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ルークの策略

 メトラとミリィはすぐにみんなと馴染んでくれた。

 数日後には不自然な感じは全くしなくなったよ。

 まぁお風呂以外は・・。


 家で働いてくれる人がいるお陰で屋敷がドンドン綺麗になっていくのがわかった。

 なんと言っても庭が一番分かりやすい。

 放置されてた庭が毎日少しずつ綺麗になっていくのは見ているだけで気持ちが良いもんだ。

 庭師でもないのに、すごいよね。

 ただ、頑張りすぎて日に日にメトラがやつれていくから、次からはギルドに依頼を出すことにした。

 毎日一緒にお風呂に入ってるからね。

 体調の変化くらいわかるさ。

 疲労回復魔法にだって限界はある。



 そんなこんなで夜はともかく、毎日昼間は大陸の東端を目指しながら進んでいた。

 そろそろ海が見えてきても良い頃だと思っていた時、ルークが夕食後に自分の部屋で寛いでいる俺のところまできて質問してきた。


「ロイ君。今はどの辺りを進んでるんだ?もう海には出たのか?」

「ん?まだだよ?もうすぐだと思うけどね。」

「そうか・・」

 ルークはここに残るのに、進み具合を気にしてるんだな。

 聞いてくるならライアンだと思ってたよ。

 まぁ別に聞かれて困ることじゃないからいいけどね。


「ちなみに、ロイ君はライクス王国まではあとどれくらいかかると思う?」

「さあ?海の幅もエンマーク大陸の大きさもわからないけど、早くても2ヶ月くらいはかかるんじゃない?半年以上かも知れないし。」


 まぁ海はダッシュも回り道も街への立ち寄りも素振りも何も無しで通りすぎるだけだ。

 たぶん今までの行程に比べたらあっという間だろう。

 その後の大陸横断はちょっと予想出来ない。

 大きさだってわからないんだ。

 当然だろう。

 調度良い街道が無かったら道は無視して突っ切れば良いけどね。

 というかその方が早いし。


「ちなみにまだ転移は出来ないのか?」

「うん。たまにやってるけど出来ないね。」

「そうか・・間に合わないか・・。」


『まだ』とか『間に合わない』とか気になることばっかり言いやがって。

 ルークは構ってちゃんなのか?

 そういえば、カークの街に着いた時もこんな感じだったっけ。

 やっぱり何かあるのか・・。

 隠してるのは理由があると思ってたんだけど、これはもう隠してないと思う。

 俺から聞いた方が良いのかな?


「ねぇルーク。何を考えてるの?」

「何を・・とは?」

「何か隠してる?」

「いや、私は何も隠していない。」

 あぁそう。


「じゃあルビィの街で何が起こってると考えてるの?」

「それは・・」

 ルークが言い淀んでしまった。

 やっぱり隠してるんじゃないか。


 しかし、俺に知らせたくない事って何だ?

 前も考えてはみたけど、俺には特に思い付かなかった。

 というか、思い付かないからほっといたんだけどね。


 考え事を始めた俺に向かって、ルークは突然口を開いた。

「・・戦争だ。」

「・・は?」

 戦争?

 何言ってんだ?


「街や国に戦争をしかけると、攻める側は人や情報の出入りを防ぐために、守る側も中に侵入されるのを防ぐために結界を張ることが多い。」

「じゃあ、ルビィの街は戦争中ってこと!?」

「そうかもしれない。」


 なるほど。

 それならありそうだな。

 ただ、条件としてはありそうでも、少なくとも俺がいた数年間はすこぶる平和だった。

 そんなに簡単に戦争とか起きるのか?

 兆候だって無かったぞ?


「戦争はない気がするなぁ。」

「私もそう願ってるよ。」


 願ってる、ねぇ。

 まぁルビィの街は魔力石が沢山取れるから領地としては欲しい国もあるだろう。

 そう考えるとありえない話じゃないのかな?

 それにルビィの街じゃなくて、ライクス王国が戦争を始めたってことも有り得る。

 ルビィの街は国境が近いから影響も大きそうだ。


 じゃあ戦争をしてるとして、孤児院のみんなは大丈夫か?

 魔力は多くても冒険者や傭兵じゃあるまいし、戦力にはならないだろう。

 でも、貴重な存在として連れていかれそうだ。

 まぁ連れてかれても殺されることはなさそうだけど、無理やり連れてかれて奴隷にでもなってたら・・。


 何だかんだで俺達が魔大陸に来てから半年経っている。

 時間の経つのは早いよ。

 ガラシャも今頃は6才になってるはずだ。

 そういえば、昔欲しかった友達が沢山できた気がする。

 竜とか従業員とか奴隷とかいるけど、みんな友達で良いよね?


「俺達がこの魔大陸に来てからもう半年経ってるんだよ?街を攻めるにしては長くない?」

「いや、時間はそんなものだろう。」

「そうなの?」

「戦争は戦ってる間だけの話じゃない。それこそ準備や移動まで入れたら1年かかったって不思議じゃない。」

 なるほど。

 地球みたいに戦闘機やロケットで攻めるわけじゃないもんな。

 みんな徒歩なんだから時間もかかるか。


「じゃあルビィの街は戦争中ってこと?」

「そうとは限らない。だが、ライクス王国が戦争をしている可能性は高いと思っている。」

 マジか。

 なんだよそれは。

 そのことにルークは半年前には気付いてたってことか?


「なんで黙ってたの?」

「・・子供は戦争に関わるものじゃない。」

「え?俺が?・・戦争で死ぬことはないと思うけど?」

 俺に致命傷を与えられるのは竜種くらいでしょ。

 いや、人の使う魔法とか食らったことないからわかんないけどさ。


「ロイ君の実力は・・今は心配していない。だが、それでも戦争とは子供が関わるべきものではない。」

「それは戦争が残酷だから?」

「そうだ。大人でさえ戦争に参加することで人格が変わることもある。子供への影響は計り知れない。」

「俺が普通の子供ならね。」

「ロイ君が普通の子供ではないからこそだ。」

 ん?

 どうゆうことだ?


「戦争に関わることでロイ君の人間に対する考えが変わったら?人類を滅ぼそうとしても、それを止められるものはこの世に誰もいない。」

 どんな戦争だよ。

 俺が人間を滅ぼしたくなる状況が思い浮かばないぞ。

 百歩譲って男と貴族とムカつくオバサンとイゴイスは滅ぼすかもしれないけど、職人は残すし知り合いも殺さないぞ。

 あれ?

 なんかジワジワと人類が滅びそうだな。


「とにかく、私はロイ君が戦争に関わるのは反対だ。」

「ルークの気持ちはわかったよ。ちなみにさ、それが理由で俺だけヴァンフォーレから南回りで行かせようとしたの?」

「・・そうだ。すぐに帰っては戦争に巻き込まれる可能性が高いと思った。」

「ポメラニア領に黙って付いてきたのも?」

「ロイ君はここのみんなを守るためならこの国を滅ぼすだろう?国と一人の貴族、どちらかを選ぶなら答えは分かりきっている。」


 なかなか極端な話だな。

 つーか、ルークって人を見る目があるじゃないか。

 なんで騙されるんだよ。

 って、俺が時々『滅ぼすぞ』とか呟いてるのを聞かれたのか?

 前言撤回だ。

 人の言葉を信じすぎだよ。


 俺が言う滅ぼすってのは、全滅させるって意味じゃない。

 せいぜい城を吹き飛ばすくらいだ。

 それなら被害は微々たるものだろう。

 ん?

 それもダメなのか?


「まぁ、早くて2ヶ月ならもう間に合わないだろう。」

「何で?1年かかったって驚かないんでしょ?」

「それは普通の街や国の場合だ。ルビィの街は違う。冬に攻められることはないだろう。」

 ルビィの街は普通じゃない?

 冬が関係してるなら雪のことか。

 軍隊とはいっても雪に覆われた土地で戦闘は出来ないか。


「じゃあ軍隊が引き上げる時間も考えたらもう戦争は終わるってこと?」

「あぁ。でも、結果はわからん。攻め落とすのが無理なら引き上げるだろうが、あと少しで落とせるなら総攻撃を仕掛けてくるだろう。」

 今は10月の初めだ。

 毎年ルビィの街が雪に覆われるのは大体年末くらい。

 軍隊が引き上げるのに1ヶ月くらいかかるとして、俺がたどり着くのに2ヶ月かかったらほんの少しだけ間に合わない。


 くそっ。

 ルークも微妙な時に教えてくれたな。

 まぁルークは俺が間に合わないと思ったから教えたんだろうけどね。


 はっきり言って魔大陸みたいに遠回りや寄り道をしなければ、半年なんてまずかからないだろう。

 魔大陸よりもエンマーク大陸が大きくても、俺が本気で飛ばせば2ヶ月はかからないと思う。

 普段の『飛行』は本気で飛ばしてるわけじゃないからね。


 ちょっと・・いや、かなり急いだ方が良いかもしれないね。

 まぁ夜は危ないけど、とりあえず昼間は全速力でエンマーク大陸を目指してみるか。



 次の日から俺は寄り道や特訓をせずに、全速力でルビィの街を目指して飛んだ。

 魔力でアバウトに自分を包み込んで全力で動かすんだけど、これがかなり神経を使う。

 早く動かすのは慣れたけど、全速力でってのは自分の限界でってことだ。

 それを休みもなく日中ずっと続けるのは結構大変なんだよ。


 毎日限界に挑戦してるお陰でスピードが徐々に上がってるのは、きっと『成長補整』のお蔭だろう。

 こないだ冒険者カードを確認したら、『成長補整』のレベルが5から6に上がってた。

 生まれ持つスキルを成長させるってどうゆうこと?

 遺伝子組み換えでもやってんじゃないだろうな。


 まぁ今はそれでも有り難い。

 俺は本当に全力で東を目指した。


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