街は怖いよ
昨日の夜は大変だった。
まず、寝れなかった。
この世界に来てからはほとんど毎日魔力を使いきっていた。
いつもその疲労感の中で眠りに付いていたから、疲れてないと眠くならないんだよ。
まぁ半分は昼間も寝てるせいだと思うけどさ。
で、どうせ寝れないからと今まではスピード重視で練習をしてたところを、魔力を使いきる意味でもかなりパワー重視の練習をしてみた。
まずはバレーボール位の大きさで魔力球を放つ。
すると結構タイムラグがある。
慣れているソフトボール位の大きさで出した魔力球をさらに大きくしてから放ってる感じだ。
ソフトボールクラスの魔力球が早く出せるようになったのは熊相手に連発したからだろうか?
しかし、これじゃ使い物にならない。
獲物に逃げられてしまう。
どんなに強い攻撃も当たらなきゃ意味がない。
魔力球を出してから1秒ちょっとあればウサギに逃げられる。
熊だって避けるくらいはするだろう。
試しに小さい魔力球を放ってみる。
豆電球クラスの魔力球が即座に出た。
次にまたバレーボール位の魔力球を放つ。
やはり最初はソフトボール位の大きさで出てくる。
つまり今の俺が一気に出せる魔力の限界はここなんだろう。
今後はここを伸ばすべきかな。
攻撃力は大事だ。
強い相手が何発も当たるまで大人しく待っていてくれるわけがない。
魔力を集める時はもっと分かりやすい。
元々持ってる魔力と違って、一瞬で集まるわけじゃないからね。
これもスピードを上げて実戦で使えるようにしたい。
理想を言えばそれでマシンガンみたいなスピードで魔力球を打ちたい。
流石に無理かな?
まぁ目標は高い方がいいだろう。
目標を決めるとその後は魔力を使いきることに専念した。
「うぅ~眠い。」
魔力を使いきるのに時間がかかったのであまり寝れなかったのだ。
日本にいた時の感覚では十分な睡眠でも、5才の体には堪える。
よくいつも通りの時間に目覚められたものだ。
目覚ましなんて持ってないからな。
まぁこの世界に目覚まし時計なんてないと思うけど。
今日こそは街を楽しむために朝ご飯の前に日課のランニングを済ませる。
今日は街では走らない予定だからね!
朝ご飯の時間に先生が俺のことを不思議そうな顔をしながら見ていたけど、きっと魔力漏れが治まったのが不思議なんだろう。
ふはははは
俺もいつまでもお漏らしをする子供ではないのだよ!
俺が誇らしげな顔で見返すと、今度は理解は出来ないまでも納得をした顔をしていた。
いつまでも男同士で見つめあっていても仕方がないのでさっさとご飯を食べると、一旦自分の部屋に戻って魔力をかなり使ってから街に繰り出した。
孤児院の回りの住宅街を抜けると、街には朝ということもあって活気があった。
どうやら仕事に向かう人や店の開店準備をしている人が多いみたいだ。
基本的に街の人が着ているのは孤児院でもみんなが着ている短めのワンピースのようなもので、下にはズボンを履いて腰に紐を巻いている人が多い。
色はくすんだ白や薄い茶色等の単色がほとんどだ。
質素だが、見るからにみすぼらしい人はほとんど見かけない。
街の大通りに近付くと、商人っぽい人達を多く見かけるようになってきた。
デザインはほとんど同じだけど青や赤、黒等に染められた服を着ている人はきっと金持ちなんだろうな。
商品らしきものを運ぶ馬車も時々通っている。
馬がいるけど、日本にいた馬より大きいような?
今は自分が小さいからよくわからんな・・。
街の中心部まで来るとかなり孤児院から離れるので、この辺りではもうロイの記憶があてにならない。
未知の場所ということで、一気にテンションが上がってきた。
この時間にやってる店は武具屋やアイテムショップが多い。
冒険者が出発前に利用するのだろうか?
あと酒場がやっている。
どうやら昼間は食堂も兼ねているらしい。
と思ったら出ていく客に「行ってらっしゃい」と言っていた。
よく見ると、どうやら宿屋まで兼ねているらしい。
手広くやってるな。
それぞれの店の看板には店名の他に業種を示す絵が書かれている。
きっと字が読めない人のためだろう。
学校がないらしいから識字率は低そうだ。
こうやって街を歩くだけでも孤児院の教育レベルがどれだけ高いのかわかる。
さらに街の中心に近付くと今まであった飲食店等が減っていき、代わりに綺麗な宝石の様なものを売っている店が増えてきた。
というか、そればっかりだ。
中心部にも近いし、どうやらこの石がこの街の特産品みたいだ。
店の前には馬車がどんどんやって来ては商品を積んでいる。
「ルビィの街って言うだけあるなぁ。」
道の真ん中で辺りの店をを見渡していると、店の回りに馬車が止まっていない店があった。
人気がないのかと思ったが、鎧を着込んだ兵士、というよりは装備に一貫性のない冒険者っぽい人達がたまに出入りしている。
もしかしたら小売店なのかもしれない。
そう思った俺はその店に足を向けた。
「そこをなんとか頼む!」
「あんたもしつこいねぇ!無理なもんは無理なんだよ!」
店に近付くと熱烈な交渉の声が聞こえてくる。
というか片方は思いっきり断ってるな。
今は自分の見た目が子供だし、笑顔で誤魔化せば色々話を聞けるかと思ったんだけど、こりゃ無理かな?
ダメそうなら別の店にしようと思いながら店を覗くと、中では金属の鎧を着た冒険者風の男A(仮)が店主と思わしき男とカウンターを挟んで話していた。
店主は男Aに集中しているようで、他にいる客には意識が向いていないようだ。
これは逆にチャンスだと思い、店の中を物色させて貰うことにした。
中に入ると、店の中はカウンターの後ろも含めて出入り口以外は棚に囲まれていた。
店の棚には色とりどりの石が並んでいる。
しかし、先ほど他の店でチラッと見たものよりもどれも濁って見える。
宝石のように清んだ色のものが一つもない。
質が悪いのかな?
気になったので聞いてみることにした。
「すみません、お兄さん。ちょっと聞いてもいいですか?」
近くにいた冒険者風の男Bに話しかけてみた。
冒険者Bはさっきから商品を片手に店主と冒険者風の男Aとの話し合いを見ていた。
きっと買う商品は決まってるけど、話に割り込めない優しいやつなんだろう。
思った通り、冒険者Bはカウンターの方をチラッと見ると俺の方を向いて無愛想に黙って頷いた。
ただの人見知りだったのかな?
「この店に置いてある石が濁っているのはなんでですか?」
「・・ボウズはこの辺の子供じゃねぇのか?」
いいえ!この辺の子供です!
孤児院から出ないから地理も常識も知らないけど、バリバリ地元だし良い子だよ!
「いえ、この街の孤児院にお世話になってます。」
「孤児なのか・・大変だな。」
冒険者Bは憐れんだような目をして俺を見ると、勝手に何か納得したようだ。
差別はやめて!
「ボウズ、これは魔力石って言ってな。魔力を貯めておける魔道具だ。」
おぉ!ファンタジーによくありそうなアイテムだな!
「で、これは魔力を込めるとそれが曇りになって濁るんだよ。つまり、ここにあるのは魔力がすでに込めてある商品だ。」
なるほど。
つまりこっちはすでに使える状態で売ってるのか。
どうやら安物は他の店の方だったようだ。
「なるほど。その魔力石って何種類あるんですか?」
「ん?一種類だぞ?」
一種類?
俺が再び回りを見渡すと、そこには何種類かの色の付いた魔力石がある。
冒険者Bは俺の視線で何が言いたいのかわかったようだ。
「魔力石に付いてる色は石に込めてある魔力の違いだ。魔力には相性があるからな。普通は自分の魔力の色か、無ければ使いたい魔法の色の石を買う。
あぁでも魔方陣が彫ってある魔力石は彫ってある魔法しか使えないけど、その代わり魔法を覚えてなくてもロスなく使えるぞ。」
相性とかロスの話はともかく、魔力はいっぱいあるから俺が必要に迫られることはたぶんないだろう。
近くにある魔力石に魔方陣が彫ってあるのを確認するが、結構複雑で何の魔法だかはもちろん全くわからない。
つーか魔方陣!
あったよ魔方陣!
「なるほど。便利ですね。
因みにあの方はどうして揉めてるんでしょう?」
といってカウンターの方を指差す。
いい加減なんの話をしてるのか気になってきた。
「ん。あれはな、ヒビの入った魔力石を直したいって言ってるみたいだぞ?」
「直せるんですか?」
「あぁ直せる。というか、魔力石っていうのは細かい傷とかは込められた魔力で何もしなくても直るんだ。魔力は使っちまうけどな。しかし、ありゃ結構なヒビが入ってるみたいだから、直すにはかなりの魔力が必要だと思うぞ?」
言われて見てみると、冒険者Aの持っている赤い魔力石には何ヵ所かヒビが入っているようにみえる。
傷が自分で直せるとか生き物みたいだな。
「でも魔力を込めれば直るならなんで店の人は断ってるんですか?」
俺の質問を聞いて、冒険者Bは苦笑いをしている。
「金が足りないんだとよ。」
「はっ?」
「魔力を込めるのもタダじゃねぇからな。冒険者ギルドに依頼だって出てるくらいだ。」
なるほど。
これ以上ないくらいに分かりやすい理由だな。
ギルドに依頼が出るくらいなら魔力だって商品だ。
というかこの店では魔力こそが商品なんだろう。
無闇に安くしてくれと言っても無理なものは無理だ。
思ったよりも色々な話を聞けた。
冒険者Bに礼を言って店を後にする。
魔方陣の刻まれた魔力石をお土産にしようかとも思ったけど、あの店にある中で俺に買える商品は無さそうだった。
一番安いワゴンセールみたいなところにあった小さめの魔力石でも銀貨2枚だったし。
魔方陣が書いてあるのなんてもっと高い。
残念だけど、今は諦めよう。
そんなことより冒険者ギルドに俺に最適な仕事があるらしい。
良い情報を手にいれたので、早速行ってみることにする。
あれ?
俺、仕事を探しに来たんだっけ?
道行く人に場所を聞きながら冒険者ギルドに着くと
「次はお父さんかお母さんと一緒にきてね。」
断られた。
わかってた。
俺、5才だし。
浮浪児扱いをされなかっただけラッキーかな。
されたのかも知れないけど・・
ギルドを出たら出た所に冒険者Aがいた。
ギルドの出口で何してんだ?
冒険者に魔力の注入を頼む気か?
金無しじゃ無理なんじゃないか?
冒険者Aはこちらをちらりと見ると、ため息と共に顔を落とした。
むっ!失礼な!
「おじさん。魔力は集まったの?」
俺が話しかけると、冒険者Aはこちらに疲れの見える顔を向けた。
「私はおじさんではない。集まっていないが、何故そのことを知っている?」
「さっき魔力石の店で見てたからね。それより魔力が必要なんでしょ?協力しようか?」
「君が?いや、誰でも協力は有り難いが・・。店で聞いてたなら知ってると思うが、依頼料はそんなに払えないぞ?」
まぁそんなことはどーでもいい。
俺はそのオモチャが触りたいだけだからな。
「お金は別にいいからそれ貸して。それに魔力を送るだけでいいんでしょ?」
「あぁ、割れやすいから注意してくれ。」
「うん。じゃあここで待ってて。」
といって俺は走り出す。
見た感じ冒険者Aは魔力を使い果たしているせいか疲労が酷そうだし、走ればついてこれないだろう。
「お、おい!待て!私も行くぞ!」
という言葉を無視して逃げるように走り去る。
別にこのまま逃げる気はないけど、魔力を使っている所を見せる気はない。
というか冒険者Aよ。無用心だぞ。
冒険者ギルドからさらに街の中心に向かって進んだけど、たぶんここが街の中心部に当たるんじゃないかな?
体育館みたいにデカイ建物がある。
高層ビルなんて存在しないこの世界ではかなり大きい建物だ。
その建物を多くの兵士が警備して守っている。
遠くから見たときは魔力石関係の工場か何かかと思ったんだけど、どうやら違うみたいだ。
出入りしてる人がほとんどいない。
商品とか運んでそうにない。
まぁわからないなら聞いてみよう。
俺は暇そうな兵士を捕まえて話しかけた。
「こんにちわー。ここは何をするところですか?」
「ん?ここか?ここは街を守る魔法を維持するための建物だ。」
「街を守る?それって街の外にある柵にかけてる魔法のこと?」
「あぁ、いや。それもそうだが、外からだけでなく、空からも入ってこれないようにしてるのがこの中にある魔方陣なんだぞ。」
と誇らしげにいう兵士に礼を言って道を戻る。
簡単に聞き出せたんだから機密とかではなさそうだ。
兵士がいるんだから中には入れてくれないだろうけどね。
魔物がいる世界なんだし、各街にこーゆー施設があるんだろう。
あんまり興味はそそられないな。
「さてと、オモチャでも弄ろうかな!」
俺は人の来なそうな小道に入るとポケットからヒビの入った魔力石を取り出す。
まずはよく見る。
結構大きめな魔力石だけど、魔方陣は刻まれていない。
でも、高いんだろうなぁ。
ヒビは貫通してないようだけど、少なくとも冒険者A一人分の魔力で補修してあることを考えると、よくぞ割れなかったと言えるくらいギリギリだったんだろう。
下手なことをしてこれを割ってしまったら本当にこのまま逃げる羽目になってしまう。
まずは自分の魔力残量を意識してみる。
ギリギリ満タンではないくらいまでは回復しているようだ。
今まで起きてる間の回復量と比べても、日常での回復量でこれとは・・やっぱりこれは反則だな。
魔力量に問題がないようなので、魔力石にゆっくりと魔力を送ってみると、赤かった魔力石の
色がさっと薄い緑色に変わってしまった。
「魔力込めた時点で変わっちゃうのか!うわぁ、これで怒られたりしないだろうな。」
まぁ変わってしまったものは仕方がないので、またゆっくりと魔力を送る。
中心が緑色に濁っていくが、魔力を送り続けてもなかなか濁りが広がらない。
「出力が足りないのか?」
試しに送るスピードを上げてみると濁りが少し広がり、ゆっくりだが目に見えてヒビが塞がっていく。
「おぉ!面白い!」
さらにスピードアップして魔力を込め終わると、かなりの魔力を使っていた。
「こりゃいいや。これで金が稼げたら言うことないな。」
将来の稼ぎ口が見つかったし、今日は良い日だ。
ヒビはゆっくりだが塞がっていく。
もう大丈夫だろう。
魔力石をポケットに戻すとギルドに向かって歩き出した。
ギルド前に冒険者Aが俯いて座っている。
「これでいいですか?」
と話しかけると冒険者Aがガバッとこちらを向き、複雑な表情をしている。
「やはりダメだったか。」
「え?」
「いや、いいんだ。あり・・・・え?その、魔力石はなんだ?」
「あなたのですけど。魔力を込めたら色が変わっちゃいました。大丈夫ですか?」
冒険者Aが驚いた顔で俺から魔力石を受け取る。
「やっぱり不味かったですかね?」
「いや、こちらはヒビが直れば問題ない。しかし、これは一体・・なぜこんなに早く?ヒビも塞がっているし・・。すごいな。これは誰がやってくれたんだ?」
自分だと言うのもどうかと思うし、俺がどう答えようか悩んでいると
「いや、いいんだ。困らせるつもりはない。・・しかし、先程も言ったが、この分の金は・・」
と今度は冒険者Aが困った顔をする。
「あぁ、別にいいですよ?」
別にお金のためにやったんじゃないからね。
「そうか、助かる。いつか必ずこの恩は返す。とりあえず、今はこれしか無いんだ。」
といって冒険者Aは俺に銀貨を2枚渡してきた。
タダじゃないなら恩に着なくても・・
と思ったが
貨幣の価値がわからないけど、これでも店では請け負ってくれないんだから銀貨って小銭?
と思ったので気持ちごと有り難く受け取っておいた。
「じゃあ急いでるのでこれで。」
といって俺はその場から逃げるように走り出した。
あれ?
今日は走らない予定だったんだけど、結構走ってないか?
帰りがけに屋台を探して鳥肉の串焼きを買ってみた。
出来るだけ旨そうなのを選んだけど、腹が減ってたわけじゃない。
いや、減ってるけども。
今回は貨幣の価値を知りたかったのだ。
ちょっと大きめな串焼きを一本買ったら銅貨一枚と言われたので、銀貨を一枚渡したらなんだかすごく嫌な顔をされた。
しばらくたってからお釣りを渡されたら銅貨が99枚あった。
マジっすか。
串焼きが100円だとしたら銀貨って1万円?
200円だとしたら2万円!?
おいおいおい!
冒険者Aって俺に銀貨を2枚渡してきたぞ?
あれって下手したら4万円ってことか!?
なんだか大変なことをしてしまった気がする・・
銀貨2枚でも全く足りてない雰囲気だったし、本来はどれくらいの仕事だったんだ?
4才児が最低でも2万円分の仕事をさっさと終わらせたわけか。
事件かな。
いやいや、冒険者Aは誰がやったか聞かないって言ってたけど、まさか俺だとは思ってないだろう。
でも、しまったな。
面白そうだからやっちゃったけど、またしばらく街には出ない方がいいかも知れない・・
くそっ
なんて日だ。
因みに貨幣には石貨、銅貨、銀貨、金貨があるそうで、金貨一枚につき銀貨で100枚、銅貨で1万枚、石貨で100万枚だそうだ。
ということは、石貨が1~2円くらいかな?
単位は石貨1枚が1ストナというらしい。
金貨1枚が100万ストナだ。
もっとも、普通は「銅貨1枚だよ!」みたいな
言い方をするから知らなくても良いらしい。
あっ、ちなみに石貨はめんどくさいからあんまり使わないんだって。
最低額の貨幣が100円とか、みんな大雑把な性格なんだろうね。
いや、計算が出来ないせいかな?
しかし、金貨は凄い価値だ。
もちろん銀貨もかなり高価だとわかった。
俺は思わず手元にある銀貨の価値に驚いてじっと見つめてしまった。
すると銀貨からわずかに魔力が出ていた。
銅貨も確認すると全てから出ている。
なるほど、偽造防止かな?
まぁ金貨とか100万円・・100万ストナだもんな。
出来るなら偽造するわ。
しかし、今日のことって先生に相談した方がいいのだろうか?
した方がいいよなぁ。