒い方からだ!”



 クウに思考させる暇を与えず襲いかかるキングダム・スケルトン・ロード。舌打ちしつつも神刀・虚月を抜いて振り下ろされた大剣を受け止める。



「くっ……」



 咄嗟に《身体強化》も使用したのだが、キングダム・スケルトン・ロードも《気纏オーラ》を纏っているため、お互いに身体能力が向上している状態だ。そして力自体はキングダム・スケルトン・ロードが勝っているらしく、クウはそのまま大剣を受け流して衝撃を逸らす。



”甘いわっ!”



 身も凍るような声音を発しつつも、キングダム・スケルトン・ロードはさらに大剣を振り下ろしていく。

 通常のスケルトンと異なり、左右に三本ずつで合計六本の腕を有するキングダム・スケルトン・ロードは、文字通り手数が違う。全ての手にクウの身長ほどもある大剣が握られており、それが次々とクウに襲い掛かった。



(右、左上、左、右、上、右上、左、左、右上、右下、上、左、右上、右下、上、左下、左、右、上、右、右、左上、右下、左、右上、左下、上、右……)



 元のステータスが高く、さらに《気纏オーラ》によって強化されたキングダム・スケルトン・ロードの斬撃は亜音速の域にすら到達している。《身体強化》したクウならば対処できるのだが、それも防御に専念しているからだ。一つ間違えれば即死も免れない危険な綱渡りに等しく、もしも三体のロイヤル・スケルトン・ナイトが動き出せば負けは必至である。



「兄様!」


「リアは……大人しく見ていろ、このっ! 《気纏オーラ》を使われている以上は《光魔法》も効果がないと思った方がいい。おっと……お前はもしもに備えて《回復魔法》を準備しておいてくれ」


「は、はい!」



 リアでは到底対応できない斬撃の応酬が行われており、クウの言う通り、リアは大人しく見ている事しか出来ない。悔しそうに唇の端を噛みながら頷いて魔力を高めた。

 恐らくキングダム・スケルトン・ロードの攻撃をまとも食らえば即死だろうが、クウならば致命傷を避けて大怪我に留めるかもしれない。そうなったときに備えてリアは《回復魔法》をいつでも使えるようにした。



”死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇぇっ!”



 怨嗟の感情を込めた言葉を吐きつつ大剣を振る速度を上げるキングダム・スケルトン・ロードに、クウも押され始める。元々パワーで負けている上に、速度も押され始めたのだ。もちろん基本的な速度はクウの方が上なのだが、六本の腕から繰り出される斬撃を二本の腕で対処するのは限界があるのだ。

 左から迫る一撃は神刀の鞘で受け流し、右から迫る一撃は神刀・虚月で逸らす。しかし攻撃を防いだ瞬間には次の斬撃が向かってくるのだ。速度を増したキングダム・スケルトン・ロードの攻撃は徐々に対処できなくなる。



「くっ、《幻夜眼ニュクス・マティ》起動」



 その瞬間、キングダム・スケルトン・ロードの一撃がクウの体を分断する。キングダム・スケルトン・ロードは眼孔に輝く魔力光を揺らしてさらに追加の斬撃を奔らせた。

 目でも追えないほどの一瞬のことであったのだが、リアにもクウの体が切り刻まれていく瞬間がハッキリと見て取れた。思わず高めていた魔力を散らして叫ぶ。



「クウ兄様!」



 しかしリアはすぐに違和感に気付いた。

 それは普通ならば飛び散るハズの赤い液体。生臭い匂いが漂ってくるだろう血が一滴も流れていなかったのだ。

 そのことからリアはすぐにクウの得意技に気付く。



「幻術……?」


「正解だリア」



 バラバラに切り裂かれたクウの体は霧のように霧散し、灰銀の粒子が僅かに煌めく。この世界に召喚されてから幾度となく使用してきた幻術。

 【魂源能力】となってさらに使い勝手の増した《幻夜眼ニュクス・マティ》による幻術は世界すらも騙して本物のような幻影を作りだす。切った感触ですらもリアルに再現され、キングダム・スケルトン・ロードに違和感を感じさせない。

 そして幻術に気を取られてクウに時間を与えてしまったキングダム・スケルトン・ロードは背後に回っていた天使の攻撃を許すことになる。



「『閃』」



 三対六枚の銀翼を背中に顕現させたクウの動きは今までの比ではない。通常では有り得ない軌道を描いてキングダム・スケルトン・ロードの背後に回り込み、最高最速の居合斬りで魔石を狙う。

 当然ながら魔力を通した一撃であるため、納刀後には概念切断による防御無視の斬撃が奔ることになるのだ。



”ぬっ!?”



 前触れもなく消失したクウに気を取られて一瞬気を抜いたキングダム・スケルトン・ロード。しかしその能力はスケルトンの王に相応しく、魔石を正確に狙ったクウの一撃に反応することには成功した。

 抜刀された神刀・虚月はキングダム・スケルトン・ロードの纏った黒銀の鎧を抵抗なく通過し、僅かに魔石に届かぬまま振りぬかれた。クウはそのまま納刀して神刀の能力を発動させる。



”何!?”



 驚いたようなキングダム・スケルトン・ロードの声が洞窟内に響き渡る。

 黒銀の鎧は世界最硬の鉱物であるアダマンタイト製だ。魔力伝導も非常に良く、重さも鉄の五分の一ほどでしかない。そんな金属で出来た鎧が易々と切り裂かれ、さらに自らの骨の体も肋骨部分がいくらか切り裂かれたのだから驚きも当然である。

 しかし驚いているような暇はない。

 クウは振り向いて驚いているキングダム・スケルトン・ロードの死角を突くようにして移動している。背後から再び正面に戻ってきたクウは神刀・虚月を一度虚空リングに仕舞い、両手に魔力を圧縮した。



「避けることも計算済みだ。《魔装甲》《魔呼吸》……『浸透魔力撃』」



 クウはキングダム・スケルトン・ロードの腰元を狙って速度を乗せた両手の一撃を加える。溜めた魔力が衝撃を強化し、さらに内部に浸透させて破壊力を底上げして、キングダム・スケルトン・ロードを大きく吹き飛ばした。



「《幻夜眼ニュクス・マティ》起動……鎖よ縛れ!」



 本物に近い幻術の鎖によって三体のロイヤル・スケルトン・ナイトは為す術もなく縛られる。意思に干渉し、動けないと誤認識させることによって微動だにすら出来ないのだ。《気纏オーラ》の耐性すらも貫通して幻影の鎖がロイヤル・スケルトン・ナイトを地面に縛り付ける。



「後はスケルトンの王だけだな……《森羅万象》」



 クウはキングダム・スケルトン・ロードの情報を開示した。




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