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奴隷オークション

 奴隷商を応接室に案内するとメトラがお茶を用意してくれた。

 椅子に俺とガラシャ、奴隷商が座り、メトラが俺の斜め後ろに立っている。

 まぁ話すのは俺だけだと思うけどね。


「それで、相談ってなんだ?」

「実は、先程の冒険者グループ・・『ドラゴンクロウ』のことなのですが・・」


 ドラゴンクロウという名前を聞いてガラシャの形の良い眉がピクリと動いた。

 話題の冒険者だけあって、聞いたことくらいはあるはずだ。



 奴隷商の話はドラゴンクロウを落札して欲しい、というものだった。

 言われるまでもなくそのつもりだ。

 だが、奴隷商の用事はただの営業では無かったようだ。


「落札価格が高騰することが予想されますので、国で半額を支援致します。」

「・・どうゆうことだ?」

「ドラゴンクロウは・・奴隷としては強すぎるのです」


 奴隷商の話では、どうやらイゴイスとしては軍隊に匹敵するような強力過ぎる戦力を持つ人はある程度選びたいらしい。

 だったらオークションになんか出さなきゃいいと思うけど、それは今回の損失を少しでも補填したいからだそうだ。

 だったら半額支援すんなよ。

 うちに売りに来ればいいのに・・。


 そもそも冒険者はA級ほどにはなれなくても、ある程度の実績を残すと大抵は貴族か商人の御抱えになるのが王道だ。

 双子狼がまさに今、その道を歩もうとしている。


 つまり、今回のことに国が関わらなくても優秀な戦力を持ってる人は沢山いるのだ。

 というか、貴族ならみんなある程度の戦力を持っている。

 じゃないと自分の領地を守れないからね。


「ドラゴンクロウの背景に何かあるのか?」

「いえいえ!私の持っている情報は全てお渡ししています!」

「じゃあ・・俺か」

「いや、あの・・」


 図星かな?

 どうやらイゴイスは俺に恩を売りたいらしい。

 もしくは首輪を付けたいのかな?


 俺はイゴイスで商売をしている。

 でも、イゴイスの世話にはなっていない。

 貴族として最低限の付き合いも拒否している。


 それだけならまだ良いかもしれないけど、うちのグループはバカデカい。

 年商や従業員数は大したことはない。

 問題は戦力だろう。


 従業員の殆どが自分の身は自分で守れるように教育されているし、店のある街から街への移動に使っているのは竜種だ。

 そう、コリューやミドリ、セイリュー以外にも竜種を増やして護衛をやらせているのだ。

 この世界でこれ以上の戦力はない。

 だから、うちに冒険者が何人か足されても戦力は大して増えない。

 だからこそ今回はイゴイスにとって、形だけの恩を売るチャンスなんだろう。


 イゴイスがうちを敵に回したら間違いなく国が滅ぶ。

 普通は敵にはしたくないだろうけど、利用しようとするやつはいるかもしれない。

 オークションに出すのを決めたのと、支援を言い出したのはおそらく別人だろう。

 支援とか言い出したのは誰だろうな・・


「金はいらない。落札はする。他に用事は?」

「あ、いや、しかし・・」


「あんたも大変だな。でも、俺は国に貸しを作る気はないよ。」




 奴隷商は黙って帰っていった。

 まぁ命令で来ただけで、奴隷商も無理をして俺を敵に回す気はないだろうからね。


「ガラシャ。国や貴族からの支援は・・」

「受けないように全従業員に言ってあるから大丈夫。購入も修理も断ってるよ。」


 流石。

 うちは国からは支援も仕事も受けない。

 客は個人限定だ。

 それでも、今のところは人気があるからやっていけてる。

 何も問題はない。





 俺はガラシャを連れて奴隷市場のオークションに来ている。


 ここでのオークションはオークショニアが言う金額で買いたい人が札を上げて、それを買いたい人が一人になるまで繰り返す、というものだ。



「それでは皆さんいきますよ!まずは金貨1枚から!」


 俺は札を上げる。

 ここでは基本的にほとんどの奴隷が金貨1枚からスタートする。

 人気がある奴隷の場合等は長引くと腕が疲れるので大変だが・・


「そ、それでは、金貨1枚で、そちらの紳士が落札です・・」


 会場が拍手に包まれる。


 だからオークションは嫌なんだよ・・

 俺が札を上げると、その他の全員が札を下げる。

 みんな竜種を大量に飼っている貴族を敵に回したくないのだ。

 ただの商人なのに・・


 あぁ、俺は何もしてないのにドンドン嫌われていく・・


「お兄ちゃん。私、帰っても良い?」

「一緒に居てくれ・・1人は辛い。」


 ガラシャが逃げようとするけど、俺が頼むと顔を赤くして横に座り直した。

 ガラシャは奴隷制度に抵抗はない。

 でも、奴隷市場は嫌いだ。

 まぁ俺も似たようなものだな。

 特にオークションは他の客の視線が痛い・・



 ドラゴンクロウのメンバーは

 カリーナ

 オリン

 イズナ

 ドルチェ

 の4人だ。


 今回のオークションではその他に2人買ったので、6人の奴隷を買った。

 金貨6枚で・・


 ドラゴンクロウのメンバーには流石に誰かは札を上げるかと思ったんだけど、そんなことはなかった。

 俺が主要な奴隷を買ってしまったせいで他の奴隷が少し高騰したけど、まぁそれはどうでもいいか。


 ちなみに、予定に無かった2人は女性だ。

 ガラシャの希望で下見もせずに買ったけど、2人とも親のやってる店で看板娘をしてたらしいから、たぶん即戦力だ。

 おそらくは宿屋で働いてもらうことになるだろう。




 さて、買い物は終わりだ。

 早く帰りたい・・


 しかし、新しく買った奴隷達に紋章を刻もうとしたところで問題が起きた。

 店員候補として買った2人は大人しく奴隷紋を受け入れてくれたんだけど、ドラゴンクロウ達が納得しなかったのだ。


「お前は私達に何をやらせるつもりだ?」

 イズナにそう聞かれた俺は、正直に答えた。


「さあ?まずはうちでメイドかな。その後は・・店員?」

「なぜ私達がメイドなんてやらなきゃならないんだ!私達を誰だと思っている!」

「借金奴隷で犯罪奴隷・・でしょ?」


 ドラゴンクロウのイズナは、ボーイッシュな顔を真っ赤にして怒っている。

 イズナは髪も赤いので俺の視界は今、真っ赤だ。

 しかし、自分の立場をまだわかってないらしい。

 ギャーギャー吠えても現実は変わらない。


「ふざけるな!」

「でも、事実だろ?」

「私達はA級冒険者だ!」


 流石にメイドは嫌だったのか、イズナにオリンとカリーナも同調する。


「メイドをやらせるなら他の人を買うなり雇うなりすればいいわ。私達は冒険者よ。」

「私達を雇う器じゃないんじゃないの?」



 オリンは緑の髪の美人でクールなイメージで、カリーナは青い髪の可愛い美少女だ。

 奴隷商の情報によると、イズナ、オリン、ドルチェが17才、リーダーのカリーナが16才らしい。

 ドルチェはまだ喋っていないのでわからないけど、茶髪のほんわか系・・に見える。


「つまり、俺の言うことを聞きたくないと?」

 俺の質問にカリーナが代表して答える。


「私達はあなたを主人と認めないから」

「あっそう」


 無理だと思うけど、念のために奴隷商に目を向けると・・目線を逸らされた上に細かく首を横に振っている。

 まぁそうだよね。

 それにしても、俺に暴言を吐いても誰も止めに入らない・・貴族なんて肩書きだけだよね。


 しかし、このままでは困る。

 無理矢理奴隷紋を刻むこともできるけど、モチベーションは仕事の成果に直結する。

 これだけ能力がある新人にはしっかり働いて貰わないと、ニートグループにとってマイナスにしかならない。


「じゃあどうしたいの?」


「私達は冒険者だって言ったはずよ。最低でも護衛。それか輸送なんかの仕事じゃないと私達を雇う意味なんかないでしょ?」


 護衛も輸送もうちでは竜種の仕事だな。

 給料は魔力で払ってるからタダだよ。


「君たちって1人金貨1枚だったんだよ?何をやらせても元は取れるんだけど」

「お前の金なんてどうでもいい!まともな仕事がないなら消えろ!」


 我慢できなくなったのか、イズナがまた話に入ってきた。


 まともねぇ。

 こいつらにとってのまともって・・

 まぁ、いいけどさ。


「うーん、護衛はいらない。輸送もそうだけど、正直に言って足手まといだ。それと、さっきから勘違いしてるようだけど、雇うんじゃない。君達は俺の奴隷だ。」

「ふざけるな!」


 全くふざけていない。

 A級まで上り詰めるだけあって俺が思ってたよりもプライドが高いらしい。

 まだ奴隷になったという現実を受け入れていない。

 まぁ仕事をやる気はあるようだし実際は俺も他にやって欲しいことはあるんだけど、今の状態でそれを言っても上手くいくとは思えないし・・どうしようか?


「ね、ねぇオリン。あそこにいるのってもしかして白魔導士じゃない?」

「まさか。似てるだけでしょ?」


 イズナが吠えてる間にカリーナとオリンがガラシャを見ながら話している。

 白魔導士とはガラシャの二つ名だ。

 元々はキャッスルロックで治療術士として得た名声から来てる名前なんだけど、うちの店で大陸の人材交流を行ってるからこちらでも一部の人間は知っている。

 噂が広がる過程で話がドンドン大きくなってるんだけど、今となっては大体実現出来る。

 だからまぁ、完璧なデマでもない。

 ガラシャは二つ名が嫌でこっちの大陸に来ることを希望したのに、迷惑なことだ。


「そこまで言うなら私が試してやる!表に出ろ!」


 あぁイズナが単純で良かった。

 手っ取り早くて助かる。

 俺から言い出す訳にいかないもんね。


 俺は部屋の隅で怯えている奴隷商に奴隷の代金を渡して市場を後にする。

 奴隷6人と俺とガラシャ、8人で建物を出る。

 歩いている間にドラゴンクロウの4人は白魔導士が本物か話し合っているようだ。


 ちなみにガラシャはA級・・ということになっている。

 実際はA+だったと思う。

『成長補正』のスキルに加えて幼少の頃から鍛えた魔力に、俺といまだに続けているトレーニングの成果で人類の限界を少し超えている。

 俺のように『物理耐性』とかを持ってるわけじゃないんだから、かなり才能があったんだろう。


「ガラシャ。2人のことは頼んでもいいかな?」


 俺がガラシャと呼んだことで後ろにいるドラゴンクロウのメンバーが息を飲んだのがわかった。

 名前の方も知ってたか。


「いいよ。夕飯までには帰ってきてね」

「うん。わかってるよ」


 俺はガラシャ達と別れて人のいない方に向かって歩き続ける。

 無言の時間が耐えられなかったのか、カリーナが俺の横に並んで話しかけてくる。


「ちょっと、どこに行くのよ?」

「人がいると都合が悪いからね」

 悪いのは俺の都合なんだけど、カリーナもそれは同じなので納得したようだ。


「それで、どうゆうつもり?さっきの、白魔導士のガラシャでしょ?あいつがあんたの護衛なんじゃないの?」

「いや?まぁ、秘書かな?」

「はぁ?何?やっぱり偽物?」


 後ろの3人からも少しホッとしたような空気が流れてくる。

 ガラシャと戦うとでも思っていたようだ。


「さっきのが白魔導士かって質問だったなら、彼女は本物だよ。」

「何それ。白魔導士が秘書?あんたバカなの?」


 正直な女の子だな。

 まぁ嫌いじゃない。

 ムカツクけどね。

 俺は周りに人がいないのを確認すると、4人に告げる。


「ちょっと移動するよ」

「え?あんた大丈夫?もうしてるじゃな・・」


 カリーナが俺の言葉を鼻で笑おうとするが、笑う前に驚いて固まった。

 すでに移動は済んでいる。



 今いるのは何もない広野だ。

 ここなら何をしても問題ない。

 もちろん目撃者もいないから・・って、犯罪でもするみたいだな。


「どーゆーこと!?あんた何をしたの!」

「転移だよ。移動するって言っただろ?」

「冗談じゃないわ!あんた何も持ってないじゃない!」


 あぁ、魔導具じゃないんだけどね。

 俺は魔力を押さえ込んでるから5人も移動出来るような転移魔法が使えるようには見えないだろうし、直前に話をしていたから呪文も唱えてない。

 普通は何かのトリックだと思うかな。


 オリンが慌てているカリーナを落ち着かせる。


「カリーナ、落ち着いて。きっとあの場所に罠を仕掛けてたのよ」

「・・そっか。じゃあここにも罠があるってことね・・」


 ねぇよ。

 そんなに暇じゃないし。

 まぁいいや。

 早く始めよう。


「で?どうする?全員でかかってくる?」

「・・なめてんの?」

「いや、たぶん大丈夫だと思うよ?」


 カリーナの顔が一気に真面目なものに変わった。


「後悔しないでね。」

「わかった。俺が勝ったら大人しく奴隷になって貰うよ。」

「はっ!もしも負けたら一生あんたの奴隷やってやるわよ!」


 偉そうに言ってるけど、彼女達は犯罪奴隷だから負けなくても一生奴隷なんだよね。


 さて、

『竜化』を使う人とはまだ戦ったことがない。

 後学のために勉強させて貰おうか。

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