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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔の境界編

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EP113 『喚器』と『壊拳』

『指揮官のフォルネスです。第一班と第二班はゾンビの対応をしてください。戦い方は班長のグラスさんとドーヴァさんにお任せします。第三班は上空から降ってくるスケルトンの対応です。この現象は《時空間魔法》使いのリッチによるものだと考えられます。リッチを目撃したら戦わずに報告を優先してください。

 く・れ・ぐ・れ・も・戦ってはいけません!』



 風に乗ってフォルネスのこの言葉が聞こえた瞬間からSランク冒険者である『喚器』のグラスと『壊拳』のドーヴァは行動を開始していた。彼らは一班と二班の班長を任されており、戦闘時には具体的な指揮を執ることになっている。もちろん軍人ではないので、適宜的確な指示を出すのは難しいだろう。

 しかし冒険者として、率いる者に必要なものが何かは理解していた。

 冒険者の世界は傭兵と同じく実力主義。探索や採取などの戦闘能力以外で活躍する冒険者も多いのだが、傭兵団を起源とする冒険者ギルドの中では、やはり戦う力は最も重視されている。故に憧れの冒険者とはイコール強者のこと。つまり戦いの先頭に立ち、圧倒的な能力で敵を薙ぎ倒していく姿に付き従うのが冒険者なのだ。



「うらああぁっ!」



 叫び声と共に凄まじい轟音が響き渡る。それは一度だけでは収まらず、周囲に次々と破壊音を振りまいていた。視線を向ければゾンビの破片が宙を舞っていることが確認できたことだろう。それによって腐った肉片が雨の如く降り注ぐという二次災害が発生しているのだが、そんなものは関係ないとばかりに爆音が鳴り続けている。

 その音の元凶は第二班を率いる『壊拳』のドーヴァ。自慢の肉体能力を《身体強化》でさらに向上させて、拳を振るってはゾンビを爆散させていた。



「ふははははは! 脆いぜぇっ!」



 如何にゾンビが大群であったとしても、所詮は低位の魔物だ。もちろん、ゾンビのほとんどが魔物ベースのD~Cランクに相当する能力を持っているのだが、Sランク冒険者からすれば物足りない。普通の冒険者が一体倒す間に十体以上も屠っているのがその証拠だ。

 腐肉の雨は迷惑極まりないのだが、それでもドーヴァの一騎当千とも呼べる働きは冒険者たちを力づける。興奮は伝染し、戦況は圧倒していると言えた。

 だがそれも一時の有利に過ぎない。



「そっちから回れ!」

「わかった。少し抑えておいてくれ!」

「囲い込め! ゾンビが集中したところに魔法を撃ちこむんだ!」

「こっちに浄化の魔法が使える奴を回してくれ!」

「うるせぇ! こっちも手一杯なんだよ!」

「魔法使いは順番に回っているから少し待て」

「ちっ……急いでくれよ!」



 やはり浄化の魔法が使える者が少ないというのは弱点になる。低位のアンデッドと言っても、その死ににくさは折り紙付きなのだ。物理的に一体始末するだけでもそれなりの時間がかかる。とすれば、効率的に仕留めるには一か所におびき寄せて浄化の魔法を使うしかない。

 Sランクとは言わずとも、Aランク程度の実力があれば問題なく仕留めていくことが出来るだろう。しかしここにいる冒険者のほとんどがDランクとCランクなのだ。戦術を使って有利に運んでいるが、体力無限大のアンデッドに対して長期戦をするのは拙い。

 今は全体的に押しているが、急がなければ不利になるのは冒険者だった。圧倒的な力を見せる高ランク冒険者のお陰で興奮し、疲れを忘れているのは今だけなのだ。



「ふむ……仕方ない。ドーヴァの奴も戦闘に集中しておるし、儂ら一班は援護に徹するとしようかの」



 荒くれた本性を曝け出して暴れまわるドーヴァと異なり、一班を任されたグラスは落ち着いた様子で戦場を観察していた。ドーヴァの性格を考えて、すぐに突撃命令を下さなかったところは歳の功と言うべきだろう。むしろ二班を囮にして左側から回り込むように移動をしていた。

 先頭を買って出て飛び出したドーヴァのお陰で押しているが、それも一時のことだろうと考えてするべきことを指示する。



「儂ら一班は回り込んでゾンビ共の抑えだ! 二班が殲滅している間に時間稼ぎをしろ! 儂の攻撃に続け!」



 そう叫んだグラスは右手の槍を逆手に持って上段に構える。左足を前に出し、右足は引いてしっかりと腰を据えた。空いた左手は狙いを定めるかのように前に突き出して投擲のフォームを取る。

 ドワーフとは思えない体格を有するグラスが構える姿は圧巻。まるで重力でもあるかのように周囲の視線を集めている。それほどまでの気配を放っていた。



「《魔法槍術:炎》……ふんっ!」



 炎を槍に纏わせる《魔法槍術》のスキルで浄化を付与し、身体全体を使って投擲した。全身をしなるバネのように使って投擲された槍は、ありえない初速度を得て飛び出す。《魔法槍術:炎》によって穂先に纏っていた炎は、慣性の力で槍全体にまで及び、軌跡さえも描きながらゾンビの大群を二分した。

 槍に触れたゾンビは一瞬にして塵に還り、一直線上に空いた空間を作りだす。


 ゴッ!!


 遥か先で豪炎が立ち上り、グラスの槍が着弾したのだと理解できた。

 そしてそれと同時にグラスは一班に向けて指示を飛ばす。



「進め! ゾンビ共の間に入り込んで、戦場を二つに分けるのだ!」


『うおおおおおおおっ!』



 冒険者たちは槍のような形をした密集隊形でゾンビの群れへと突撃する。グラスの初撃のお陰で二班へと集中していたゾンビは半分に分けられ、その間の壁となるようにして一班が雪崩れ込む。もちろんこれによって一班はゾンビに挟まれる形になるのだが、あくまで抑えに徹すれば何ということはない。

 示し合わせた訳ではないにも拘らず、二つの班は見事な連携を為していた。

 これも戦況を観察していたグラスの冷静な判断による所が大きい。グラスも思惑通りに事が運んだのを見て満足そうに呟く。



「戻って来い、アシュタロス」



 その言葉と共に現れたのは投擲したはずの槍。目算でも軽く二百メートルは飛んだであろうグラスの槍が、一瞬の内に手元へと戻ってきた。

 グラスはそれを右手で逆手持ちにし、再び投擲のフォームへと移る。次に狙うのはゾンビの密集地。先程は貫通力を高めるために、魔力のほとんどを熱エネルギーへと変換して纏わせていた。次は爆発力を上げて、着弾したときに広範囲まで爆発の威力を届かせるように意識する。



「はぁぁ……《魔法槍術:炎》! ふぬぅっ!」



 流れるような投擲フォームから再び放たれたグラスの槍はゾンビの密集地へと飛んでいき、その中心付近で着弾した。


 ゴガァァァァン!


 一度目とは比べ物にならないほどの爆音と共に、数十体のゾンビが跡形もなく消し飛んだ。これほどの爆発力を槍に纏わせれば、普通の槍ならば一度で木っ端微塵に砕けてしまうだろう。しかしグラスの槍は、普通の槍とは一味違う。

 魔槍アシュタロス。

 特殊属性である《召喚魔法》を付与された迷宮産の魔法武器マジックウェポンであり、そう簡単に壊れてしまうような造りはしていない。そして特殊効果として、武器の使用者は遠くにあるアシュタロスを召喚して手元に戻すことが出来るのだ。これを利用した無限とも言える投擲がグラスの強み。『喚器』の二つ名はここから来ている。

 《魔法槍術:炎》で炎を纏わせ、それを投擲することで疑似的な《炎槍撃フレイム・ランス》を使っている。いや、消費魔力の少なさと威力だけを見れば、疑似的どころか遥かに凌駕した性能を誇っていると言えるだろう。



「戻れアシュタロス。……そろそろ行こうかの」



 グラスは再びアシュタロスを召喚して手元に戻し、クルクルと回転させて両手で構える。既に一班の冒険者は突撃が完了しており、乱戦の様相を見せ始めている。これ以上投擲すれば味方にあたる可能性もあるため、さすがのグラスも接近戦へと移行する。



「はぁっ!」



 地面が陥没するほどの踏み込みを経て、グラスは槍を突き出しながらゾンビの集団へと飛び込んだ。その姿は体全体が一本の槍のようであり、動きの遅いゾンビは為す術もなく貫かれて腐肉を散らす。

 こうして、『喚器』のグラス率いる一班がゾンビを二分して抑えている間に、正面を『壊拳』のドーヴァ率いる二班が殲滅する戦場が出来上がった。

 数を覆す戦術の概念などゾンビにあるハズもなく、無残に破片を散らして消滅していく。普通ならば暗闇で苦戦する冒険者たちも、満月の光のお陰で問題なく戦えることも大きい。魔石が弱点で死ににくいのは変わらないが、確実にその数を減らすことが出来ていた。



「くはははははっ! その程度かっ!」



 すっかり頭から腐肉を被っているドーヴァも、ペースを落とすことなく撃破を続けている。尤も、彼の攻撃に巻き込まれないように、そして降り注ぐゾンビの腐肉から逃れるようにして冒険者たちは近寄らないようにしているのだが……

 だがその分だけドーヴァの活躍は目立ち、Aランク以下の冒険者たちを奮起させる。吐き気で立っていられないほどの腐臭の中でも、まともに戦うことが出来るのは一重に興奮のお陰なのだろう。

 一方でグラスは班長として的確に指示を飛ばしながら器用にゾンビを倒していた。



「左翼が薄くなっておるぞ! 負傷者は戦場から抜けて精霊部隊に保護して貰え! 倒すことではなく足止めを心がけろ!」



 一班はグラスの言葉に従って手早く行動を起こす。自由奔放な冒険者を従わせるには相応の実力を示すことが最も効果的だが、Sランク冒険者であるグラスならば問題ない。

 凄まじい威力で粉微塵に吹き飛ばすドーヴァと異なり、グラスの戦い方は堅実。正確に魔石を狙って一撃必殺を決めていくのだ。地味な戦い方ではあるが、案外これが高度な技術を必要とする。

 人や低位の魔物ベースのアンデッドは総じて魔石が小さい。具体的には直径三センチ程度でしかないのだ。それを激しく動きながら正確に狙い撃つのは非常に難しい。普通は「数撃ちゃ当たる」の概念で、魔石の存在する心臓付近を何度も攻撃するのだ。一発で仕留めるグラスの技量が窺える。



「囲め囲め!」

「魔法使いは詠唱に集中しろ」

「魔力切れだ!」

「だったら下がれ! MP回復ポーションを飲んで来い!」

「では私が詠唱します」

「そっち抑えろ!」

「首は狙うなよ! あくまで弱点は魔石だ!」

「ドーヴァさんとグラスさんに続けぇっ!」



 グラスとドーヴァのみならず、一班と二班に配属されたAランク以下の冒険者たちは全く問題なく対処が出来ていた。もちろん相手が低位のアンデッドであることも理由の一つなのだろう。

 だから彼らの中にはその声が聞こえた者すら居なかった。



”『《時空振動ディメンション・ブレイク》』”



 その瞬間に空間が霞み、分解されるようにして消える冒険者。死体も、音もなく、ただ初めからそこには何もなかったかのようにして空白が出来上がった。戦っていたグラス、ドーヴァ……そして一班と二班の冒険者たちだけでなく、ゾンビたちさえも消えてなくなる。

 誰一人として自分が死んだことを知覚できなかっただろう。ましてや何が起こったのか理解できた者などいるはずがない。

 濃厚な血と腐った肉の匂いだけが漂い、何もなくなった大地を満月の光だけが照らしていた。




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