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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
ルメリオス王国編
12/566

EP11 初実戦

―――――――――――――――――――

  -  2歳

種族 ゴブリン ♂

Lv6


HP:80/80

MP:3/3


力 :34

体力 :42

魔力 :6

精神 :9

俊敏 :23

器用 :59

運 :5


【通常能力】

《棍術Lv2》

―――――――――――――――――――



(なるほど、《看破Lv5》で調べるとそのまま種族ゴブリンとでてきたな。どうやら名前はないらしい)



 初めて見る魔物という生物を観察しようと、クウは相手の出方を待つことにする。異世界という未知の法則が働く以上は慎重にならざるを得なかった。 



「グギャゴギャ!!」



 一瞬だけ見つめ合っていたが、その膠着を先に破ったのはゴブリンだった。叫び声をあげながら棍棒を振りかぶってクウへと迫る。



「おっと、危ない」



 俊敏値の差が4倍以上あるため全く危なげなく回避したが、クウとしてもいきなり敵意を向けられるとは思わなかった。どうやら人と魔物は本能的に敵対しているらしいと理解する。

 だが敵対する以上はクウもゴブリンに対して慈悲を与えるつもりはなかった。地球で鍛え上げられた朱月家の武術を思い出しながら、木刀ムラサメを握る右手に力を込める。



「グギャッ!?」


「悪いがやられるつもりはないんでな。生まれ変わったら挑む相手をよく選ぶことだ! 『閃』っ!」


「グゲッ!」



 抜刀の『閃』で首を両断する。当然ながら魔力を纏わせた一撃であるため、特に抵抗もなく刃が通った。クウのスキル《抜刀術Lv6》のおかげで攻撃速度と攻撃力は9倍になっていることも相まって、この程度のステータスの敵ならば完全にオーバーキルなのだ。

 ピッと血を払って納刀する。ゴブリンの死体を《看破Lv5》で一瞥すると情報が開示された。




―――――――――――――――――――

  -  2歳

種族 ゴブリン ♂

Lv6 死亡


HP:0/80

MP:3/3


力 :34

体力 :42

魔力 :6

精神 :9

俊敏 :23

器用 :59

運 :5


【通常能力】

《棍術Lv2》

―――――――――――――――――――




「やはりHPが0になると死ぬようだな。それにゲームみたいにダメージも一律じゃない。ちゃんと急所を攻撃すれば防御力に関係なく即死するんだな」



 首と胴が離れたゴブリンの死体はレベルの横に「死亡」と表示されていた。恐らく毒や麻痺のような状態異常を表す表記はここに出るのだろうと予想をつける。《看破Lv5》を使って少しづつ情報を集めながら、この世界についての考察を深めていくのだった。



「まぁ、考察はこれぐらいでいいだろ。いずれ分かるだろうし、とりあえず薬草採取の続きを―――」



 ガサッ、ガサガサッ!

 思考を一旦停止して冒険者としての依頼をこなそうとした瞬間に背後から聞こえてきた草を分ける音。振り返ると、先ほど倒した魔物と同じ姿をした存在、つまりゴブリンがクウを睨みつけていた。




「……またゴブリンかよ」



 「採取の続きをしよう」と最後まで言い終わるまでに草むらから姿を現したゴブリン。クウが倒した初めの一体を見つめて騒ぎ出す。



「グギギ!」

「ギギャギャ?」

「グギャグギャ!」

「ギャギャ? グギッ」

「ギギ、ギギャギャ!?」



 クウにはゴブリンの言葉を理解する能力はないのだが、反応を見るに先ほど倒した個体は仲間だったらしい。クウが倒した一体は偵察か何かだったのだろう。今現れた10体以上のゴブリンが手に持つ武器は棍棒だけでなく、ショートソードや短剣、中には盾を持つゴブリンもいる。そのゴブリンたちが仲間の敵を討たんとして一気にクウへと襲いかかる。



「ちっ!」



 魔物と言っても人型をとるだけあって知能もある程度発達しているらしく、怪しいながらも隊列を組んで波状攻撃を仕掛けてきた。数は暴力と言うだけあって、普通は一人では対応しきれない。だがレベルに見合わない《抜刀術Lv6》というスキルを習得しているクウには関係なかった。



「ギギ!」

「グギャッ!」



 先頭を走るショートソードを持った2匹を『閃』で一刀両断。振りぬいた隙を突こうとした1匹に『撃』を当てて吹き飛ばし、すぐ近くのもう一匹を『断』で首を落とす。



「《虚の瞳》!」



 仲間がやられても失速せずに後続してきた残りのゴブリンと目を合わせて《虚の瞳》を使う。《看破Lv5》で確認したわけではなかったのだが、1体目のゴブリンで確認したステータスと大差ないだろうと予想しての行動だった。



「ギ?」

「ギャギャ!?」

「グギャッ!」

「ギギ? ギギャ」

「グギャグギャ!」


 

 そしてクウの予想通り、低い精神値しか持たないゴブリンでは《虚の瞳》によってかけられる幻術に抗う術はなく、幻覚に戸惑うゴブリンたちは足を止めてしまった。

 今回クウが見せた幻覚は分身。ゴブリンを囲むように15人のクウがいると錯覚させたのだ。残念ながら低い知能しか持ち合わせていないゴブリンでは幻術であることにすら気づくことがない。



「残念だったな! チェックメイトだ!」



 クウはオロオロと戸惑うばかりのゴブリンの首を次々と刎ねて、その命を刈り取った。血を払い、纏った魔力を解除して木刀ムラサメを鞘に納め――――




「うおっ!」



 クウは背後から気配を感じて咄嗟に回避する。見るとその正体は初めに『撃』で吹き飛ばしたゴブリンだった。さすがに打撃だけでは倒しきれていなかったらしく、今度は『閃』でキッチリ仕留める。



 ゴトッ



「ふぅ・・・」



 最後のゴブリンの首が落ち、ようやく一段落したところで一息つく。初戦闘は思いのほかにクウの精神を疲れさせていた。



「まさかいきなり魔物に襲われるとはな。大したことはなかったが連続して襲われるとさすがに疲れる」



 クウとしてはゴブリン程度なら一度に20体来ても捌ききれる自信があるのだが、それ以上となると体力が持ちそうにない。何より慣れない血の匂いが問題だった。それに今回は切った感触がほとんどないぐらいに綺麗に切断したが、いつかは切り裂く感触も経験することにもなるだろう。



(これが鍛錬と実践の違いというやつか。今のところ嫌悪感はないが、盗賊も襲いかかってくる世界だと言うし、いつかは人も切らなければいけないかもしれないな。このエヴァンでは日本の倫理観は役に立たなさそうだ)



 改めてムラサメを納刀しながら日本との違いについて考える。そしてそれと同時にあることが気になってステータス画面を開いた。



「そういえばレベルは上がったのか? ゲームとかじゃ、敵を倒したらレベルが上がると相場が決まっているけどな」



―――――――――――――――――――

クウ・アカツキ 16歳

種族 人 ♂

Lv3


HP:76/76

MP:58/58


力 :69

体力 :56

魔力 :54

精神 :400

俊敏 :157

器用 :357

運 :40


【固有能力】

《虚の瞳》


【通常能力】

《剣術Lv2》

《抜刀術 Lv6》

《偽装Lv4》

《看破Lv5》

《魔力操作Lv2》


【加護】

《虚神の加護》


【称号】

《異世界人》《虚神の使徒》

―――――――――――――――――――




 クウの思った通り、レベルは上がっていた。ステータスも大きく上昇しているが元から飛びぬけていた精神値と俊敏値と器用値以外は一般レベルのようだ。

 しかし精神値に限っては単純計算で1レベルで100も上昇しているらしい。クウの本心としては固有能力を生かすためにも精神値はあって困らないのだが、ハッキリ言ってチートである。ゴブリン戦で試したように、《虚の瞳》を使った戦い方も朱月流抜刀術と組み合わせれば変幻自在の戦闘スキルとなりえる。



「しかしますます《偽装Lv4》が手放せなくなったな……」



 勇者ではないが、神の加護を持つだけあってクウのステータスはチートと化している。ある程度は自重しなければ戦闘力が国王のルクセントに知られる可能性があることに気付き、クウは憂慮するのだった。



「まぁ、考えても仕方ない。とりあえず倒したゴブリンの剥ぎ取りをしよう。お金も無限にあるわけじゃないし、稼げるところは稼がないと……しまった。俺、剥ぎ取りナイフ持ってない!」



 ゴブリンの討伐証明は右耳。それと心臓にある魔石はそこそこの値段で売れる。しかし剥ぎ取りのナイフがない以上右耳はともかく魔石はどうしようもなかった。



「仕方ない。討伐証明はムラサメを使うとして、魔石はあきらめよう。もともと薬草採取の依頼を受けるつもりで来たんだしな。剥ぎ取り用のナイフは今日の報酬で買うとするか」



 木刀ムラサメでゴブリンの右耳を切り取り、アイテム袋へと収納する。その後は《看破Lv5》に任せて大量の薬草を採取し、クウの当初の予定よりも早めの夕方の4時ぐらいに王都へとたどり着いたのだった。









「こんにちはネル。薬草採取をしてきたから精算頼む」


「え? あ、はい」



 クウは昨日登録したときに担当だったネルに精算を頼んだ。相変わらず宿屋の店主であるガリスとは似ていないのだが、自己申告の限りでは親子ということらしい。

 ネルはクウに名前で呼ばれたことにピクリと反応して聞き返す。



「あの……どうして私の名前を? 昨日は教えてなかったと思うのですが?」


「ん? 『赤の鳥』の親父さんに教えてもらったんだ。どんな突然変異かと思ってビックリしたぞ」


「なるほど。似ていないとはよく言われますが、あんな顔でも根は優しいんですよ? できればよくしてあげてください」


「ああ、それとこれが採ってきた薬草だ」



 クウはアイテム袋から今日採ったヒラヒラ草をすべて出す。50株以上もあるヒラヒラ草でカウンターにちょっとした山ができてしまう。それを見たネルは驚いた顔をしつつ、慌てて数を数え始める。



「ちょ、ちょっとお待ちください。すぐに確認します。ちょっとアニー、手伝って」



 だがさすがに予想外の量だったらしく、奥にいるアニーと呼ばれた別のスタッフを呼んで数えるのだった。





「終わりました。全てヒラヒラ草です。全部で58株もあったのですがどうやって見つけたんですか?」


「まぁ・・・企業秘密ってことで。たまたま群生地を見つけたってのもあるけどな」


「そうですか。報酬ですが、1株10Lですので合計580Lになります」



 ネルは若干呆れながら報酬の580L、つまり小銀貨5枚と大銅貨8枚を取り出してカウンターに置いた。だがクウはそれを受け取らずにアイテム袋へと手を入れながら口を開く。



「それとゴブリンを見つけて倒したんだが?」



 その言葉に再び驚いて目を見開くネルだが、薬草採取の途中でゴブリンに襲われることは珍しいことでもないと思い出す。そして昨日はDランク冒険者のロビンソンを倒したのだからゴブリン程度なら倒せるに違いないと考えて冷静に対応した。



「分かりました。討伐証明の右耳はありますか?」


「ああ、これだ」


「1、2、……14。一匹につき50L支払われますので合計700Lですね。ちなみに魔石はどうしましたか?」


「あー、悪い。実はもともと魔物と戦うつもりがなかったから剥ぎ取りナイフを用意してなかったんだよ。だから魔石はとってないんだ」


「そうですか。ではギルドからこれを差し上げます」



 ネルはそう言って革の鞘に入ったサバイバルナイフを取り出してクウへと手渡す。魔石を取り出していないことにバツの悪そうな顔をしていたクウはポカンとしながらもそれを受け取った。



「いいのか?」


「はい、安物ですし、これぐらいの差し入れは受付嬢の裁量で許可されています」


「それならありがたく貰うよ」


「はい、お疲れ様でした」


「ああ、ありがとう」



 ギルドを出て、クウは先ほど貰った本日の収入を確認する。最終的な今日の儲けは全部で1280Lとなった。宿代を200Lと考えればかなり稼いだと言えるだろう。



(しばらくはこうやって冒険者の仕事をしながらこの世界の生活に慣れることにしようかな……)



 そう考えて、久しぶりに酷使した身体を休めるために『赤の鳥』へと向かったのだった。




その後の受付嬢たち


「普通の新人冒険者は一日に200L稼げるかどうかだというのに・・・クウさんって一体何者なのかしら?」

「昨日表でDランクのロビンソンさんを倒したってらしいしね」

「言葉遣いはぶっきらぼうだけど丁寧だし顔も可愛いから優良物件よ!」

「あなたはそればっかりね」

「受付嬢たるもの冒険者の1人や2人を篭絡できなくてどうするの!」

「はいはい」


3/12 大幅修正

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― 新着の感想 ―
久々に長編小説読みたくて冥王様の人のなら過去作も面白いかな思って期待してたけど、あまりにもつまらな過ぎて同じ作者でもここまで差あるのびっくり 暫く読めば個性出るかな思ったらここまでテンプレ強過ぎて読む…
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