表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/81

引きこもり

 授業以来、みんながかなり話しかけてくるようになった。


 色々聞かれるし、小さい子でも鍛練を見に来たりする。

 ガラシャなんか俺にくっついて離れない。

 目を離すとすぐにその辺で魔力切れで寝てたりするからこちらも目が離せないけど。

 でも、それくらい魔力を使ってるお陰で、ガラシャの魔力はグングン伸びてる。

 若いっていいね!

 魔力の延びが俺よりも緩やかなのは、もしかしたら魔法の才能のせいかもしれないけどね。

 でも、ガラシャはかなりセンスはあると思うんだよ。

 親バカじゃなく。

 俺の授業を受けても、しばらくは魔力注入が出来なかったやつも何人かいたしさ。

 その点ガラシャはほぼ一発だった。

 天才かと思ったぜ。

 たぶんガラシャは大丈夫だ。

 少なくとも俺は心配してない。


 授業の後は一週間くらい、そこら中で魔力切れで寝てる年少組がいた。

 魔法と違って自分で魔力を出す分、安全だからいいけどね。

 その1週間は物凄く変な孤児院だったと思う。

 倒れてるガキんちょを見付けては、年長組が各自の部屋に運んでいた。

 あぁ、でも寝てる年長組は放置されてた。

 重いしね。


 授業をする前も言ってたけど、あの後から先生がしつこくみんなに言い聞かせていたことがある。

 授業の内容を含めて、魔法や魔力のことは秘密ってことだ。

 完璧な秘密なんて不可能だけど、バレるとめんどくさいことになりかねないからね。

 念のためだ。

 どうせいつかはバレる。

 特に年少組は近所の友達に黙っていられないだろう。

 噂が広まってしまうのはいい。

 そのあと、悪いやつが動き出すのが恐い。

 なので、言わなくていいことは言わないってことになっている。


 気がついたらガラシャがまた寝てしまってたので部屋に連れていき、俺は鍛練を始める。

 時間がちょうどいいので、剣の稽古に行くことにしよう。





 今日は酷かった・・


 俺もまだまだ8才だからね。

 当然先生も本気じゃないのはわかってる。

 でも今日はめちゃくちゃ打ち込まれた。

 それも叩く!切る!って感じじゃなくて、避けた先で先生の剣が待ってて押し戻されるっていう意味のわからない状況だった。

 それだけだとまったく実践的じゃなかったけど、あれはフェイントのオンパレードだったんだと思う。

 今まではまったく使ってなかったフェイントとか先読みしての打ち込みを多用して俺に学ばせてくれたみたいだ。

 素直なただの打ち込みは呪文を唱えながら余裕で避けられるようになったし、次の段階に進んだのかもしれないけど、なんか三段飛ばしくらいで進んだ気がする・・

 まぁ日々の鍛練のお陰で剣は見えてる。

 後は対処するだけだ。

 そのうち出来るだろう。

 因みに打ち込む方の練習は全然進んでない。

 というか相手が先生なので俺がずーっと打ち込んで、先生が永遠に避けたり受け流したりするだけ。

 もちろん攻めも守りも同時にやってるけど、今日は避けられないし受けられないからただただ打たれてた。

 あれが噂のカワイガリってやつだろうか?

 ずっとぺしぺしされてただけだから怪我とかは皆無だけど。


 カワイガリといえば、俺ってロイの記憶があるから自分の見た目とか全く気にしなかったけど、結構可愛いのだ。

 自分で言っちゃったよ。

 だって誰も言ってくれないし。

 みんなが俺に言う言葉は「凄い!」がメインであとは「教えて!」くらいだ。


 あれ?

 こっち基準だと可愛くないのかもしれない。

 うーん、ありそうだ。



 変化と言えば、稽古の一部が一段階進んだ。

 それだけだ。

 しかし、その次の日に事件は起きた。


 俺の魔力石をメインで下ろしてる店の女主人が孤児院にきたのだ。

 すっごくこそこそしながら・・



「本当に申し訳ない!」


 女主人が開口一番に謝罪を口にした。

 一緒にいる先生と俺には意味がわからない。

 倒産ですか?


「まだ確実じゃないんだが、秘密が漏れたかもしれない・・」


 違ったらしい。

 わかってたけどね。

 この女主人の店が相当稼いでることは知ってたし。

 しかし、秘密が漏れるとは・・やっぱり俺の授業のせいだろうか?

 と、思ったけど、違うらしい。


「従業員と連絡がつかないんだよ。」

「・・どうゆうことですか?」

「うちは・・従業員と秘密保持契約を結んでる。給料は高めにしてるし、例え首になっても一年は秘密をバラさない限り多少の金が入ることになってる。」


 そりゃすごい。

 情報社会の日本だって万が一バラしたら訴えるだけで給料は普通と変わらないぞ。

 いや、日本だからか?

 アメリカとかそんな契約を結んだら給料上がりそうだな。


「つまり?」

「消えた従業員は秘密をバラして消えたか、誘拐でもされたか・・」


 思ったよりも大事みたいだ。

 正直、授業をやった時点で孤児院内の噂が広まってしまうのは止められないと思っていた。

 何でもない話なら構わないが、今の孤児院は金のなる木だ。

 今なら、どんな噂が広まっても店の責任ではないだろうと思っていた。


「正直に言うが、あたしも状況がわかってない。だけど、何かがあってから動いたって手遅れになりかねない。だから・・」

「えぇ、ありがとうございます。」


 先生も落ち着いてはいるが、表情は厳しい。

 当然だろう。

 生徒に危険が迫ってるかもしれないのだ。


「こちらも気を付けます。あなたも出来るだけ早くその従業員を見付けてあげて下さい。」

「あぁ。言われるまでもないよ。」


 そう言って女主人が孤児院をあとにした。

「さて、気を引き締めないといけませんね。」

「俺も探しましょうか?」

「あちらは任せましょう。こちらもやることがありますから。」


 といって先生はみんなを集めた。


 みんなに伝えたのは

 みんなのせいではないが秘密がバレたかもしれないこと

 バレたかもしれないからといってさらに言いふらさないこと

 安全のため、しばらく外出は少なめに

 どうしても外に出る時は俺か先生が必ず同行すること


 先生・・俺もまだ8才で年少組なんだぞ?

 年長組が納得しないだろ。


「外出時もそうですが、孤児院でも何か危険を感じたら全員ロイにしがみつきなさい。ロイは結界をはれますから、守ってくれます。」


 あれ?

 みんながコクコク頷いてる。

 いいのかそれで・・


 ガラシャはすでに後ろから俺の腰にしがみついている。

 恐いよね。

 守るからね。


 先生と話し合って、夜は孤児院の敷地を先生に習った結界で囲むことになった。

 まぁ実は魔力消費を兼ねて練習で毎日張ってたので、それを今日からは強めに張るだけだ。

 念のためにいつもの結界に加えて色々な結界を張っておく。


 結界魔法は色々な種類がある。

 球体や立方体、平面で壁や天井を作るものがあるし、人をそのままの形で柔らかく包んでしまうからそのまま行動できる便利なものもある。

 他に物は通さないとか魔法は通さないとか何も通さないとか一方通行とか色々ある。

 音を通さないとかは便利でたまに使ってるけど、中には範囲内の悪意を感知するとかいうのもある。

 感知魔法と分類が難しいけど、多分範囲内のものを守るから結界魔法の分類なんだろう。

 まぁ基本の防御結界以外は魔法を応用して作られた生活魔法に分類されてるからショボいのも多いらしいけどね。

 今は実際に使ったことがある魔法はほとんど魔力操作を使って無詠唱で唱えられる。

 先生が知ってたもの限定だからそんなに覚えてないけど、まぁ基本は抑えたと思う。

 魔力を操作できるお陰で、たぶん無詠唱でもほとんどロスもない。

 多少のロスが許せるなら頭の中で呪文を唱える必要もない。

 魔力操作でほとんど即座に発動出来る。

 今となっては『魔法は座学が全て』というこの世界の常識は、間違っているとはっきり言える。

 まぁこれが出来るなら、だけどね。


 因みに攻撃魔法は種類が少ない。

 属性は火水風土の4種類。

 それぞれ基本的な攻撃魔法とそれを広く薄めた広範囲型の2種類しかない。


 後はせいぜい威力を落として生活で使えるようにしたものくらい。

 これはこの世界と魔法というシステムを作ったディオがそうしたんだろうと思う。

 生活魔法とかは意味のわからないものも含めて、やたら一杯ある。

 つーか基本の攻撃魔法と結界、回復魔法以外の魔法は全部、正確には生活魔法らしい。

 生活魔法は『生活の中で産み出した応用魔法』の略だ。

 つまり人間が産み出した魔法ってこと。

 なので、生活魔法という名前のわりに大量の魔力を消費する魔法もあったりする。


 世界の常識、かどうかは知らないけど、少なくとも俺はそう教わった。

 攻撃魔法は応用が効かない。

 そうゆうものなんだと思ってる。

 でも種類は少ないけど、威力は段階が沢山ある。

 これは結界魔法とかにも当てはまるんだけど、魔法には一部の生活魔法を除いてレベルが1から10まであって、レベルが1上がるごとに必要な魔力は倍。

 威力は3~4倍位になる。

 一般的に一流の魔術師でも使えるのは大体レベル3くらいが限界で、個人でレベル4が使えたらもの凄いことなんだって。

 それ以上は基本的に集団で魔方陣に魔力を供給して放つ集団魔法の扱いだ。



 俺が今使えるのはレベル7の魔法まで。

 攻撃魔法で試す訳にはいかなかったけど、結界魔法で確認した。

 去年は6だったけど別に年は関係ない。

 魔力量ではなく、出力の問題みたいだ。

 俺が一度に出せる魔力の限界がレベル7なんだ。

 今は出力を上げるために力一杯魔力を出す練習をしている。

 それ以上何が必要かって?

 最高位の結界があればどこででも安心して寝れるでしょ?

 どこの世界に行っても安全が第一だ。

 日本レベルの治安の良さを求めるにはそれくらい必要でしょ?


 先生に頼まれた敷地を覆うでかい結界は、結界がかなり薄っぺらくなってしまうため、不安なので何個も重ねてかける。

 この辺が高位の魔法を使えないとめんどくさい。

 レベル7の結界を突破できるのは軍の使う集団魔法くらいだと思うけどね。

 まぁ魔力も消費したいし。




 朝、先生に叩き起こされる。

 何か起きたのかと慌てて結界の様子を感覚で探るけど、特に何も起こってないようだ。

「早く結界を解いて下さい!」


 何かと思って外を見てみたら、強い結界の重ねすぎで空間が歪んで見えてた。

 これは気持ち悪い・・外の建物がウネウネしてる。

 まぁ一番外に結界内の魔力も認識も誤魔化す変幻結界というのを張ってあるから、外からは異常はわからないけどね。

 気持ちの悪い朝を迎えた孤児院では数人の脱落者を除き、無事に朝ご飯を済ませた。



 この日は誰も外出はしなかった。

 まぁみんな気持ち悪かったし、看病もあったしね。

 なので俺は狩りで少しでも食事を改善させて、孤児院内の空気を明るくする努力をしながら空いた時間は鍛練に使った。

 俺や先生と一緒に外には出れても、自由な外出が出来ない状況は子供達にストレスを溜めていく。


 魔法がもっと上手く使えればもうちょっと違かったのかもしれないけど、おそらくあんまり状況は変わらない。

 魔法は万能じゃないからね。

 例えば悪意を感知する魔法は便利に聞こえるかもしれないけど、実際はそうでもない。

 これは使い方として、貴族のパーティーなどで使われるものらしい。

 飲み物に入れられた毒や、隠し持った剣なんかの悪意が籠ったものを感知することが出来る。

 悪意と言っても『殺してやる』とか『蹴落としてやる』とかの感情を感知するものではない。

 そんなものを感知してたら頭がパンクするし、貴族が使えるとは思わない。

 誰だって多少の悪意くらいあるからね。

 そして、今の時点で何かしらの感知魔法を広範囲に使ったとして、というか使ってるが、それから逃れることはそれほど難しくないのだ。

 魔道具や魔法で感知を妨げるものもあるしね。

 ということで、こちらとしては出来ることをやるしかない。



 俺は先生に前から考えていたことを話してみることにした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ