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日々勉強です

 結局、先生には今までのことも含めて相談することにした。

 今思えば先生に相談しておけば良かったことばっかりな気がする。


 まぁでも異世界転生のことだけは誰にも言う気はない。

 証明が出来ない以上、細かく話さないと誰も信じないだろうことは簡単に想像がつく。

 俺は自分の名前だって覚えてないんだから、誰にも信じて貰えないだろう。

 妙な所で過保護な先生のことだ。

 もしも心の病を疑っても追い出されはしないだろうけど、俺は一生孤児院から出して貰えないかも知れない。

 流石にそれは御免だ。





「もう一度、魔力石の大きさを教えてもらえますか?」


「これくらいです。」

 と言って俺はテニスボールくらいの大きさを手で伝えた。

「そうですか。」


 意外なことに先生は俺の話を疑うことはなかった。

 この前、森で熊を引きずって帰った時、俺は全身に『纏い』を使っていたけど普通はそんなことは出来ないからだそうだ。

 大人でも出来ないことを平然と行うのを見て、非常識な魔力を持っているのはわかっていたらしい。

 俺に言わなかったのは先生曰く


「子供の背が高いからといって『あなたの背は5才にしては異常です』なんて言う親がいますか?」


 ということらしい。

 なんというか、ブレない人だ。

 この人が病気以外で慌てることがあるのだろうか?


「それで、僕はどうしたらいいでしょうか?」

「それはロイが何になりたいかによります」


 先生が言うには俺はその気になって学べば、おそらくすぐにでも王都で魔法関連の職などに着くことが出来るそうだ。

 魔力が多いというだけでも仕事に困ることはない。

 魔力石に魔力を込める仕事はこの街だけでなく、どこの街でもある。

 一日あたり銀貨1枚稼げば家族を養うことだって出来るらしいからね。


 さすがにこの若さ(幼さ?)で大きな魔力を持った者を国が放置するとも思えない。

 仕事を始めたら軍や話を聞き付けた貴族なんかから呼び出しがかかるだろう。

 貴族はともかく、王都で働きたければすぐに仕事を始めたらいいらしい。

 常に人材を探している軍に将来性を認められたらすぐに王都に行くことになるだろうから。


 しかし、俺の場合それは困る。

 俺は確かに魔術師に弟子入りしてでも魔法を使いたいとは思ってたけど、めんどくさいのは嫌いなんだ。

 伊達に日本でバイトやニートをやってたわけじゃない。

 俺に軍隊生活が出来るものか。

 3日で逃げる自信がある。

 そして貴族も無理だ。

 偉ぶってるだけの豚に平気でひざまずけるなら、俺は日本で立派なサラリーマンに成れていただろう。

 バイトだって理不尽なことを言う店長に暴言を吐いて辞めたことがあるのだ。

 あの時に言った言葉を貴族や軍隊の上官に言ったら、俺は殺されるかもしれない。


 それと、まだ先生に魔法を教えて貰ってない。

 このタダ者じゃない先生に教わる魔法がどんなものか、俺はとても楽しみにしてるんだ。


「このまま孤児院に居ちゃダメですか?」

 まだ外に出るには早いからね。

「もちろん構いませんよ。ここはあなたの家なんですから。」


 と先生は笑顔で言ってくれた。

 本当に良い先生だ。

 孤児院とは、親に捨てられたりして生きていくことの出来ない子供のための場所だ。

 つまり金を十分に稼げるようになり、生きていく術を手に入れた俺の居て良い場所じゃないのだ。

 でもまぁ、いくらなんでも5才で独り立ちは早すぎるよね。


「ありがとうございます。」


 有り難くこのまま孤児院で過ごすことにする。

 でも、今まで通りという訳にもいかない。


「それで、昨日の魔力石なんですけど、良かったら先生がやったことにしてもらえませんか?」

 ちょっと考えがあった。

「まぁロイが今まで通りに過ごしたいのなら、そうするしかないでしょうね。もっとも言わなければ誰にもわからないでしょうが。」


 残念ながら先生の言うように誰にも言わない訳にはいかない。

 その後、俺の考えを話すと先生は苦笑いを浮かべてこう言った。


「あなたって人は・・」



 次の日、俺は先生とライアンと一緒に台車を引いて街を回っていた。

 いやまぁ、俺は台車の上に乗ってるだけなんだけどね。

 なかなか快適なんだこれ。


 俺の考えとは『先生に魔力注入の仕事を受けて貰う』ということだった。

 その仕事を俺がこなして手に入ったお金から、先生に手数料を払う。

 俺は孤児院に居座ることを決めた時点で居候となってしまった訳なので家賃を払いたいところなのだが、先生は絶対に受け取ってくれないだろう。

 そこでこーゆー策に出た。

 孤児院の先生ではなく、元冒険者の先生個人に対して依頼をしたのだ。

 それに対して先生からも意見があった。


「では孤児院として受けましょう。」


 俺はまた手数料を受け取らないために言ってるのかと思ったのだが、どうやら違ったみたいだ。


「私個人がこなせる仕事量じゃないですからね。孤児院のみんなでやってる、というポーズですよ。また、魔力注入の出来る上級生には実際にやらせてみましょう。卒業時にまとまったお金を渡すことができますし、そう言えばみんなも喜びますから。」


 なるほど。

 やるならみんなで、ということか。

 その後は話をまとめて、次の日に実際に店に行ってみることになった。


 で、今店を回っているのだが・・


「そうですか。先生のお弟子さん達がねぇ。」

「いや、弟子ではなく孤児院の子供達です。」

「いいですよ。誰がやってくれても有難いが、先生のお弟子さんなら安心だ!」

「いや、だから弟子ではありませんよ。」


 先生って孤児院以外でも先生って呼ばれてんのな。

 知らなかったわ。

 過去に軍や街のあちこちに送り出した孤児院の子供達がそう呼んでるのに加えて、その子供達の質の高さから孤児院は良い意味で学校扱いされているらしい。

 冗談だと思うけど、さっきの店ではうちの子を入れてくれとか言われてた。

 しかも冒険者ギルドでたまにだけど、先生はいまだに新人冒険者等を相手に魔法の授業をしているらしい。

 謎だった孤児院の収入源がやっとわかった。

 寄付と畑の野菜だけじゃどうにもならないこともあるもんな。

 しかし、先生ってやっぱり凄い。

 まさか本当に先生だったとは。


 そんなこんなで今あちこちの店に声をかけてるわけだけど、これは1ヶ所で仕事を受けると量がおかしいことに気が付かれるからと先生が考えた。

 でも、先生がこれだけ有名ならあんまり意味がないような気がするけど・・。

 まぁやらないよりはましだろうし、その辺のことは先生に任せよう。


 どの店も先生の話を聞くなり箱ごと魔力石を渡してくるから、俺は台車の上で箱に囲まれてしまった。

 よく考えてみると、先生が有名じゃなかったら魔力石を渡して貰えなかったかもしれない。

 ここでやれとか言われたら困る。

 先生さまさまだな。


 因みに俺は台車の上で魔力石を使って実験をしている。

 手にはまだ魔力の込められたことのない、透明な魔力石が握られている。

 今日の実験内容は、集めた魔力で魔力注入は出来るのか、だ。

 実験を孤児院でやらないのは、もうひとつ実験したいことがあったのでいっぺんにやろうと思ったからだ。

 魔力注入自体は魔力石が光ったりするような派手なものではなく、握ってる石の色が濁るだけなので別に目立たない。

 周りからみたら俺は台車の上で箱に囲まれて遊んでるようにしか見えないだろう。

 ということで、早速やってみた。


「あれ?出来たけど・・」


 集めた魔力での魔力注入は簡単に出来た。

 ちょっと疑ってたけど、空気中から集めたものもちゃんと魔力で間違いなかったらしい。

 でも、魔力注入が終わった魔力石は白くなっていた。

 もう一つの実験がこれ、集めた魔力の色である。

 もしかしたら俺の部屋で集める魔力は俺が使った魔力なんじゃないかと思ったのだ。

 つまり別の場所では違う色なんじゃないかと。

 で、先生によると国や街によって偏りはあるものの、全体でみて一番多いのが青の魔力らしい。

 この街も青が多いという話だし集まる魔力は青か、生活の中で一番使われそうな火魔法の赤になるかと思っていた。

 土魔法の茶色は使われることも少ないし魔力の持ち主もあんまり多くないらしいからないだろう。

 予想が外れて空気中の魔力だから風魔法の緑、俺が集めたからどっちにしろ緑も考えてはいた。

 しかし白って・・部屋で集めた魔力は俺ので確定っぽいけど、これはなんだ?

 昨日の店に白の魔力石なんてあったかな?


 台車をライアンに任せて、先程先生が入っていった店に入る。

 店内には色と大きさで分けられた魔力石の入った箱がたくさん並べてある。

 手前に並べてある箱にはもうすでに魔力が少し込められているため、中心部が少し濁っている。

 輸送の際に魔力石が傷ついて割れたりしないように、売り渡す前に少しだけでも魔力を込めておくらしい。

 魔力さえ籠ってれば、多少の衝撃なら耐えてくれる。

 まぁそれでも、舗装もされてない悪路を長時間進むため、目的地に着く前に

 途中で割れてしまうことも多いらしい。

 そのために輸送の際は護衛も含め、魔力を注入できる優秀な冒険者などは引っ張りだこなんだとか。

 こんなとこでも俺に出来る仕事は見つかる。

 間違いを起こさなければ将来は安泰だ。


 さて、店内で箱に入った魔力石を見て回ったが、やはり白い魔力石はありそうにない。

 もしかして白くなってしまったこの魔力石は弁償か?

 金はともかく、いきなり弁償とか信用に関わるぞ。

 と、不安になりながら次々に箱を見ていると店員が話しかけてきた。


「どうしたボウズ。何か探してんのか?」

「えっと、白い魔力石ってありますか?」


 探すより聞く方が早いだろうと思って聞いてみる。


「白か?あ~今は切らしてるな。」

 良かった。あるらしい。

 信用は大事だからな。

 ホッとして思わず手の中の魔力石に目をやる。

 俺に話しかけてきた店員も俺の目線の先を追う。


「おい!ボウズ、その魔力石はどうした?」

 あっしまった!魔力石の店に魔力石を持ってきたら商品と見分けがつかない。

 万引きを疑われたか?

 でも白は切らしてるって言ってたよな?


「どうかしましたか?」

 どう説明したものか困っていると、店員の声で気がついた先生がこちらに来てくれた。

「いや、この子が白の魔力石を持ってるもんでつい・・。先生のお弟子さんでしたか?」

「・・弟子じゃありませんが、うちの子です。」

 先生と一緒に店主っぽいおばさんもやってくる。

「あら、ホントだ。そりゃうちの商品じゃないね。先生のかい?」

「・・えぇ。まぁ。」

 先生もどう答えたものか困っている。

 他の店からの預かりものだが、そんなことを言えば仕事を受けている店を分けてる意味がない。

「先生が買うとも思えないし。なるほど、それで魔力注入をね・・どうだい先生、白ならさっき言った倍出すよ。」

 倍!?って元を知らないけど、そんなに貴重なのか?

 店主に詰め寄られた先生は俺のことをチラリと見ると、軽くため息をついた。

 あれ?呆れられた?


「売値は5倍でしょう?注入代が倍は低すぎるのでは?」

 5倍!?ってまたもや元値は知らないけど、昨日行った店で見た限りだとかなり高額だ。

「うちはそんなにぼったくってないよ。じゃあ3倍出す。残りは口止め料だ。」

 先生がまた俺の方を見るが、俺としては先生に任せるしかない。

 状況が全くわからないのだ。

「わかりました。でも入れてくる色は約束出来ませんからね。」

「まぁそうだろうね。それで構わないよ。」


 なんだかわからないうちに話が纏まったみたいだ。

 先生は店主に魔力石が入った箱を3箱も渡されると、黙って店を出る。

 離れた場所で待っていたライアンと台車のところまで来るとやっと口を開く。

「今日はここまでにしましょう。」


 やっぱり呆れられたかもしれない。



 孤児院に帰ってから先生が教えてくれた。

 白の魔力石は無属性、もしくは聖属性とも呼ばれる魔力が込められたものであり、かなり珍しいのでたまにしか市場に出てこないらしい。

 人が白の魔力を持っていること自体はそう珍しくもない。

 たまにいるくらいだ。

 だけど、その殆どがわずかな魔力しか持っていない。

 そもそも魔法に向いていないから属性が『無』いのだから。

 しかし、その中でも魔法が得意だったり魔力が多い者がごく稀にいる。

 その僅かな人達が込めた魔力石が白の魔力石らしい。

 しかも年を取ると色が付くこともあり、白のレア度はかなり高い。

 研究目的を含めると需要が供給を大幅に上回っているらしい。

 そして聖属性とは、あらゆる種類の魔法をロスなく使えるということで、それには回復魔法も含まれる。

 どんな色の魔力でもロスの発生する回復魔法をロスなく使えるのは、白の魔力石だけだそうだ。

 その価値は高く、聖属性の魔力石は他の魔力石の5倍の値段を付けてもあっという間に売れてしまうほどなんだって。



 先生は俺を守るために、魔力や魔法のことを教えるのが先だと判断したらしい。

 もう少し勉強しよう。

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