迷宮2
人材の確保は思ったよりも簡単に済んだ。
元役人のクレールがやたらと効率的に人を配置してくれるのだ。
研修期間を大幅に短縮して。
まぁ確かにメイドは総合職だ。
屋敷では全ての仕事をこなせて、どの店でも店長が勤まる人材を育ててる。
メイドとして働ける技能は一般職や技術職が多いうちのグループでは活かしにくい。
無駄と言えば無駄だったかもしれない。
俺としては客に対する口調や態度等がしっかりしているなら何も問題はない。
人が足りないのは俺のせいなんだから、文句は言わないさ。
それと、奴隷達は前職も含めて出来ること、そのレベルを簡単にリストアップされている。
クレールが作ったそのリストのお陰で適材適所、迷宮の周りにも必要な人材を集められた。
俺がやったのは適当に優秀そうな奴隷を追加で買ってきただけだ。
クレールの組織改革のお陰でグループ全体が凄く楽になりそうな気がする。
しかし、もしもクレールが役所でこんなことをやってたか、やるべきだと主張したなら、かなり疎まれていただろうな。
優秀過ぎることも合わさって危険視されるのもわかる。
出る杭が打たれたってところか。
うちとしては大歓迎だけどね。
打たれた杭が曲がってなくて良かったよ。
迷宮に送る人集めを一段落させたクレールは、そのまま町作りの陣頭指揮を取ってくれた。
ゴート領の迷宮の街にも行ったことがあるらしく、何がどこに必要か大体わかってるらしい。
もはや俺がやることは無さそうだ。
いや、伐採と整地くらいかな?
今はみんなで俺が伐採した木を運んだり加工したりしてる。
「クレール。少しは休めよ。働きすぎだ。」
「ロイさん。いえ、町作りは最初が肝心ですから。でも・・私がやってしまって良かったのですか?」
「全然構わないよ。というか、すごく助かってる。だから君に倒れられたら困るんだ。たまには休めよ。」
一度クレールが指揮を取ってしまった以上、ここで俺やガラシャに何か聞かれても答えられないことが多すぎる。
作ってるのは迷宮のある大きな町なのに、俺では冒険者ギルドや役所すらクレールに言われるまで作ることを思い付かなかったのだ。
役所は領主の俺が許可を出せるけど、首都のギルド本部に色々と確認を取ったのもやはりクレールだ。
今クレールが倒れたら結構マジで困る自信がある。
「ありがとうございます。奴隷紋のお陰でかなり調子は良いのですが・・では、区切りが付いたら休ませて頂きます。」
「あぁ、そうしてくれ」
まだ少し俺との間に壁がある気がするけど、親の教育のお陰か口調も丁寧だしやっぱり掘り出し物だったな。
町作りの計画を進めるのは良いけど、材料が全然足りない。
伐採した木もこのままじゃまだまだ使えないし、どうしたもんかと思って大工に相談してみた。
足りない分は買ってくるしかないと思ってたんだけど、大工によると材料は程よくあるらしい。
木の灰汁抜きや乾燥はしないんだって。
そもそもそんな手順は聞いたことがないってさ。
それじゃ縮んだり捻れたりするだろ?って言ったら木はそーゆー物ですよ。って返された。
なんか、この世界でちゃんとした建物が全部石造りな理由がわかったよ。
木の加工技術がほとんどないんだ。
それを聞いて俺は、『日本人として木造の素晴らしさを伝えたい!』と思った。
出来ないけど。
とりあえず、木は皮を剥いた後で最低でも一年間風通しの良い所で天日干しをして乾燥させてから使うと縮まないし捻れないとても良い材料になる、と伝えておいた。
材料や職人によってはさらに10年くらい陰干しする場合もあるらしいけどね。
確か一般的な杉や桧でも乾燥が完璧に終わるのに8年くらいはかかるらしい。
最近の人工乾燥でも2年分の乾燥具合で、しかも人工では灰汁抜きは出来ないし多少木が傷むって言うからね。
最新の技術を利用した新品の木材を使うより、大昔の古民家の木材を再利用する方が家が長持ちするっていうんだから、最近の日本の家が海外から使い捨てって皮肉られるのも納得だ。
木材が最高のパフォーマンスを発揮するのは伐採されてから400年後だって話もあるし、木造は奥が深いよ。
加工技術がない以上、木造は諦めるとして、石造りならどうにかなるかと聞いてみたらどうやらこの大工は木造専門だったらしい。
使えねぇ・・。
しかし、石造りのことを聞いた時に気になることを言われた。
「あっしも一応魔法は使えるんですけどねぇ。」
大工が魔法ってなんだ?
石を持ち上げるのか?
「いやいや、石材を作る魔法ですよ。ご存じありませんか?」
「・・そんなのあるの?」
「ありますよ!というか、それがなきゃ石造りの家なんて職人が何人いても建ちませんよ!」
別に魔法なんか無くても家どころか城だって建てられると思うけどな・・。
折角なので大工にその石材を作る魔法を見せて貰った。
大工が魔法を使った結果、いびつながらも煉瓦のような形の物が地面から生えてきた。
丁度片手で持てるサイズの縦長の煉瓦は下にある土よりも白く、石で出来ていることがわかる。
「すみません。魔法は苦手で・・。あっしが土属性だったらもっとましな物が作れると思うんですが・・」
「ちょっと呪文を教えてくれる?」
「あっはい。もちろん。」
大工に呪文を教えてもらって唱えた結果、大工の物よりもかなり綺麗な煉瓦調の石が地面から生えてきた。
よく見ると石の周りの地面が少しへこんでいることから、土を材料に石を作ったことがわかる。
そして・・
「流石ですね!これなら材料として充分使えますよ!」
「あのさ、これって大きさは固定なの?」
「どうでしょう?もっと大きな石材もありますから、たぶん違う魔法もあるとは思いますが・・」
でも、それは知らないと。
まぁそうだろうな。
この大工は木造専門だし。
試しに魔力の量と動きを増やして魔力操作で発動してみる。
すると、やっぱり大きな長方形の岩が地面から生えてきた。
大体腰くらいの高さの岩だ。
城壁に丁度良さそう。
城は作らないけど。
「なっ!なんじゃこりゃ!」
「あぁ、魔力を多めに使ってみた。結構応用が効きそうな魔法だね」
「応用って・・今知ったばかりでしょう・・?」
大工は驚いているけど、魔力量を増やすだけなんだから応用のうちにも入らない気がする。
たぶんだけど、この魔法はまだまだ応用が効く。
そんな気がする。
早速ちょっと試してみよう。
試しに大通りになる予定の地面にこの魔法を広く薄くかけてみる。
すると、地面の表面だけがまっ平らになってコンクリートの床のようになった。
「はぁ!?なっ何したんすか!?」
「応用だよ。デカくて平べったい石を出してみた。」
「応用って、ホントに知らなかったんすか!?」
知らなかったな。
俺の整地魔法よりこっちの方がはるかに良いじゃないか。
石なら雨が降っても凸凹にならないし、轍も出来ない。
でもまぁ整地してから使った方が良さそうだけどね。
あっ、平らだと水捌けが悪そうだからちょっと丸みを持たせよう。
続けて壁を作ってみた。
道の横だから何かしら建物が建つはずだ。
石壁なんて道路に比べれば楽なもんだよね。
あっという間に壁が一面出来上がる。
「すげぇ・・なんだこりゃ・・」
「あのさ、悪いんだけど、ガラシャとクレールを呼んできてもらえる?」
「えっ?あっはい!すぐに!」
と言って大工は出来たばかりの舗装道の上を走り出した。
俺がガラシャにこの土魔法を教えると、クレールの指示の元、ガシガシ建物を作っていった。
流石にクレールもかなり驚いていたけど、考え方が現実的なのかすぐに状況に対応して余った人員を家具作りに移行させていた。
外壁も含めた町作りはかなりのペースで完成に近付いていった。
木材は家具用の小さいものばかりなので俺とガラシャで手分けして火魔法で乾燥させた。
水を出す魔法の逆で、乾燥させる魔法もあるんだよ。
服や髪をこれで乾燥させると傷むから誰もやらないけど、一応ないと家事が大変な、生活魔法の中でも必須科目だ。
これがないと下水とか・・ね。
たぶん、多少木材が傷むから完璧とはいえないけど、やらないよりはましだと思う。
「あとは・・ガラシャ、ちょっとここ任せていいか?」
「ん?いいよ?」
俺はほとんど終わった建物の建設をガラシャに任せると、一人迷宮に潜っていった。




