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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔の境界編
104/566

EP103 スタンピード

 時は少し遡って一週間前。武装迷宮を擁する迷宮都市【アルガッド】にとある一報が寄せられた。それは冒険者ギルドの掲示板に張り出され、多くの冒険者がそれを見ては一喜一憂していたのだった。




―――――――――――――――――――

緊急招集


エルフの国、ユグドラシルにあるアマレク

の街近郊でスタンピードの兆候を確認。

調査の結果、【アマレク】から東に数十キ

ロの場所に大量の魔物を発見した。魔物の

ほとんどはスケルトンを中心としたアンデッ

ドであり、統率している個体が存在してい

ると思われる。

魔物は推定500体。レベルは40以上。

上位種も確認されているため、Dランク以上

の冒険者は至急受付に向かい、この緊急依

頼を受諾すること。


報酬 一人あたり小金貨1枚(10,000L)

―――――――――――――――――――




「アンデッドか……苦手なんだよな」

「お前もか」

「浄化の魔法使いがパーティにいればいいんだがな」

「破魔系統の付与で我慢するか?」

「あれって一回で小金貨数枚するだろ。割に合わないって」

「だがなぁ……」



 スタンピードは冒険者にとっても稼ぎ時の一つであり、緊急招集自体に全く問題はない。寧ろ対象外であるE,F,Gランクの冒険者を憐れんでいるぐらいだ。だが今回に限っては暴走している魔物がアンデッドであるため、実りの少ない依頼になりそうなのは明白だった。

 アンデッドは本体である魔石に意思が宿った存在であり、腐肉や遺骨がそれによって動き出すことで魔物となっている。遺体に魔力が宿ることで体内に魔石が生成され、死者の怨念や悪意が意思となって動き出すのだと考えられている。

 しかしここで問題なのは魔石が本体だということだ。浄化の魔法で悪意を取り除かない限り傷の無い魔石を手に入れることは難しいのだ。アンデッドを倒す方法は、浄化するか、魔石を砕くか、動けなくなるほどに体をバラバラにしていしまうこと。そしてアンデッドの肉体は素材にならないので、お金になるのは魔石の部分のみ。一番簡単な魔石を壊す方法では儲からないのだ。

 パーティメンバーに《光魔法》や《回復魔法》のような浄化系の魔法が使える者が居れば問題はない。しかしこれらの属性を操る者は非常に少ないのだ。「浄化」の特性を持つ《炎魔法》でも良いのだが、熱によって魔石が傷つくので意味がない。つまり、アンデッドを相手にして儲けることが出来るのは一部の冒険者パーティだけなのだ。

 辛うじての対応策として《付与魔法》による一時的な破魔、および破邪の能力を武具に与えることも出来るのだが、こういった特殊属性の使い手は少ない上に一回にかかる金額も相当である。収支面では寧ろマイナスになる可能性の方が高い。



「今回は報酬だけで我慢しておくか」

「はぁ……ついてねぇ」

「いいじゃねぇか。迷宮で稼いでんだから偶にはこういうこともあるさ」

「ユグドラシル側ってことはエルフもたくさん参加するんだろうな。エルフの美人さんでも口説ければ割にあう依頼になるんじゃねーの?」

「お前はそればっかりか……だからモテないんだよ」

「うっせー」



 こういった冗談を言い合っているのは大抵が人であり、心配事といえば報酬や儲けのことばかり。しかしエルフたちは少し事情が違う。



「魔物め……滅ぼしてやろう!」

「クソッ! なんでEランクはダメなんだよ!」

「私の精霊魔法で木っ端微塵にしてやるわ……フフフ」

「悪神の手先め。俺が滅ぼしてやる!」

「【アマレク】は俺の故郷なんだ。好きにさせない」

「僕は《付与魔法》が使える! 破邪の効果を付与するよ」



 魔物は魔族が操っているとされている。そして魔族は三柱の悪神の手先だともされているのだ。光神シンを信仰する彼らにとって、魔物とは滅ぼすべき悪なのだ。報酬も儲けも関係なく、ただ魔物を滅ぼし尽くすことで自らの信仰を示そうとする。それが彼らエルフなのだ。

 そういったエルフたちの様子に若干引いている人やドワーフもいるのだが、彼らは気にすることはない。ちなみにドワーフの冒険者たちは酒さえあれば問題ないので、勝手に盛り上がるエルフたちに見向きもせず昼間から酔っ払っていたのだった。

 そんな時に勢いよくギルドの扉を開いて入ってきた四人組がいた。



「今日もダメだったね」


「仕方ないですよ。70階層からは条件も厳しくなるってアーサー王子も言っていましたし」


「というか酷いよね『柄にエメラルドの嵌った短剣、刀身はアダマンタイト』とかどうしろってのよ」


「リコ殿も落ち着け。こればかりは仕方ないのだから」



 ギルド内にいるほとんどが緊急招集の掲示板に注目しているため、この四人に気付いた者は少ないのだが、それでもギルド職員たちは彼らに気付いた。



「あ、お帰りなさいセイジさん。その様子だと今日も下には降りられなかったようですね」


「うん。色々なパターンの武器も用意しているんだけど、中々に難しいね。取りあえずは今日の分の稼ぎを精算して欲しいんだけど……」


「はい、すぐに取り掛かりますね」


「それで今日はどうかしたの? やけに掲示板に人が集まっている気がするんだけど?」


「ああ、あれですか」



 セイジが視線を向けた先に居たのは殺る気に満ちたエルフたち。彼らはいたって真面目なのだが、傍から見れば危ない集団にしか見えない。セイジも少し頬を引き攣らせながらチラチラとエルフたちを見ていたのだった。

 ルメリオス王国とユグドラシルの境界の街でもある【アルガッド】ではエルフを見かけることは珍しくない。そして迷宮内から取れる良質な鉱石を求めてやって来るドワーフもいるので、人族の街の中では最もグローバルだと言える。故にセイジたちもエルフがどんな存在なのかはよく知っていた。

 迷宮内でも高笑いしながら魔物を惨殺する姿がよく目撃されるので、恐らく討伐系の依頼でも出たのだろうと予想はしていた。そしてその答えはセイジと会話していたギルド職員が答える前にアルフレッドが言った。



「スタンピードのことだろう。昨日の夕方に騎士団の詰所を訪れた時に報告書が上がっていた。私はチラリと見ただけだったが、まさかもう招集がかかるとはな」



 バッチリと正解をいい当てたアルフレッドに驚きつつ、ギルド職員は補足説明とばかりに言葉を引き継ぐ。



「ええ、その通りです。なんなら精算をしている間に説明しましょうか?」


「そうだね……じゃあお願いしようか。絵梨香、今日の分を出してくれるかい?」


「わかりました」



 勇者パーティの中で荷物持ちを担当しているエリカが進み出て受付カウンターに迷宮で手に入れてきた魔物素材や鉱石類を取り出していく。荷物持ちといってもアイテム袋を持っているので、重さや大きさには困らない。空間拡張の施された袋の内部にはかなりの大きさであるため、エリカが持っていても負担にはならないのだ。それに前衛として戦っているセイジやアルフレッドがアイテム袋を持っていると、戦闘の邪魔になる可能性がある。それならば後衛としてあまり動かないエリカが持っていた方が都合が良いのだ。

 ちなみにもう一人の後衛であるリコのアイテム袋には数多くの武具類が収納されている。武装迷宮の攻略に必要な武具の献上で使用する装備品だ。

 ギルド職員はカウンターに並べられた素材などを丁寧に箱に入れて奥にいる査定担当の職員へと渡す。そして再びセイジたちの方へと向き直って説明を始めた。



「今回はユグドラシルの街である【アマレク】の近くでスタンピードが観測されました。スタンピードの兆候……魔物たち(モンスターズ)の前夜祭(フェスティバル)を早期に発見できたので、今のところ被害はありません。ですが今回のスタンピードはアンデッド系統の魔物がメインです。途中で出会った無関係の魔物をアンデッド化させて戦力を増やしながら【アマレク】へと向かっていると報告がありました。街に被害が出る前に討伐するための招集の張り出しがあちらの掲示板になります」


「スタンピードか……話は聞いたことあるけど」


「そうね。一年に何回かあるって話だったよね?」


「そういえば少し前にも西側の海のほうで発生したらしいですね」



 セイジたちがこの世界に召喚されてから半年以上が経過している。その間にも別の場所でスタンピードは発生してるのだが、場所が離れていたために関わることはなかった。だが今回は迷宮都市【アルガッド】の近くにある街付近での発生だ。【アマレク】自体は大きな街なのだが冒険者が非常に少ない。そこで【アルガッド】に滞在している冒険者たちがメインとなって討伐することになる。



「そうですね。一応ですがセイジさんたちは複雑な立場の方ですので緊急招集を拒否することも可能です。しかし今回は最低レベル40のアンデッドたち。さらに未確定の情報ですが、レベル70を越える魔物も存在してる可能性があるようです。戦力面では問題ないと思いますが、冒険者たちの被害を考えると高レベルの冒険者たちには出来るだけ参加して欲しいところです」


「大丈夫です。僕たちも参加するつもりですから」



 申し訳なさそうにする受付嬢に、セイジは笑顔で答える。彼らにとっては異世界だが、それでも今を生きる現実なのだ。それに自分たちには相応の力があると考えている。それならばその力を他人のために振るうべきだというのが3人の総意なのだった。

 故にセイジたちの中ではスタンピードの対処をすることが決定していたのだった。



「はい。ではこちらで手続きをしておきます。本当にありがとうございます」


「いえいえ。Aランクパーティ『ジ・アース』は全力でスタンピードの対処にあたりますよ」



 迷宮を攻略して数か月。

 セイジたちのパーティ『ジ・アース』は武装迷宮の70階層まで攻略し、最速攻略を成し遂げた異界の勇者として一部の高ランク冒険者の間では有名になっていた。






―――――――――――――――――――

セイジ・キリシマ 17歳

種族 人 ♂

Lv90


HP:8,021/8,021

MP:7,964/7,964


力 :7,214

体力 :7,188

魔力 :6,993

精神 :7,011

俊敏 :7,149

器用 :6,842

運 :40

スキルポイント:45


【固有能力】

《光の聖剣》


【通常能力】

《魔法剣術 Lv6》

《光魔法 Lv5》

《炎魔法 Lv5》

《雷魔法 Lv6》

《闇耐性 Lv4》

《罠感知 Lv6》

《身体強化 Lv3》

《魔纏 Lv3》

《魔障壁 Lv2》

《魔装甲 Lv2》

気纏オーラ Lv2》

《思考加速 Lv1》

《気配察知 Lv4》

《状態異常耐性 Lv2》

《HP自動回復 Lv4》

《MP自動回復 Lv4》


【加護】

《光神の加護》


【称号】

《異世界人》《光の勇者》《スキルホルダー》

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

リコ・アオヤマ 17歳

種族 人 ♀

Lv89


HP:3,580/3,580

MP:10,432/10,423


力 :2,761

体力 :2,995

魔力 :7,821

精神 :5,832

俊敏 :3,041

器用 :3,318

運 :28


【通常能力】

《光魔法 Lv6》

《炎魔法 Lv7》

《水魔法 Lv5》

《風魔法 Lv7》

《土魔法 Lv5》

《MP自動回復 Lv6》


【称号】

《異世界人》《希望の魔導士》《爆裂》

―――――――――――――――――――




―――――――――――――――――――

エリカ・シロサキ 17歳

種族 人 ♀

Lv88


HP:3,725/3,725

MP:8,156/8,156


力 :2,651

体力 :2,695

魔力 :3,941

精神 :7,469

俊敏 :3,486

器用 :3,253

運 :25


【通常能力】

《光魔法 Lv7》

《結界魔法 Lv8》

《付与魔法 Lv6》

《回復魔法 Lv6》

《状態異常耐性 Lv4》

《鑑定 Lv6》


【称号】

《異世界人》《守護の聖女》《不死崩し》

―――――――――――――――――――





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― 新着の感想 ―
勇者お前…なんで奥義とか言われてたスキル普通に持ってんだよ…さっすがチート
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