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勝負はしません

「ガラシャ」


 俺が代わろうと思って話し掛けた時、ガラシャは剣に傷が入っていないか確かめていた。

 もっとも、剣は構えながらだからそんなに油断しているわけじゃない。


「なに?」


 ガラシャが俺の方に振り向いたその時、兵士が動いた。

 再び『纏い』を使って高速で迫ってくる兵士に対して、ガラシャの反応が遅れた。

 先ほどと同じ兵士の振り降ろしの一撃をガラシャも体を横にずらしながら再び剣で迎え撃つ。

 不意をつかれたはずのガラシャは素早く動きながらも体幹は微動だにしていない。

 ガラシャの致命的な隙かと思われたが、その直後、兵士の顔は驚愕に染まっていた。


「バカな・・」


 カランカラン、という音と共に床に落ちる兵士の両手剣。

 床に落ちたのは鍔から先だけ。

 それを見る兵士とその上官、そしてイーラさんは驚いて言葉が出ないようだ。


「ガラシャ・・まぁ、いいか」


 相手の剣を切るとか、誰に似たんだろう。

 まったく。

 まぁ・・・・俺だよな。


 とりあえず、兵士のレベルは大体わかった。

 おそらくあれが全力だろう。

 ガラシャが作った隙に誘い出される辺りを見るに、戦いに慣れてるわけでもなさそうだ。


 そもそも上段からの打ち下ろしなんて上級者にとっては一番防ぎやすい攻撃だ。

 最強の攻撃かもしれないけど、それが最良の攻撃とは限らない。

 ガラシャを舐めすぎだ。


「剣はどうだった?」

「んー、たぶん普通の鉄だと思うよ?あっでも、これがちょっと重かった気がする。振ってみて?」


 といってガラシャが自分が使っていた両手剣を渡してくる。

 どうやら打ち合っても大した傷は入っていないようだ。


 訳がわからないけど、とりあえず言う通りに剣を受け取って構えてみる。

 確かに少し重い気がする。

 試しに振ってみたけど、やっぱり重い。

 剣をガラシャに返して、今度は自分がジャンプしたり手を振ってみたりしたら、何故だかわかった。


 重力が強いんだ。

 前の世界よりも少し体が重い。

 魔力が濃くていつもより空気が重い気がする上に、まだ少し気持ち悪いから気が付かなかった。

 ふと思ったけど、もしかしたら俺達の世界も地球と比べたら重力が強いのかもね。

 それならみんなが素早く動けるのも少しは納得だ。


「あっあとね、『纏い』の効果が凄かったよ?」


 なるほど、それは俺にもわかった。

『纏い』を使った瞬間、兵士の気配が急激に強くなった。

 いくら『纏い』が強力なスキルでも、普通はあんなに変わらない。

 普段の気配はザコなのに、『纏い』を使った途端にガラシャが意表を突かれるんだから効果は抜群だ。


 高レベルな『纏い』っていう可能性もあるけど、たぶん違うだろう。

 もしも高レベルな『纏い』ならガラシャに剣を切られなかったはずだからね。


 これに関しては単純にこの世界の魔力の濃度が関係してるんだろう。

 そこら中の魔力が濃いんだから、人が使う魔力だって濃い。

 濃ければそれなりの効果が出るのは当然だ。


 俺とガラシャが普通に会話しているのを見て、固まっていた上官が騒ぎだした。


「ば、馬鹿者!!話しているところを後ろから襲うとは、それでもロックフォードの兵士か!恥を知れ!」

「は!しかし、真剣勝負の最中に口を挟むなどと・・」

「口答えをするな!この恥さらしが!かくなる上は私がロックフォードの意地を・・」


 上官が剣に手をやって数歩前に出たところで立ち止まる。

 斜め上を見た状態で固まってしまった。

 何事かと周りを見たら、イーラさんもさっきまで戦っていた兵士も斜め上を見ている。

 それぞれがバラバラな方向を見ているから上に何かがあるわけではない。

 というか、天井以外何もない。


「なんだ?」

「どうしたんだろ?魔法かな?」


 なるほど、魔法か。

 ・・何の?


 俺とガラシャが訳もわからず様子を伺っていると、上を見ていたそれぞれが突然動き出した。


「襲撃だと?」

「何かの間違いでは?」

「私は戻って出撃の準備をして参ります!」

「私も行こう。勝負は預けるぞ。失礼する。」


 状況がよくわからないまま、兵士と上官が訓練場を出ていってしまった。

 どうでもいいけど、勝負とかしないからな?


「イーラさん。何事ですか?襲撃って?」

「恐らく何かの間違いだと思いますが、魔族の侵攻とのことです」

「大変じゃないですか!行かなくていいんですか?」

「おそらく間違いですが・・そうですね。行きましょうか。魔族は見られると思いますし」


 魔族がいるのに間違いなのか?

 よくわからんな・・


 イーラさんが言うには、襲撃を受けているのはこの王都の西にあるスラム街の辺りらしい。

 城からはかなり距離があるので、急いで向かうことにした。


 道中イーラさんに聞いてみたら、さっき上を見ていたのは登録された人全員に一斉にメッセージを送れる魔法だったらしい。

 非常時に使われるので、基本的にはあれが使われると非番の兵士も含めて魔法の効果範囲にいる全員が動きを止めて聞く体勢に入るらしい。

 さっきは襲撃のあった場所の地図も送られてきたので、みんなで斜め上を見てたんだそうだ。

 すっげー便利だね。

 是非とも覚えて帰りたい。


 城を出ると、イーラさんは西に向かって歩き出した。

 少し早歩きで。


「あの、イーラさん?急がなくて良いんですか?」

「申し訳ありません。王都で騎乗を許されているのは騎士だけなのです。馬車を呼びましょうか?」


 おいおい、そのルールは平時のためにあるものだろ。

 今ってそんな場合なのか?

 イーラさんってお堅い人だったんだな。


「じゃあ飛ぶのはどうですか?それも禁止ですか?」

「いえ、王城の付近でなければ平気なはずですが・・」


 そんなルールもあるのか。

 つーか、ルールがあるなら飛ぶ魔法とかあるのかな。

 後で聞いとこう。


「じゃあ飛んで行きましょう。道案内をお願いします。」


 そういうと、俺はみんなを魔力で包み込んで浮き上がった。

 そして一気に屋根より高いところに上がると、西に向かって急いで移動を始めた。


 イーラさんによると、城にいたほとんどの兵士達は間に合わないそうだ。

 今は馬車がそんなにないんだって。

 走ってこいよ。

 いや、それでも遅いけどさ。


 襲撃に住民が気が付いたのは約2時間前。

 情報元がスラム街だったので確認に手間取ったみたいだ。

 今は近くにいた兵士くらいは駆け付けてるだろうってさ。


「あと一つ確認したいんですけど、さっきの兵士ってレベル的にどれくらいかわかりますか?」

「レベルというと、個人のでしょうか?」

「いや、兵士の中でか、魔人と比べてって感じでお願いします」

「それだと・・兵士の中では中の上くらいでしょうか?平均的な魔人には勝てません。」


 サクっと言ったな。

 自分の国の兵士だろうに。


「あの『纏い』は結構強力だと思いますけど、そんなもんですか?」

「はい。勝てる個体もいるでしょうが、魔人は常時『纏い』を使っているようなものですから。少しくらい『纏い』が使えても足止め程度にしかならないでしょう。」


 イーラさん・・はっきり言うなぁ。

 まぁありがたいけどさ。


 つーか、さらっと言ったけど、常に『纏い』って凄くやばいんじゃないの?


 魔獣とかもそーゆーことなのかな?

 そりゃ強いわけだ。

 体の大きさとかどうでもいいんじゃん。

 強いんじゃん。


 しかし簡単に言うけど、魔人になった元の人間が強い人なら、それはバカみたいに強いってことだぞ?

 あと、魔人って魔法とか使うんだろ?

 スキルもあるなら『纏い』はどうなの?

 使われるとマズくない?

 俺、死なない?


 ちょっと、甘くみてたな。

 何とかなると思ったけど、何とかなる前に死なないように気を付けないと。


 喋ってはいるけど、しっかり現場には向かってる。

 俺達がイーラさんに案内された現場付近に着いたとき、最初に見付けたのは現場から離れたところで隠れている兵士だった。

  おそらくちょうど近くにいて、現場に駆け付けたのだろう。

 3人の兵士は建物の影にただ突っ立っている。


 兵士達は現場に行く気はさらさら無いようで、気にしてるのはむしろ城の方向のようだ。

 だから兵士達は俺達にすぐに気が付いて、警戒した視線を向けてきた。


 何やってんだよ。


 兵士から20メートルくらいの距離を置いた位置に降りると、イーラさんが兵士に近付いていく。


「宮廷魔術師のイーラです」


 イーラさんがそう言うと、イーラさんのローブの色が変わった。

 今までは青いローブだったのが、赤みがさしたと思った直後に色が濃くなって黒っぽくなってしまった。

 ローブの胸のところには見たことのない紋章のような物が白く浮かんでいる。

 少しビックリしたけど、何らかの魔法か、ローブその物が魔道具だったのだろう。


 ローブの紋章を見た途端に兵士達は警戒を解いた。

 その代わりに緊張感を持って答える。


「はっ!何かご用でしょうか!」

「いえ、あなた方はこのままで結構ですが、私達は先に行きます。よろしいですね?」

「はっ!お気をつけて!」


 単刀直入に用件を告げたイーラさんに対して兵士も即返事をした。

 手っ取り早いのは結構だけど、状況がイマイチ分からない。

 俺は現在の状況を聞いた後、兵士達の横を通り過ぎて歩き出したイーラさんの横に並んで話しかけた。


「イーラさん。今のはその紋章の効果ですか?」

「はい。この紋章はロックフォード王国の紋章です。大抵のことはこれがあれば何とかなります」


 ローブはやはり魔道具だった。

 僅かな魔力を流すことで色を変えたり紋章を浮かび上がらせたり出来るらしい。

 その紋章を出した状態では、その者の言動が国家権力の行使を意味するそうだ。

 水戸黄門の紋所みたいな感じかな?


「凄いですね」

「はい。使った者に全責任がかかってきますから気軽には使えませんが、緊急時には力になってくれます」


 緊急時とはいえ、一魔術師が国を代表して物事を決めるってのは凄いと思う。

 それと、ローブの色が変わった時点で気配にも変化があったから、おそらく魔力を流してる間は防御力も上がってるはずだ。

 イーラさんは戦闘体勢に入ったってことかな。


 イゴイスやライクス王国と比べると魔法とかスキルだけじゃなくて、色々と進んでるみたいだな。


「それはそうと、あの兵士達はどうしてあそこから動かないんですか?」

「それが決まりですので。」


 なんか、堅い・・

 紋章を出してからイーラさんがやたら堅い。

 まぁ元から敬語だから表情くらいしか変わらないけどね。

 仕事に対して信用できる人だから紋章を預けられてるんだろう。

 ルールを守らないやつに権力なんて与えないよな。


 もっとも、堅かったのは兵士の近くにいる間だけだったから、余所行きの態度だったみたいだ。

 俺達にはもう心を許しているのかな?


 兵士の仕事は戦力が整うまでは現状維持。

 待ってる間は、繁華街や住宅街に魔族が行かないように見張ってることなんだって。


「ここにも人は沢山住んでますよね?助けに行かなくて良いんですか?」

「そうなんですが、スラム街の住民は保護対象ではないので・・」


 兵士が守るのは税金を払ってる者だけなんだそうだ。

 昔は違ったけど、魔族が人類を脅かすようになってから変わったらしい。


 今の人類にとって兵士は貴重な戦力だ。


 それを生産性のないスラム街の住民のために使い潰すことは許されない。

 兵士達は損耗を避けるために戦いにおいては団体行動が絶対だ。

 そして、スラム街の住民を養う力はもはや国にもない。


 など、色々な理由からスラム街は徐々に国から見捨てられつつあるそうだ。

 さらにもう一つ、スラム街を切り捨てる大きな理由がある。


「魔人がスラム街から生まれる?」

「そう言われています。少なくとも王都において、統計上はほぼ全ての魔人はスラム街から発生していますので」


 それじゃあ住民の感覚的にはスラム街が魔物の巣みたいに感じるだろうな。


 しかし、国境線を閉鎖しても内側から湧いてくるのかよ・・

 それじゃあ戦力を集中することも出来ないのか。

 すげぇやっかいだな・・

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