力試し
俺達はイーラさんに連れられて訓練場にきた。
どうやらさっき城内から見たのが訓練場だったらしい。
今も沢山の兵士が訓練している。
みんなお揃いの鎧を着て槍を使って訓練しているようだ。
こちらでも鉄の価値が変わらないなら、これだけでも相当な金がかかっている。
新兵に配れるような装備じゃないんだけど、でも、パッと見た感じだとここにいる兵士はかなり若い。
これは偶然か、それとも訓練を終えた兵士は別の場所にいるのか・・
訓練をしていた上官と思われる人に話しかけていたイーラさんが戻ってくると、再びどこか城内に向かって歩き出した。
「イーラさん?ここじゃないんですか?」
「あぁ、すみません。訓練場はもう一つあるんです。今人を貸してくれるように頼んだので、すぐに追いかけてくると思います。」
ふーん。
なんだろね?
みんながチラチラと好奇の視線を送ってきてたしこのまま見世物にされるのかと思ったけど、よく考えたら見世物にはしたくないだろうね。
秘密兵器とか、国家機密とか、村人Aを召喚した国の大失敗を隠したりとか理由は色々とありそうだ。
まぁなんでもいいけどね。
俺は見世物になるのは嫌いだ。
目立つのが好きなら商人とかやってないっつーの。
俺達が使えるとわかったら大々的に宣伝に使われそうだけど・・
イーラさんに案内された訓練場は室内だった。
足下が土なのは外の訓練場と一緒だけど、少し高いところに観覧席のような物があるから御前試合みたいなものでもやる場所なのかな?
やることもないので俺とガラシャが話しながら柔軟等をして準備していると、さっきの上官が兵士を一人連れて現れた。
「待たせた」
「ちょっと待って下さい!」
イーラさんが上官に駆け寄ると、何だか言い合いを初めてしまった。
「1人で充分だろう」
「3人とお願いしたはずです!」
どうやら俺達が3人だから人数を揃えて貰おうと思ったみたいだけど、断られたらしい。
筆頭魔術師とか言ってたけど、兵士を自由にすることは出来ないんだな。
魔術師と兵士で管轄が違うならそんなもんなのかな?
まぁこちらは人数はどうでも良い。
試すだけなら俺一人で・・いや、俺が出るまでもない。
ガラシャで充分だろう。
何度か言っている気がするけど、俺は臆病ではない。
慎重なだけだ。
「イーラさん。いいよ。とりあえず一人でも試させて貰えるならありがたいし」
「いや、しかし!」
「先方がいいと言ってるではないか。さっさと始めるぞ」
そう言って上官は連れてきた兵士に指示を出す。
「やれ」
何だその指示は!?
完璧に悪役の台詞だよ!
「じゃあ私がいくね」
と言ってガラシャが前に出る。
ガラシャは俺が何も言わなくても動いてくれる。
出来た妹だ。
ガラシャとは今確認すべきことはもう話し合っている。
まず、兵士のレベルだ。
魔族は兵士より強いそうだから、俺達が兵士にも勝てないようなら話にならない。
まぁそれに関してはあんまり心配していない。
俺達には気配感知という便利なスキルがあるからね。
だから、どちらかというと気配感知がこちらの世界でも有効か、感覚にズレはないか、というのが確認項目のトップにある。
ヘルヘイムは魔力が濃すぎて魔力感知の感覚があてにならないから、気配感知にはしっかり働いてもらいたい。
まぁ魔力感知は眩しくて目が眩んでるようなものだと思うから、その内もうちょっと使えるようになると思うけどね。
次に、武器の強度だ。
見た感じだと兵士が持ってる武具は普通の鉄か鋼に見える。
だけど、もしかしたらこっちの鉄は俺達がいた世界の魔鉱よりも有能な金属だという可能性もある。
まぁそしたらこっちで武器を調達すればいいんだけど、とりあえず確認はしたい。
「やれ」と言われた兵士が前に出る。
「一人ずつか・・武器や防具は使わんのか?」
兵士が意外と渋い声でガラシャに問いかける。
ヘルメットのような物を被ってるせいで分かりにくいけど、たぶん20代かな。
コリューはもちろん、俺やガラシャも普段着だ。
少なくとも見た目はね。
コリューの服は魔法で変化してるだけなので黒竜の鱗と同じだけの強度があるし、俺とガラシャが着ているのは魔獣の毛を編んで作った服だ。
鉄の鎧なんかよりも遥かに有能な防具である。
まぁ実際に普段着だし、この服の上から動きの邪魔にならない魔鉱の胸当てとかをすれば完全装備かな。
「防具は必要ありません。武器は使いますよ」
といってガラシャが収納から鉄の剣を取り出す。
相手が腰に差している剣に合わせた大振りな両手剣だ。
女の子が使うには大きすぎるように見えるけど、ガラシャが使うなら余裕だ。
まぁガラシャも前の世界のランクで言えばA+はあるわけで、言っちゃなんだけど人間離れしてる。
地球と違ってディオが作った世界では、体つきとか男女の違いとかと戦いにおける強さにはあんまり関係がない。
傾向として男は力が強くて、魔力は女の人の方が多い。
けど、魔力の操作は男の方が得意で、とか色々細かい違いはある。
それでも個人差や鍛え方次第でいくらでも覆るくらいの違いしかない。
まぁなんにしても、ガラシャを甘く見ると大怪我じゃすまない。
ガラシャが出した剣はただの鉄とはいえ、ニートの鍛冶屋の筆頭鍛冶士ジェフさんが作って、娘のエイミーが紋章を刻んだ一級品だ。
それを目の前で出したので
「なっ!何をした!」
と、兵士がビックリしている。
「今のは、もしかして収納魔法ですか?」
「えぇ、そうですよ?」
イーラさんが知ってるってことは収納魔法はあるらしい。
まぁディオにヘルヘイムの方が魔法は進んでるって聞いてたから予想はしてたけど、この反応を見る限りだとあんまり一般的じゃないのかもしれない。
「奇術士か!」
「他に何が出来るか知らんが、小技で勝てるほどロックフォードの兵士は甘くないぞ」
奇術士って手品師みたいなものだよな?
違うぞ?
まぁイーラさんも否定しないから、知られていないんじゃなくてこの魔法はそんなイメージが付いてるのかな。
便利なのに・・
「あの・・それでは、準備はよろしいのですか?」
「はい、いいですよ?」
「・・では、始めて下さい」
といってイーラさんは壁際に下がった。
兵士はガラシャの物よりさらに大振りな両手剣を抜いて構える。
どうやら剣の形はこちらの世界でもあまり変わらないようだ。
今二人が持っているのは地球でいう西洋型の剣だね。
ガラシャも抜いていた剣を構えると、お互いに間合いを計る。
でも、ガラシャは動く気がないようだ。
まぁ攻める必要ないもんね。
「来ないならこちらから行くぞ」
「どうぞ?」
「・・後悔するなよ!」
その直後、魔力の動きを感じたかと思ったら兵士が動き出した。
速い!
兵士は十分にあったはずの間合いを一瞬で詰めると、ガラシャの目の前で両手剣を振り降ろす。
ガラシャが剣を横にして兵士の剣を受け止めると、剣同士がぶつかって火花を散らした。
いや・・散ったのは魔力だ。
ガラシャが咄嗟に剣に纏わせた魔力が兵士の剣に散らされたのだ。
この兵士、全身と剣の両方に魔力を『纏い』やがった。
ガラシャも瞬間的に反応したようだけど、『纏い』というほど強力なものではなかったので力負けしたようだ。
ガラシャが兵士の剣を押し返すと、兵士もそれに逆らわずにお互い距離を取った。
「今のに反応するとはな」
「ビックリした~」
兵士はすでに『纏い』を解いている。
必要な一瞬だけ使うことで魔力の節約をしているようだ。
確かにあれが出来れば短い戦いでの魔力切れの心配はなさそうだな。
こっちの世界は魔法だけじゃなくてスキルも進んでるらしい。
俺達がいた世界ではあそこまでの『纏い』を使える人はほとんどいなかったと思う。
しかし、この兵士って全体的に見るとどのレベルなんだ?
これが一般兵のレベルならかなりキツイんだけど・・
この兵士が束にならないとザコ魔人も倒せないって言うなら・・俺達って本当に役に立つのか?
まずはこの兵士の本気がどれくらいかを確かめないとな。
聞きたいことはいくつかあるけど、倒してからだったら色々教えてくれるだろ。
「ガラシャ」
わからないことは確かめてみればいい。
それは、俺がやろう。




