ルビィの街に到着したよ
俺はミドリ達を空に残して街に入った。
魔力を与えてから、街の上空を旋回しててくれって言ってある。
竜種が街に入るどころか、街の上空に現れるだけで街は大混乱になるだろう。
でも、あいつらが軽く旋回してるだけで普通の人間の知力じゃ認識出来ないからね。
ミドリと空を移動してわかったけど、空ではたまに竜種が移動してるんだよ。
遠いし、普通は速くて認識できないだけでね。
街の空は結界で覆われてるから、ちゃんと出入り口から入った。
広がりすぎてて良くわからないけど、たぶん結界のレベルは4くらいだと思う。
街を一つ覆うほど薄くなってる上に出入口まである結界でも中に転移が出来ないってのは納得いかないね。
どうにか出来そうな気がするから、後で考えてみよう。
とりあえず、今は孤児院のみんなの無事を確かめるのが先だ。
まぁ街が無事なんだから、みんなも無事だろう。
・・無事、だよね?
少し不安になりながら歩き馴れた道をしばらく進むと、道の先に孤児院が見えてきた。
孤児院の建物も無事のようだ。
もう少し近付くと、門の隙間から庭で遊んでる子供達が見えた。
知らない子供がいるのは今年入った子供だろうか?
「あっ!ロイだ!ロイが帰って来た!」
違ったらしい。
俺のことを知ってるんだから、新しい生徒では無さそうだ。
まぁいいだろ。
俺が旅をしてた半年で忘れたんだよ。
うん、きっとそうだ。
子供達の声を聞いて孤児院の建物からメリンダが出てきた。
冒険者ギルドはお休みか?
「ロイ!無事だったのね!」
「無事だよ。運良く陸地に転移したからね。」
まぁ本当にこれに尽きる。
海の真ん中に転移してたら本気で死んでた。
少なくとも当時の俺なら、間違いなく。
「やっぱり転移だったのね。それで、バカは?あのバカも無事なの?」
ライアン。
良かったな。
心配はしてくれてるみたいだぞ。
「ライアンもルークも無事だよ。連れてこようか?」
「ロイと一緒じゃないの?」
「ライアンは向こうの大陸で店番をしてるけど?」
「大陸?店番って・・何やってるの?」
まぁ・・店番だね。
他に言いようがない。
俺はこの半年で起こったことを、かなりかいつまんで説明した。
メリンダは他の大陸に飛ばされたことは凄く驚いていたようだけど、一人でもちゃんと帰って来たことは驚いていないようだった。
俺をなんだと思ってるんだ?
「それより先生は?中にいるの?」
「いや・・先生は・・」
どうしたんだ?
メリンダのテンションが急に落ちたけど。
まぁ、確かに建物から先生らしき気配は感じないし、ギルドにでも行ってるのかな?
「その話はちょっと長くなるから、ギルドに移動しましょう。」
長くなると言ったけど、メリンダは明らかに他の子供達を気にしていた。
子供に聞かせたくない話なのか?
俺も子供なんだけどな。
俺はメリンダと一緒にギルドに移動した。
メリンダは休みではなく、休憩中に子供達の様子を見に来ただけだったらしい。
でも、こんな朝っぱらから休憩?
そんなことしてたらクビになっちゃうぞ。
ギルドに着いた俺は昔ここに来た時に冒険者の説明を受けた会議室のような場所に案内された。
ほとんど机とイスだけの殺風景な部屋だ。
「疲れてるのにごめんね。」
って言われたけど、全く疲れてないので問題ない。
「先生は・・ちょっと徴兵されちゃって・・。」
「はぁ?徴兵?」
メリンダは溜息混じりに説明を始めた。
俺達が転移してからしばらくは何も起きなかったらしい。
俺が思ってた通り、隣国に攻められることもなく平和そのものだった。
ちなみにメリンダが俺達がいなくなったことを先生に相談したから、きっと俺達が転移したんだろうってこともわかってたらしい。
転移したのに転移で帰ってこない理由は旅を楽しんでると思ってたらしいから呑気なもんだ。
いや、実際に楽しんでたから文句は言えないけどね。
生徒が行方不明になっても心配しないとは先生らしくないような気がするけど、きっと信頼してくれてたんだろう。
元々先生は子供達の病気以外ではほとんど慌てないしね。
もしかしたら先生だけは街の外に張られた結界のせいで帰ってこれない事に気が付いてたのかもしれない。
日常に変化もなく、張られた結界も街の外側にかなり薄いのが一枚だけ。
街道はいつも通り使える。
これで異常に気が付く人はほとんどいない。
ただ、少しずつ変化はあったらしい。
まず、ルビィの街とかなり離れた場所で戦争が起こった。
その情報がこの街に来るのにかなり時間がかかったみたいだけど、きっと街に結界を張ったのと同じくらいだろう。
戦争の話が伝わっても小競り合いだと思ってたし、この街には関係のない話だとみんな思ってたらしい。
実際にしばらくは何も起きなかった。
でも、少しずつ事態は動いていたらしい。
まず、王都の本部と連絡を取るために演習の名目で街の外に出ていたルビィの街の軍隊が、何度かに分けて出入りを繰り返した。
これは街に入って増える物資や兵士の数を誤魔化すためだったようだ。
そうしてこっそりと準備を整えた軍は、次の一手として徴兵を行ったらしい。
「隣国からルビィの街が攻められるかもしれないから守れ!」
ということらしいけど、実際は違った。
軍隊が隣街を攻める間の守りを任せるための数合わせで徴兵制度を使ったんだ。
まぁ街を守るためにしか使わないっていうギリギリのラインは守ってるけど、ちょっと汚いよね。
「このギルドの支部長は抗議しなかったの?」
「たぶん、しなかったわ。みんなは昇進の約束でもしたんだろって噂してる。まぁ抗議したからってどうなるものでもないけどね。」
「じゃあこの街の領主は?って領主が徴兵したのかな?」
「ロイ・・知らなかったの?ルビィの街は国の直轄だから、領主はいないわよ?」
そうだったのか。
それは知らなかった。
そういえば、街の中でデカい領主の屋敷みたいなものを見た記憶はないかも。
ここは大きな街だから、てっきり貴族がいるものだと思ってたよ。
「じゃあ抗議をする人はいないか。支部長も国王に抗議は出来ないでしょ。」
「まぁ、そうね。本来は抗議どころか徴兵の権限は支部長にあるはずなんだけど、ギルドが兵士に囲まれちゃったから・・。」
なんじゃそりゃ。
そんなことをされても支部長が責められるのか?
それはただの愚痴とか嫌味だろ。
本気で言ってるやつなんているのか?
「まぁ支部長が可哀想なのはわかったけどさ。それで、なんで先生が徴兵されるの?先生は元冒険者でしょ?徴兵は関係ないんじゃないの?」
「先生は・・自分から徴兵に参加したのよ。」
「はぁ?なんで?」
「・・冒険者が徴兵されてからしばらく経って、ガラシャが兵士に連れてかれたのよ。」
「・・なんで?」
「知らないわよ。孤児院の卒業生かどこかから情報が漏れたんでしょ。戦争中に白の魔力の持ち主が見付かったのよ?ほっとく訳ないじゃない。」
戦争なんて知るか。
白の魔力石が欲しいならガラシャに頼んで作ってもらえば良いだろ。
金を払えばもちろん売るだろうし、連れていく必要があるとは思えない。
それに、ガラシャは6才だぞ。
冒険者でもないから徴兵とは違う。
ただの誘拐だ。
「・・どこにいるの?」
「えっ?」
「ガラシャと先生だよ。どこにいるの?」
「念のために聞くけど・・どうするつもり?」
そんなの聞くまでもないだろう。
連れ戻すんだよ。
誘拐犯へのお仕置きは・・後で決めよう。
「言うと思ったけど・・ちゃんと後のことも考えなさいよ?」
「・・どうゆうこと?」
「だってロイ。あなたはガラシャを連れ戻すつもりなんでしょうけど、それは国に逆らうってことなのよ?あなたはともかく、きっとガラシャはこの国では生きていけないわ。」
俺はともかくってのはどうゆう意味だ?
まぁ確かに軍隊で攻めてきても返り討ちにする自信はあるけど、殺し屋とかが毎日のように沢山来たら流石にそのうち殺されると思うよ。
いや、気にせずに結界の中で寝るかな?
何にしても、そんなめんどくさい思いをするなら俺も国を出ると思う。
でも、確かにそれをガラシャに強要するのは可哀想だ。
他の国で暮らせばいいじゃん?
と思わなくはないけど、それは俺が決めることではない。
この世界では国どころか街さえ出ずに一生を終える人も珍しくない。
国を出るような決断は6才の子供には出来ないだろう。
それに孤児なんだから、先生の支え無しで暮らしていくのも無理だ。
俺が先生の代わりに!とか言うのは簡単だけど、俺が今連れて行けるのはイゴイスの屋敷だけだ。
あんな国にガラシャを連れて行くなんて、冗談じゃない。
「メリンダはどうすればいいと思う?」
「私にそんなことわからないわよ。そうゆう事は先生に・・ダメね。先生はたぶん穏便に済ませようとするから。」
「穏便に済ませちゃダメなの?」
「あなたが穏便に済ませても良いならいいんじゃないの?」
なんだそりゃ。
それじゃ俺が暴れたがってるみたいじゃないか。
「しょうがないわね。ライアンに聞いてみたら?」
「ライアンに?」
「まぁこうゆうことはライアンの方が私よりは向いてるわよ。転移ですぐなんでしょう?」
まぁ確かにすぐだね。
ルビィの街に着いたっていう報告もしてないことだし、早速俺はニートの鍛冶屋に転移してライアンに状況を説明した。
「それで、ロイはどうしたいんだ?」
「俺?俺は・・ガラシャが嫌な思いをしてないなら別に良いんじゃないかな?」
「無理やり連れてかれたんなら良い思いはしてないと思うぞ?」
メリンダは無理やりとは言ってなかったけど?
メリンダが言ってたのはガラシャが連れてかれて、先生が徴兵に志願したってことだけだ。
・・あぁ。
無理やりだから先生が志願して付いて行ったのか。
ガラシャが望んで行ったとしたら先生はほっとくと思うし。
「じゃあ、ガラシャと先生を救い出したい。」
「待て。先生は志願して行ったんだ。連れ出したら脱走兵になるぞ。」
「・・どうしろって言うんだよ。」
「そんなに難しく考えるな。厄介なものを一つ排除すればいいんだよ。」
厄介なものを?
そんなのわかりきってるだろ。
「国を?」
「アホか。それが出来れば・・お前なら出来そうだな・・。でもそれじゃ困る人が多すぎるだろ。」
「じゃあどうすんだよ。」
「あのなぁ・・戦争だよ!戦争を終わらせればガラシャも先生も解放されるだろ!?」
戦争を終わらせる?
簡単に言ってくれるな。
それって国を滅ぼすよりも難しいぞ。
魔法の数発で済む話じゃないだろ。
ん?
済むのか?
「じゃあ戦争を終わらせればいいんだね?」
「ん?あぁ出来るのか?」
「やってみるよ。ありがとね。」
と言って俺は再びルビィの街に転移した。
ライアンの「あっ!待て!」って声が聞こえたけど、ライアンにはもうしばらく店で働いててもらおう。
俺のために。
いや、給料は払うよ?
魔大陸の通貨かもしれないけどね。




