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地獄の始まり

ここからいきなりグロくなります。

苦手な方は逃げて下さい。

 俺とガラシャ、コリューの3人はイーラさんに連れられて人のまばらなスラム街の中を歩いて行く。

 この辺りに残っているのは動けなかったり動く気力がない人達だけのようだ。

 道端には手足が無かったり、目が死んでいるような人や、動かないので実際に生きているかわからないような人達が残っている。


「なんか、酷いですね・・」

「ここにはまともな仕事をしている者などいませんから。これでも人が少ないだけ普段よりましなんですよ。」


 普段のスラム街なんて来たいとは思わないけど、魔人が生まれると言われてもちょっと納得の光景だ。

 光景だけじゃなくて何かが腐ったような臭いや、汚物の臭いがそこら中から漂ってくる。

 この世界で清潔に保つには魔法が必要だ。

 簡単な魔法でもどうにかなるんだけど、ここに住んでる人達にはそれも使えないか、使う余裕がないようだ。

 これではここに住んでる人間が他の住民に受け入れられることはないだろうな。


 兵士達が隠れていた場所から少し進んだところで先の方に強めの気配が感じられた。

 死にかけの住民ではない。

 人間とも違った魔物のような気配だし、おそらく魔人だろう。


 イーラさんにそのことを伝えると、「覚悟は良いですか?」と、聞いてきた。

 もちろんだ。


 魔人と思われる気配は一つ。

 思ったほど強い気配ではないので、元の人間は魔人になる前は死にかけていたのかもしれない。

 そのさらに奥にはもう1人か2人くらいは魔人がいるかもしれないけど、いたとしてもそれくらいなら負けはないだろう。


 気配の所までは俺が案内した。

 そこは一軒のボロ家だった。

 雨風を凌ぐのが精一杯の納屋のような建物だ。

 それでも周りの小屋とも言えないただの屋根やテントと比べればこのスラム街では立派な豪邸なのかもしれない。


 離れたところにまだ何かがいそうだけど、この辺りではそこにしか生き物の気配はないようだ。


「気配があるのはあそこですか?」

「そうですね。生きてる人も一人いるみたいです。急ぎましょう」


 といって俺が建物に走って向かおうとすると、難しそうな顔をしているイーラさんが俺を止めた。


「・・お待ち下さい」


 建物にはイーラさんが入るらしい。

 まぁ俺は魔人と戦ったことはないし、やってくれるなら異存はない。

 今後のためにも戦い方は参考にしたい。

 俺達は建物の入り口にたどり着くと、イーラさんの行動を黙って見守った。


「宮廷魔術師のイーラです。中に入りますよ?」


 突然の自己紹介に思わず唖然としてしまった俺を置いて、イーラさんがさっさとドアを開けて中に入ってしまった。

 それと同時に建物の中から「ヴゥ」といううなり声と、「来るな!」という女の人の声がした。


 俺が中にまだ生きている人がいることを思いだして、急いでイーラさんの後を追ってドアをくぐると、そこには予想外の光景が広がっていた。

 いや、狭いからそんなに広がってないわ。


「出ていけ!」


 ドアの先には照明もない暗い部屋が一部屋だけあった。

 その中にはイーラさんに尖った金属の欠片のような物を突き付けている女性がいた。

 そしてその先には縛られた男性が一人いる。


 男性には手足が無かった。

 正確には片手片足が肘と膝まであるだけの状態で柱に縛り付けられていた。

 手足はそれぞれ違う日に切り落としたのか、乾いて血が止まっているところもある。

 男性は今も痛みに耐えきれないかのように頭を左右に振ってうなり声を上げている。


「ヴゥ」

 という声は猿ぐつわを巻かれているせいだったようだ。


「出ていく訳にはいきません。魔人は殺すのが決まりですので」

「やってみろよ!この公僕が!」


 汚い言葉をイーラさんに吐き続ける女性は、血のついた尖った金属を振り回して抵抗している。


「イーラさん?これはどうゆうことですか?」


 俺はとりあえずイーラさんに状況の説明を求めた。

 手足が切り落とされた状態で縛られた男性、刃物のようなものを振り回す女性。

 魔人のものと思われる気配。

 そして、その魔人の気配が縛られた男性からするというのはどうゆうことなのか?


「その男性から魔物の気配がするのは俺の気のせいなんですかね?」

「いえ、間違っておりません。あれは魔人です」


 じゃあこの状況は?


「彼女が魔人を匿っていたのでしょう。」

「魔人を・・?」

「この人はまだ魔人じゃない!私が治すんだよ!」


 女性の叫びを聞いて何となく状況が理解出来た。

 おそらくこの二人は夫婦みたいなものなのだろう。

 そして男性が魔人になってしまった。

 奥さんは仕方なく旦那さんを柱に縛り付けた。


 あとは・・なんで手足がないんだ?


「魔人は殺すのが決まりですので」


 イーラさんがそういって手を男性に向けた。

 それを見た女性が男性の前に立ちはだかる。


「やめろ!」

「ウィンドエッジ」


 イーラさんが無詠唱で放った風の刃が男性と女性、二人の首をまとめてはね飛ばした。


「ちょっと!!イーラさん!?」

「すみません。決まりなんですよ・・魔人を匿ったものは死刑なんです・・」


 イーラさんは建物を出てすぐに教えてくれた。

 家族に魔人が出ると他の家族も魔人になりやすいらしい。

 特に魔人を匿った家族はその確率がとても高い。

 俺にはわからなかったけど、現にあの奥さんも魔人になりかけていたそうだ。

 旦那さんの手足を切り取ったのは魔人を匿っていた魔人によくあることで、本人は治療のつもりらしい。

 暴れる家族を治したくて、手足が無ければ暴れられないとでも思ったのかもしれない。

 明らかに狂気のなせる業だ。


 匿っているのが家族でも無ければ魔人が増えることは少ないそうだけど、そうじゃなくても魔人は危険だ。

 街の中で匿っていたならそれが誰であろうと死刑になる。

 例外は国が許可した研究目的だけだそうだ。


 イーラさんが城を出てから決まり決まりとうるさく言っていた訳が少しわかったような気がする。

 旦那さんの方はわからないけど、少なくとも奥さんの方はまだ意思の疎通が出来た。

 人としての感情があった。

 少なくとも旦那さんへの愛情は伝わってきた。


 その夫婦を問答無用で殺すなんてことは自分の意思で続けられるもんじゃない。

 決まりだからやるしかないんだ。

 イーラさんにはその責任がある。

 その責任は、今もイーラさんの胸に白く浮かび上がっているのだから。


 大変重い空気の中で悪いんだけど、俺はあることに気が付いていた。


 だから、イーラさんの話を聞きながらそちらに向かっている。

 城とは逆方向だ。


 イーラさんは気が付いているのかいないのか、黙って付いてくる。


「イーラさん。魔人の見分け方って何かありますか?」

「ありますが、ロイさんなら気配でわかるのでは?」

「俺はわかりますよ。ガラシャも大丈夫だと思います。でも、魔人になりかけとかはイマイチわからないし、コリューも恐らくわからないので。」

「え?・・コリューちゃんも戦わせるんですか!?」


 元気の無かったイーラさんが声を張り上げた。


「戦いますよ?」

「たたかう!コリュー、つよいよ!」


 ずっと黙っていたガラシャとコリューが戦う意思を示した。

 良かったよ。

 さっきので心が折れてたらどうしようかと思った。

 ただでさえ魔力の濃さで気持ち悪いのに、いきなり重すぎなんだよ。

 いや、コリューにそれはないか・・


「いや、しかし、子供ですよ!?」

「問題ありませんよ。コリューは黒竜ですから」

「・・はい?」


 あれ?

 こっちにも黒竜っているよね?


 ずっとフードを被ってるから分かりにくいけど、結構イーラさんって感情表現が豊かなのか?

 さっきまでは魔人のことで緊張してたのかも知れないな。


 それじゃあ折角安心したところなのに悪い気がするけど・・


「イーラさん。あれは魔人ですか?」


 俺が指差した先には8人の男女がいた。



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