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虚空の天使【完結】  作者: 木口なん
人魔の境界編
101/566

EP100 支配の天秤

祝100話達成

いや、特別なことは何もしませんけどね


これからもよろしくお願いします

 一向に数を減らす様子の無いスケルトンをどうにかするべく、クウは即興で開発した魔法の演算イメージを開始する。あまり時間が掛けられなかったため、まだまだ精度の甘い魔法だが贅沢は言っていられない。多少の消費魔力や効果の減少はやむを得ないと考えて詠唱を口ずさんだ。



「『天堕ちる静寂の時

 全て叡智は我が手にあり

 聖なる者は眠りに

 邪なる者は目を覚ます

 黒の黒、くうくう

 右手に握るは支配者の杖

 聞け、我は夜の王!

 《権限執行:夜(フルムーンオーダー)》』」



 発動の瞬間にクウの体内からごっそり魔力が消費される。急激な魔力の消費で一瞬気を失いそうになるが、何とか耐えて踏みとどまった。リアが心配そうな目を向けるが、クウは大丈夫だと視線で返しておいた。



(魔力消費が激しすぎるな。次からは範囲制限をした方がよさそうだ)



 クウが目を上げると、ヨロヨロと歩きながら迫っていたスケルトンたちはピタリと動きを止めていた。眼孔が青白く光っていることから、倒したわけではないと分かる。ただ動きを停止させてその場に留まっているだけだった。

 カタカタと骨を鳴らす音が響いていた夜の山道には静寂が戻り、風が吹き下ろす感触だけが感じられる。何度も浄化されて尚、行進を続けていたスケルトンたちはその場に立ち尽くすだけだ。

 クウが即興で創り上げて発動した魔法《権限執行:夜(フルムーンオーダー)》。

 《月魔法》の特性である「矛盾」……これは「光」「再生」「浄化」「闇」「滅び」「汚染」「消滅」の複合特性なのだが、その中の「汚染」でスケルトンたちの思考や命令権を侵食して奪い取ったのだ。普通ならばこれほどのスケルトンを一度に手中に収めるなど不可能なのだが、今の時間帯はクウに味方をしていた。

 それが特性「夜王」である。

 これは夜という時間帯であらゆる有利を身に付けることが出来るという効果だ。夜と言う時間帯を支配し、それと同時に夜を生きる者たちを支配する。この効果が「汚染」の特性を最大限まで引き上げた。

 つまりこの魔法は周囲の夜行性生物の支配権を得るというもの。クウの支配下に置かれたスケルトンたちは命令を待って停止しているのだ。



「これが即興の魔法ですか……」


「まだまだ改良の余地はあるけどな。それに予想外に魔力を持っていかれた」



 リアは魔法の規模に驚いているが、クウからしてみれば満足のいく出来ではない。何より魔力の消費量が想像の遥か上を行っていたのだ。

 だがこれが演算イメージの段階で範囲指定をしなかったことに起因している。クウは魔法の効果に関することだけを重要視して演算イメージしていたので、効果範囲までは気が回らなかったのだ。いや、普段ならば気が付いたのだろうが、スケルトンが迫っているという切迫した状況がクウの判断力を鈍らせた。結果として詠唱が効果範囲をクウの魔力の限り最大限となるように指定したため、予想外の魔力消費をすることになったのだった。

 そしてそれだけでなく発動条件にも厳しいものがある。



「この魔法は満月の夜にしか効果を発揮しない。それに俺よりもレベルが下じゃないと抵抗レジストされる程度の魔法だよ。まぁ、これから使うことはほぼ無いだろうな」


「そ、そうですか……」



 リアからしてみれば規格外にも程があると言いたいところだが、クウとしてはその場しのぎの中途半端な出来だという認識だった。だがそれもそのはずで、《月魔法》の「夜王」という性質はとにかく扱いにくいのだ。「矛盾」は《光魔法》と《闇魔法》を統合したような性質なのでまだ使いやすい。「重力」も常に体感している上に、理論(数式)でも理解できる現象だ。しかし「夜王」という特性はどうにも掴みどころがなく、クウですら扱い損ねている状態なのだ。今回は練習も兼ねて使ってみたのだが、改めて難しい特性だと痛感されられていた。



(やはり理論で説明できないものは演算イメージしにくい。どちらかと言えば概念的な特性だから仕方ないけどな。そう言う点では「浄化」も同じだったし、結局は慣れなのか?)



 【魂源能力】は非常に強力なスキルなのだが、その分だけ扱いも難しい。下手に暴発させれば自滅するような効果すらあるのだ。少しずつ検証しなくてはならない。《幻夜眼ニュクス・マティ》はほとんど能力を掌握しているのだが、《月魔法》に関してはまだまだ奥が見えない。《森羅万象》で調べようにも、一定以上は解析不可となるのだ。

 通常のスキルを遥かに超越した【魂源能力】は世界のシステムからも半分逸脱しているので、《森羅万象》の情報開示能力でも対応しきれない。過去の能力使用ログから解析するので精一杯である。つまりは使ってみなければ何も分からないのだ。

 


「ま、考えても仕方ないか」


「? どうかしたのですか?」



 独り言を呟くクウに問いかけるリアだが、クウは「何でもない」とだけ言って話を切る。取りあえずの危機は去ったので、次の行動を早く考えないといけないからだ。



「取りあえずは休憩だな。リアも魔力を回復させておけよ?」


「はい。それはいいのですが、スケルトンはどうしますか?」


「一応……日が昇るまでは魔法効果が続くからそのままでも大丈夫なハズ……たぶん」


「えー……」



 珍しく自信なさげに答えるクウ。リアとしても急にスケルトンの大群が動き出しては困るので、その辺りはハッキリさせてほしい所だ。

 クウの支配下にあると言っても、スケルトンに囲まれている今の状況は好ましくない。油断している時に動き出したら二人では――ほぼ無いだろうが――対応しきれない可能性もあるのだ。 

 曖昧答えを出すクウに不満そうな声をぶつけるが、だからと言って解決するものでもない。リアは仕方なく引き下がる。そんな彼女にクウは苦笑しながら言葉を続けた。



「《魔力支配》で周囲の魔素から魔力を取り込んでいるからすぐに回復すると思うよ。何故かこの山脈は魔素が濃いみたいだから回復も早い。魔力が回復したらすぐに移動しよう」


「《魔呼吸》……でしたっけ? 便利ですね。わたくしも覚えた方がいいのでしょうか?」


「まぁ、暇な時にでも教えるよ」


「お願いしますね」



 二人はそう言って地面に座り込む。アンデッドたちに囲まれたままという状況だが、クウの魔法で縛られているので一先ずは問題ない。予想外に消費した魔力を回復させるために、二人は注意しつつも体を休めるのだった。






 ◆◆◆






 ポツリ……ポツリ……

 そんな音を立てながら水が滴り落ちる。

 星月どころか日の光さえも届かない洞窟の中でそんな音が響いていた。だが洞窟内は全くの暗闇という訳ではない。ぼんやりとした青白い光が揺らめき、数人分の影を映し出していた。



”……侵入者か”



 重く、暗く、そして何よりも聞く者に畏怖を感じさせる声が洞窟内を反響する。声の主はふと視線を下げて目の前に跪く人物に語り掛ける。



”適当に殺しておけ”


「カタカタカタッ!」



 カチカチと歯を鳴らしただけであり、何を言っているのか理解できないのだが、それもそのはずで跪いている人物たちの正体はスケルトンなのだ。と言っても普通のスケルトンよりも高位な存在であり、下手な光魔法程度では浄化しきれないほどの者たちである。



”ふむ”



 そしてスケルトンたちの返答を満足そうに見つめて頷いているのが彼らの王、キングダム・スケルトン・ロードだった。魔の山脈の一画を支配するスケルトンの王者であり、災厄級の魔物でもある。

 見た目も普通のスケルトンと異なり、腕は右と左に3つずつの合計6本。体には黒銀に輝く全身鎧を纏っており、頭部には金の王冠が飾られている。武器は刀身が1.5mはある大剣であり、各腕に一本ずつ用意されていた。通常のスケルトンと同様に眼孔には青白い魔力光が灯っているのだが、その魔力密度は比べるのも烏滸がましいほどに濃密だった。

 自らの支配する領域に侵入者が訪れるのはいつものこと。大抵は魔族領側か、他の魔物の領域から侵入してくるのだが、今回に限っては人族領からの侵入だと分かっていた。侵入者が現れれば配下のスケルトンを通してどんな存在が来たのか知ることが出来るのだ。

 キングダム・スケルトン・ロードに知らされた情報は黒髪黒目の少年と白いローブの少女。共に人族であるということだけ。如何にも歯ごたえのなさそうな者たちだと思って落胆する。

 岩を削ったような玉座に座っていたキングダム・スケルトン・ロードはつまらなそうにしながら感知の範囲を最大まで広げた。それは彼の支配する領域を丸ごと知覚できるほどの広さであり、当然ながら二人の侵入者の様子も手に取るように感じ取れる。



”侵入者共のいる場所は……ふむ、確かリッチの一匹が管理していたはずだが感じられぬな”


「カタカタ! カタ……カチカチ!」


”おお、そうだった。奴は少し前に配下の一部を率いて人族の方へと攻めていったのだったか。勝手に出て行きおったが今頃は人族に討伐されておるかもしれぬな。カカカカッ!”



 彼にとってはリッチ程度・・を失ったとしても問題だとは思わない。普通の人からすれば脅威である死霊の魔導士リッチもキングダム・スケルトン・ロードからしてみれば雑魚同然。多少は知恵が回るのかもしれないが、それでも目の前で跪く4体のロイヤル・スケルトン・ナイトの方が格上なのだ。

 玉座で気配に集中する骸骨帝は侵入者二人の様子を感知して面白そうに口を開く。



”クカカカカッ! 儂の兵士共がゴミ屑のように消されておるな。思ったよりやるではないか! これは傑作だ!”



 気配の反応を見れば配下のスケルトンが既に千以上も消されているのが感じ取れる。しかし骸骨帝は慌てることも怒ることもせずに、ただ座っているだけだった。そしてそんな様子を見せる王の姿を見てもピクリとも動かないロイヤル・スケルトン・ナイトたち。弱肉強食、自然淘汰が魔物の世界の真理なのだ。いくら配下が屠られようとも動くことはない。彼らが行動するのは、王や自らが危機に晒される時だけだ。

 だがここで気配を感知していたキングダム・スケルトン・ロードの様子が大きく変化する。



”馬鹿な。儂のスケルトン共の支配権を奪われただと……?”



 愉快そうな笑い声を上げていた先ほどとは一変して凄まじい怒気を含んだ声色になる。気配を感じ取っているだけに過ぎないキングダム・スケルトン・ロードだが、クウの《権限執行:夜(フルムーンオーダー)》で確かに配下の支配権が奪い取られたことは気づいた。

 配下が殺されようとも王は動きはしない。

 だが勝手に配下を奪われて黙っているほど呑気な王ではなかった。

 王は岩の玉座から立ち上がって早口で指示をだす。



”儂を虚仮にした不届き者共を殺せ。儂の領域で好き勝手にさせるな。―――お前が直接行って仕留めてくるのだ。よいな?”



 キングダム・スケルトン・ロードは近衛骸骨騎士の一人を指さして命令を与える。



「カチッ!」



 指名されたロイヤル・スケルトン・ナイトは即座に立ち上がって右手を心臓部に―――つまり魔石のある部分に―――当てて礼をする。忠誠を誓った王の命令は絶対だ。ロイヤル・スケルトン・ナイトは侵入者であるクウとリアを仕留めるために洞窟を飛び出したのだった。




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