もう二度と
キャッスルロックの街はほとんど囲まれていた。
囲んでいるのは・・シボラだっけ?
敵国の兵士だと思う。
まぁ見た目だとどっちがどっちだか俺にはわからないけど、キャッスルロックはライクス王国の兵士が占領してるって話だから、きっとそうでしょ。
囲まれてるといっても恐らくは形だけだ。
街の中には自国民がいるんだ。
下手なことはできないだろう。
「さて、どうしよっか?」
『あの街を滅ぼすの?』
「・・逆だよ」
そういえばミドリ達には何をするのかまだ説明してなかったな。
「あの街にいる方が今は仲間だよ。まぁ俺はあの中の二人だけを助け出せれば良いんだけどね。」
『それだけ?』
「そ。それだけ。」
それが難しいんだけどね・・
どこにいるかも分からないし、誰に聞けば良いかも分からない。
アルテスタに書いてもらった書状には何が書いてあるかもわからない。
黙って連れてくるわけにもいかない。
ホントにどうしよう・・。
戦場の様子はにらみ合いかと思ったんだけど、どうやらもう戦闘は始まってるらしい。
お互いに一方通行の結界を何重にも張って、それを破壊し合う魔術戦を行っているようだ。
魔法の合間に弓矢が飛んでいるのも見える。
「入りにくいなぁ・・」
『街に入りたいならあの程度の結界、壊せば良いじゃない』
「壊した場所にいる人が死んじゃうでしょ?」
ミドリはそれがどうしたと言わんばかりの顔をしている。
まぁ竜種にとっての人間なんてそんなもんだろう。
「敵ならそうするけどね。味方が張った結界を壊して被害を出す訳にはいかないの」
街は結界で覆われていて隙間は無さそうだ。
まぁ隙間なんて作るはずもないか・・
『じゃあ、敵の方の結界を壊すのは良いのよね?』
「え?まぁ、いいけど?」
『ちょっと行ってくるわ』
と言って、ミドリは敵陣の方に飛び立ってしまった。
野良竜だと思ってくれると良いなぁ・・
いや、ライクス王国が竜種を手懐けてると分かれば、しばらくは攻めてくることもないか?
・・うん。
良いじゃない。
それでいこう。
って、もう行っちゃったけど・・
戦場は全体で見ると膠着状態になっていた。
ライクス王国側は戦争が開始するとすぐにシボラ側に攻め込んだ。
シボラ兵を押し返し、キャッスルロックを占領するまでは速かった。
しかし、街を占領するというのは簡単なことではない。
砦や要塞と違って、そこには住民がいるのだ。
もちろん冒険者だっている。
当然、中には占領を快く思わない者だって多くいた。
今、ライクス王国軍はそちらへの対処も同時に行っていた。
当然人員を割く必要があり、内と外、両方から攻められているようなものだ。
それと、ろくに戦闘を行わないまま街を占領して立てこもった結果、今はまだ敵軍や街の住民が反撃をする十分な余力がある状態なのだ。
このままいけば被害は相当なものになるだろう。
もちろん、ライクス王国側はある程度の被害は出るものと見ている。
攻め込んで来た敵を追い返して終わりにするようなことでは、この先相手は何度も攻めてくるだろう。
二度と攻める気が起きないように。
それが今回の目標だ。
その為なら少々の被害には目を瞑るし、シボラを滅ぼしても構わない。
もっとも、本当に滅ぼしたら他の国が攻めてくることも有り得るから今は無理だが。
キャッスルロックでの戦闘はまだ始まったばかりだ。
ライクス軍の指揮官達が内と外、どちらにどれだけの援軍を送るか状況を見ながら検討している時、突然外のシボラ軍に変化があった。
敵陣の前に張ってあった多重結界が突如として消滅したのだ。
ライクス王国側の指揮官達は最初は罠を疑った。
何かが来る!
その確信に近い考えは、すぐに否定された。
敵陣に起こった変化は一つだけだったのだ。
それは即ち、崩壊。
飛び交う魔法から自分の身を守る唯一の壁である多重結界が突然消滅した。
本格的な戦闘まではまだまだ時間があるとのんびり魔法を唱えていた兵士達に、雨のように攻撃魔法が降り注いだ。
様子見の段階だったこともあり、ライクス軍の魔法はそのほとんどがレベル1の最弱クラスを使っていた。
しかし、それでも当たりどころが悪ければ命はないし、手足を失うこともある。
シボラ兵に冷静に対処するだけの余裕はなかった。
必死に魔法を唱えようとする者もいるが、運悪く最初の攻撃で魔方陣が描かれたスクロールを失ったものも多い。
結界に守られていたはずが、突然自分の周りに魔法が降り注ぐことになったのだ。
呪文を唱える集中力を保てる人間はほとんどいなかった。
そうこうしている間に魔法に変わり、今度は弓矢が飛んで来るようになった。
金属製の防具がかなり貴重なこの世界では、一般兵の防具は革製品ということも多い。
なので、弓矢がかなりの効果を発揮する。
攻撃魔法から弓矢への変更はシボラ兵にとってはあっという間の出来事だが、こちらも状況を掴めていないライクス王国側にとってはかなり間の空いた指示になってしまった。
ライクス王国側も場所によっては指揮官が状況に対応出来ず、まだ魔法による攻撃を続けている場所もあった。
もちろん味方から放たれた弓矢が味方の魔法で燃やされる、等と言う間抜けなことも起きている。
そんなグチャグチャの戦場を見ながら、ロイはまだ同じ場所に立っていた。
「転移・・はダメだよね・・」
そこにミドリが帰ってくる。
『まだ悩んでるの?』
「あぁ、お帰り。どうやって入ろうかと思ってさ。」
『もう結界を破ったら?』
「うーん、でもなぁ・・」
出来るだけ味方に敵視されたくないのだ。
身元がバレてそうな俺はもう良いとしても、ここでのことが先生とガラシャの今後に大きく関わるかもしれない。
絶対に迂闊なことは出来ない。
「少なくとも、味方に被害は出せないんだよ。結界を壊さずに入る方法はないかな?」
『ないわ。あの結界は夜もあのままだったのよ?』
「そうなの?・・ん~、困ったなぁ・・」
正直に言って自分は怪しい。
攻撃魔法が飛び交う中で壁の外から話しかけて門を開けてくれるとは到底考えられない。
門が開かなければ書状も渡せない。
『味方に被害がでなければ良いなら敵を全滅させれば良いじゃない。』
「そりゃそうだけどね。・・いや、それしかないか」
『じゃあ、全滅?』
「いやいや、殺さなくて良いよ。後片付けが大変だ。全員お帰り願おう。」
俺はミドリの背中に乗って敵陣の上空に移動してもらった。
ウズウズしている様子のコリューとセイリューにも一緒に来てもらった。
頼むのは俺の側に居ることだけ、なんだけどね。
準備として全員に定番の変幻魔法をかける。
そして加減は全くわからないが、空からレベル7の広範囲氷魔法、ブリザードを放った。
すぐにシボラ兵の全員が異常に気付いた。
戦場で広範囲魔法、しかもブリザードなんて聞いたこともない。
しかし、魔紘を装備出来ない一般の兵士達は今の一撃ですぐに使い物にならなくなってしまった。
凄まじい威力だ。
まるで目の前で放たれたかのような威力だが、こんな威力がある魔法をなぜ今まで使わなかったのか?
援軍が来た様子はないし、訳がわからない。
無事な指揮官達はまるで気まぐれな竜種でも相手にしているような感触を受けていた。
何とかブリザードを無事にやりすごした者のうち、数名はブリザードの来た方向が上だと気が付いた。
そして、上を振り向いた者から順に表情が凍り付いた。
なんと、ブリザードの来た方向には4匹の竜種が飛んでいた。
「やり過ぎたかな?」
『そお?ちょうどいいと思うけど。』
真下に向かって魔法を打ちたかったので、今はミドリの背中から降りて自分で飛んでいる。
下は静かなものだ。
無駄口を叩くやつなんて一人もいない。
ライクス軍も状況がわからず、今はただ様子見をしているようだ。
死者は今のところは出ていない・・と、思う。
ある意味、理想的な結果だ。
俺達は敵陣の大将の元に降り立った。
ミドリが降りると倒れてる兵士達を踏み潰してしまうので、実際に地面に降りたのは俺だけだ。
「こんにちは」
「しゃ、喋った!?」
おい・・
俺を何だと思ってんだよ・・って、もしかして魔物か?
「武器を捨てろ。防具もだ。交渉には応じない。」
魔物だと思われてるからってギャーギャー言う訳にはいかないので、手短に用件を伝える。
「この人数を捕虜にするつもりか!?」
「はっ?何で?」
思わず素が出た。
敵の指揮官達は不思議そうな顔でこちらを見ている。
「・・伝言役、か?それなら、負けは認めるが身代金は払えない、と伝えてくれ。」
我らシボラの負けは当然だ。
もはや味方兵士の9割以上が立ってすらいない。
この状況で指揮官に出来ることは何もない。
全身が凍えて走って逃げることも出来ないだろう。
殲滅されれば黙って死ぬしかないのだ。
しかし、捕虜に取られれば身代金が必要になる。
本国にそんな余裕はない。
なんと言っても人数が多すぎる。
家族のことを思うなら帰りたいところだが、無理なものは無理だ。
身代金を期待して捕虜にしたのに金が支払われない場合、見せしめのためにかなり惨たらしい未来が待っている。
せめて、部下達にそんな未来が来ないよう努力だけはしよう。
指揮官にとって、それが最後に出来るせめてもの仕事だった。
「よくわからないけど、武器は捨てるの?捨てないの?」
「・・いや、だから・・」
だから、じゃないよ。
身代金とか言われても困る。
現時点でも色々と何をどうしたら良いのかわからないんだ。
これ以上混乱させないで欲しい。
第一、身代金とかどうやって貰うんだよ。
俺は誘拐犯じゃないぞ。
大人しく帰れよ。
それがロイの本音だった。
お互いに自分の意見、というか話題を曲げず、いい加減にロイが全員転移でどっかに飛ばそうかと思い始めた時、キャッスルロックからライクス軍の兵士達が出てきた。
「おい・・何をやってる。」
ライクス兵達は初めて見る竜種にビビりながらも、上官に様子を見てこいと言われて送り出されてきた。
もはやシボラ兵は脅威ではない。
だが、そんなものより遥かに格上の脅威が目の前にいる。
こいつらが敵だった場合、ライクス王国が滅びかねない。
それはライクス王アルテスタが、ロイを前にして考えていたのと全く同じことだった。
「あんた達の使者が使えないせいで困ってるんだよ!どうにかしろ!」
「使者・・?使者は私だが?」
「はっ?」
あれ?
使者が・・出てきた?
じゃあ中には入れるのかな?
「ミドリ」
『何?』
「俺、中に行くからさ。ここをお願いしても良いかな?」
『皆殺し?』
何だ?
ストレスでも溜まってんのか?
「いや、皆殺しは待った。抵抗したらな。それまで我慢しろ。それと、コリュー、セイリュー。」
「ピー!」
「キュイ!」
「逃げようとするやつがいたら捕まえろ。面倒だったら殺してもいいけど・・食べるなよ?お前らが噛んだだけでみんな死ぬからな?気を付けろよ?」
「ピー!」
「キュイ!」
みんなちゃんと頷いて返事をしてくれた。
人間もこれくらい素直だとありがたい。
お腹が減って人間を食べちゃうと困るので、みんなに魔力を食べさせてからキャッスルロックに向かった。
空を飛んで。
転移だと驚かせてしまうし、使えることをバラしたくもない。
倒れてる兵士が多すぎるので歩くのはめんどくさい。
飛ぶのが一番だ。
その後、アルテスタの書状を適当な人に渡し、徴兵した冒険者達を即座に解放するように伝えた。
流石にこれだけの騒ぎを起こして先生とガラシャを指名する訳にはいかなかった。
そんなことをしたら関係があるのがバレバレだ。
念のために医務室へ案内してもらって、今いる怪我人は全員治しておいた。
これで白の魔力石は必要ないはずだ。
一応外の様子を聞かれたので、「身代金を払いたくないから武器は捨てない」と言ってることを伝えておいた。
後のことはライクス兵達が何とかしてくれるだろう。
外に戻ると、ライクス兵の使者が怪我をしていた。
キャッスルロックに帰ろうとしたところをコリューに捕まったらしい。
自慢げなコリューに味方だと伝えたら少し落ち込んでしまったようだけど、どうせすぐに忘れるだろう。
使者を治療してから、シボラ兵に今後ライクス王国に手を出すな、と釘を刺しておいた。
黙って頷いていたので約束を守ってくれることを願おう。
まぁ兵士は国の決定には逆らえないと思うけど、今回のことを報告すればしばらくは大丈夫だと思う。
もうやることはないはずだ。
あとは先生とガラシャが孤児院に無事に戻ってくるのを待つだけかな。
今回は精神的にかなり疲れた。
貴族とか軍人とか、もう関わりたくない。
ハンターになろうとか思ってたけど、商人で生きて行けるんじゃないかな?
というか、しばらくは店を頑張ろうか。
関わってる人もいるわけだし、潰すわけにはいかないでしょ。
赤字でも潰す気はないけど、うちの真面目な職人二人は赤字だと申し訳ないとか言って辞めかねない。
「あぁ~、店番したいな。」
って、したことないか?
出来るのかな?
イゴイス人を相手に?
それもやだな・・




