プライドがズタズタ
「待て」
カリーナがその気になったところでイズナが止めに入る。
「そいつは罠なんか使ってない」
「でもイズナ、こいつ何も持ってないのよ?」
「でも、使ってない」
イズナは性格的に前衛だと思ったけど、先行探索するシーフ系だったのかな?
単純に見えるから向いて無さそうだけど。
まぁ確かに罠は使ってないけどさ。
「私がやる。」
カリーナを横に退けてイズナが前に出る。
どうやら最初はイズナが相手をするみたいだな。
「じゃあどっからでもどうぞ。とりあえず俺は攻撃しないよ」
「・・ふざけてるのか?」
イズナは明らかに怒っているが、さっきまでのように無闇に怒鳴ったりはしないようだ。
「いや、とりあえず、だよ?実力を見せて貰おうと思ってね」
「くっ!殺してやる!」
俺に恨みでもあるのか?
ないよな?
・・ないよね?
「武器は必要?」
念のために聞いておく。
「いらん!」
だよね。
「じゃあどうぞ。」
俺も手を広げて無手をアピールする。
トリックは使わない。
来ると思った瞬間にイズナの体が落ちた。
腰を落とすと同時に移動したのだ。
知力が足りない者には地面に沈みこんだように見えただろう。
イズナは真っ直ぐ向かってくる。
ちゃんと距離を取っていたつもりだったけど、あっという間に目の前だ。
まだ『竜化』は使っていないようだが、それでこのスピードか。
「くたばれ!」
イズナが右手を奮って拳を叩きつけてくる。
俺はそれを半歩横に避ける。
避けられるとは思っていなかったのかイズナは少しバランスを崩したけど、すぐに立て直すと、今度は左手で殴ってくる。
もちろん避けたけど、イズナは拳を振り回した回転のままに後ろ回し蹴りを放ってきた。
俺はそれを右手で受け止める。
「なっ!」
イズナが片足のまま、飛んで下がる。
渾身の蹴りを片手で受け止められたのだ。
相当ビックリしている。
「何なんだ!」
「・・何が?」
「お前の気配は・・こんなことが出来るはずがない!」
あぁ、『気配感知』も使えたんだね。
今はたぶん、俺の気配はかなり弱く感じるはずだ。
ニートグループの優秀な紋章士であるエイミーが趣味で作った魔導具の中に面白いものがあったから、それを使ってる。
自分でも気配は消せるけどね。
俺はネックレスをイズナに示す。
「それならこの魔導具の効果だよ。」
「ほら!やっぱりトリックじゃない!」
鬼を捕ったかのようにカリーナが叫ぶ。
何もわかってないな。
「カリーナ。俺が敵だったらイズナはもう死んでるよ?」
「・・くっ!」
「そんな訳ないじゃない!イズナがまだ本気じゃないだけよ!」
イズナはわかったようだけど、カリーナはまだわかってないみたいだな。
「魔物の強さを読み違えて本気を出さなかった。新人冒険者の死因としては泣けるね。」
「くそ!」
イズナが移動してメンバーと合流する。
カリーナが顔を真っ赤にして怒っているが、イズナが謝ると落ち着いたようだ。
少し4人で話し合った後、今度はカリーナが前に出る。
「お望み通り、全員で相手をしてあげるわ。文句はないわよね?」
「ないから早くしよう。夕飯までには帰りたいんだ。」
またカリーナの顔が真っ赤になったけど、今度は叫んだりしない。
「死んで後悔させてあげる。」
カリーナがそう言うと、全員の表情が変わった。
決め台詞だったのかな?
ドラゴンクロウの気配がドンドン強くなっていく。
全員が『竜化』を使ったのだ。
手足がそれぞれの髪の毛の色に変化して竜種のような鱗に覆われていく。
髪の毛が竜のタテガミのように硬くなっているので、激しく動いても邪魔にならなそうだ。
「いくわよ」
カリーナが言うと同時に全員が動き出す。
あっと言う間に俺に接敵すると、左右からカリーナとイズナが爪で切り裂いてくる。
それを下がって避けると、後ろからはオリンが足の爪で攻撃してきた。
それをしゃがんで避けると、カリーナの追撃を横に飛んで躱した。
俺は囲まれないように動きながら3人の攻撃を避けている。
思った通り、能力に任せて手足を振り回すだけの単純な攻撃だ。
といっても、一撃一撃がアイアンゴーレムを倒せるほどに強力な攻撃である。
手数も多いし油断はできないけど、油断さえしなければ良い。
避けながら移動していくと、しつこく追ってきていた3人が半歩引いて全員で蹴りを放ってきた。
だけど、狙いがバレバレだ。
俺は後ろに『大きく』1歩下がると、自分の『下』に結界を張った。
その下に張った結界が、さらに下から叩かれる。
地面から突然上に向かって放たれた岩が斜めに張った結界に向きを変えられると、岩は俺の正面にいたカリーナの顎に当たる。
カリーナは空中に大きく打ち出されると、地面に背中から着地した。
「うそぉ!なんで~!?」
地面の中からロックショットを放ったのはもちろんドルチェだ。
今の土魔法・・レベル5か。
凄いね。
そういえば、ドルチェの声は始めて聞いたな。
なんというか・・ちょっとアニメ声みたいだった。
やっぱりほんわか系かな?
攻撃は全て軽く躱され、しかも利用されて反撃された。
これでドラゴンクロウのプライドはズタズタだろう。
今はドルチェも地面から出てきて、3人でただ俺を見ている。
離れたところでカリーナが起き上がった。
まだ戦意は失ってないらしい。
「まだよ!」
「まだ?いいけど、夕飯までには帰るよ?あんまり長い間付き合ってられないから、俺も攻撃するけど、いい?」
「言ってなさい!攻撃する隙なんて与えないわ!」
本当にまだやる気らしい。
代わりに他の3人は下がっていく。
あれ?
ドルチェも終わりなの?
何もやってないじゃん・・
魔力切れか?
カリーナは俺に近付くと小さく腰を落として構えた。
「あんたは死ぬわ。」
「いつでもどうぞ?」
カリーナの気配が揺らいだと思ったら、カリーナの身体中を魔力が覆っていった。
同時に気配がさらに強くなっていく。
「『纏い』か」
「そうよ!これであんたは私の動きを見ることも出来ないわ!」
「・・それは困るね。」
『竜化』と『纏い』
最高の組み合わせだ。
2つとも強化系のスキルで肉弾戦向き。
しかも、カリーナは『纏い』を全身に使っている。
魔力の消費こそ激しいけど、これなら素早さなども上げられる。
これが奥の手か・・
「さあ、覚悟を決めなさい!」
「じゃあ俺も」
そう言って俺も『纏い』を発動する。
全身に魔力を纏って体内まで染み込ませる。
俺の『纏い』は脳や目も含め、俺の能力を全て強化して底上げできる。
引き上げる能力は魔力量以外の全てだ。
もちろん引き上げる量もカリーナのそれを軽く超えている。
「な、なんなのよ!?」
「同じ『纏い』だよ。そっちよりもレベルは高いけどね」
4人とも『もうすぐで倒せると思っていた魔王が実は不死身』だった時のような顔をしている。
いや、ドルチェとオリンはまだ平気かな?
「・・嘘でしょ?あれでまだ本気じゃなかったの?」
「まぁ、そうかな」
「そう・・終わりね」
オリンは落ち着いている。
まぁ実力の差は十分にわかったはずだ。
カリーナ以外の3人が『竜化』を解く。
これ以上戦う気はないらしい。
「ま、まだよ・・」
「お前・・往生際が悪くない?」
「うるさいわね!まだ実力も出してないのに、諦めろって言うの!」
実力の差がわからない訳じゃあるまいし・・
「わかったよ。」
そう言って、俺は気配を押さえる魔導具を外した。
それだけでドラゴンクロウの4人が息を飲んだのがわかる。
そして、押さえ込んでいた魔力を解放する。
「・・何者なんだ?」
「化け物ね・・」
「人じゃなかったんですかぁ?」
失礼な。
「こら、ちゃんと人だ。お前らの方が化け物みたいだろうが」
「私達なんて可愛いものよね・・」
今はカリーナ以外の見た目はただの美少女だ。
確かに可愛い。
彼女達にとっては手足が優秀な武器であり防具なため、露出も激しい。
袖や裾が長いと戦いにくいし、汚れるもんね。
まぁそれは良いとして、夕飯の時間が近い。
そろそろ終わらせて帰りたい。
俺はカリーナの方を向いて言った。
「さぁ、さっさと終わらせよう」
「この・・卑怯者!」
「・・あ?」
「卑怯よ!そんなの!」
こいつは何を言ってるんだ?
「何が卑怯だって?お前が弱いだけだろ?」
「私は・・強いわ!」
「弱いだろ。少なくとも俺よりは」
「・・強いのよ!」
一番プライドが高かったのはこいつだったようだ。
これは・・折れるな。
めんどくさい・・
「もういいよ。さっき言ったけど、これ以上続けるなら俺も攻撃するからな?避けろよ?」
「わたしは・・私は強い!」
「うるせえよ。わかったから早くしろ。」
カリーナはさっきと同じように小さく腰を落として構えた。
お互いに全身の『纏い』は大量の魔力を使って身体を強化している。
カリーナが低い体勢から強く地を蹴って飛び込んでくる。
凄まじいスピードだ。
カリーナは大きく右手を振りかぶった。
そして俺に向かって拳を突き出してくる。
俺にはそれがゆっくりと見えている。
カリーナの右手を右に避けると、カリーナの横顔を右手でひっぱたいた。
カリーナが吹き飛んでいく。
地面を何度も転がって止まるが、起き上がってはこない。
気を失ったのだろう。
すぐにイズナとドルチェが駆け付けて手当てをしている。
「優しいのね。」
オリンだけはカリーナの元に行かずに俺を見ている。
「嫌味か?」
「いいえ、本心よ。・・ありがとう。」
オリンが俺に深々と頭を下げてくる。
「・・帰るぞ。夕飯が冷める」
4人に奴隷紋を刻んだ後、俺達は治療の終わったカリーナを連れて屋敷に転移した。




